「そういえばあなた、ラーズグリーズ隊に入ったのよね」
「え?は、はい。そうですが...」
「なら、話を戻すようで悪いんだけど。あなた、島田流に入らない?」
「んえぇ!?」
「ふふっ。あの頃から応援してくれてた貴方なら知ってるわよね?ラーズグリーズ隊が元々島田流に所属していたことも」
「それはもちろん知ってますが...」
こうして唐突に始まった島田流からの勧誘。目を丸くする私だが、西住家元もいる手前、とてつもなく居心地が悪い。
「ちょと ちよきち。私の目の前でよくそんな事言えたわね」
「あら?未来ある若者には選択する権利があると思うわ。それが、優秀な子であれば尚更放っておけないもの」
歯に衣着せぬ言い方で島田流家元はそう鼻を鳴らし、対する西住家元は犬歯を見せて威嚇している。
そしてその間に入りたく無いのであろう彼とミカさんの2人は、相変わらず気配を消しているのか存在すらも曖昧で...というかどこ行った。
「それで?どうかしら?」
「お、お言葉は有難いです。島田流の話は彼からもミカさんからもよく聞いていますし、すごく嬉しいです」
「なら───」
「け、けど!今の私には西住隊長から託されたものがあります。成し得なかった優勝旗の奪還だけじゃありません。黒森峰の皆のことも託されたんです。それに私は、黒森峰の新隊長として、私について来てくれた皆で優勝したいんです。だからすみません!そのお誘いには乗れません!」
ありったけの気持ちで、ありったけ頭を下げた。嘘偽りのないその言葉は島田流家元にもしっかりと伝わったようで、先程とは違い諦めのついた...どこか仕方なさそうな表情に変わっていた。
「残念だけど、あなたはそれでいいのね?」
「私も、黒森峰の隊長です。自分の言葉は曲げません。それが、私の戦車道です!」
「そう...。これ以上は野暮なようね。まぁ、嫌になったらいつでも来なさい?あなたなら、いつでも受け入れるわ」
家元には勝てない。そう彼がいつも言っている気持ちが私にもよく分かった。身内に対してはとことん甘いのだろう、優しく微笑む温かい雰囲気に、西住家元とはまた違った強みを感じさせられる。
そして、私に対しても身内認定してくれていることが更に嬉しいのだ。
「あっさりと引き下がるわね?ちよきち」
「ふふっ。別に急ぐことでもないもの。この子も、高校を卒業したら次は私の所。あと2年の辛抱よ?」
「くっ...!」
「お、落ち着いてください家元。大学選抜に行っても、私は西住流の教えを守って頑張りますから」
「...その言葉に、嘘偽りはないわね?」
「はい!」
「はぁ...。仕方ないわね。わかったわ。まほが抜けた黒森峰、私からも改めてあなたに託すわよ」
「ありがとうございます!頑張ります。そして、2年後にはお世話になります。島田家元」
「うふふ」
「それと、これから“も”よろしくお願いします。
───お義母さん」
「「へ?」」
「ちよちゃん?しほちゃん?」
「「ひぇ...」」
気付いていて何も言わなかったが、両家元の背後にはゴゴゴゴッと効果音が聞こえてきそうに仁王立ちするお義母さんの姿が。錆びたブリキのおもちゃのように振り返った2人の表情はみるみる青ざめていく。
「こんな所にまできて、派閥争いって訳じゃないわよね?」
「「い、いつからここに...?」」
「うふふ。ついさっきよぉ?」
知らない間に招き入れたのはどうやら彼とミカさんのようで、2人はお義母さんと一緒に入ってきてから、今ではまた我関せずとコーヒーを飲み始めている。
しかし、ミカさんは玄関先で色々と話していたのだろう、心なしか嬉しそうにしており、その醸す雰囲気はちょっと羨ましい。
私も、電話はよくしていたとはいえ機会がなく、こうして顔を合わせるのは本当に久しぶりだから、話したいことが山ほどあるから。
ただまぁ、それよりもまずはお義母さんによる両家元への事情聴取からだろうなぁ。
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「それにしてもよかったわぁ。喧嘩してるようだったら一旦畳んでしまおうかなと思っちゃったもの」
「いや物騒すぎるんよ母さん」
細目で顎に手を当て首を傾げるお義母さんは、側から見れば夕食を考えている優しい主婦のような雰囲気なのに、言ってることが物騒すぎて彼も私も苦笑いを浮かべざるを得ない。
天下の西住流と島田流を相手に畳むって...。けど、前科(昔のお義母さんと両家元の関係)を聞いた手前、お義母さんならやれそうで怖いんだよなぁ...。
そんな凄みが、目の前のお義母さんからは滲み出ているから。
「そ・れ・よ・り・も。エリちゃん 大きくなったわねぇ」
「...へ?は、はいっ!あっ、えへへ...」
それでも、やっぱり私からすればお義母さんは昔のまま優しくて、椅子の上に器用に正座している両家元を尻目に、伸びてきた手を無条件に受け入れ頭を擦り付けると、彼にしてもらう時とはまた違った安心感に頬が緩む。
懐かしいこの感覚。何というか抱擁感がすごい。
「ミカちゃんもそうだけど、エリちゃんもほんとこれ好きねぇ?」
「ゴプっ」
「おいミカ汚ねぇ」
そうコーヒーを吹き出したミカさんも、やはり“母”の抱擁力には勝てないということであろう。
母は強し...という意味とはまた違うけど、私たちからしたら今も昔もお義母さんは強くて、優しくて、第2の母で───ん...?第2の母...?
義母...?実母...?
強い...母?
そういえば、ここにミカさんの実母が...。
「「あ、あのぉ...おば様?足が痺れて...」」
「あらあら なぁに2人共?今義娘との大切な時間なんだけど?」
「「なんでもごさいません!」」
なるほど。実母の方はここでは全然強くなかったようだ。
足が痺れたせいで、頬をぴくぴくと引き攣らせている家元2人を見て、悲しくも安易に上下関係が分かってしまう。
義母は強し。と。
というか、西住家元。不慣れな体勢とはいえ正座は慣れてるはずですよね?もしかして私たちがいる前だけ威厳を保つために正座してた訳じゃないですよね?ね!?