少し濡らした髪にドライヤーを当てられながら、慣れた手つきの彼が私の寝癖を直していく。
「エリカ。明日は本番だけど、今日は訓練早めに切り上げるからな」
「んぇ...?どうして?」
「前日まで訓練頑張って、当日全力出せなかったら意味ないだろ?」
「まぁ...そうね」
いつものごとく眠気をそそるこの心地よさに、私は抗うことも出来ず、他愛のない話をしながらも、ボーッとした頭で少しの間彼の言葉を相槌を打つだけ。
けど、時折後ろから感じる彼の吐息にはぴくりと反応し、その度に目を細めていた。
「ほれ。終わったぞ」
しかし残念ながら時が経つのは早く、ぽんぽんと頭に手を置かれてしまった。
どうやらもうお仕舞いの時間ようだ。
「...。ぁれ...?なんか...違くない?」
浮き上がる意識の中感じたのは、いつもとは違い肩までかかる髪の感触がないこと。されど髪の重さは同じ。
不思議に思い、試しに首を振ってみると後ろで括られた髪が揺れているのが分かった。
昨日、そして今朝からしているポニーテールになっている。
「わざわざ直してくれたのに、なんで?」
「んー。深い意味はないけど。強いて言うなら...可愛かったから?」
「んな!?」
「まぁなんかで支障が出るんなら戻しといてくれや。いつもの髪型も、エリカらしくて俺は好きだし」
「んなな!?」
急激に覚め(させられ)た瞳で見上げる私を、彼はわしゃわしゃするでもなく、ただただ優しく頭を撫でてくる。
それは、彼のありのままの感想。
私たちはこれを『彼の無自覚女垂らし』と命名している。
「...なんか貶されてる気がするんだが」
「あんたが悪いのよ」
そうジト目を向けるも、彼は困ったように肩をすくめるだけ。
「別にいいだろ。こういう事はお前たちにしか言ってないんだから」
「それぐらいは分かってるから!」
───というか、私たち以外にも言ってたら張り倒してるっての。
そんな来ない未来に一言入れて。けど、来ないと言い切った自分に一人頬を紅く染めて。けどけど、いつも惚気られる側の自分がなんだか悔しくて。
───ぐぬぬ...。
「んぉ!?...どうした?」
色んな感情を抱きながら私は唐突に立ち上がり、それに少し驚いたのか彼は両手を上げて止まってしまう。
その隙を逃さず目の前に立つ彼の空いた腰に手を回し、抱きつくように胸の中へと顔を埋める。
「わっ、私だってこんな事、あんたにしかしないから!」
頬は先ほどよりも熱を帯び、けど、これには彼も意表を突かれたに違いない。
その表情を見てやろうと思うが、今この緩み切った顔を見られれば結局意味がない為に中々顔を上げられない。
「ははっ。それぐらい俺だって分かってるよ。ありがとなエリカ」
手のかかる子をあやすような。そんな感じで私の頭に手を当てる彼に、嬉しいけどそうじゃない、と不満を伝えるようにぐりぐりと額を押し付ける。
「耳、紅くなってんぞ」
「...ッ!う、うるさい!」
ただ誤算だったのは、いつもと違う髪型で、紅く染まっていた耳を隠せなかったということだろう。
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「あれ?エリカさん。髪直して貰ったんじゃないの?」
「い、いやぁ?今日はこの髪型で行こうかなーって...」
「...お兄様と何かあったと考えるのが自然」
「なっ、何もなかったけどぉ!?」
「ふふっ。人という生き物は、誰だって新しい風の魔力には抗えないものさ」
「いやだからってミカさんも、また、わざわざポニーテールに戻してるのは魂胆見え見えかと思うんですが」
ノンナ誕生日おめでとう