ここは我ら黒森峰の学園艦上。私と隊長の目の前には、この黒森峰には珍しいダークグリーン色の戦車群が、格納庫の一角を陣取っているのが見える。そしてその前に立つのは、身長の差が著しく大きい2人。
「ふっふーん。このカチューシャ様が来てあげたわ。光栄に思いなさい?」
片や背丈の低い金髪ショートで、小動物のように可愛い見た目なのにやたら態度がでかい少女(?)
「まほさん。エリカさん。お久しぶりです」
片や背丈が高く、サラサラとした髪質の黒髪ロングが特徴的な礼儀正しい?美人。
チグハグに見えるこの2人だが、実はプラウダの隊長と副隊長。そう、彼が(おそらく)愛称(なんだとは思う)を込めて呼ぶ“がきんちょ”とノンナさんである。
「新隊長になったらしいわねエリーシャ?そういうことなら尊大なるこの私が、隊長として心得なんかを教えてあげなくもないわよ?」
別に依頼してもいないが、そう自慢げに胸を張るプラウダ隊長様の姿は何故だか少し嗜虐心をそそられるのは仕方ないと思う。
だからちょっと真似をしてみたくなってしまったのだ。
「ちょっと、エリーシャ!聞いてるの!?」
「...?どこかしら声が聞こえた気が」
「何言ってんのよ!ここよ!ずっと目が合ってたでしょ!?」
「んー。誰もいないようだし気のせいね」
「え?ちょ、ちょっと...?」
「あ、ノンナさん。珍しいですね、今日はお一人だなんて」
わざとらしくカチューシャを間に置き、ノンナさんと話をする。最初は視線をキョロキョロとさせながら私とノンナさんに行ったり来たりの状態だったが、次第に俯いてプルプルとし始めた。
「うぅぅっ...ノンナー!」
流石に耐え切れなくなったのか、カチューシャは涙目になりながらもノンナさんによじ登った。どうやらちょっとやり過ぎたようだ。
「ふふっ、エリカさん。同志の真似はそのくらいにしてあげてください」
そしてノンナさんはというと、この光景が彼と重なったのだろうか、私を咎めながらもくすりと笑みを浮かべている。ちょっと前までなら許してはくれなかっただろうが、今ではこんな冗談も許してくれる仲になった。
―――全く、誰のおかげなんだか。
空を見上げれば、どこかでくしゃみをしている彼が思い浮かび、私からもふふっと笑みが零れる。
隣を見ればきっと隊長も同じ事を考えていたのであろう、優しく表情を崩していた。
ほんと、どこにいても話題に尽きないわよね。あいつは。
「ともかくだ。今日は私も参加することになっている。プラウダとの交流会など初めてだからな。2人とも、よろしく頼む」
「ふ、ふん!仕方ないわね!」
そう言って隊長は少し気分をよくしたカチューシャと、そして私は肩車をしているノンナさんと手を交わす。
さぁ。ついに交流会のスタートだ。
...
...
...と思ったのだが。ノンナさんが何故か一向に手を離してくれない。恐る恐る顔を覗いてみると先程とは違い、そこには鋭い視線が。
「...エリカさん」
「な、なんでしょうか...?」
やっぱりさっきのこと、本当は許してくれてn「エリカさんから同志のかおりがするのですが」―――違ってた!!
真面目な雰囲気はどこへ行ったのか、聞いてきたことはどこかの2人から散々聞いたようなデジャビュ感の強い内容。
というかそんな真剣な顔して言わないでもらえますノンナさん!意識するとすごい恥ずかしいんですけど!?
「ふっ、それはそうだろう。今日はエリカも兄さんのシャツを着てるからな」
うんうんと頷きながらそう言った隊長の一言は、正直余計である。
しかも、“も”って...。自信満々に言えるようなことじゃ無いですよ?普通は変態のそれですよ?
「いえ、それだけでは無いはずです」
「え!?なっ、何を根拠に...」
しかし疑念はまだ終わってない様子で。ガッチリと握られた手はまだ離れることはない。
―――...いや、ちょっと待って。何か見覚えあるシャツが袖口から見えるんだけど...まさか...。
「私も愛用しているから分かります」
いやノンナさん!!?
手元から覗いていたのはやっぱり彼のものだった。―――というかノンナさんこっち側ですよね?ツッコミ側ですよね!?いつの間にそっちポジになってるんですか!
「それよりも、です。エリカさん。他にも何か隠してますよね?」
「え?あっ...えーっと...」
心当たりがないかと言えば嘘になる。それはきっと今朝の...「―――あぁ、朝抱きついたあれか。エリカは特に長かったからな」
「なっ!?た、隊長!?だから一言余計ですって!」
「ふぅむ...」
図星をつかれ焦る私をよそに、ノンナさんは口では納得しているようだが纏うオーラが目に見えて不満気な感じに。
―――ま、まずい。このままでは私がシベリア送り25ルーブルに...。
しかし、私はこういう時の対処法を知っている。
「あ、あの。ノンナさん?」
「...なんでしょうか」
「実はこういうものがありまして...」
そう言って出したのは彼の作ってくれたお弁当。昨日隊長にも使った手である。
「あいつがノンナさんの為に作ったお弁当です。もし他にお昼用意してたのならすまんと「いただきます」って早っ!」
不満気だった雰囲気はどこへいったのか。お弁当箱を受け取ったノンナさんの表情はみるみる明るくなっていく。
ふぅ...。よかった。なんとか丸くおさまったわね。
一層笑みを深くする2人を見て、そうホッと胸を撫で下ろす私だったが―――忘れてはいけない。この場にはもう1人いるということを。
「うううっ...」
「「「...あっ!」」」
「3人全員シベリア送り25ルーブルなんだからぁぁあ...!」
次回からは諸事情により隔週投稿となります。
どうぞよろしくお願いします。