「おい。だからさ...」
「...なによ」
時刻は既に就寝時間。だというのに私たちは寝室...ではなく、まだリビングにいる。
その理由はこの状況を見れば明白なのだが、彼は納得いかないのか、ため息混じりの口調でそう口を開いている。
「俺言ったよな?今日はベッド足りないからリビングに布団ひいて寝るって」
「言ったわね」
「じゃあなんでこうなってるねん」
そう。現在リビングには布団が4つ並んでおり、寝室のセミダブルとシングルのベッドには誰も入っていない。
ベッドが足らないからと彼がリビングで寝ると言い出した結果がこれである。
「というか、同じようなくだり昨日もやった気がするんだが」
「ふふっ。気のせいじゃないかな?昨日とは状況も違うしね」
「何!?昨日も、というのはどういう事だ兄さん!まさかと思うが私を差し置いて「───いやお前は昨日いなかったんだから仕方ないだろ」むぅ...それなら」
変えようもない事実に1人唸る隊長だが、ならばと彼の右腕を強めに抱き寄せ始める。
「ちょ、隊長。それはずるいのでは」
「ずるいと言うのならミカだろう。正面なんて選択肢は卑怯だぞ」
現在右隣は隊長、左隣は私、そしてミカさんはというと仰向けの彼に覆いかぶさるように抱きついている。両サイドを隊長と私に明け渡した時点でなんだか怪しい気がしていたが、やはり裏があったようだ。
「俺が布団で寝るって言った意味無くなるだろ...あと重い」
「風で舞う羽毛のように軽い私に対してひどい言いようだね。それに、女性に対して重いって言葉は厳禁だと思うんだけど?」
「この体勢じゃ寝れんから仕方なく言ってんの」
「ふふっ、いいじゃないか。別に減るものじゃないんだし」
そう言って小さくウィンクをするミカさんに彼はまた一つのため息の後、ぽんぽんとミカさんの頭を撫でる。
まぁ間違いなく睡眠の質は減ると思うけど、今更そんな一言を言うのは無粋だろう。
彼もどうやら観念したみたいだし。
「んじゃ、そろそろ寝るか。エリカ、電気消してくれ」
「はいはい」
身動きが取れない彼に変わって照明のスイッチを押しに向かう。帰り道、暗闇の中覚束ない足取りの私を、空いた左手でぽんぽんと布団を叩く音が導いてくれる。
音を頼りに定位置へと潜り込めば、ぺちぺちと彼の左手が優しく私の頬を叩き、それが嬉しくてぎゅっと彼を抱き寄せた。
「おいエリカ。ずるいぞ」
「さっき隊長もやってたのでノーカンです」
抗議の声と同時に右側へと引かれる彼の身体を私は強く引き戻す。困った表情を浮かべる彼を尻目に引いて引かれてを何度か繰り返した後、結局元の場所へと戻った。
隊長相手に我ながら中々やったと思うが、まぁやはりここが落とし所だろう。
ただ、彼の胸元に抱きついているミカさんには全く関係なかったようだが。
「明日はまた早いからな。ミカ、すまんけど頼むわ」
「うん。任せて」
「まほも、朝は一緒に乗っていくだろ?」
「ああ。頼むよ兄さん」
「おう」
暗闇の中、衣擦れの音と私たちの声だけが部屋の中に響く。
「エリカ。明日も頑張れよ?」
「当然じゃない」
「ふふっ、そうか。ならよかった」
「...えへへ」
私の返事に満足した彼が微笑んだ気がして、私もつられて笑みが溢れる。そして、隊長に気付かれない程度に、絡めた彼の左腕に少しだけ力をいれた。
さぁ、明日も頑張ろう。