「そういえばさ?群司令代理...ってことは、きみ。結構出世したってことかな?」
「んー?まぁ、ぼちぼちそうなるな」
確かに歳食ったとはいえ、まだアラサーの俺が群司令代理って普通じゃありえん事ではある。
ケストレルからの帰り道。ヘッドセットから聞こえるそのクリアな声に、俺は思い出すようにそう返す。
「まぁ実際のところはな?今の群司令が忙しいからって業務丸投げしてきてるだけなんだよ」
一応あの人、防衛大臣との兼任だし、忙しいのはわかる。わかるが、それとこれとは話が別だと言いたい。
だって俺、現場の方が好きだし。
ぶっちゃけ群司令の仕事って書類作業多すぎて楽しくないのよね。そんなことやるより俺は戦闘機飛ばしていたい。
「なら断ればよかったじゃないか」
そう首を傾げるミカの疑問は確かにもっとである。
でも俺らがここに入ったきっかけがあの人なのだ。...まぁ正確にいうと俺たちを戦車道から引き抜いた...と言った方が正しいのだが。
まぁ...そこあたりの話はまた今度に。これ以上は長くなるからな。
ともかく、だ。あの人には色々あって頭が上がらんのよ。だから簡単には断れんというか何というか。
ただ、あの人がくっそ忙しくて発狂してた時期に、代理という肩書き外して群司令そのものにされかけたという事件があったが全力で阻止した。
こういう組織の中で、俺はまだ若い方だし、経験だって少ない。
そういうのはもっと人徳なり経験なりがあって、器の大きい人がやるべきだと思う。
アラサーで代理ってだけで異例なのに、群司令なんてもっての外だわ。
だからこそ俺は、白髪が目立つが老練で質実剛健なケストレルの艦長を推薦したのだ。
この艦隊であの艦長を嫌いな人は1人もいないし、白髪の多い髪に裏打ちされた確かな経験と頭脳がある。群司令として彼こそ適任だと思ったからな。
だが、俺のそんな思惑には反して艦長は話を断った。
『私は大分歳だし、そろそろ引退を考えているんだ。だから次の世代に未来を託すよ』
などと某片羽の妖精のようなセリフを言ったけど、絶対めんどくさいから逃げただけだよあれ!大臣と一緒で俺に全部押し付ける気だよあれ!
受けない!俺だって絶対受けないからな!
――――――――――――
―――――――――
「私が先に入るから、きみは少しここで待っていてほしい」
家に着いたと思ったら玄関前でミカにそう制止される。
どうした?俺に見られたくないものでもあんのか?それとも家の中でまた俺のタバコでも探してんのか?
安心しろ。家の中にあるやつは昨日燃やされたので全てだ。
だが...それは家の中に関してだけどな!
脳裏に浮かぶのは無念にも灰となって行った盟友たちの姿。
お前たちの意思はまだ消えてない...。俺がタバコを隠し持っている限り俺の心の中で燃え続けるのだ!
そんな格好いいような事を言っているが、結局はヘビースモーカーでタバコをやめられないだけなのである。
「...ん?」
しかし彼らへの追悼に数秒も経たずして、ガチャりという音と共に玄関の扉が開く。
出てきたのはもちろんミカ。
「おかえりなさい...お兄ちゃん!」
また少しだけ目尻に涙を溜めたミカのその言葉にはきっと、家へ帰ってきたことだけではなく、数年越しにミカの元へ帰ってきたこと。そして俺を見て、もう離れ離れになる事はないと確信したのであろう気持ちが込められていた。
...全く。さっきまでの茶番は無かったことにしてくれ。ミカの気持ちに水は差せないわ。
ほんと...長い間待たせちまったな。
今日一日の区切りの一言。そして、数年ぶりの返事に頬が上がるのを抑えながら俺の気持ちをミカに伝える。
「ただいま───ミカ」
◇
ミカとの共同生活が始まって数日。
先日と同様風呂に突撃されたり、新しく買った俺用のベッドに潜り込んできたりと色々あったがそれより今の状況だ。
その日。いつものように職務が終わって家に帰ったら、駐車場に何故か戦車が停まっている。
見慣れぬ光景を疑問に思い、操縦席を覗き込むと赤茶色の髪色をした女子高生が座っていた。
「えっ?...あっ...。どうも...」
「あっ、どうも...です...」
思わぬ事態に目が合ってしまい2人揃ってお辞儀をすれば、間には気まずい雰囲気が流れる。
あかん。これ確実に俺が悪いやん。そもそも興味本位で俺が覗かなきゃこんな空気にならんかったわけやし。
でも服装的的には継続高校の学生っぽいし、もしかしたらミカの知り合いか?
