ポケットモンスター虹 ‎~Bravely Blaze~   作:裏腹

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ポケモンバトル

「さあ、後がなくなったぜ、カエン」

 

 腕を組んだまま、ランタナが言った。

 決して浅い付き合いではないから、彼がここで終わる器じゃない、と理解はしている――のだが。

 

『シンジョウ選手、とうとうリーチがかかる! ラフエルの英雄を本当の本当に降してしまうのか!?』

 

 端的に、相手が普通ではない。

 これまでの展開を振り返っても、このシンジョウという男は、カエンの攻勢を真っ向から受け止め、常にその上をいくアンサーを導き出し、彼を圧倒している。

 そしてとうとう彼の切り札であるリザードンすら、真剣勝負の下で破って見せた。

 会場はすっかりシンジョウを讃えるムードに飲み込まれてしまう。

 

「現状カエンのやつは、最後の一体でこのゴウカザルを倒し、その上で待ち受ける切り札にも勝たねばならない。対するシンジョウは、最低限削るだけでいい……ゴウカザルで無理に倒す必要はない」

 

 即ちローリスクローリターンな択のみで、十分勝利を手繰り寄せることができる段階にあるということだ。

 

「おまけにこの蓄積ダメージなら、特性『もうか』の発動圏内。もう苦戦ってレベルじゃねーぞ……!」

 

 素人目でもわかるレベルで、カエンはピンチを背負っている。

 だからこそ、誰を出すのか――――視線が集まる。

 しかし、周囲の独特な圧など少年の精神には良くも悪くも影響しない。ただ軽い体操で身体をほぐして、予め決めていたモンスターボールを握るだけ。

 あっけらかんとして、朗らかに笑って送るだけ。

 

「よーし、でてこーい!」

 

 それは、皆が初めて見るポケモンだった。

 

「おお……!」

 

 盛り上がるのは、別室の主催のみ。

 観衆が目を丸めて呆然とするも、お構いなしのピースサインで、客席に向かって自己主張。

 白とオレンジのツートンカラーが、差し色のイエローを引き立たせ――その容貌を、より派手なものとしている。

 兎の形質を持ちながらも、二本脚で立ち、両腕を使うという、人間の基礎も兼ね備えた獣人ポケモン『エースバーン』が、カエンの最後の一体として降臨する。

 

「あははー、きょうも元気だな!」

 

 さっそく場内を漂うドローンロトム一機一機にカメラ目線をおくり、得意げにポーズを取った。外見通りの目立ちたがりなお調子者という情報だけは、この数秒で嫌というほど伝わった。

 

「……あのポケモンは」

『エースバーン。ガラル地方を主な生息域とするポケモンだが……様子を見るに、彼の手持ちではないのか?』

「わからん。……少なくとも、俺は初めて見る」

 

 正直、拍子抜け、というのが大多数の感想であった。

 名前に反してエースでもなければ、そもそも見ず知らずのポケモンときている。

 何より、このトレーナーとしての本気を試す大舞台で大将が初出しなど、興じている身からすればナンセンスと言うに他ならない。

 だが対面のシンジョウはというと身じろぎ一つなく、目の前の新顔を注意深く凝望していた。

「勝つ気がないのか」なんて野次すら飛ぶが、彼からしてみれば、そういう発想こそがナンセンスで。

 

「へへ、なーなー、びっくりした?」

「悪いが、お前が期待したようなリアクションは取れそうにないな」

「ちぇっ、シンジョウにーちゃんをびっくりさせようと思ってたのに」

「何が来ても、やることは変わらない」

 

 驕らず、そして侮らず。油断は早急に切り捨て、甘えた可能性を排除する。

 勝手に他者の底を決めつけない。

 とりわけ自分よりも一回り以上若い可能性の塊ならば、尚更のこと。

 

「だが、そういうもの(・・・・・・)を『秘密兵器』と呼ぶのは、知っている」

「おおー! そうそう、それそれ!」

 

 シンジョウは、とっくに気付いている。

 これまでの勝利が、年の功という経験値でもぎ取れていたものだと。

 何千、何万と戦いを積み重ねた結果の『知っている』が、アドバンテージになっていただけ。

 彼にすれば、ここから始まる、知識も経験も頼れない未開の領域――それこそが本番だ。

 

