ようこそ第0護衛隊群へ   作:/Null

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To Nobles Welcome to the Kestrel


職場見学

んぅ...。

 

昨日はあまり寝れなかった。

 

...まぁ、原因はわかってるんだけどさ。

 

あの時...そう、彼が額にキスした時。

私は起きていたんだ。

厳密にいうと彼がソファーから私を抱き上げた時点で既に起きていた。

 

でも...そのことを伝えるタイミングを見失って、そのままあの不眠になった原因を作ってしまった。

 

まぁ伝えていればあれがなかったかもと考えると、寝たふり状態で良かったと断言できるけど。

 

「はぁ...」

 

昨日の感触を確かめるように額に手を置いてみる。

 

正直予想外だった。

 

口ではあれだけ年齢差を考えろーだの言ってたくせに、結局彼だって同じ距離感だったじゃないか。

 

まぁ...昨日の私はめちゃくちゃに浮かれていたのは事実だけど。

 

彼の入っているお風呂に突撃した時なんか、今思えばやり過ぎてたかもしれない。でも...彼は追い返す事もできるのに、それを受け入れてくれた...昔のように。

 

彼は相変わらずお節介で...面倒見が良くて...ヘビースモーカーで...そして何より昔と変わらず優しかった。

 

そんな彼は、お風呂も一緒に入って寝る時も私と一緒にいたというのに全然動じてなかったように見えた。

 

正直...私と会って嬉しくなかったのかと少し不安になった。

 

けど、お風呂に入った時に背中越しに感じた彼の心音は...今思うと通常よりも早かった気がする。

 

それに、彼が額にキスしてくれたのだって───。

 

───存外、再会に舞い上がっていたのは私だけじゃなかったんだろうな。

 

そんな事を思うとまた顔が熱くなった。

 

 

取り敢えず、起きよう。

 

 

身体を起こして周りを見るが彼の気配はない。

 

んー...リビングかな?

 

そう思い下の階へと向かうが、そこにも彼は居なかった。

 

でも机の上に私分の朝食と一枚のメモが置かれていた。

 

《───おはよう、ミカ。仕事があるから一緒に食事は出来ないけど、お前の分もちゃんと作っておいた。しっかり食べとけよ。あぁそれと───9時頃にうちの迎えが行くから、もしこの後の予定がないのであれば是非来てほしい。ただし他言無用な?》

 

どうやら彼は仕事に行ったらしい。当然といえば当然だ。社会人として当たり前なのだから。

 

───まぁ私は長期休暇中なので休みなんだけどね!だから今日だって予定はないから彼の所に行けるのだ。

 

どうだい?羨ましいだろう?

 

と誰も居ないのにマウントを取ってみる。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

───9時。

 

朝食を食べ終えてから家の中を物色しているとチャイムが鳴った。

 

「はーい」

 

ドアを開けると目の前には、どこか見覚えのあるスーツ姿の男性と黒塗りの車が停まっていた。

 

「ミカさん...ですね?」

 

「そうですが」

 

「隊長から送迎を任されました。どうぞこちらへ」

 

...あぁ、なるほど。どこかで見たことがあると思ったが、この人はラーズグリーズ隊の隊員さんのようだ。

 

ちょうど写真で彼の隣に写っていたのを思い出した。

 

ということは今から行く所は彼らの“職場”なのだろう。

 

そんなところに再会したばかりの私を連れいって大丈夫なのか...許可とか取ってるのだろうか?

 

むむむ、正直不安になってきた。彼のことだからそんなミスはしないとは思うけど...いや案外抜けてるところもあるし...。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。あなたの事は、あなたが小さい頃からうちの隊長からよく聞かされてまし」

 

「えっ?」

 

「ふふっ。当時はですね?妹が出来たとか...妹のために流星貸してくれとか...タバコ取り上げられたとか...訳の分からない事言ってましたよ。けど最近だと、好き嫌いは治ってるだろうか...人付き合いはちゃんと出来てるだろうか...戦車道は続けているだろうか...とか。あなたの事をめちゃくちゃに心配してますよ」

 

1人唸っていた私を見て、上がる口元を覆いながらも昔を懐かしむようにその人は言葉を紡ぐ。

 

「それで、一度隊長に聞いてみたんですよ。そんなに心配なら会いに行けばいいじゃないですかと。そしたら隊長、なんて言ったと思います?

