「これが、愛里寿とみほの分な?」
「わぁ...!お兄様、ありがとう...!」
「お兄ちゃんありがとう!」
手渡しされる二つのお弁当箱。毎朝の恒例となりつつあるこの光景も、義妹ズの2人には初めてで、その口からは等しく嬉しそうな声が上がった。
それもそのはず。彼の手作りというのもさる事ながら、もう一つの理由はそのお弁当箱に描かれている絵柄だ。
何処から入手したのか、昨日見たみほのパジャマのような小さなボコが散りばめられたそれは、お弁当箱だけでなく包んでいる布袋にも。更には中身まで...は見る事はできないが(私は一緒に作ったから知ってるけど)、これで期待できないという選択肢はないだろう。
というか、ボコのボの字も知らないこいつが、いつの間にこんなもの買ったのよ。本当、2人のこと好きすぎるでしょ。孫に色々買ってくるおじいちゃんかっての。
「おじいちゃんじゃなくて、お義兄ちゃんですぅ」
「はいはい。そうでしたね」
口を尖らせながら、ナチュラルに人の心読む彼を華麗にスルーし、次は私のだろうと彼の手元に目を移せば、予想通りその手にはもう二つ。
「ほれ。こっちがエリカとまほの分」
「ありがと。隊長の分まで、いつも悪いわね」
渡されたのは、彼のお弁当箱(予備)とミカさんのお弁当箱(予備)。もう当たり前となったが、要するに私と隊長のである。
「───...って、何よ」
「お兄様のお弁当箱...」
「え?い、いや...その...これはこいつが勝手に...」
「羨ましい...」
「あげないわよぉ!?」
自分の手元と私の手元を何度も見比べてから愛里寿はボソッとそう呟き、そしてそれを聞き逃さなかった私も言い訳なんて何処へやら、目を大きく見開いてから反射的に否定する。
大人気ない?
そんなの関係ないわ。ここで譲れば私はボコのお弁当。そうじゃないにしろ、こればっかりは譲れないんだから。
そう思い眉間に皺を寄せると、それを見た愛里寿はしゅんとした表情になってしまった。
うぐっ...。罪悪感が...。
「ごめんな愛里寿。これはエリカのだからな」
しかも、珍しく義妹に甘くない彼のフォローもあり、さらに私の心を抉ってくる。
け、けどっ!これで私のお弁当箱が守れるなら安いものy───
「...別に取ろうとは思ってない。ただ良いなと思っただけ」
「んなっ!」
取る気がなかったって...なら、なんで必死になってたのよ私!完全に早とちりだったじゃない!
「けど。エリカさんが、お兄様のお弁当箱を大事にしてるのは十分伝わった。そういう意味も含めて羨ましい」
「んななっ!」
しかも墓穴掘っちゃってるじゃない私!自爆しただけじゃない私!!
「ふふっ。エリカさん流石だね」
「何が流石なのよ!」
だから、そんな温かい目を向けないでって!
あぁもう!なんでいつもこうなるのよ!!
頭を抱えたくなるようなこの状況でも、前までの険悪な雰囲気は無く、あるのは私に向けた温かい視線と、ただ、彼へ向かう矢印だけであった。
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外はもう肌寒いこの季節。息を吐けば白く大気が色付き、私、みほ、愛里寿の3人はその寒さに手を擦っている。
玄関の中では彼とミカさんの会話が扉越しに聞こえ、何回か言葉を交わした後、いつものごとく静寂の時間が訪れていた。
そして、ようやく開く玄関の扉。
「すまんすまん」
「別に気にしてないわ。いつものことだし」
───それに、私も後からやってもらうことだし?
最後の言葉は付け加えることは無く。されど彼は気付いてくれて、流し目を送っていた私の額にコツンと人差し指と中指を当ててきた。
どこぞの忍者漫画を彷彿とさせるようなこのやり取りでも、彼は“またな?”とは言わない。
それは、“この後直ぐにな?”...ってことだから。
聞かなくても通じるその意味に、ふふっと私も頬が緩んでしまう。
「お兄様お兄様。ちょっと屈んで欲しい」
「ぅん?」
気の抜けた返事の後、彼は言われた通り私の目線...よりも少し低い位置まで腰を落とせば、その両隣を義妹ズの2人が固める。
「───。...えへへ。はい。私たちからも」
「───。...お兄様。喜んでくれた?」
「これは...壊れますわ...」
彼の両頬に付いたのは少し高さの違う可愛らしい
唇がついたと同時に短い時間固まった後、デレデレと鼻の下を伸ばし始めた彼に、なに腑抜けた顔してんのよ、と脇を強めに突いてやろうかと思ったがそれは、どこからともなく出てきた腕が彼の肩を強く掴んだことで目的を達成することは無かった。
「おい、お前はさっきやっただろ。というかちょっと待て!今余韻に浸ってる最中だから!喜びを噛み締めてる最中だから!!」
そんな彼の訴えはもちろん届くわけもなく、玄関の中から伸びた手はズルズルと彼を引きずり、そしてパタンと玄関のドアは閉まってしまう。
どこかホラー映画を彷彿とさせるその光景に、流石の私も口を挟むことは出来ず、はぁ...と一つため息の後仕方なく矛を収めるしかなかった。
「な、何よ?」
「ふふっ。エリカさん愛されてるなぁって」
「いやどこをどう見たらそんな話が出てくるのよ。それに、どっちかというとあんた達の方がよっぽど───」
───よっぽど構ってくれてるじゃない。
さっきだって、昨日だって。
彼がいなくなり、次の獲物は私と言わんばかりにニコニコとした笑みを向け始めたみほに、そんなちょっぴりの意趣返しをするが、言い切る前にみほは首を横に振っていた。
「だってみんなが居ない時なんて、エリカさん達の話ばっかりだよ?いつも愛情たっぷりで、デレデレの話ばっかり。毎回胸焼けしちゃいそうだよ」
「...お兄様、お姉様やエリカさん達の話ししてる時が一番嬉しそう」
「いやそんなの聞いてないけどぉ!?」
2人の反応に、かぁぁっと顔に熱がこもるのが分かる。
「ふふっ。幸せにね?」
「も、もう幸せよ」
既に寒さは無くなり、白い煙はいつの間にか頭の上から。
「...ん?なんかあったんか?」
「べ、別に何も?」
玄関の中での激戦?も終わったようで、ちょうど彼も戻ってきた。
「───って。どうしたのよそれ」
「まぁ...ミカがな」
心の準備を整えてようやく顔を上げると、その姿は少し...というか大分やつれており、いつもは余裕綽々なミカさんでも思うところがあったのだろうか、彼の首元には情熱的な歯形が付いていた。
ミカ誕生日おめでとう(めっちゃ遅い)