いやいや、待て待て。そうじゃなかったらどうするんだ。もっと気まずくなるぞ。
うーん───取り敢えず家入ろ。
そそくさと逃げるようにその場を後にしたのだか、実はそれよりももっと異質な空気が家の中にあったのだ。
――――――――――――
―――――――――
「ただいまー」
「勝手に...ったら...」
いつものように返事が返ってくるかと思っていたのだが、奥からミカじゃない人の声が聞こえる。不審に思いつつも部屋の様子を見に行くと、そこには2人の女子高生が。
片方は言わずもがなのミカ。しかし何故か正座をして説教を受けている。
もう1人の説教してる方の子は───いや、誰?
まぁミカと同じ制服着てるから継続高校の生徒だとは思うが、昔の知り合いでもないし...うーん───わからんな。
「あっ!“お兄さん”!」
“お兄さん”!?
帰ってきた俺に気付いたその子は、俺のことを間違いなくお兄さんと呼んだ。
おいおい。見ず知らずの女子高生にお兄さんって呼ばれたぞ!?これはあれか?オプション的なやつか?お金出さないといけないやつなのか?
「聞いてくださいよ。ミカったらまた勝手に...って、え?何ですかこれ」
財布から出した五千円を見てその子は疑問を浮かべている。
ん?これだけじゃ足りないということか?最近の学生は裕福だねぇ。
「いや、お兄さん。そういう意味じゃないです」
「え?...やだなー。分かってるよそんなこと。冗談冗談」
急いで財布をしまう仕草をすれば、ミカが凄い形相でこちらを睨んでるが気にしない気にしない。
というか初対面のはずなのにやけにフレンドリーだなこの子。
「あのー、俺達どこかで会った?」
「お兄さん、そういうナンパみたいなセリフは良くないと思います」
またミカが睨んでくるけど、俺ナンパとかした事ないからね!硬派よ硬派!
「全くもう。ミカのお兄さんって聞いてたから、もっとこう掴み所のない人なんだろうなって思ってたのに全然普通の人じゃん」
いや、さっきの会話から普通の人認定でいいのか?どう考えても変人だったろ。それともあれか?対比している相手がもっと変人だったのか。
そう思い俺からジト目を向ければ、ミカはどこ吹く風とカンテレを弾き始める。
はぁー...。これは後で問い詰めんとあかんやつやな。
「んで、アキちゃん?はここに何の用で?」
「あ、実はですね───
その後、話を聞くとどうやら彼女は戦車道の仲間で、ミカが見慣れない車で登校しているのを不審に思い追ってきたらしい。
まぁ普通そうだわな。ただでさえ貧乏高である継続高校で、しかも最近まで野宿してたやつがいきなり外車乗って登校とか。どう考えてもおかしいわな。
そしてミカが家に入るのと同時に押し入ったら、そこは男性が住んでいるであろう部屋だったと。
───いやマジで危なかった。一歩間違えたら通報案件だった。
ミカもミカで『この車はね、風と共に流れてきたのさ』なんて変なこと言ったらしい。
そりゃ誤解するわ。絶対よからぬところから仕入れた感満載だもんな。
まぁ一応、ミカから最近音信不通?だった“兄”と再会したという話は聞いているようで、おそらくその彼の家から通っているのだろう...とあたりを付けてくれていたことが幸いしたが、一歩間違えば今頃は勾留所にいたかもしれない。
「というかミカ。お前俺の車で登校してんのか?」
「ふふっ。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「いや、そうとしか考えられんやろ」
最近えらくガソリンの減り早かったし。原因はこいつだったか。
まぁ外車だからボディは頑丈だし、徒歩通学よりは安全だからいいのかもしれないけど、あまりにも乗りすぎじゃないですかねぇ...。俺、そんなつもりで貸したわけじゃなかったんですけど...。
そう思いまたジト目を向けるが、残念ながらミカには効果はないようだ。
「それで、お兄さん。さっきの話なんですけど...」
「ん?」
「えーと..その...言いにくいのですが...ミカがお兄さんのタバコ全部燃やしちゃったらしくて」
ん?
