「 ...〜♪」
どこぞの妖精が歌っているような歌を上機嫌に口ずさむ隊長は、キッチンから持ってきた大き目の鍋をテーブルへと置いた。
蓋を取ると、中からは彼への愛情...も、もちろんあるとは思うけど、食欲のそそられるスパイスの香りがして、私のお腹もまだかまだかと急かしてくる。
隣を見れば彼も同じだったのか、その場にぐぅーっとお腹の音が鳴った。
「焦ることはないぞ?兄さんへの愛は冷めないからな」
いや、カレー自体は物理的に冷めるのでは...。と言いたい所ではあったが、鍋の中からはちゃんと暖かそうな湯気が出ているのを見てぐっと堪える。
それを言ってしまうと「ほらな?」という言葉と共に、隊長のドヤ顔が返ってくるのは目に見えて分かっていたから。...というか現にドヤ顔してるし。
「ふふっ。私の愛情もしっかり入っているからね、その点は安心していいよ?」
そしてミカさんもドヤ顔をするまでがテンプレである。
「はいはい。ありがとな2人とも」
そしてそして、2人揃って彼にわしゃわしゃされるまでがテンプレのテンプレであるのだ。
いつものごとく、何故そんな恥じらいもなく言えるのかという点はもう置いておこう。
それよりも今は...
「...早く食べたい」
隠したことだが、先程鳴ったお腹の音は実は私だったのである。
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「「「「いただきます」」」」
4人揃って手を合わせ、ようやくのカレーに否が応でも期待が高まる。
何せ隊長のカレー...それにミカさんの一手間も加わっているのだ。美味しくないわけがない。
ごくりと生唾を呑み込ながらスプーンをつけると、程よいとろみの多さが白米と絡み、スプーンを重くしている。
口に運べばそれは少し辛めで、それでいてすごい濃厚な味が広がる。大きめに切られた野菜はカレーの味が染み込みつつもとろけるような食感。そして何故か私もどこかで食べたような...そんな味。
「ふっ。エリカも気付いたか」
「え?何がですか?」
「実はな?その味付けはお義母さんに聞いたんだ。要するに、兄さんの実家の味だぞ?」
「そ、そうなんですね」
言われてみれば確かに、私が幼い頃に彼の家でご馳走になったカレーがこんな味だったような気が... ───というかよく覚えてたわね私も。
「それで、どうだ兄さん?」
「いや、完璧すぎて怖いわ」
どうやら彼からもお墨付きのようだ。
「てかお前寮生活だろ?どうやって練習したんだ?わざわざ実家に通ってたわけじゃなさそうだし」
「なに、今はわざわざ実家に行かなくとも便利な機械がいっぱいあるだろう?」
「あー、なるほど。それもそうか」
「ふふっ。それに、実家に行くなら声かけてるよ。私だけで行くのも悪くないが、兄さんも一緒の方が私としても嬉しいしお義母さんも喜ぶだろ?」
『婚約者2人揃っての帰省。...悪くないじゃないか。それに───“兄さんの実家は婚約者である私にとっても実家なのだからな。”...だから帰る時は一緒に、さ?』
おそらくはそんな意味をのせていたのだろう隊長は、自分が言った言葉を噛み締めるように嬉しそうな笑みを浮かべている。
それを言うなら私にとってもそうなんですから、自分だけの特権みたいな雰囲気を出すのは正直やめてほしい。
一つのため息の後心の中でそう思いながらも隊長を見れば、何故か一冊の本を手に持っている。
「それと、あとの秘訣はこれなんだ」
「ん?」
疑問を浮かべる彼を他所に見えた表紙は、昨日も見た漫画本。
「ラーメン発見伝だ」
だからそれラーメン漫画ですよね。カレーの参考になるところなんてないと思うんですけど。
「なるほど芹沢さんなら、一理あるな」
「いや、絶対ないから!!というかこの話好きね、あんたも!」
そんな私の全力のツッコミも虚しく、ラーメン発見伝信者の多いこの場において、残念ながら私の味方は存在しないのであった。