ガサガサと衣擦れの音が、私の眠い目をこじ開ける。
まだ薄暗い中で隣を見れば、愛里寿を挟んで彼の姿はなく、抜け殻となったボコのパジャマだけ...否。その上からうつ伏せに抱きついているミカさんの姿だけ。
結局、いつものミカさんか。と、朝から呆れ混じりに息を吐くが、まだ起ききっていない脳は、同時に欠伸を要求してきた。
「あれ?すまん、起こしちゃったか?」
聞こえた声はすぐそばから。私の身じろぎに反応したのだろう上半身を起こすと、抜け殻になったパジャマとは逆方向、既に着替え終えた彼が、少し申し訳なさそうな表情をして立っていた。
「別に?けど、折角だし私も手伝うわ」
一つ背伸びをして、彼からの問いに首を横に振った私は、抜け殻をもう一つ増やすようにパジャマを脱いだ。
少し跳ねた髪を気にせずに彼の隣に立てば、それを直すように頭を撫でてくれる。けど、いつもとは違うパジャマ(主に頭の部分)に、私の寝癖は強く、結局直らなくて諦めた彼はわしゃわしゃと私の髪を撫で回してきた。
ちょ、ちょっと!...と一言言いたかったが、まだ横で寝る3人(ミカさんは起きてるだろうけど)のためにできず、少しの間されるがまま。
まぁ...朝も早いし今日はお預けと思っていた反面、されて正直嬉しいのではあるが。
背後から向けられる不満気な視線(やっぱり起きてた)に無視を決め込み、そう頬を頬を緩ませて私は、朝から大分得した気分。
というか、ミカさんだってどうせ後からやってもらうんだから、そんな気にすることもないでしょうに。
「...」
「ミカも後から、な?」
「...!!ふふっ。ならいいさ」
───ほらやっぱり。
いつものごとく気付いていたのだろう、優しく彼がそう言葉を掛ければ、ミカさんは安心したように、またゆっくりと彼の脱いだパジャマに顔を埋めていく。
どうやら二度寝を決め込むようである。
「じゃあエリカ。一緒に作るか」
「...ぁ。え、ええ。任せなさい」
今日は朝から5人分。ちょっと大変だけど、夜はミカさんに、朝は彼に任せっぱなしだったからちょうどいい。ここらで少しは貢献したかったと思っていたところだから。
ただ欲を言えば───出来ればもうちょっとだけ...。
撫でてくれてる時間は、長くして欲しかったな。
静寂な朝の中、離れる彼の手を名残惜しそうに見つめる私は、ひっそりとそう思うのだった。
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まだ跳ねた髪を後ろで縛り、赤で縁を囲った黒のエプロンを付ける。黒森峰のパンツァージャケットを彷彿とさせるこれを着ると、朝早くはあるが気合も入り自然と目も冴えてくる。
「で、今日はどうするの?」
腰に手を当てて隣の彼へと視線を上げれば、彼は少し考えるそぶりをした後に、慣れた手つきで冷蔵庫を漁り始めた。
「取り敢えずはトーストとスクランブルエッグ。あとの問題はお弁当だけど...大丈夫か?」
「問題ないわ。言ったでしょ?任せなさいって」
バターにトースト。卵にベーコン。その他諸々必要なものを受け取り、コンロに火をつける。薄く油を敷いたフライパンに頃合いを見て溶いた卵を流し込み、少し熱が通った時点で、また卵を混ぜる。
こうして朝の準備を手伝うのは初めてではあるが、別段料理が苦手というわけではない。ただ、何でもできるミカさんに隠れてしまっているだけで、私だってそれなりに家事は得意な方だと自負はしているつもりだ。
その証拠に...ほら。ふわとろスクランブルエッグの出来上がりだ。
「おー。やるな、エリカ」
「ふん。当然よ」
出来栄えに彼も納得なのか、私も鼻を鳴らしながら得意気にそう返す。
さぁ、後は簡単。トーストを焼くだけだ。
またフライパンに熱を入れ直して、塗る用にマーガリンも準備。あとは焦げ目がつく前にひっくり返して...
「───って。な、何?」
「んー、いや?手際いいなって思ってさ」
突然に、ぽすんと私の頭に乗せられたのは彼の右手。
「...」
「さっきもうちょっとして欲しそうな顔してただろ?」
「...!」
「それと、昨日も思ったんだけど。ポニテ姿似合ってて可愛いぞ」
「...!!」
髪型のギャップ萌え?というものなのか。たまーにミカさんが髪型を変えているのはこれを狙ってるのか...と彼の手に顔を赤めながらも1人納得してしまった。
まぁ今感じたこの気持ちは有りか無しかで言えば、もちろん有りである。
さっきの続きをしてくれるのもそう。似合うと言ってもらえたのもそう。
ただ、唯一の問題は、タイミングが悪かった...ということである。
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「で、こうなったわけかい?」
「うっ...」
少し焦げたにおいのする食卓。その原因は言わずもがな。置かれているトーストが一枚黒く焦げてしまっているからだ。
時の止まったキッチンでようやく我に帰った時、なんとか救出には成功したが既に遅く、フライパンの上ではプスプスと黒い煙が上がっていた。
正直任せなさいと言った手前、ちょっと不甲斐なさは感じている。
「全く。私を差し置いて朝からイチャつくのは大概にしてほしいものだね」
いつも朝からイチャついてるのはミカさんのくせに...とツッコミも出来ず、やれやれと首を振るミカさんに何も言い返せなかったが、その後ろで動きに同調して揺れる、一つに纏められた髪を見て相変わらずあざといなぁと、私はまたしても呆れながら思うのだった。