「ずーっとな、育ててきたんだ。こんなに、ちっこいときから」

 

 カエンはジェスチャーをしながら、思い出している。

 見知らぬ地の山奥に捨てられて、一人ぼっちで石ころを蹴っていた、子兎の匂いを。

 どこから来たのかわからない。誰といたのかもわからない。何をすればいいのか、どこへ行けばいいのか。パスの仕方だって――――広がる冷たさに取り残されて、たくさんの涙がこぼれて、不安に押しつぶされそうで。

 

「特技はサッカー。使うボールはメラメラしてて、熱いけど……慣れると、けっこうたのしいぜ」

 

 初めは、サッカーで遊んだ。

 はじめて仲間からのボールを受け取った時、彼は目を輝かせ、子供みたいにほっぺをくしゃくしゃにして、めいっぱいに笑っていた。

 

「性格は、ようきなやつだ。すこし、おちょうしものかな」

 

 徐々に慣れ、バトルをするようになって、性格を知った。

 応援があれば頑張れる。賑わいのないバトルは大嫌い。

 

「あとなー、走ることがだいすきだ。足もすげーはやいんだ!」

 

 常に自分が一番だと思っていて、褒めてくれなきゃすぐすねる。

 誰にでも話しかけられて、すぐに仲良くなって。ちなみに嫌な事は、一晩寝れば忘れるタイプ。

 

「ゆっくり、ゆっくりな。歩いて、少しずつでかくなって……やっとみんなに追い付いて、一緒にならべるようになったんだ」

 

 そうやって、友達を知って。仲間を知って。自分を知って。進化を知って。夢を知って。

 

「それで今、ここで――この場所で『おれを連れていきたい!』って、言ってるんだ」

 

 自分を孤独から連れ出してくれた、少年。

 今度は自分がその手を引いて、彼を栄光へと連れていく。

 そう言って、まるで聞き分けが無い。だったらば、そうであるならば。

 

「……無下にするわけには、いかないな」

「だろ? だからさ、受け取ってくれよ。おれたちのメラメラ」

 

 改めて「すごいやつだ」と黙して言う。

 異国の地の、異なる種族とも語らい、共に生き、打ち解ける。かつての英雄の真似事といえば、それまで。だがその再現が、いかに困難なことか。

 いつの時代も、世を牽引するのはお前のような奴なんだろう、とも。

 

「……――いいだろう。相手にとって、不足なし!」

 

 シンジョウのここ一番の語気が、眠っていたブザーを今一度呼び覚ました。

 

「いけ――エースバーン!」

 

 いよいよ投入される、最後の砦。

 呼び名が背中を押せば、コートイン。技を唱えれば、キックオフ。

 

「“かえんボール”」

 

 瓦礫の破片一つを足先で掬い上げると、リフティング。こん、こん、こんと小気味よく弾む音が、いつしかぼう、ぼう、と熱を帯び始める。

 見たことのない技。知らない技。

 指でもつまめた石ころが、炎の蹴鞠に早変わり。

 

「シューッ!!」

 

 きろり。身構えるゴウカザルを睨んだ瞬間、それは弾丸のように飛んでいった。

 炎光の直線が空に引かれる。

 

「(速い!)」

 

 全神経を集中しての、回避。それさえ掠めた肌を、浅く焦がした。

 着弾地点で響く爆音が、その火力の高さを知らしめる。

 振り返る暇など与えない。

 

「“ブレイズキック”!」

 

 凄まじい加速が、次なるアンサーを問う。

 その両足が燃えている。残り火で足跡つくって、襲い来る。

「敵を見ろ!」シンジョウの判断は、ルート上にだいもんじを置くことであった。

 華々しく大の字が弾けるも、

 

「消えた――!?」

 

 そこにエースバーンはいない。

 捉えた刹那は、すぐ下に。

 

「“フェイント”か……!」

 

 時すでに遅し。

 エースバーンは切り取った一瞬を超高速移動で我が物にし、本来ならば不可能な『直撃寸前でのすり抜け』を行ったのだ。

 勢いを殺さぬまま倒れ、低い地を駆けて行う攻撃は滑り込み(スライディング)

