「むぅー」
そう頬を膨らませて、いかにも“私不機嫌です”と雰囲気を醸し出すのは彼の膝に座るミカさん。
夕食の支度も終わり、あとは手を合わせるだけというところで、自分の椅子から立ち上がりぽすんと彼の膝の上へと収まっている。
「おいミカ。食事中は行儀悪いから流石に───」
「玄関では何やら面白そうなことをしていたようだけど?それについて弁明はあるかい?」
「仕方ないだろ?お前も忙しそうだったし」
「なら埋め合わせ、というのも必要だと思うんだ」
「具体的にはどんな?」
「言わなくても分かるだろう?今日の夕飯はこうして...───ひゃっ」
唐突にミカさんから、らしからぬ声が飛び出した。
「ははっ。お前もやられるの初めてだろ?」
それはきっと意識外からの奇襲攻撃?。彼が口を離したミカさんの耳がみるみる赤く染まっていく。
「...えへへ」
けど、ミカさんにとって“よかった”のだろう。鼻歌混じりに機嫌がなおったのが分かる。
───しかし忘れてはいけない。ここには彼とミカさんだけではなく、私とノンナさんだっていることを。
「ちょ、ちょっとミカさん!いい思いしすぎです。流石に見過ごせませんよ!それに、それだったら私だって───「でもエリカはもうキスまでしてもらってるよね?」うっ...」
ミカさんの反論に思わず言葉が詰まってしまった。
「で、でも!それはそれ、これはこれです!そもそもミカさんは同居してるんですから、こういうときぐらいは私たちに───って!さむっ!」
図星を突かれてたじろぎながらも、なおも食い下がる私だったが、どこからか漂ってきた冷気に肩が跳ねる。
出所を探ろうと隣を見れば、それはもう見事なブリザードが発生していて、折角の温かい夕飯が凍りついていくレベル。
その中心にいるのは言わずもがな。ノンナさんである。
「の、ノンナさん?」
そう私が話しかけるがその声は届かず無言で立ち上がり、底冷えする視線を浴びせながら彼の元へと歩いて行く。そして...
「───いやだから重いわ」
彼の膝の上に収まった。(実際はミカさんの膝の上だが)
「同志。女性に対してその発言はいただけませんね。それに、だからとはどういう意味ですか?」
「昨日寝る時に色々あったんよ...」
「ふむ...。...まぁ昨日のことですからいいでしょう。それよりも同志。落ちないようにちゃんと支えてもらえますか?」
「はいはい」
そう言って彼は(ミカさんを挟んで)ノンナさんの腰に手を回す。そうすれば結局、凍りかけていたボルシチスープが本来の暖かさを取り戻した。
しかし、ここで一度冷静になってほしい。側から見たら一つの椅子に3人が座っているというこの状況。どう見てもおかしい。
「あ、あの...。流石に3人は...」
おずおずと声を出す私だが、ミカさんとノンナさんは何も気にしていない様子。...あっ。でも、彼だけちょっとキツそう。
「ふふっ。エリカさんも座りますか?」
「え?じゃ、じゃあ座ろう...かな?」
「無理に決まってんだろ。せめて交代制にしてくれ...」
結局考えることをやめた私の一言が決定打となり、いつものごとく彼が折れる事となるのだった。
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献立はノンナさんも来ているということで、プラウダ風にピロシキとボルシチスープをメインとした夕食。
苦戦?していたとはいえ、流石なんでも作れるミカさんである。
「ん、流石だなミカ。めっちゃ美味い」
「だろう?」
「同志。料理は私だって手伝いました。それに、手が止まっていますよ?」
「悪い悪い。ほれ、あーん...」
「あーん───...はむっ」
今、彼の膝の上にはノンナさん。折角だからと彼にそう促してご飯を食べさせてもらっている。
「ふふっ。やはり一味違いますね」
「当然さ」
そう返すミカさん。
それは料理の味についてなのか、それとも彼の膝の話なのか。
どちらについてなのかは分からないけど、少なくともミカさんに関してはチラチラと時計を気にして、早く代わりたそうにソワソワしているのだけは明白だった。
「てかボルシチスープてそんな難しいものだっけ?」
「いいや?でも、比較的簡単なレシピだからこそ、色々とこだわりたくなるものなのさ」
「ほーん。なるほど?」
「...要するにこいつ好みの味付けをしてたら時間がかかったってことね」