「と、ところでなんだけどさ、エリカさん...」
「ん?なによ、今更改まって?」
「い、いや。そんなに大層な事じゃないんだけど、そのー...。それって...?」
おどおどとするみほが向けた指先には私が。しかしそれは私自身...というわけではなく、視線は下から上にと、着ている服装のことを言っているのだろうところまでは予想がついた。
だが───
「え?今から寝るんだから。寝着に決まってるじゃない」
一体何を言っているのか。いつものシャツの上にいつものジャージ。...どう見ても寝る準備ではないか。
「それ...全部お兄ちゃんのだよね?」
「まぁ、そうだけど?」
「あ、あはは...」
「...?」
乾いた笑いをするみほに対して、何がおかしいのかと私の頭の上にはハテナマークが浮かぶ。
そもそもこれはミカさんも、隊長も、ノンナさんもやっていることなのだ。
だからこれはおかしいことではなくて当たり前の───...いや。私、何か忘れてないかしら。主に羞恥心的な何かを...
『ふふっ。エリカ?なにもおかしいことではないよ?』
『そうだぞエリカ。西住流にとって、兄さんの服を着ることは当然のことだ』
『同志の服は寝心地いいですからね』
『そ、そうよね?何もおかしいことないわよね?』
頭の中で囁かれる聞き慣れた3つの声に、回る目をしながらもあっさりと頷いてしまう私。
別に何もおかしいことなんてなかった、と。
「それよりも、あんたたちのパジャマの方が個性的だと思うけど?」
そうして一転、指摘するのはみほのパジャマ。
ピンクの下地に、そして散りばめられているのは様々な種類のボコ。
どれだけボコ好きなのよと呆れ混じりにため息を吐くが、その隣にはもっと凄い...ボコの着ぐるみのようなパジャマ(あれってパジャマなの?)を着ている愛里寿がいた。
もう好きってレベルを軽く超えてるでしょこれ。
「...好きなものに囲まれるのは幸せ。だから、お兄様に抱っこされたらもっと幸せ」
「おぉ!!愛里寿!!!お兄様も大好きだぞ!!!」
無垢な愛里寿の言葉は強力で、すぐ飛びついてから着ぐるみ姿の腰に手を回し、器用にその幼い身体を抱き上げる。
頬の擦れ合う感触に、愛里寿の表情は先程の言葉通り幸せそうに綻んでおり、側から見ればとても仲のいい兄妹に見える。
...まぁ、血が繋がってないから一歩間違えば大問題だけど。
「ほら、あんたも行けば?」
「ふぇ!?」
血の繋がっていないもう1人の義妹様にそう声をかければ、何故分かったのかと裏返った声が返ってきた。
微笑ましそうに見守っていたつもりだろうが、その視線に含まれていた羨望の眼差しを私は見逃さなかったのだ。
「でも...エリカさんは?」
「別に?私はいいのよ」
「そうだね。最近は毎日してもらってるしね?」
「ちょっぉ!?ミカさんっ!!」
久しぶりにツンとかました私の態度は、横から入ってきたミカさんのせいですぐに崩壊することに。
「...ふふっ。やっぱり、エリカさんも同じってことだね?」
「なっ、なんのことかしらァ?」
ほんと、ミカさんの一言は毎回余計なのである。
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寝るにはまだ少し早い、お風呂上がりのこの時間。いつもであればテレビを見たり、コーヒーを飲んだり(寝る前なのに)と各々がのんびりと過ごすのだか、今日は全員がソファーに座り一緒にテレビを観ている。
そんなみんなして何を観てるのかって?
それは───
「「頑張れー!ボコー!」」
まぁ、これ聞いただけで分かるわよね。
正義の味方...に見えて実は負けることが確定しているボコボコなクマ。
一体それのどこが面白いのか、テレビ越しに応援するのはボコガチ勢な義妹ズの2人。
私と彼にはその良さが正直よく分からず、苦笑いを浮かべるだけ。
ミカさんはそもそも興味がないのであろうが、時折膝の上に座る愛里寿を撫でながら、コテン彼の肩へと首を倒し、満足そうに目を細めている。
...なるほど?そういうのもあるのか。
「ほら、エリカさん見てる?ここからボコがね...?」
「え...?あっ、え、えぇ。見てる...わよ?」
真似してみようと視界を斜めにした私だったが、彼の膝の上に座るみほの一言で私の首はバネのように元の位置へ。
折角のタイミングを逃してしまい、これには私の眉も少し下がり気味になってしまう。
「...ッ!」
けど、そんな雰囲気を察してくれたのか、彼は空いていた右手で私の頭を寄せてくれた。
珍しい彼からのアクションに少し驚いた私だったけど、頬を緩ませながら受け入れれば、そのまま優しく頭を撫でてくれた。
「「ボコー!」」
負けても挫けない...けどまた負ける。そんなボコの良さは私には分からない。けど、負けないし挫けない。ボコとはまるで違う───私にとって憧れで、それでいて私の手を掴んでくれた人の良さなら分かる。
ぐりぐりと力を込めるミカさんのせいで浮き上がる肩に、負けじと私も力を込めると今度はミカさん側が浮き上がる。
重そうに顔を顰めているその彼を挟んで、しばらくシーソーをしてからそれは平行に。
幸い愛里寿も、そして彼の膝の上に座るみほもテレビに釘付けで、後ろで行われている出来事を知ることはないであろう。
だからこそと私は機会を窺って、ミカさんからは死角になるように彼の頬にそっと唇をつける。
───ふふっ。こんな状況でバレないようにするキスってのも、なんだか背徳感があって悪くないわね。誰も気付いてないようだし、折角だからもう一回───
「エリカさん。お兄ちゃんとイチャイチャするのもいいけど、今はちゃんとボコのこと見よ?」
「え、あぁ。うん...。───って!気付いてるなら言いなさいよ!」
感じていた背徳感は、全て羞恥心へと変換されるのだった。