 

───『俺から会いに行ったら下手すりゃ一日中正座だわ。それに、仮にも俺の妹だぞ?問題ないに決まってる』

 

そう言ったんですよ。もう呆れましたよ私達も、親バカ...いや兄バカかってね。───でもそれだけ信頼されてるって事ですよ。あなたは」

 

会えない間も彼は私の事を想ってくれていて...でも、そんなことを人伝いで聞くのはちょっと...恥ずかしい。

 

「それに、私もあなたに会ってホッとしましたよ。最初から心配はしていませんでしたけど、あなたは隊長の言った通りの人だってね」

 

「私とはまだ会ったばかりではないですか」

 

「実を言いますと、あなたの家元と我々は知り合いでして。今は連絡を取れておりませんが、昔はあなたのお話も伺ってましたよ」

 

まぁ彼がうちに来ていた時点で、そのチームメイトである彼らがお母さんと知り合いであることは納得できる。...お母さんはそんな話してくれなかったけど。

 

「それに実は昨日も会ってるんですよ。あなたに」

 

「───え?」

 

「昨日は我々の結成日です。隊長だけがあそこにいるわけないでしょ。居たんですよ。我々全員が」

 

───...全員?

 

...という事は。私があの場で言ったことや、彼に抱きついていたこと全て見られていたということに。

 

 

...。

 

 

 

彼も人が悪い。見ている人がいるならいるって言って欲しかったな。そうすれば私も...いや、やっぱり止まらなかっただろうね。

 

恥ずかしさからほんのりと赤くなった頬を見て、その人はまた目元を崩すのだった。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

その後車からヘリへと乗り継ぎ、気が付けば見慣れない空母に着艦していた。

 

そして私は今、艦長室...と書かれてある扉の前に立っている。

 

そう。どう考えてもお偉いさんの部屋である。

 

「どうぞ」

 

私の気配を察したのか中から人の声が聞こえる。

 

「失礼します」

 

彼の職場ということもあり、いつもの飄々とした気持ちは正してノブを回す。

 

開いた先には、執務机とそれに座る白帽を目深にかぶる男性が。

 

「初めまして、私は継続高校の生徒でミカと申します。この度はお招きいただきありがとうございます。私の事に関しましては私の兄からご説明があったかもしれませんが───あ、申し訳ございません。私の兄というのはですね...」

 

「───ふふっ」

 

「?」

 

初対面で粗相にならないように、そして彼に迷惑がかからないようにと珍しく真面目に話をしていたのだが、目の前にいる人物は下を向いて笑いを堪えている。

 

「いやぁすまんすまん。あまりにも他人行儀で面白かったからついな?」

 

 

...彼だった。

 

 

「それじゃあ、改めて。私がこの艦隊の群司令代理兼、当空母ケストレルの飛行隊長をやっている。民間人としてこの艦に乗船するのはきみが初めてだ」

 

姿勢を正してそう言う彼は白い軍服を着こなし、不敵な笑みを浮かべている。

 

昔からそうだ。彼はいつもズボラな服装ばかり着ているのに、そういう格好する時だけは...その...カッコよく見える。

 

───ほんと...ずるいなぁ。

 

「きみは分かっているかもしれないが、この艦隊にいる者は全員がMIA扱いとなっている。要するに我々は脚のついている幽霊ということだ。だから本来であればこの艦に民間人が乗船することは出来ない...のだが...今回はきみの事を信頼して特別に乗艦を許可した」

 

そして彼は一つ咳払いをした後、少しだけ帽子を上げる。

 

「ふふっ。歓迎するよミカ...ようこそ第0護衛隊群へ」

 

先程までの空気を一変させてそう言った彼の表情は、あの頃と重なる優しいお兄ちゃんだった。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

あれから私は彼と艦内を回り、そしてラーズグリーズの隊員さんたちとの顔合わせをした。

 

初めて会った彼らだけど、もちろん私のことを知っていたらしく仲良くなるのに時間はかからなかった。

 

昨日のことを弄られるのは...ちょっと恥ずかしかったけどね。

 

けど、『隊長に泣かされるようなことがあればいつでも連絡してきな。俺らからガツンと言ってやるから』と嬉しい言葉も貰った。

 

まぁそんな事にはならないとは思うし、実際彼らもそうは思ってないみたいだった。

 

ただ、気になるのは会話の中で聞いた私以外の子たち。当時から無自覚だった彼なら仕方ない...と思いながらも正直複雑かな。

 

だからといって他の子達に負ける気なんてないよ?私の方が1歩も2歩も先に進んでるからね。

 

「何やってんだミカ。そろそろ帰るぞ」

 

フフンっ...と1人ドヤ顔をしているところに彼からの声が掛かる。

 

いつもなら艦内に泊まるらしいが、隊員たちからの『これからはなるべく家に帰ってください』との半ば強引な説得によって艦内から追い出されたらしい。

 

いつも頑張っている彼への恩返しのつもりなのだろうが、圧が凄すぎてて彼は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

───まぁ、私としては万々歳なんだけどね。

 

 

 

だってこれからは彼と一緒に生活できるのだ。嬉しくないわけがない。

 

今まで会えなかった分、目一杯甘えさせてもらおう。それくらいは許してくれないとね。

 

 

 

だから今日は帰ろう。

 

 

 

───“私たちの”家に、ね?

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