「車の中にあったもの全部」
んん?
「え?もしかしてボンネットの中のやつとかも?」
「はい。お兄さんが隠してたやつ全部です」
「...」
「...」
「おぁー!何してくれてんのー!」
「タバコ。それは人生に必要なものかな?」
「そのくだり前もやったわ!必要なんだよ!俺には!」
絶対大丈夫だと思ってたのに!ボンネットの中とか密輸するやつが入れるとこやぞ!なんでそんなとこまで見つけてんねん!捜査犬かお前は!
「なんか騒がしいけど、揉めてんのー?」
無惨に灰となったタバコを前に俺が嘆いていると、駐車場で見た赤茶色の髪色をしている子が家に入ってきていた。
「「...」」
「「先程はどうも...」」
2人揃って頭を下げてるその光景はなんかデジャブ感がすごい。
「あぁ、ミッコ。実はね?」
そう目の前でアキちゃんからミッコちゃんへの説明が始まった。
「いい仲間持ったじゃねぇか」
「ふふっ。そうだろう?」
「でも、わざわざお前を心配してきてくれたんだ。お前がお菓子出す側だろ」
アキちゃんからの説教が無くなったのをいいことにミカは正座を崩してお菓子を食べている。しかも来客用の。
「このお菓子がね。語りかけてきたんだ。私を食べてってね」
おいおい、ここまで迷惑かけてんだ。お菓子ぐらいは出してやれよ。...と内心呆れていたが、そういえばと俺の手元にあるものを思い出した。
「あーあ。そんなんじゃこのケーキを食べる資格はないなー。家主としての仕事もしてないミカには食べて欲しくないってケーキかが語りかけてきてるなー」
「えっ?」
そっとミカにも見えるようにケーキを出せば、ミカはしまったという焦りの表情に変わる。
「折角ミカのために買ってきたのになー。残念だなー」
「...ちょっと」
「仕方ないから3等分するかー」
「もう!お兄ちゃん!」
「ははっ。悪かったよ」
拗ねたようにいうミカに、正直昔と同じような懐かしい光景を感じていたが、気付けばアキちゃんもミッコちゃんも話は終わっており、視線は俺たちの方に。
「ん?2人ともどうしたの?」
「あははは、ミカがそんな顔してるの初めて見たので」
お前普段どんな子やねん...。
ミカの方を見るが、知らぬ存ぜぬとお茶を飲んでいた。
「あ。あとそんなにかしこまらなくても大丈夫ですよお兄さん。ミカとおんなじで」
「そう?んじゃ、お言葉に甘えて」
───その後ケーキはちゃんと4等分した。これ以上ミカに拗ねられても困るからな。
◇
「別に泊まってっていいんだぞ?」
「いえ、いいんです。私達、ちゃんと帰れますし」
あれから結構話し込んだため、外は真っ暗。流石にこの時間から帰るのは面倒だろうと思い、俺は2人にそう聞いたのだが答えはノーだった。流石にデリカシーなかったか?
「いえ。そういう意味じゃなくて」
「ん?」
「ふふっ。ミカの邪魔しちゃ悪いなってことですよ」
――――――――――――
―――――――――
「んじゃあなー」
「気を付けて帰れよー」
肌寒い空気が流れる中、彼女たちが乗る戦車が段々と小さくなっていく。
「...」
「どした?戻らんのか?」
「風がいっているのさ。きみの手が冷えているから暖めてあげないとってね」
「家入ったらあったかくなんだろ」
「むぅ!」
「ははっ、悪い悪い。んじゃ手出しな」
差し出された手を握ると、ミカからぎゅっと強く握りかえしてきた。
掴んだこの手をもう離さない。そんな感情を感じさせながら。
大丈夫。俺はもうどこにも行かないよミカ。俺は...お前の戦車道を見届けると決めたんだ。
だからこれからはミカのやりたいこと...行きたいとこ...食べたいもの...お前のそばで、ずっと見ていくよ。
そして今隣にいるお前みたいに、幸せいっぱいの中で微笑んでいて欲しい。
なんせお前には───
───その姿が1番似合うからな。