彼に髪を直してもらい着いたテーブルに置かれていたのは、ベーコンを添えたスクランブルエッグと、ハチミツを塗って生クリームを乗せたフレンチトースト。
...いたって普通だ。
ノンナさんも手伝ったということだったからてっきりプラウダ風に...と思っていたんだけど...
「当然です。何事もマルチにこなさなければ、何かあった時に対応出来ません。それは戦車道でも言えることですよ?」
と、言われてしまった。正直耳が痛い話であるが、確かに流石あの注文の多そうな暴君を支えてきただけのことはある。
「それに...ふふっ。こうして同志のお役にも立てますから」
いや、完全にのろけだった。
なんでもこなさなければ戦車道でも成長しない、的なアドバイスをくれたのだと思った私の気持ちを返して欲しい。
「なぁエリカ?」
「なによ?」
「なんで俺の生クリームだけ多いん?」
「知らないわよ」
そう。気付いていたが、何故か彼のトーストに乗る生クリームだけ多い。
そんな甘党でもないのにと疑問に思ったが、そのことをノンナさんも知らないわけはない。きっと何かしらの思惑が渦巻いているのだろうと考えることをやめた。
「同志。頬っぺたにクリームが付いてしまっていますよ」
「んぇ?」
トーストを齧った彼の頬にちょこんと付いた生クリーム。待ってましたと言わんばかりにそれを指先ですくうノンナさん。
───ほら、やっぱり。
すくった生クリームを自分の口へと運び、妖艶な微笑みを零すその姿を見て、私は自分の予想が正しかったことを察した。
「...おいミカ。そっちは絶対付いてなかっただろ」
「いいや?付いていたさ。とっておきのがね?」
そしてそれをただ見ているだけではないミカさん。ノンナさんとは逆側からのアプローチだが、違うのは指先を当てるのではなく直接唇を当ててるというところ。
しかも彼の言う通り生クリームなんて付いていない。付いてたというか、どちらかというと“付けた”という方が正しい。
特等席ポジションの両脇を固められ、相変わらず朝から大忙しの彼である。
「朝から大人気ね?」
「いや、お前が言うそれ?」
「そうですね。エリカさんだけには言われたくないですね」
「自分のポジションを理解してから言ってほしいかな」
「べ、別に良いじゃないですか!それよりも早く食べないと。出発の時間遅れちゃいますよ!」
ジト目を向けてくる左右の2人に、居心地悪く身をよじりながら私もトーストに齧りつけば、少しバランスを崩してしまうが彼がしっかり抱きしめ直してくれた。
「ほら、急ぎすぎるなよ?お前は昔からおっちょこちょいな所もあるんだから」
「いつの話よそれ。みほじゃあるまし、今はそんなことないわよ。私も、ちゃんと成長してるの」
「んー?そうか?そうでもなさそうだけどな。...んむっ」
「ひゃっ」
頬に柔らかい感触が伝わる。
それを見て、いそいそと自分の頬に生クリームを付けだす2人。
私はというと、白く付いていた頬を赤くしながらも、物の割にちょっとだけ小さく口を開けてトーストを食べ直すのだった。
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「弁当持ったか?」
「うん」
「まほの分は?」
「大丈夫よ」
「ノンナは...大丈夫そうだな」
「当然です」
玄関に集まる4人。それぞれの手に持つのはそれぞれのお弁当箱。
「それじゃあ、そろそろ...ね?」
「はいはい。分かってますって」
ミカさんの一言に、私はノンナさんを連れて先に玄関の扉をくぐる。
「何かあるんですか?」
「えーっとですね...?」
パタンと閉まる扉を後ろ手に、ノンナさんに伝えるのはこの後のこと。ミカさん風に言うと朝の“日課”の話。
「...ふむ。なるほど。では仕方ありませんね。私も大人しく待ちましょうか」
そう言ってノンナさんはまたしても妖艶な微笑みを浮かべ、唇を濡らし始めた。
きっとそれは一日分の充電と、そして自分のかおりで上書きしてやろう的な。ミカさん的発想をしているのだろう。
まぁ、気持ちは分かる。分かるのだが、その前に一つ言わせて欲しい。
「...なんか荷物多くなってません?」
目に入るのは、来た時よりも2倍近く膨れたバック。旅行帰りのOLかと思うぐらいにパンパンに膨れている。
「よく気が付きましたね」
「いや、そんなになってたら誰でも気が付きますよ...。ほんと中身何入ってるんですか」
「返却分を補充した同志のシャツがほとんどですが、1番の収穫は...これですね」
言われてバックを覗き込めば、そこにあったのは───
「あっ...!」
そう。彼の枕である。
「安眠グッズとして最高と噂を聞いてましたので、私ももらっておきました」
「どこの噂ですかそれ」
まぁ正直、出所はある程度分かるけど。...該当者2人しか居ないし。
「というか、絶対それだけが理由じゃないでしょ」
「まぁ、そうですね。1番の理由は他にありますよ?」
「なら、それは...?」
「それは...ふふっ。エリカさんと同じ...とだけ言っておきましょう」
「...なっ!」
表情を崩し微笑むノンナさんに、これ以上ない理由で返されて言葉が詰まる私。
からかい?を含めたその一言は私に対して効果抜群で、彼への気持ちを再確認させられることとなった。
しかし忘れてはならない。
こうして私たちの想いが増えれば増えるだけ、残念ながら彼の持ち物は減っていくということを。
そう。世の中とは、等価交換なのである。