ようこそ第0護衛隊群へ   作:/Null

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でも使うのはホライゾン


訓練2日目 16/?

蒼穹という言葉の意味は、空を飛ばないと実感できない。どこかでそんなセリフを聞いた気がする。

 

そんなクサいセリフもあながち間違いじゃない...そう最近は思っている。だって見上げれば、その言葉通りの濃紺な空が広がっているのがわかるから。

 

空はどこまでも蒼く、どこまでも深く続いている。しかしそれを知るのは私たち戦闘機乗りの特権。

 

だからきっと、その言葉の意味を真に理解できるのは私たちだけ。この手を伸ばせば届きそうな、蒼く...広大な世界。

 

 

―――...まぁ、手を伸ばせるだけの余裕があればの話なんだけど。

 

 

 

 

 

「ぼけっとするな!機体が揺れてるぞ!」

 

「くぅ...!」

 

多数の戦闘機が飛び気流の乱れる中、ガタガタと揺れる機体を押さえつけるために操縦桿を握りしめている私は、彼の言葉に歯を食いしばることしかできない。

 

それもそのはずだ。僚機との距離が数メートルというとてつもなく狭い間隔で飛んでいるのだから。

 

一歩間違えれば大惨事。そんな状況の中で左右を見れば呑気そうに親指を上に立てる彼らが目に入ってしまう。

 

それは私への信頼の証なのだとは思うが、今はそれを嬉しんでいる余裕はない。どちらかというと苦言を呈したいような気持ちである。

 

片手離して、なんでそんなに余裕なんですか。私が操縦誤れば一緒に真っ逆さまですよ!?...と。

 

高速で飛ぶ戦闘機など翼が少し触れただけで機体が破損し制御を失ってしまう。だというのに談笑すらしている彼らの声が無線機に入っている。

 

そんな彼らとは対照的に必死に操縦桿を握る私は、改めて練度の違いを思い知らされることでもあった。

 

 

「よし。そろそろブレイク」

 

額に脂汗が浮かぶ中、彼の号令でやっと編隊が解除された。僚機との距離が離れて、私もようやく一息「ほれ、もう一回やるぞ」...つけると思ったらこれである。

 

 

―――じょ、冗談じゃないわよ。精神的にも肉体的にもめちゃくちゃしんどいんだけど!

 

『隊長ー。エリカ嬢も結構お疲れですよ』

 

『そうそう。短時間とはいえブルーインパルスの真似事なんて精神的にもきついですし、ここらで一回休憩した方が』

 

「んー。まぁ、確かに」

 

―――流石です皆さん。もっと言ってやってください。

 

『それかエリカ嬢。大変なら隊長とポジション変わります?先頭の方が幾分かマシだと思いますし』

 

『あっ、いいね。それあり』

 

「ん。じゃあそれでいこう」

 

「いかないわよ!」

 

しかし残念。それは私にとっては助け舟ではなかったのである。

 

まだこっちの方が楽?ではないけど、先頭とか精神的プレッシャーが大きすぎる。

 

「なら、練習あるのみ。だよなぁ?」

 

「ううっ...わかったわよ!やればいいんでしょ!やってやるわよ!」

 

売り言葉に買い言葉...ではないかもしれないが、彼からの煽り文句に軽々と乗ってしまっている自分が悔しい。けど、実際のところ訓練しないといけないのも事実。

 

結局、やるしかないんだよなぁ...。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

「や、やり遂げたわ...」

 

戦闘機を降りてすぐ、固い甲板の上で仰向けになる私。その周りには彼を含めてぞろぞろと皆が集まってくる。

 

「っつてもまだ2日目の訓練が終わっただけだけどな」

 

「そういう事は今言わないで...」

 

 

超近距離のボックス飛行、デルタループにタッククロス。これがまだ数日続くって思うと、正直気が狂いそうになる。

 

 

「うううっ...。オートパイロット機能があれば...」

 

「そんなんあったらそもそも無人機で十分だろ...」

 

「...射撃だけ私たちがやればいい」

 

「いや、それこそ無人機で十分だわ。というか、人が操縦してるからカッコいいんだろ?」

 

膝を曲げて私の頭を撫でてくれる彼はきっと、お疲れという意味と遠回しに諦めて頑張れと言っているのだろう。

 

まぁあと5日だものね。ウジウジ言ってても仕方ないのは分かってるわよ。

 

 

 

「ほら、そろそろ帰るぞ。今日はまほも待ってるんだから」

 

「んん...あと10分だけ」

 

「風邪ひくから却下」

 

「...じゃあ、抱き上げてくれたら起きる」

 

「はいはい。―――よっと」

 

「わっ...」

 

私の腰より下の位置。そこに彼の腕が回り、向かい合う私の身体が彼にもたれ掛かる形で宙に浮く。

 

「ほら、どうだ?」

 

「...えへへ」

 

 

自然と笑みが溢れたその光景は、さながら結婚式で抱き上げられる花嫁のようで、周りの来客の方々も祝福してくれているかのように幻想が見える。

 

 

「おぉー。今日はえらく積極的ですねエリカ嬢」

 

「ほんと、カメラ持ってないのが勿体無いくらいですよ」

 

「えへへ...ありがとうございます...―――って!?ちょ、ちょっと待って!?皆さんいつからここに!?」

 

「いや、最初から居ただろ。お前も見てたやん」

 

 

―――はっ...!言われてみれば確かに!

 

疲労感からか頭が回ってなかったとはいえ、私ったらなんてはしたないところを...。

 

 

「ふふっ。今更気にすることでもないじゃないですか。そういう仲なのはもう皆んな知ってるんですから」

 

「そうそう。エリカ嬢も我々に気を使わなくてもいいんですよ?」

 

「ううぅっ。改めて言われるとすごいむず痒い...。と、というか!恥ずかしいから取り敢えず一旦降ろして!」

 

「んー却下。このまま帰るぞー」

 

「ええぇー!!?」

 

結局その後は彼に抱き上げられたまま艦内を移動することとなり、すれ違う人たちから送られる温かい視線に、私は何度も顔を赤くしたのだった。


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