ようこそ第0護衛隊群へ   作:/Null

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引っ越しの条件は風呂の大きさとトイレのウォシュレット


ここがあの男のハウスね

「ここがキッチンな。冷蔵庫に食材入ってるけど計画的に使えよ」

 

「うん」

 

あの後、俺たちは2人一緒に俺の住まいに戻った。

 

これからうちに泊まることになるんなら、今日だろうが明日だろうが変わらんだろ?それに、善?は急げとも言うしな。

 

...ただ、まさか一日で家と車の鍵両方を持っていかれるとは思わなかったけど。

 

「んで、どうする?今日から泊まっていくか?」

 

少なくとも野宿なうという新事実が発覚した今、このまま帰すのは流石に人としてもダメだろう。

 

「そうだね。きみの手料理も食べたいしね」

 

「ん。つっても今の食材だとカレーぐらいしか作れんし、久しぶりだから味は保証出来んぞ」

 

ほぼ艦隊で寝泊まりしてるから、自炊なんてそうそうせんし。というか家帰ってきても外食多いし...あれ?やばいぞ。俺最近自炊してねぇなこれ。

 

しかしそんな俺の焦りとは裏腹に、ミカは首を横に振った。

 

「美味しい美味しくないかは問題じゃない。君が作る事に価値があるのさ」

 

久しぶりの料理という事を察してフォローしてくれたのか、それとも本音なのか。

 

まぁミカなら後者なんだろうなぁ。

 

そう思うと自然と笑みが浮かぶ。

 

「よし。取り敢えず車に積んでる荷物取ってくるから。ちょっとくつろいでな」

 

嬉しさを噛み締めながらガチャりと玄関を開ければ、熱くなった心を少し冷ますかのように風が吹き込んでくる。

 

 

ミカももう高校生か。

 

見ないうちに大きくなりやがって。子供の成長を見守る親ってのはこういう感じなんかね。まぁ親が数年も子供に会ってなかったら親失格だけど。

 

脳裏にはまだ先程までのミカの姿が残っている。

 

...でも、ここまで元気に育ってくれて...ほんと嬉しいよ。

 

 

 

目尻に涙を浮かべながらしみじみと思うその姿は、ミカと同じ...ではなく、純粋に歳をとったアラサーのおっさんだった。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

「うー。さぶさぷ」

 

外気に心も体も冷やされてしまい、玄関を閉めると足早にリビングへと向かう。

 

そして1つ扉を開ければ、いつもとは異なりミカがいる。

 

「ミカ、車の中では聞かんかったけどさ。その弦楽器何よ?」

 

手元を見れば、よく分からない木製の弦楽器。

 

昔そんなの持ってたか?俺覚えてないんだけど。

 

しかし、そんな俺の疑問にミカはキョトンとした表情で返す。

 

「仮にもここは君の母校だろう?この楽器が何なのか知らないのかい?」

 

いや俺が少なくとも在学してた時は見た事ないし、普通に生活してても知らんわ。そもそも弦多すぎだろそれ。どうやって弾くねん。

 

「これはね?カンテレ...っていうのさ。フィンランドの代表的な民族楽器だよ」

 

「ほーん」

 

そう言われても全然分からん。取り敢えずミカも無事継続高校に馴染んでる?んだなって事ぐらいしか。

 

でもまぁ

 

「それ弾いてるミカは様になってるよ」

 

カンテレを持つミカは雰囲気が昔と変わったこともあり、どこか幻想的で、なんかこう童話の一部を切り取った感が出てて凄くいい。

 

そもそも今のミカ自身が美人というのあるしな。

 

美人は何やっても様になる。やはりこの世はカースト制...。

 

「しかしまぁ帰ったばかりってのになんか部屋暖かいな」

 

エアコンだって入れたばかりだから、そこまで機能してないしうちには床暖房なんてもんはないからここまで早く室温が上がることなんて無いはずなのに。

 

「ふふっ。さっき暖炉に火を入れたからね。それのせいじゃないかな?」

 

