夕食はとても美味しかった。交代制とはいえ、彼にあーんしてもらったこともいいスパイスになったのもあるが、やはりミカさんの料理にハズレはない。
ノンナさんもそう感じたようで、食事中は時折口角が上がっていたし、今はミカさんにどう味付けをしたのか、その秘訣を聞いているようである。
子供舌のカチューシャにあの味付けは絶対合わない思うけど、まぁきっと作る相手が違うのだろう。その相手は...まぁ言わなくてもわかるわよね。
私と一緒にお皿を洗っている彼を横目に、私はふふっと笑みを溢した。
黒森峰とプラウダの関係以上に、継続とプラウダという水と油のような関係(主にミカさんのせい)だった2人が、こうして仲睦まじそうに話す姿は、昔なら想像出来ない光景だ。
───...まぁだからといって、この後起こるであろう展開が変わるわけではないのだけど。
「さぁ、そろそろお風呂に入る時間ですね。同志もお疲れでしょうし、今日は私が背中を流してあげますよ」
「んぇ?」
そう先手を打ったのはノンナさん。
彼相手に回りくどい言い回しは不要。それを分かっているからこそ、私とミカさんの前で躊躇いなく言い誘う。
「ふふっ。私はこの二日間彼と一緒に入れてないんだ。だから、今日は譲れないね」
「いや別に毎日一緒に入ってたわけじゃないだろ」
そう返すはミカさん。昨日は隊長に持っていかれたからと譲る気はない様子。そして最後に言った彼の一言は、案の定ミカさんの耳には届いていない。
バチバチと視線を交わす二人に、それをため息を吐きながらも見守る彼と私。
───そう。これは誰が彼と一緒にお風呂に入るか。その闘いの一部始終なのである。
「んー。まぁ折角だし、今日はノンナと入るわ」
...と思ったのだが、意外とあっさり決まってしまった。まぁなんかすごい不貞腐れオーラ出してるミカさんは、絶対納得してないんだろうけど。
「わざわざノンナも来てくれたんだから、今日はいいだろ?」
「むぅ...でも」
「また明日な?」
間に入った彼は、そう言ってからミカさんの額にコツン人差し指を当てる。どこぞの忍者漫画を彷彿とさせるそれはミカさんには効果絶大だったようで、不貞腐れた雰囲気は無くなり、にへらと表情を崩した。
うーん。流石にチョロすぎると思うんですが...。
そう思い向けた視線にミカさんは、私にだけわかるように小さくウィンクを返してきた。
───あぁ、なるほど。そういうことか。
彼の性格からして、今日は初めから一緒にお風呂には入れないと分かっていたんだろう。だから、それ以外で少しでも美味しい何かがほしいと彼に突っかかったのだ。
そしてその結果は言うまでもない。見事な手腕である。
「エリカはどうする?」
「ぅえ?わ、私...?」
「おう」
「う、うん。じゃあ...そうね。私も、明日...」
「なら明日は3人で入るかー。めっちゃ狭そうだけど。ミカもそれでいいか?」
「ふふっ。たまにはそういうのも悪くないかもね」
そう言ってミカさんは優しい笑みを浮かべた。
なんで昨日も今日も3人で入らないのか。そんな野暮なことは聞かない。なんだかんだで、ミカさんが私を気遣ってくれたのだろうから。
「...けど」
「...ん?」
「明日も3人で入るなら、今日も一緒に入っていいよね?」
───気遣ってくれているのだろうから...!!
掴めないミカさんに心の中でツッコミを入れつつも、結果的には彼に初めての予約を入れてしまう私なのであった。
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「〜♪」
お風呂上がりのひと時。
彼の膝の上に座り髪を乾かしてもらっているノンナさんは、靡く髪に心地良さそうに目を細めている。
「ふふっ。同志と同じかおりですね」
限界まで伸びた彼のシャツを着て、鼻歌交じりにそう囁く彼女の髪からは温風に乗って確かに彼のかおりが漂ってくる。
...って、まぁ同じシャンプー使ってるんだから当然といえば当然なんだけど。
そんな嬉しそうに表情を崩しているのを横目に、私も自分の髪をかき上げれば、先程よりも濃く彼のかおりに包まれる。
私も今日で3日目。彼のシャンプーが馴染んでくるのも当然だ。
ふふんと鼻を鳴らしながら目一杯息を吸うことで、私も負けじとその幸せを実感する。
そういえば、小梅からのあの視線って───
思い出すのは昨日の出来事。小梅から向けられた生暖かい視線の話である。
あれはきっと、シャツのかおりだけじゃなくシャンプーのかおりにも反応したのだろう。
いつもと違うの使ってるなー。話を聞く限りだとお兄さんのなんだろうなー。エリカさん、お兄さん大好きだなーと。
ま、まぁ?間違ってはないけど?
ほんと、その恋愛脳は大洗の...た、武部?だっけ?あの子に似るのはやめてほしいわね。
知られてやましい事があるわけじゃないけど、こういう恋バナ?を広められると正直やりづらい。大洗の子たちには特に。
お世辞にも彼女たちとはいい出会いではなかったとはいえ、私のイメージが変わりすぎて、次会う時どんな顔して会えばいいのか分からなくなるから。
...あと、みほにこの情報流したら例え小梅とはいえ、流石に処す。
妹大好きな某姉から、私のプライバシーは全て筒抜けなことを知らず、私は1人そう思うのだった。