 それでも抵抗は諦めない。残った反射神経ひとつで跳び上がる。

 ぎりぎりで危機を脱したゴウカザルは、顔を地上へ。空という射程外からだいもんじを叩きつけるため、吸気を肺に溜め込んだ。

 

「“とびはねる”!」

 

 だが、まだだ。まだ、逃げ足りない。

 次の瞬間、猿は兎を見上げていた。

 ご自慢の脚力による跳躍と上昇。尋常ならざる機動力と運動性能。身軽の二文字だけで説明するには無理がありすぎる高度と、滞空性。

 ひこうタイプにも匹敵する空戦能力を前にして、あるはずのない翼が見えた。

 

「続けて“アイアンヘッド”!」

 

 いつまでも飛んだ気でいるゴウカザルを、硬い頭突き(ヘディング)で咎めて追撃、きっちりと叩き落とす。

 続く風景に着地、或いは墜落。それぞれの方法で地面との再会を済ませた後、先に動いたのは意外にもゴウカザルだった。

 

「止めるぞ、“ストーンエッジ”」

 

 石の柱が、拳で叩かれた地面からバキバキと盛り上がって顔を出す。

 それを打ち砕いて殴り飛ばすと、破片はもれなく鋭利な刃と化して、向かってくるエースバーンへ向かっていく。

 ダッシュの勢いと、ストーンエッジの速度が重なり、直撃。おまけに効果抜群というボーナスまで乗る。

 

「へへ……!」

「何……!?」

「まだまだぁーーーーッ!!」

 

 それでも、エースバーンは止まらなかった。

 崩しかけた体勢から踏みとどまって、再び走り出す。

 

「何が起こっている? 」

 

 まったく効いていない訳ではない。確実にダメージは稼げている。しかし岩から炎に見舞われる一撃にしては、あまりに貧弱すぎる。

 砕け散る衝撃は肉体ではなく、岩の方を破壊する。これでは、まるで。

 

『――“リベロ”だ』

 

 こうかは いまひとつの ようだ

 特性『リベロ』――――今のエースバーンは、ほのおタイプではない。

 

『自分のタイプが、繰り出した技のタイプに変わる、エースバーンの特性だ。さっき出した技は“アイアンヘッド”、つまり――』

「はがねタイプになっているとでもいうのか?」

『その通り。そしてその前は“とびはねる”……ひこうタイプだった』

「故に、あの空中性能か」

『例えば、みずタイプが出すみずタイプの技と、それ以外のタイプが出すみずタイプの技では、同じモノでも威力や効果に大きな違いが出てくる。そのタイプのプロフェッショナルの方が、より強い技を出せるのさ』

「それは知っている。問題なのは技の数だ……既に5つも使っている」

『引き出しの多さについては、彼固有の技能としか言えないな。トレーナー共々、素晴らしい才能だよ』

 

 鉄を為せば、鉄の心。鳥と成れば、鳥の心が宿る。

 限界まで鍛え抜かれた身体能力と、類まれなるバトルセンスの両立が、全能者のような戦士を生み出した。

 彼は何にでもなれる。手札の数だけ属性がある。サブウェポンなどない。放つ技全てが主力技。

 主が持つ、無限の可能性の体現――カエンの新たな剣が、満を持して火を吹き放つ。

 

「“とびひざげり”!」「“インファイト”!」

 

 至る闘士の足技は、ずきりと芯にまで響き渡った。

 競り合うまでもなく、迎え撃つゴウカザルの拳が「もう限界」と弾け飛ぶ。のけぞる体躯の、がら空きのどてっぱらにブレイズキック。ベクトルは屋根にも届く遥か宙。

 上昇運動が頂点に差し掛かる頃、もはやそこには見ず知らずのポケモンなどいなかった。フィールドに立っているのは、観客の心をわし掴みにして止まない、鮮烈デビューのスーパールーキー。

「エースバーン! エースバーン!」コールに合わせて掲げるピースサイン。

 みんな僕を見ろ。僕が一番だ。

 敵が逆さになって落ちてくる。さあ、とどめの一撃を蹴り出そう。

 

「いっけえ! エースバァーーーーーーーーーーーーン!!」

 