「おー。なるほど、暖炉ね暖炉...暖炉?」

 

暖炉なんかつけてたっけ?あれ?なんか突っ込まれてる物に見覚えがあるような...。

 

「ってああぁぁ!!俺のタバコがぁぁぁ!!」

 

そう。薪となっていたのは俺のタバコ。ご丁寧に充分な換気もされてて副流煙の心配はない。

 

ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!ミカのやつ俺が車に戻った一瞬で部屋のタバコ全部漁りやがったな。

 

税金が上がる前に買い溜めしたんやぞそれ!よりにもよってカートン丸々燃やしやがって...。うごごごご。

 

「タバコ。それは人生に必要なものかな?」

 

「少なくとも俺の人生には必要だよ」

 

昔は取り上げはしたけど返してくれたやん。今は全部捨てるとか鬼の所業やで...。昔の優しかったミカ帰ってきて...。

 

その後高い薪代となってしまったタバコの火を横に、ミカのカンテレを聴くことになったのだが、全く頭に入ってこなかった。

 

喫煙者の頭の中というものは、手元にタバコが無くなると常にタバコのことしか考えられなくなるのだ。

 

そう。全てを失った時点でお察しなのである。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

夕飯のカレーは好評だった、のだと思う。

 

久しぶりの料理だったし、正直俺の手料理なんかミカ以外だと数名ぐらいしか食べてもらったことないから自信なあまりなかったのは事実。

 

ミカに味を聞いたら

 

「君が作る料理を堪能できただけで、私のお腹は満たされているのさ」

 

なんて言われた。

 

いや、どっちよ?

 

その一言はまたしても俺を混乱させたが、終始嬉しそうな笑みを浮かべて食べるミカを見て

 

まぁ満足してくれたのならそれでいいか

 

そう思って考えることをやめた。

 

 

 

「んじゃ、後は俺が片付けしとくから。先に風呂入っときな」

 

「いや、夕飯を作ってくれたんだ。片付けくらいは私にさせてほしいな」

 

「んー、そうか?それなら先に入らせてもらうか」

 

まぁこういうの、昔からミカは譲らないし。いつも最終的には俺が折れていたから。

 

だからと俺はすぐに引き下がり風呂を満喫することにしてしまったのだった。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

「ふぃー」

 

いやーやっぱ風呂はいいね。心が洗われるわ。日本人の心の拠り所だよほんと。風呂に入ってようやく1日が終わった感じがする。

 

シャワーで済ます人とかもいるらしいが、やっぱり風呂浸からんと。風呂の中で携帯で動画見て長風呂するの最高よ?

 

でも脱水症には注意な!良い子のみんなは横にペットボトルでお茶も準備するんやで!

 

俺も長風呂するためにほれ、そこの脱衣所に―――ん?なんか影が見えるんだが...。

 

「失礼するよ?」

 

ガラガラと扉を開ける音と共に入ってきたのはミカだった。

 

いや、そもそも今この家に居るの俺とミカだけだし?影見えた時点である程度察したよ?

 

けど、これダメでしょ。

 

バスタオル巻いてるけど身体のラインくっきり見えちゃってるよ。何やってんのよ。

 

「ミカ。昔と違ってお前もう高校生やぞ?この状態だと俺捕まっちゃうよ?事案発生よ?ということで、出てけ」

 

未成年との不純な行為。などという不名誉な理由で俺は捕まりたくはない。

 

「フィンランドでは混浴は問題ではないよ」

 

「フィンランドモチーフの学園艦うんぬんの前にここ日本やぞ」

 

「私達は兄妹じゃないか」

 

「血の繋がってない兄妹だけどな」

 

というか兄妹でもこの歳になってまで入るやつおらんわ。

 

あと何身体洗ってんのよ。湯船浸からないと風邪ひいちゃうでしょ!

 

「なら俺が出るから」

 

「それを私が許すとでも?」

 

いや、全然譲らんやん!やっぱり変わってないなお前!

