「───っていうことがあったんだけど」
訓練終わりの帰り道。彼に話すのはプラウダとの交流会前に起きたノンナさんとの出来事。ツッコミ側だと思っていたノンナさんが知らないうちにあちら側になっていた話である。
「で、実際のところどうなのよ?」
「んー。まぁ確かに、前にノンナが何着か持ってってたな」
「はぁ...。やっぱり」
流石は秘密の多いプラウダらしいというか、例にも漏れずノンナさんも私たちの知らないところで色々やっていたということだろう。
「あー、でも最初はミカがノンナ宛になんか送ってたような気が」
そう思ったが出どころを辿れば結局ミカさんなのである。
「そのあと青森の特産品とかが大量に送られてきてたな」
「...いや、何か闇商人みたいなんだけど」
...まぁまだ戦車を対価にしてないだけマシ?なのだろうか。昔のミカさんなら確実に要求してそうだし。
「あぁそれと、ノンナさんから“お弁当ありがとうございます。”だって」
「ん。そうか。受け取ってもらえたなら、なによりだ」
───だから、あんたからの手作り弁当なんて受け取らない人なんていないっての...。ブリザードも形無しよ、全く。
そう、彼からの一言に、案の定春風となっていたノンナさんを思い出し私は1人苦笑いを浮かべた。
「お前のはどうだったんだ?今日の卵焼き、美味かったか?」
「うん。美味しかったわ。...ありがと」
「おう」
短い返事。けど、それだけで充分。少し緩んだ彼の口元を見れば、ちゃんと私の気持ちが伝わっているのが分かったから。
「あいつのも口に合ってればいいんだが...」
「ふふっ。大丈夫よ。あんたの手作りなんだから間違いないわよ。それでも気になるなら直接聞いてみたら?...まぁ、聞かなくてもすぐにわかることだと思うけど」
「ん?なんでよ?」
「なんででも、よ」
私の意味深な一言に、彼は首を傾げる。珍しく分かっていないのだろうその光景はなんだか新鮮で、私は少しの間彼のことを面白がりながら眺めるのだった。
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「ただいまー」
玄関を開けると奥からはパタパタと足音が一つ。それはきっと、彼としては聞きなれない足音。
「お帰りなさい同志、そしてエリカさん」
「んぇ?」
出てきたのはミカさん...ではなくノンナさんである。
それを見て気の抜けた言葉を発しながらポカンとする彼はやはりというか予想通りで、私はくすりと笑みを零す。
「知ってたのか?」
「確証は無かったけど、そんな気がしただけよ。まぁ、ミカさん風にいうなら、あんたに向かってそういう風が吹いていたってとこね」
...紛れもない春風だったけど。
「なんかこっちに来る予定でもあったのか?」
「いえ、お弁当のお礼をと思いまして」
「んー?それぐらいなら電話でもよかっただろ。エリカからも聞いたし」
「乙女心がわかってない同志ですね。犬も食わないとはまさにこのことです」
「いや辛辣っ」
「まぁ、お疲れで頭が回ってないんでしょう同志。ここは私が一肌脱いであげます」
「え?ちょっ、ちょっとノンナさん!?」
...ってもうやってるし!!
言うが早いかノンナさんは既にその豊満な身体を押し付け始めていた。向かい合う彼はというと、仕方なさそうな表情をながらもノンナさんの腰に手を回してる。
ほとんどない身長差から、時折耳に当たる吐息でノンナさんの頬は赤く染まり、そのお返しとばかりにノンナさんも彼の耳へと口を寄せれば、彼の身体がびくんと跳ね上がる。
それはまるで意図していなかった刺激に驚いたような反応。
なんでもお見通しの彼にしては珍しい。そう思ってこっそりと覗き込むと、ノンナさんが吹きかけていたのは吐息ではなく
「───いや、甘噛みしてません!?!?」
「してないです」
「え?い、いやしてましたよね?」
「...してないです(ジュルリ)」
してた!今絶対してた!!
「...エリカさんもまざりますか?」
「あっ...。私は、大丈夫です」
そう言うと、ノンナさんは器用に考えるそぶりをした後、何かに納得したように私へと微笑ましく視線を向けてきた。
いや、私は甘噛み“まで”はしてませんよ!?してませんからね!?
抗議の視線を返すも、春風を纏うノンナさんには残念ながら届かず。私の言い訳だけが無駄に宙を舞う。
───あれ?そういえばミカさん。
そう。こんな状況で、いつもであれば我先にと出てくるはずのミカさんの姿が見えない。彼に続いて、またしても珍しい事もあるものだと意識を家の奥へと向けると、忙しなく動く足音だけが聞こえる。
「ミカさんはキッチンにいますよ。今料理から手が離せないらしくて」
「ほーん?あいつにしては珍しいな」
頭を捻る彼の疑問はきっとミカさんが料理に手こずっていることか、それとも玄関まで迎えに来なかったことか。いや、両方なのだろう。
それはきっと、彼の生活にミカさんという存在が溶け込んでいる証。いやほんと、そういうところすごいわよねミカさんは。
既成事実?というか何と言うか...。朝の日課であるあのキスだって、そうやって“いつもの”にしていってるんだと思うし。
...まぁそのおかげで私も美味しい思いをしてるから何も文句はないけど。
「というか、がきんちょはいいのか?お前が付いてないと大変だろ?」
「今日はクラーラにお願いしているので大丈夫ですよ?お気遣いは不要です」
「んー、そうか?まぁ、お前が言うなら問題ないか」
「えぇ」
「なら、何はともあれだな。歓迎するよ、ノンナ。ゆっくりしていってくれ」
「ふふっ。ありがとうございます。少し短いですが明日までよろしくお願いしますね、同志。エリカさん」
「おう」「はい」
そうして私たちは、夕飯のいい匂いが漂うリビングへと入っていくのだった。
...いや、その前に一つ言わせてほしい。
「───いい加減抱き合うの終わりにしなさいよ」
すっかりあっち側に行ったノンナさんだったのである。
「ちなみに、まほさんはどうしたんですか?」
「あー、あいつはな?今日は来ないぞ。タイミング悪く?みほに何か言われたらしい」
「...あぁ、そうなんですね」