 始めにばちばちと、ボールが眩しく輝いた。シャインイエローをしたそれは一足先に宙に浮き、行き先を見定める。

 それが決まれば、あとは黄金の右足に任せるのみ。

 渾身のオーバヘッドキックが投射する“エレキボール”は、電磁砲(レールガン)のようであった。

 スタジアムに閃光が駆けた。ドォン、という落雷さながらの音が終局を告げると、敗者を一瞬で端へと運んだ。

 アリーナ席のフェンスというゴール(・・・)にめり込んだゴウカザルが、再び立つことはなかった。

 

『……――決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 圧倒的、数秒。

 暫しの沈黙を打ち破り、雨のように降りしきる歓声。

 それは呆然とする審判の意識を連れ戻し、彼に改めて口を開かせる。

 

「ご……ゴウカザル、戦闘不能! 勝者エースバーン!」

 

 エースバーンが天へ向かって思いきり雄叫びを上げた。熱の入ったゴールパフォーマンスは会場の興奮を煽り立て、火に油を注ぐ。

 ここまでくれば、もう止まらない。

 鼓舞のためのシンジョウコールが、延々と鳴り響いている。

 静かに、そして優しく、ゴウカザルをボールに戻す。彼の表情は雰囲気に反して、穏やかそのもので。

 

「……参ったな」

 

 手が、震えていた。

 秘められた本音が、ほろりと零れる。

 こんなにも力を出しているのに。持てる全部をぶつけているというのに。まるで倒れてくれない。

 そればかりか眼前の少年は、もっとよこせと言わんばかりに何度も、何度もぶつかってくる。

 試す者(ジムリーダー)としての戦いではなく、何の縛りも、制約もない戦いで――自分は今、追い込まれている。

 カエンという男が、自分よりもうんと大きく見えた。

 

「負けたくない。ああ……負けたくない、な」

 

 自問自答の果ての、嘘偽りのない自分の気持ち。

 君もそうだろう。モンスターボールの中で事を見ていた相棒も、ゆっくり頷く。

 

「だったら、勝てばいいんだよ!」

 

 騒音をかき分けて、少年が言った。

 

「おれも、勝つから。ぜんぶのっけて、ぜんりょくでぶつかっていくから。だからさ――!」

 

 誇りも、意地も、立場も、何も要らない。

 何もなかったあの頃。目に映る何もかも宝物だったあの頃。自分が何色にでもなれる――虹色だったあの頃。

 

勝負(バトル)しようぜ!」

「……!」

 

 こんなありきたりで、聞き飽きた短いフレーズだけで、全部が伝わっていたあの頃。

 青年は、少年に昔の己を重ねた。

 この胸を打つ懐かしさに、全てを委ねよう。

 誰でもない誰かとして、君と往こう。

 

「いいぜ――――、俺が勝つさ!」

 

 彼と、勝負(バトル)しよう。

 

「いけ、“リザードン”!」

 

 ついにシンジョウの切り札、リザードンが現れた。

 待ちくたびれたぞ、と背中越しで一瞥すると、主の微笑をだけを受け取って空へと駆け上がる。大丈夫、言わずとも伝わっている。

 声援を浴び、輝きを浴び、日輪に掲げられるは、キーストーンが埋め込まれたカード『メガチケット』。

 

「命を燃やし、心を照らせ! メガシンカ!」

 

 次の瞬間、リザードンは虹の光に包まれた。

 差し込む明かりは燦々として眩く、加えてほのかに温かい。

 沸き立つ会場。観衆は拝むようにそれを見上げ、ライバルはただただ静かに笑っていた。

 太陽にも似た繭が七色を伴って弾けると、そこにいたリザードンは、より強きリザードン『メガリザードンY』へと姿を変えていた。

 メガシンカ。これこそが、シンジョウに残った最後の力の証明。

 ひとたび咆哮が上がれば、陽光が勢い増して降り注ぐ。特性『ひでり』は絶好調。灼熱の太陽は、今なお沈まず――。

 

『シンジョウ選手、背水の陣のメガシンカ! ここで全てを決めるつもりだ! 対するカエン選手はどう迎え撃つのかーーーーッ!?』

「そう、こいつだ! こいつとやりたかった!」

 

 カエンはそう言うと、エースバーンをモンスターボールに戻す。

「来るぞ!」カイドウはその数秒を敏く捉え、眉を僅かに動かした。これこそ最終目標である“実験”の開始の合図で。

 これまでの静寂が一転し、インカムが慌ただしく鳴り響く。

 