 

そう押し問答を繰り返している間に、ミカが少し寒そうに身体を震わせた。

 

「はぁ...。今回だけだぞ、寒いなら早く浸かりな」

 

「ふふっ。相変わらず優しいねきみは」

 

「優しいというか、ミカが折れないから俺が折れてるだけだろ」

 

「それでも...さ」

 

もう俺が出ないことを確信したのか、扉の前を陣取っていたミカが湯船に入ってくる。

 

一人暮らし用の湯船だ。そこまで広くないから、ミカは俺の胸に背中を預ける形になった。

 

「あたたかいね」

 

「風呂だからな」

 

「そういう意味じゃないんだけど」

 

「...まぁ、深くは聞かないことにするわ」

 

逃げの一手を打った後、ミカからの追撃が来るかと予想したが珍しくミカからの追撃はない。

 

不思議に思っていると、風呂場の中にミカの上機嫌な鼻歌が響き始める。

 

「こうしていると昔を思い出すね」

 

「そうだな。あの頃は一緒に風呂入った事もあったしな」

 

当時は珍しくあのミカの母からの許可もあり、ミカの家に泊まる時は一緒に入ることもあった。

 

はたからみたら兄妹が仲良く風呂に入ってるように見える為さほど俺も気にしていなかったが、今考えると血の繋がってない幼女と風呂に入るのはやばいわ。

 

ミカの母もよくオーケー出したな。もしかしてあれか?私の目の前ならいつでも処せるから的なあれか?いや怖いなおい。

 

「というか、今回の件ってお前の母には連絡してんのか?」

 

昔とは歳も状況も違う今、ミカ母にバレた暁には問答無用で処されてもおかしくない。

 

「...」

 

「...ミカ?」

 

しかしそんな思いとは裏腹にミカからの返事はない。

 

...おいおいマジか。確認取ってないんかこれ。バレたらあれよ?俺明日には東京湾かもよ?

 

そう焦りながらも顔を覗き込めば、ミカは顔を赤くしながら目を回している。

 

長風呂であたたまりすぎた...というわけでは時間的にもないが、まぁ...今日は色々あったしな。心と体が追いついてなかったんだろう。

 

「ほら、のぼせちゃまずいから出るぞ?」

 

「ぅん...」

 

...ちゃんと水分とらせないと。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

のぼせかけのミカを何とか風呂の外へと連れ出し数分。

 

取り敢えず服を着させてから、髪にドライヤーを当てながら優しく梳かしてやるとミカは気持ちよさそうに目を細めた。

 

野宿してるとか言ってたから髪が傷んでないか正直不安だったが、なんだかんだで髪のケアはしていたようで安心した。

 

まぁもしかしたらケアしなくてもこの状態を維持できるぐらいミカの髪質が良いのかもしれないが。せっかく母親譲りの美人になったんだ。髪ぐらいは毎日気を遣ってもらわんとな。

 

「ほれ。終わったぞ」

 

「...ん。ありがとう」

 

ぽんぽんと頭を叩けば、ミカは少しだけ残念そうな表情を浮かべた。

 

「まぁこれからは俺がなるべくやってやるから」

 

「ふふっ。頼むよ」

 

一緒に風呂入るのは今後出来んと思うから、これくらいはしてやらんとな。

 

「んじゃ、そろそろ寝るから。寝室はあっちな?」

 

本当はもうちょっと話もしたいけど、明日も職務だ。頭をスッキリさせるためにも、早めに寝るに越したことはない。積もる話も、まだ話す機会はいくらでもあるし。社会人たるもの自己管理を怠ってはいけないのだ。

 

取り敢えずベッドはミカに譲るとして、俺はまぁ...ソファーってとこかな。

 

「待って欲しい」

 

「ん?」

 

「何で君はベッドに入らないんだい?」

 

「そりゃそうだろ。お前をソファーで寝させるわけにはいかんし」

 

そもそも俺の家は来客なんて全く想定していないから、布団だってワンセットしかない。寝れるとしたら後は床ぐらいだ。

 

「そういう意味じゃなくて。私と一緒に寝ないのかい?」

 

「いや、ミカ。さっきも言ったけど歳考えろ?俺捕まるぞ?」

 

「一緒にお風呂も入ったのに?」

 

「入ったのにだよ」

 

というかあれはお前が突撃隣の晩御飯してきたからだろ。某ヨネスケさんもびっくりよ?

