「昨日は魚だったんだ。だから、すまんなまほ」
「いや、いいんだ。これで」
いただきますと手を合わせた食卓には、昨日とは違いパンとスクランブルエッグとサラダという、どちらかというと洋風な朝食。基本的には和風の朝食を摂る隊長からしたら、ちょっと新鮮味もあるのかもしれない。
「私としては、兄さんの作ってくれた朝食を食べるだけで満足だから」
なるほど、そういうわけではなかったらしい。
少し頬を赤らめて、朝から惚気ていく隊長は流石というべきだろう。
「私には聞かないのかい?」
「お前はいつも食べてるしな。顔を見れば分かるよ」
隊長とは違い、片目を瞑りつつも嬉しそうな笑みを隠しきれていないミカさんは、誰が見ても満足しているのが分かる。
「けど、お前の作った飯には敵わないよ。いつもありがとな、ミカ」
「...むふぅー」
そうやって朝からドヤ顔をするミカさんも流石といえるだろう。
「エリカはどうだ?口に合ったか?」
「え?あっ、そっ、そうね。その...今日も、ありがと」
そう私が返せば、彼からも嬉しそうに笑みが溢れた。
昨日もそうだったけど、朝の忙しい時間だというのに彼は本当に...。結婚してからでもきっと、こうしてくれるのは変わらないんだろうなぁ。...いや、これからは私が作る側になるのか。
お嫁さんとして朝の早い彼の為に...───って、家を出る時間も仕事場も同じだったわね。ならばこれからは一緒に、という表現が正しいのだろう。
朝は一緒に起きて、一緒に朝食とお弁当を作る。ミカさんほど上手くはいかないかもしれないけど、私だって彼への愛情は負けてない。だから彼の為に色々と───「...いや、ミカさん。途中から私の心の声を勝手にアテレコしないでもらえます?」
「ふふっ。バレてしまったか」
「バレるも何も誰だって分かりますよ...」
隣で隠す気なく口を開いていたミカさんに、そう肩を落として言った私だったが、当のミカさんはというと面白そうに私へと視線を向けたままである。
「それで?どこまで合ってたかな?」
「どこまでって、それは...その...」
「ねぇどこまで?」
「いや、だから...」
「やっぱり全部合ってたのかな?」
「な、何言ってるんですかもう!面白がらないでくださいよ!」
顔を赤くして反論する私に、ミカさんはどこ吹く風とコーヒーを飲み始める。しつこく掘り下げるだけ掘り下げて、後は放置。完全に愉快犯のそれである。
取り付く島もないことを察した私は一つため息を吐いた後、改めて先程の事を思い直した。
───うん、正直めちゃくちゃ恥ずかしい。
いくら私の言葉ではないとはいえ、あいつと隊長の前でこうも心境を曝け出されるのはちょっと...。ほら、心なしか2人の視線が温かいし。
あと隊長は、“分かるぞ”って頷くのやめてもらえません?もっと恥ずかしくなるんで!
「まぁまぁ、エリカも落ち着けって。ほら」
悶える私にそう言って彼が渡してきたのは、一つのマグカップ。立つ香りから察するに中身はコーヒー...だと思う。
「今回のはミカじゃなくて、俺が淹れたやつだからな。砂糖とミルクは、いらなかったよな」
「...うん」
スッと寄せてきたマグカップを覗き込めば、そこは予想通り漆黒の水面。砂糖とミルクはいらない。私は元々ブラック派だし。
口を付けると、昨日ミカさんが淹れてくれたコーヒーと同じような味わい。けど、このコーヒーからは深いコクの苦味の中に、淡く甘さが少し感じられた。そしてその正体を、私は知っている。
それはきっと、彼の愛情。それが溶け込んで甘い味わいに───「...ってだから、ミカさんやめてくださいって!」
全く、油断も隙もないというか...いや、そんなお茶目に舌を出しても許しませんよ!?
「コーヒー冷めるから、ミカもその辺にしとけ?」
「ふふっ。仕方ないね」
そう言ってミカさんの意識もようやくコーヒーへ。温かいうちにと彼の淹れてくれたコーヒーに再度口を付けてご満悦の様子。私もホッと一息である。
「───で、さっきのはどこまでがアテレコだったんだ?」
「どこまででもいいでしょ!あんたも面白がらないでよ!」
残念ながら、一息付けないのである。