『Re:CHECKER、アクティブ! A~H、全機フルドライブ!』

『カエン氏のバイタル、メンタル、共に良好! 続行に支障なし!』

『Re:オーラ、流動を開始! テルス山よりラフエル洋を越え、ルシエへ急速に移動中!』

『その他、各地に散らばったものも現在地に集中しています!』

『エネルギー想定値突破! 間もなく表出――!』

「――備えろ!」

 

 いくつもの虹色の光が、ごう、と吹き出した。

 それはカエンを、そして掲げられたカエンのモンスターボールを求めて、一息に寄り集まっていく。

 徐々に段階を踏んで大きく、大きく、サイズアップを繰り返す。

 増していく質量。小さな身体がぐっと沈む。歯を食い縛ってこらえてる。

 

「まだまだ長い道のりだ、ここで止まってなんかられないぜ!」

 

 仲間だけじゃない。

 ここ(・・)には覚悟も入ってる。希望も入ってる。

 夢は重くて当たり前。背負って歩んでなんぼだろう。

 

「おれたちは、これからも進み続ける! どこまでもどこまでも、みんなが追いつけない、ずっと遠くへ!」

 

 自分のあるだけを詰め込んだ。

 左手添えて振り向いた。

 

 

「さあ、――キミの番だ」

 

 

 一歩踏み込み、投げ込んだ。

 余剰エネルギーの奔流が、波紋となって広がった。

 大きな虹色のモンスターボールが弾けると、中から出てきたのは、十何倍にも巨大化したエースバーン。

 身の丈を悠に超える“スーパーかえんボール”の上に立ち、伸びて垂れた耳を風に靡かせる。

 起こる叫びはキョダイで、マックスで、会場中をびりびりと痺れさせた。

 

「“ダイマックス”は、正常に完了した。実験は成功だ」

『ああ、こちらでも確認したよ。まさかガラル以外でこの景色を見られるなんてな……Re:オーラってのは、とんでもない代物だ』

「それそのものだけでは、大したことは起きない」

『と、いうと?』

「トレーナーがいい、ということだ。あまり言わせるな」

『……ああ! 次に来た時は、オレもあそこに立たせてもらうぜ!』

 

 すべての準備は整った。

 静謐のままに見据える青年と、腕を組んで立ちはだかる少年。図らずも自分のポケモンと同じ格好をして見合うそれぞれの表情は、空のように明るい。

 言葉はいらない。あとはただ、

 

「行くぞ!」

「こい!!」

 

 躍る心のままに前進するのみ。

 スタジアム上にて渦巻く虹色の雲の下で、頂上決戦。

 

「“ソーラービーム”!!」「“ダイジェット!”」

 

 光線と竜巻のぶつかり合い。

 

「“ダイサンダー”!!」

 

 相殺されれば次にいく。音と共に駆け出すリザードンに、幾つもの雷を落とした。

 全てを避ける“りゅうのまい”。ローリングの随にまとう蒼黒の竜の威光。

 

「“げきりん”!!」「“ダイナックル”ッ!」

 

 大小の拳が激突し、衝撃が走る。

 地面から出し抜けに伸びる白銀の棘は“ダイスチル”によるもので。

 空転して回避、旋回して退避。

 一手一手が、間違えられない。その何もかもに意味がある。

 集中を乗せるから、覚悟と決意が伝わる。触れられないほどに熱く、火傷しそうな魂が覗く。

 

「なーなー!」

「なんだ?」

「たのしいね!」

「ああ――違いない!」

 

 今の二人は、命をバトルに乗せている。

 

『おっと両者、構えに入る! リザードンは口に火を溜め、エースバーンはボールから降りた! まもなく決着がつく! もう瞬きはできない! 結末を見逃せない!』

 

 熱狂が背中を押す。強敵が日々を脅かす。そうして皆、強くなっていく。

 これがあるから、旅はやめられない。楽しくて楽しくてしょうがない。

 今は何も考えない。

 瞳を輝かせろ。

 この情動に純粋たれ。

 

「――――“キョダイカキュウ”!」

「だいもんじ!」

 

 ただ強さの、その先へ――。

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