 

それに、次過ち犯したら流石にやばいんだわ。お前の母から地の底まで追われて罪を数えられそうなんだわ。

 

まぁ俺で言うなれば空の彼方まで追われると言った方が正しいかもしれないがな!...って今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ。

 

「なら私がソファーで寝るよ」

 

「いや、俺がソファーで寝るから。そもそもミカはこれからここで寝泊まりするんだろ?ならそのベッドもお前のなんだから遠慮すんな」

 

「でも」

 

「でもじゃありません。もう電気消すぞ」

 

「むぅ」

 

ミカは納得いってないようだが、今回は譲らない。家主として、そして兄として、妹にソファーで寝てもらうなんてありえんからな。

 

まぁ来客が男なら話は別だが。

 

そんな事を思いながら照明のボタンに触れると、カチッという音と共に家から明かりが消えた。

 

ふー...。ほんとうにめまぐるしい1日だったな。

 

単なるラーズグリーズの結成の日のはずだったが、ミカと再会しそして一緒に風呂まで入り、今は隣のベッドで寝ている。

 

俺はこれからどうするべきなのだろうか...。

 

ミカと出会ってしまった以上、また逃げるわけにはいかない。それは高校生になってまで追いかけてきてくれたミカを裏切る行為になるからな。

 

そんなことは絶対したくない。

 

だからこそ、これからの俺は今までとは違った身の振り方をしなきゃいけないんだと思う。

 

―――ほんと...難しい問題だよ。

 

暗闇の中で答えを求めて手を伸ばすが、結局その答えは得られないまま俺の意識は夢の中へと落ちてしまっていた。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

「んぁ、うん?」

 

何か寝苦しい...。

 

というかうちのソファーってこんな狭かったっけ。しかも腕動かないんだが。あれか?金縛り的なやつか?

 

覚醒していない頭で情報を整理し始める。

 

時刻はまだ深夜。こんな時間に目が覚めるのはおかしい。疲れもあって朝までは爆睡コースだったはず。そして俺はまだ頻尿になった覚えはない。

 

目を擦り見ると、ぼんやりとした視界の中で俺の腕には人の頭が乗っている。

 

女性の、しかも肩ぐらいまでの髪。

 

ま、まさか。

 

...と一度は幽霊を疑ったのだが、視界が慣れてくれば輪郭まではっきり見える。

 

 

 

―――ミカだ。

 

 

 

...あー。あれか、俺が寝てからこっち来たのか。

 

なんだよ...お前がこっち来ちゃったらベッド譲った意味ないじゃん。それなら2人でベッドで寝ればよかった。...いやよくないわ。

 

「んぅ。お兄ちゃん...」

 

寝息をつくミカの顔は安心しきった表情をしており、時折小さな声でそう呟いていた。

 

いつからこんなに積極的になっちゃったのかね。...いや、昔からこんな感じだったか。昔はミカが幼いから俺が気にしてなかっただけで。

 

でも昔と同じ距離感で接してくるのはやめて欲しい。高校生に言い寄られるおっさんの図は色々とやばい。内心あたふたしてる俺の気持ちも少しは知って欲しいわ...。

 

 

―――まぁ、それでも久しぶりに会ったのにここまで気を許してくれてるってのは嬉しいもんだけどな。

 

 

だらしない兄ですまない...。とまではいかないが、俺にも色々とあったんだ。

 

―――でもこれからは、“お前に”正直に言うよ。

 

 

 

「おやすみミカ」

 

 

 

ソファーからベッドへと戻したあと、風邪をひかないように布団を掛ける。最後にそっとミカの額にキスを残して。

 

 

暗くて分からなかったが、その時ミカの顔は少し赤くなっていた。




タバコの増税。それは喫煙者にとって死活問題

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