朝食も終わり、そろそろ家を出る時間だ。
玄関に集まる私たちとそれを見送るのは昨日と同じくミカさん。ここが継続の学園艦の上である以上、私たちよりも後に出ることになってしまうのは仕方ないことでもある。
「ほれ、これな」
遅れて玄関にきた彼が手に持つのは私たちのお弁当箱。中身は分からないけど、きっと美味しいに違いない。
「今日の卵焼きはちゃんとお前好みの味付けにしてあるから。楽しみにしときな」
「うん。...ありがと」
「おう。それと、これはミカとまほの分な」
そう言って彼はそれぞれにお弁当箱を手渡す。受け取った2人からは感謝の言葉ともれなく嬉しそうな笑みが零れた。
ミカさんは慣れているからかまだ大丈夫だが、隊長なんてにやけ過ぎてて逆に怖い。そのまま登校したらまた小梅に弄られることは間違いない。
...まぁ弄られるのは主に私なんだと思うけど。
だって隊長もミカさんもそんなことお構いなしというか、当然のように恥ずかしがらないというか。
あぁ...。小梅の好奇心がすぐ私に向く未来が見える。
やめなさい小梅!そんな目で見ないで!私は違うの!...いや、違くはないけど違うのよ!
そうして小梅からは、またしても温かい視線を送られることになるのであろう。弁明しても私だけが苦労するのは必然。ならいっそのこと、私も2人側に行ってしまってはどうか。
ツッコミ不在のカオス空間。けど、私たち3人に引っ張られる彼を思い浮かべるのは、中々に面白いものだ。
───ふふっ。たまには、こいつの困った顔を見るのも悪くはないわね。
くすりと笑み零し彼を見つめると、私の意図を汲んだのかポンポンと頭を撫でながら仕方なさそうな表情をしている。
そういうところがこの2人を助長してしまっていると考えると、少しだけ複雑な気持ちにはなるが。
「今日はプラウダとの交流会なんだろ?」
「そうよ。よく知ってるじゃない」
「まぁ、ノンナが言ってたからなー」
こそばゆい感覚に目を細める私に対して、撫でる手を止めて彼は少し考えるそぶりを見せ始める。こっそりと彼の裾を引けば、彼は苦笑いを浮かべながらまた手を動かしてくれた。
「しかし、黒森峰とプラウダが交流会ねぇ。なんだか珍しいな」
「あんたのおかげよ」
交わることのなかった両校は今、雪解けの最中。それは遠回しではあるがきっと彼のおかげ。彼とノンナさんの関係があるからこそ、黒森峰とプラウダは歩み寄りを見せ始めたのだ。
...まぁ、あの小さな暴君は相変わらずだけど。
「勝手かも分からんが、これノンナに渡しといてくれ」
「ん。どうせお弁当でしょ?」
「おう。よく分かったな」
「そりゃ、ね」
渡された手提げ袋を覗けば案の定1つのお弁当箱。
甲斐甲斐しい彼のことだから、きっとそうだと思っていた。それに“勝手かも”とは言うけど、これを貰ってノンナさんが喜ばないわけがない。
きっとノンナさんも、こういうところに惹かれたんだろうなぁ。
ブリザードが春風に変わる姿を思い浮かべて1人苦笑していると、目の前の2人は私を見ながらうんうんと頷いていた。
流石鋭い2人である。
「ふふっ、そろそろいいかい?ここからは私の語らいの時間だからね」
「む、そうか。なら、仕方ないな」
言わずとも察した隊長が、珍しく順番を守るのか玄関の扉へと向かう。
「...ん。じゃあ外で待ってるぞ、兄さん」
と思ったが、彼に抱きついてから外へ出て行った。どうやら抱擁はキスの順番とは別のようだ。
「...すみませんミカさん。私も」
申し訳ないと思いつつ結局私も、彼に抱きついてから外へと出る。これにはミカさんも予想外だったのか、一瞬笑顔が引き攣っていたのが横目で見えた。
しかし語らいが終わり玄関から出てきた彼からは、残念ながら私と隊長のかおりは消え、きっちりとミカさんに上書きされていたのだった。