ポケットモンスター虹 ‎~Bravely Blaze~   作:裏腹

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求道者は言った「永遠に挑戦者たれ」と

 ――Re:オーラ性質変容実験G、結果報告。

 ラフエルよりはるか遠くの異国、ガラル地方。

 そこに伝わる、ガラル粒子と呼ばれるエネルギーが引き起こす現象“ダイマックス”を、Re:オーラにて再現する……というのが、本計画の趣旨である。

 この現象は、これまでカロスやホウエンで確認されてきた“メガシンカ”や、アローラで見られた“Zワザ”のように、土地独自の文化やルーツが関与した結果に生まれたものと、同質のものであるとされていた。

 これら二つは、実際にラフエルにおいても以前より発生が記録されており、限られた一部ではあるが、安定して発動するトレーナーも存在している。

 この事実関係を鑑みるに、Re:オーラを用いてのダイマックスを不可能とする方が、無理のある論説だろう。

 

 まず検証にあたって、条件を確認する。

 ジムバトルが競技化している同地方では、バトルには必ず決まって観客が伴う。それも数百、数千という大規模な動員が毎度のように行われる。

 続けて、肝であるダイマックス。

 これはラフエル地方におけるRe:オーラのように、ガラルの地底より漏れ出るガラル粒子にポケモンが反応、それによって発生した膨大なエネルギーが対象のポケモンを巨大化させる、というものだ。理解しやすいビジュアルの派手さから、エンターテイメントの側面を持つ同地方のポケモンバトルに利用されており、ガラルスタイルと呼ばれる形式で愛好されている。

 大規模と巨大化、以上二点の要素を両立させたバトルを実現するには、広大かつ、天井の無いフィールドが不可欠。ラフエルにおいてそれは、ルシエスタジアムが最適だった。

 

 そして、被験者。

 ダイマックスは終盤のバトルが白熱した状況、具体的にはクライマックスで使われる、ある種切り札的な扱いが一般的だ。

 であるならば、実力が拮抗する組み合わせであることは大前提。加えて観衆の盛り上がりは、知名度に比例する。これはカエンとシンジョウという、有名な実力者二名にオファーを送ることでクリア。同タイプ使いというところで、対等な展開に終始できる可能性にも期待した。

 そして、肝心な場を盛り上げる観衆の集め方だが、クライアントの尽力もあり――。

 

「こんな時もレポートか? 精が出るな」

 

 ――文章が飛んでしまった。おまえのせいだ、どうしてくれる。

 カイドウはそんな表情を前面に出し、冷ややかな眼差しを送り込んだ。

 

「どうした、顔色が悪いぜ。あまり根を詰めすぎない方がいい」

「……誰のせいだと思っている?」

「確かに、アツいバトルだったものな! オレもあの日の夜は興奮で眠れなかった……」

 

 どんかんというのか、マイペースというのか……わからないが、伝わらない事実に呆れ返る。ヤドンにでも話しかけている気分だった。

 カイドウは、ラジエス港の乗船場の出発ロビーにいた。この実験、もといイベントの主催を見送るために。

 イスに腰かけて今回の実験のレポートをまとめている。というのに、隣に座る紫髪の男はまるで気遣いが無い。とうとう辟易して、ため息まじりにノートPCをスリープ、折り畳む。

 

「ラフエル地方、気に入ったよ。ダイマックスは、異なる国でも発生するという事実を知れた。それに、実験結果だけじゃない……バトルも期待していた以上のモノを見せてもらった。準備した甲斐がある。風の噂を信じてここに来て、よかったよ」

「今度は計画的に来い。具体的には同行者を連れ歩け。お前の方向音痴は、見知らぬ地で歩くには致命的すぎる」

「そうか? でも最後の最後、ここにもちゃんと辿り着けたじゃないか」

「それは俺がついているからだろうが! ふざけるな!」

「こうして関われたのも何かの縁だ、その優秀な頭脳共々、頼りにしてるぜ」

 

 男はそんなつっこみに調子よくカラカラ笑うと、背もたれに深く沈み、品よく足組み、手指を組み、遠い海を――これから帰る場所を望んだ。

 

「だが、次回は本当に仲間を連れてくるよ。そして、皆でバトルをしたいと思ってる。ジムリーダーvsジムリーダー、なんてのはどうだ?」

「戦闘狂は、生憎足りているところではあるがな」

「“シンジョウ”と“カエン”――だったな。世界にはまだまだ強いヤツがいる。覚えておこう」

 

