しかもリリーちゃんの知名度は海外でも低いので、これを機に知ってほしいです
―――私はきっと死ぬはずだったんだろう
金髪碧眼のリリーは背筋を寒くしながら何度も思い返す
あのデカいハンマーを持った無差別殺人犯に頭かち割られて死んでいたに違いなかった
そうしたらアイドルになりたい将来のことで喧嘩した母と仲直りすら出来ずにいたに違いない
だって屍に口などないのだから
(あのとき…)
ギュっとときめきを抑えるように胸の前に両手を重ねる
怖いから起きる動機などではない
これはきっとこれは―――恋からくるものなんだろう
(あのとき、身を持って助けてくれた人が忘れられない)
マイクを持ってズボンに手を突っ込みながら私と殺人犯の間に割って入ってきた小さな青年を覚えている
『BEP!!!』
解読不能な言葉をしゃべりながらもマイクを殺人犯に向け、ラップバトルを始めてしまった彼。
アイドルの卵だったからわかる彼の実力の高さ
犯人に見事勝ってしまったのだ
なぜラップバトルに乗ってしまったのかも理解できていないまま呆然とする犯人に駆け付けた警察にあえなく逮捕。
そのまま連行されていったことを覚えている
目の前で起きたことに整理がついていない自分はへたり込みながら皮肉にも犯人と同じく呆然としていた
そんな自分に彼は近づいてきて
『BEP!BOP!Skedo?』
意味の分からない言葉をまくし立てられた
しかし彼の顔を見ると心配していそうな表情をしていることだけは理解できた
その時駆け込んできた女性が目の前に飛び込んできた
『リリー!』
『え…ぁ…』
その人は自分の母親だった
ママが泣きながら抱きしめてきた
―――そうだ、私は喧嘩をして…それで…
感情が現実に追いついていく
そこで初めて自分が泣いていることがわかった
『この馬鹿ぁ!死んだらどうするの!?大好きなアイドルの夢ですら追えなくなるのよ!?もう二度とこんなことしないで!!』
『ごめんなさい、ママ…』
自分の我儘のせいで。蛮勇のせいで、ママにも迷惑をかけた挙句、命を落とすところだった
その実感が今湧き上がってきて涙が止まらない。ボロボロとあふれ出てくる
そんな自分に彼は困ったように頬をポリポリ掻きつつ
『BOP!』
彼は自身が身に着けていた赤と青の帽子を脱いで自分に被せてきた
自分の涙が見えないようにつばで隠るために。
その上で彼は自分に目を合わせながらニコリと笑ってきた
『BEP!』
安心させるように自分の頭を撫でながら笑いかけてくる彼。
恐らく彼は自分に泣かないでと言いたかったんだと思う
―――そんな自分に襲い掛かってきたものは急激な火照りだった
『~っ!?』
カァ~とつま先から頭のてっぺんまで熱くなっていく感覚がした
助けてくれた上に励ましてくれる彼にお礼が言いたいのに顔が見れない
『あら?あらあら??』
さっきまで彼に何度も頭を下げていたママはいつの間にかこちらをみてニヤニヤしている
あまりにも恥ずかしすぎる光景だった
『おい!さっさとづらかるぞ。いつまでここにいるんだ』
『BEBO!』
そんな中に割って入ってきた青年がいた
橙色の髪をオールバックにし、手に銃を持っていた
どう見ても危険人物としか思えないがどうやら彼の知り合いらしい
『てめぇはいつもそうやって考えなしに面倒ごとに突っ込んでいきやがる。フォローするこっちの身にもなれってんだ。てめぇはただラップをしたいだけの単細胞なのは知っているがな』
『Skedo!』
『ちっ、くそ…』
BEBO(?)という名前の青年は悪態をつきながら彼の腕を捕まみ、引きずっていく
たった今お礼を言う機会を逃したら二度と巡ってこないことで我に返った私はあわてて口を開いた
『助けてくれてありがとうございました!お名前だけでも!?』
『はん!誰が教えっかよ。それに喋れないんだから無理難題だ。帰って寝ろ』
変わりに答えたのは銃を持った怖い青年の方だった
名前は分からずじまいだった
―――でも。
『BEEP!』
彼は手を振りながら去っていった
ラップしているときにように笑いながら大きく。
またどこかで再び会えること私は願っていた
「ふふ…」
自身にとって未だにトラウマにもなっている最悪の記憶であるのに上書きされた最高の記憶。
背筋を寒くしたことなんてすっかり忘れ、今の身体はときめきでいっぱいだった
「あら?リリー?ニヤニヤして…また彼のこと思い出していたの?」
「うぇ!?いやそ、そんなわけないよママ!?昨日のレッスンが上手くいったのを思い出していただけでぇ!?」
あたふたしながら誤魔化す私にくすくすと笑うママ。
あの後ママと話し合って勉強をしっかりとしたのならアイドル目指してもいいとなった
こうやってレッスンするのもママと話せるのも命の恩人である彼のおかげだった
「じ、じゃあ!いってきまーす」
「はーい。いってらっしゃい」
私はそういって玄関を出る
レッスン学校に向かいながら彼をちらちらと探す
実を言うとあの事件から私は彼に会いたくてこうやって何気なく探すことが日課になっていた
そんなときだった
「BEEBAAAAAABAAAAAABAAAAAAAA!!」
「+〇×△+〇×△+〇×△!!」
裏路地の方からギターでかき鳴らすような音楽とともに二人の歌声が聞こえてきた
しかも片方は
「うそ…彼なの!?」
ずっと探していた彼の声だった
彼は相変わらず誰かとラップバトルしているようだった
私は携帯でレッスン学校に電話を掛けつつ、息を切らせながら走った
「はぁ…はぁ…すみません先生!急用が出来たので今日休みます!」
『な!?はぁ!?ちょ
ぶちん
実は自分の先生はトップスターであるミスターディアレストであるのだが、トップスターよりも自分の想い人なのは間違いなかった
(ごめんなさい先生!でも、ようやく彼に会えるチャンスが巡ってきたんだから!)
