ドライヤーの風に髪を靡かせる隊長は、満面の笑みを浮かべながら、彼の膝の上で足をぷらぷらと動かしている。
既に髪を乾かしてもらった私とミカさんは、残念ながらその光景を後ろから眺めるだけ...というかミカさんはすごい不満気な表情してるけど。
私たちはさっきやってもらったじゃないですか...と少し呆れながらに突いても、ミカさんの意識はチラチラと2人へと向いておりそれどころじゃない様子。
何故こんなことになったのか...。
その原因は食事終わり、これからお風呂に入ろうかという時まで遡る。
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「───そろそろお風呂の時間だな」
時刻は既に21時手前。唐突だったが、隊長の言う通りそろそろお風呂に入らないといけない時間。
しかし、それ以上に気になるのは隊長の醸し出す雰囲気。何か良からぬことを考えている時のミカさんと同じ感じがするのは気のせいじゃないはず。
「という事でミカとエリカは先に入ってくれていいぞ。ここのお風呂じゃ3人入るのは狭いからな」
「むぅ」
やっぱり。
隊長がやろうとしている事...そして、それと同じ事を考えていたのであろうミカさんが、珍しく先手を取られたことで唸った。
2人はお先にどうぞ?私は後で入るから。...これがどのような意味を持っているのかは想像に難くない。
「それなら“客人”であるきみたちに先に入ってもらわないと困るかな?“家主”としての面目もあるからね?」
けど、ミカさんも引かない姿勢。そして残念ながら「いや、家主は俺な?」「というか3人でもなんとか入れるだろ」という彼の声は誰も聞いていないのである。
「そもそも、だ。ミカはいつも一緒に入っているのだから、こういう時は私に譲るべきだろう」
───隊長...私“たち”ですよね?いくら自分も美味しい思いしたいからって私とノンナさん省くのやめてもらえません?
「ふふっ。いつも、ではないさ。一緒に入る時もあれば入らない時もある。でも今日の風は寒かったからね?私は後からゆっくりと温めてほしい気分なのさ」
───ミカさん、寒かったのなら先に入って温まるべきなのでは?というか温めてほしいって全然本音隠しきれてないんですが。
「なら、兄さんとのお風呂をかけて1つ勝負と行こうじゃないか。勝負内容は...そうだな。どちらの方が兄さんのシャツを多く持っているかでどうだ?」
「臨むところだね」
待って、正直全然頭に入ってこない。え?何そのカードゲーム的な発想。
いやまぁ私も1着持ってる...というか今着てるけど、1着2着の世界でそんな勝負出来るようなことにはならないと思うんだけど。
「ふっ。私は12着だ」
すごい持ってた!シャツだけで10着超えるってそれ、隊長の寮にあるシャツの大半こいつのやつって事ですよね!どんだけ常習犯なんですか!
「まじ?お前そんなに持ってってんの?」
「いや、なんであんたが驚いてんのよ。在庫管理ぐらいしっかりしなさいよ」
「しょうがないだろ。減ったり増えたりでしかも、新しく買ったりしてるんだから把握出来んわ」
堂々と胸を張る隊長とは対照に、彼は諦めたように肩をすくめる。
でも表情はちょっと複雑な感じ。
結局、仕方ないとは言いつつも心の中ではきっと、隊長たちがこっそりと服を持っていく事を微笑ましく思っているところもあるのだろう。
「なら、せめて新しく買うのやめたら?実際これだけ何着もあるの分かった事だし」
「まぁ、確かにそうか」
2人の行動を咎める事なく、私からの提案にそう頷いた彼。
───ほんと、“私たち”に甘いんだから。
さて、問題はミカさんね。隊長の10超えを聞いて驚くかと思いきや、むしろ余裕の表情してるし...。
「ふふっ、当然だよね。私はここの家主だよ?ここにある在庫は全て私が持っていると言っても過言では無いのだからね」
家主...ではないのだが同棲者の特権と言わんばかりに、もう勝った気でいるみたい。
でもそれって逆にいうと...
「───俺の在庫なんだからお前はゼロだろ」
私の言いたい事は彼の口から飛び出した。その言葉にミカさんは澄ました顔をしつつも額には冷や汗が浮かび始める。
「そもそもお前はよく入ってんだから、今日ぐらいは譲ってやれ?じゃなきゃ今後1ヶ月は一緒に入らんぞ?」
きっと嘘なのであろうが、それを聞いて絶望の表情へと変わるミカさん。
「と、いうことはエリカ。判定は?」
「...もう隊長の勝ちでいいです」
そして最後にミカさんは1人打ちひしがれるのであった。
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「ほれ、終わったぞ」
「...うん。ありがとう、兄さん」
自前?の彼のシャツを身に纏い、嬉しそうにする隊長はそう言って彼の膝から降りた。
お風呂で何があったのかは知らないけど(別に何もなかったんだろうけど)、満足気に頬を赤くする隊長はいつも以上に調子が良さそうである。
しかしそんな隊長とは対照的なのがミカさん。
頬はプクーっと膨らみシャツの裾を伸ばして、いかにも私不満です感を醸し出している。
...だがその服もまた彼のシャツなのである。
「そんな不貞腐れんなよ。ほれ」
立ち上がった彼にぽんぽんと頭を撫でられ、満更でもない感じ。
「...」
「また今度ちゃんと一緒に入ってやるから、な?」
「...。むふぅー」
どうやら機嫌が直ったようだ。
「エリカもな」
「え?う、うん...そうね」
まだ彼と混浴したことがないからと曖昧な返事を返す私。
しかしそんな私もまた、この家に置いてある男性用のシャツを着ているのだ。
やっぱり彼は結局、私たちに甘いのだった。