 別れの時間は、あっという間。乗船開始のアナウンスが鳴り響く。

 

「さて、そろそろ行こうか」

 

 周囲の人々に合わせ、力強く立ち上がった。

「ありがとう、また来るぜ」と求めた握手は成立しても、握り返しは控えめで。

 しかし大らかというのか、元来の器の大きさで、そんなことなど気にも留めずに歩き出す。

 

「グッバイ、ラフエル! 今度会う時は――――チャンピオンタイムだ!」

 

 乗船口へと繋がるドアの前で、振り返り――帽子の男“ダンデ”は、満足げに微笑んだ。

 

 

     ◇       ◆       ◇       ◆       ◇

 

 

 何もかもを巻き込んだ、ともすれば後世にも語り継がれそうなあの激闘から、数日。

 ここにきて、ようやく日常に戻ってこれた、なんて実感が沸く。

 終わってからというもの、目が冴え渡り、体が火照って仕方がない時間が続いていた。何度もあの光景を夢に見て、寝ても覚めてもバトルの事しか考えられない……まるで発作のようだった。

 考える時間が増え、自分のポケモンやバトルへの姿勢を再認識できた反面、もうこんな思いはこりごりだ……と、感じることもある。

 

「……キョダイマックス、か」

 

 少なくともこのシンジョウという男は、そうだ。

 

「独り言ですか」

 

 こちらは既に、船の上で揺られてる。

 尤もククリタウン発の連絡船なので、船違いではあるが。

 透明な声が聞こえるデッキの上。視線を凪ぐ海原から、隣の少女、コスモスの方へ。手すりに預けた背中を丸めていた。

 ぴーひょろろ、なんていうキャモメの鳴き声では、呟きのカムフラージュとしては不十分だったようだ。

 

「……悔しいですね、負けてしまって」

「まだ何も言っていないが」

「私があなたに負けた時も、同じ気持ちでした。思い知っていただけると嬉しいのですが」

「だからまだ何も言っていないが」

「どうか存分に辛酸を舐めてください」

「人の話を聞け」

 

 あの試合の結果だけを伝えるならば、勝者はカエンであった。

 最後の最後で発生した“だいもんじ”と“キョダイカキュウ”の競り合いに負けた――――それ以上でも以下でもなく、ただ、それだけ。

 しかし、それだけだからこそ。純粋な実力勝負だったからこそ。言い訳の余地がないからこそ。

 

「――引きずるわけだ」

 

 表情は変えずとも、手すりを強く握った。

 勝負の世界の現実を、久方ぶりに味わっている。全力を出し切れば悔いが残らないなんて、綺麗ごとでしかない。何よりも勝ちを欲したからこそ注いだ心血なのだから――望んだものが得られなかったのなら、寧ろ唇を噛み締めるのが道理というもの。

 

「強かったですね、彼」

「ああ……気迫だけじゃない。試合の空気や流れといったものも、完全に自分の物にしていた」

「だからって『負けるのが自然だった』などと言うつもりは決してありません。が……仮にあの場で相対しているのが私であったとしても、同じ結果になっていたかもしれません」

 

 あの時カエンが起こしたダイマックスは、単純に体が大きくなるだけの現象……当初より想定されていたものとは、大幅に違うものだった。

 巨大化に加えて姿が変わり、技も強化された上位互換――『キョダイマックス』だったのだ。

 ガラル粒子の代替として機能したRe:オーラが、規定値を大幅に上回ったのが原因とされている。

 土壇場の勝負強さも発揮した。勝利の女神は、残酷にもあの時から既に彼を選んでいたらしい。

 

「理屈じゃないのさ。お互いに究極まで至り、突き詰められた状態で行われる完璧な勝負を決定付けるのは、もはや言葉で説明できるものじゃない」

「しいて言うなら、運。或いは因果。或いは天命。或いはキセキ」

「何かが宿っているんじゃないか、とさえ思えた」

「ふふ、お強いでしょう。我らが英雄(ヒーロー)は」

「認めよう。彼と同じ時代に生まれ、その進化を誰よりも間近で体感できたことを誇りに思う――――完敗だ」

 

 “世界にはまだまだ強いヤツがいる”

 同じ時に彼も、誰かと同じことを思っていて。

 

「だが、次世代の芽吹きを見るだけで満足するには、まだ早い。俺も足を止めていられない」 

「結構なことです。そうこなくては」

「忙しいよ……やることだらけさ」

 