後で先生に謝っておこうと決意しながら彼のもとへ向かう
たどり着くと異様な光景だった
頭に爆弾つけた男が光りながらラップしていた…という表現で正しいのだろうか
しかもテキトーに壁にチョークで描かれたラクガキみたいなものがチカチカと発光を繰り返している
それに対するは私の知る彼で、彼らの真ん中に震えながらCDラジカセを持っている赤いドレスの女性がいるという状況だった
私は少しの間思考停止してしまった
そんな暇もないように彼とボンバー(!?)な人はバトルを続ける
「BEEBAAAAAABAAAAAABAAAAAAAA!!」
「+〇×△+〇×△+〇×△!!」
愛しい彼に声をかけるのをグッと堪えつつ、ラップをしている彼らの邪魔をしないようにそろりそろりと震えている彼女に声をかける
「爆発しちゃう…破裂しちゃう…蒸発しちゃ
「あのー?」
「ぴぃ!?」
ブツブツ呟いていた彼女に声をかけると驚いたかのように肩を上下させた
目を丸くさせながらこちらを見てきて、私の認識してからさらに目を見開かせていた
「ど、どうしてここに人が!?」
「えと…実はそこの帽子の彼を探していたらここに」
「え?なんで私の彼氏を?」
「んうぇ!?!?!?!?」
まさか自分が彼女と同じように目をクワっと見開くとは思っていなかった
―――この女性は彼の彼女だったのだ
人生は急転直下とも言うし、初恋は実らないとも聞く
でもまだ彼に声もかけていないのに恋破れる経験だけはしたくなかった
「―――ううっ」
「へ?」
「えぇええええええええええええええええええええええん!!!!!!!!」
「ちょぉおおおおおおおおお!?」
そりゃ彼女からすれば人なんて来るわけもない裏路地で声をかけられた上に泣かれたら戸惑うに決まっている
自分が泣くのだってあの助けてくれた時にもっと歩み寄っていれば先越されなかったわけでもある
だからと言って感情がおいそれと納得するわけがない
「うぇええええええん!」
「あわあわあわあわあわあわあわ」
彼女はオロオロとリリーの周りを回っていた
慰めようにも情報が何もない赤の他人なわけであり、彼女は基本甘やかされて育てられたため慰める技術に乏しかった
それにこの鳴き声がかのボム男にどう刺激するかわかったもんじゃなかった
泣くリリーと泣くのを止めようと混乱する彼女の構図が完成した
「…なんなんだよ今日は」
「BEEP?BOP!」
彼女が混乱の中ラジカセのスイッチを切ったからだろうか
いつの間にかラップをやめていたボンバーな男と彼がその構図を見ていた
ボン〇ーマンこと―――ウィッティからしたら、現在進行形で組織から追われている自分が爆発して無関係な人を巻き込まないように裏路地逃げ込んでいたのに、嫌々ながら彼とラップバトルをさせられ爆破能力が暴走しかけたところで、いつの間にかいた金髪碧眼の女の子がワンワン泣いて、音楽が中断させられてしまった状況だった
あれだけ頭に血が上っていたウィッティもこの状況には憤怒よりも困惑しか出てこなかった
それに対して件の彼は―――
「BEEP!BOP!BEP!」
なんか久しぶり!みたいなのほほんとした軽いノリで泣いている金髪彼女に声をかけていた
それを見たウィッティは「お前状況分かっているのか」と憤怒、困惑を通り越して呆れしか出てこなかった
彼はリリーが泣き止まないのが分かると、おもむろに帽子を脱いでリリーに被せた
「―――あっ」
「BEP!」
あの時同じように彼は笑いながらリリーの頭を撫でながら安心させる
リリーは振られた絶望の気持ちが取り払われていくような感覚に陥る
撫でられながらリリーはやはり思う
(ああ―――やっぱり彼のことが好きなんだ私。)
あの時のような急激な火照りは湧かない
でも今疼いている核のような熱さは感じている
初恋とは違う、真からの熱に私は酔いしれていた
泣いているときにこうやって励ましてくれた彼へ想いを再確認できた
―――諦められない
そう思って顔をあげたときだった
「ねぇ、結局あなたは誰なの?」
「なぁ、俺去っていいか?」
絶対零度の表情をした彼の彼女と、困惑しっぱなしのボンバーがそう尋ねてきた
ここまで読んでいただき光栄の限りです
とりあえずFNFとYouTubeで打って欲しい
素晴らしい世界が待っているから