 ここ数日の憑き物が取れたかのように、頬を綻ばせるシンジョウ。

 まだ、先が見える。課題が沢山あって、道も果てしなく続いてる。自分の限界はここじゃない。たった少しの足跡で決めるには早すぎる。

 

「改めてようこそ、ラフエル地方へ。あなたの冒険は、まだまだこれからですよ」

 

 踏み出す旅路が、今後とも輝かしいものでありますように。

 少女は柔らかな潮風に髪を揺らし、静かに微笑み、そう願った。

 

「しばらくは、休めそうにないな」

 

 柄にもなく、ふ、なんて漏らして空を仰ぐ。青年もまだまだ、旅の途中。

 

「ところで、無粋を承知で訊ねますが」

「ん、なんだ?」

「なぜリザードンのメガシンカを、XではなくYにしたのですか? ほのお技を強化する“ひでり”状態では、相手にもアドバンテージを与えるということに、理解が及んでいたはずですが」

「――男子ってのは、そういうのが好きなんだ」

 

 コスモスは何を思うよりも先に、きょとんとした。

 

「そういうもの、ですか」

「ああ、そういうものさ」

 

 男性というのは、つくづく不思議な生き物なのだな――と、小首を傾げるコスモスであった。

 

 

     ◇       ◆       ◇       ◆       ◇

 

 

『――ノックダウンーーーーーッ!』

 

 今日もどこかで、人々が血沸き肉躍る――。

 

『シンジョウ選手、とうとうバトルタワー50連勝を突破! バトルキングダムに訪れ一ヶ月、期待の新星の快進撃は留まることを知らないーーーーッ!』

 

 会場のスタンド席からでも、その純黒は色褪せることなく、見る者たちの目を引いてやまない。

 

「あら、あの坊やが噂のスーパールーキー? うぅ~ん、なかなかの色男じゃない」

「ウフフ、バルバラさんもお気に入りなのね? ルックス良し、バトル良し、ポケモン良しで、最近目が離せないの。何より、あの氷柱のような鋭い目つき……! あれだけで二升は空けられるわ」

「ふ、二人とも、容姿じゃなくてバトルを見ましょうよぅ……」

 

 一際高く、見晴らしも申し分ない特等スペース。入ることを許された限られし者達が、ああでもない、こうでもないと言葉を交わす。

 

「ちぇ、なんで先にバトルタワーなんだよ……まずはコロッセオに来て、おいらに直々に挨拶すんのが筋ってもんだろって」

「大丈夫だよ、ソムシン。彼がボク達のところに来るのは、そんなに遠い話じゃない」

「なんでだよ! もしかしたら“アイツ”にコテンパンにされるかもしれないんだぞ!」

「あれだけ鋭いポケモンとセンスだ……そんなはずないって、キミも気付いてるだろう?」

「……まぁ、たしかに」

「それに、似た者同士は引かれ合うものさ」

 

 とりわけ“眼”が、そっくりだよ。

 そうして小さく唱えた、半袖のドクターコートを纏う女が、脳裏に浮かべる人物は――。

 

 

 

「びっくりよねえ、もう50勝ですって」

「………………」

 

 無地の青に、無音の白雲がただただ漂う空の下に、彼はいた。

 この地の総てを見下ろせる場所で、腕を枕に足組んで、黄金の瞳に自由な鳥を映し出す。

 緩い風に乗った女性の声に、まどろむ意識が呼び戻された。

 

「あんまり、興味ない感じ?」

 

 ゆっくりと起き上がり、表情も忘れて目くばせだけで返事する。これを読み取るのに、どれだけ苦労するかも知らないで。

 

「……ええ、そうよね。私も心配してないわ。なんたって、私が見込んだ子だもの」

 

 だが少なくとも、会話相手の彼女――ヒメヨは、一つの誤りもなく赤髪の彼の意図を掴んでいるようであった。

 彼が、新星の軌跡に欠片の関心がないことも。

 彼が、新星との遭遇にしか興味がないことも。

 彼が、新星の誕生に心を躍らせていることも。

 その瞳の奥底で静かに燃える火焔から、全てが伝わっている。

 

「ふふ、待ち遠しいね」

「…………――ああ」

 

 未来(あす)の挑戦者へ、告ぐ――――――頂点にて、待つ。

 タワータイクーン“セラ”は物言わず、バトルタワーの屋上で座り込み、今日も見果てぬ天を仰ぐ。

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