S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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今週は本当に寒いですよね。

ずっと凍えっぱなしです。

早く暖かくならないかなぁ~…。







ヒーローになりました

 無事にヒーロー試験に合格をしたパチュリー御一行。

 そんな彼女達は今、試験後に開催されるセミナーに出席をする為に第三ホールに訪れていた。

 

「まずは合格おめでとう! 俺は今から君達、新人ヒーローへ向けての講義をする『A級38位。蛇咬拳のスネック』だ!」

「「「「…………」」」」

 

 前に立っていたのは、目つきの悪い蛇革のスーツを着た男。

 一応、先輩として彼なりの威厳を込めて言ったつもりだが、この四人には全く効果が無かったようだ。

 ジェノスは無表情で、パチュリーは欠伸を噛み殺している。

 サイタマに至ってはクチャクチャとガムを噛んできた。

 こあだけは、目をキラキラさせながらスネックの事を見ていたが。

 

「…約一名はギリギリの合格だったようだが…そのラッキーを無駄にしないように精々、努力を怠らないようにするんだな」

「はーい。分かりましたー」

 

 超適当な返事。

 サイタマからしたら、セミナーなんて本気でどうでもよく、既に彼の頭の中は今夜の夕飯の事にシフトしている。

 

「だが! プロヒーローになったからと言って余り調子に乗って浮かれるなよ! 今後はヒーローとしての自覚と責任を持って、節度ある生活を心掛けろ! いいな!」

「ヒーローになる以前から、節度ある生活は心掛けてるわよ」

「そ…そうか…それをこれからも維持していくように…」

 

 割と当たり前の事を言ってしまったので、パチュリーから簡単に論破される。

 蛇咬拳のスネック。早くも威厳が壊れ始めた。

 

「それから、お前達の顔写真や簡単なプロフィールなどが今日からヒーロー協会のホームページに記載される事になる」

「簡単なプロフィールとは、どれぐらいの範囲だ?」

「さっきも言った通り、まずは顔写真だな。それに名前。後は身長に体重、誕生日などだ。ヒーローによっては、個人の希望でもっと色んな事が記載される事もあるが…新人のお前達は一先ず、今言ったことぐらいだ」

 

 流石に自分の過去の事などは記入していないので知られる心配は無いが、それでもサイタマやパチュリー、こあ等に不都合な事を書かれるかもしれないと思い、念の為に尋ねてみたが、どうやら杞憂であると知ってジェノスは無表情のまま密かに安心した。

 

「おい…そこのC級の新人…!」

「ん? なんだ?」

「さっきからずっと聞く耳持たずと言った感じだが…ちゃんと聞いているのか?」

「おう。聞いてる聞いてる」

「嘘つけ! そのお前の間抜け面が全国に晒されると言ってるんだ!」

「だってよパチェ。お前、可愛いからファンとか出来るかもな」

「そーゆーの、苦手なんだけどな~」

「こあにもファンクラブなどが出来るかもしれないな」

「えぇ~…。私的には、大切な人一人だけに好かれていれば満足って言うか…」

「ん? どうしてこっちを見るんだ?」

 

 説教のつもりが、いつの間にかラブコメみたいな展開になった。

 特に、ジェノスとこあとの間には簡単に入ってはいけないような空間が形成されている。

 

「お前達…これから先、恥を掻きたくなかったら!!」

 

 自分の事を除け者にしたとことにキレたのか、いきなり飛び上がってからバババババッ! っと両腕を素早く動かし自慢の拳法を披露してからビシッ! っと決めポーズ。

 

「この俺のような立派なヒーローを目指せ!! いいな!!」

 

 本人的には完全に決まったと思っていたようだが、サイタマの表情は相変わらず。

 それどころか、膨らませた風船ガムが割れて顔面に引っ付いた。

 

「わぷ」

「サイタマ先生! 大丈夫ですかッ!?」

「ぎゃはははははははははははっ!」

「ちょっと待っててくださいね! えっと…持ってきたバッグにウェットティッシュが入ってたと思うんだけど…」

 

 ジェノスは本気で心配し、パチュリーは大爆笑。

 こあだけが冷静に事態を受け入れて対処していた。

 またもやスネックさん、除け者である。

 彼はもう泣いていい。

 

「…良い事を教えてやろう」

「「「「ん?」」」」

「『A級ヒーロー』ともなるとな、協会にも多少は幅が利くようになるんだ…! その気になれば、いつでも不心得者は減点をしてランクを下げられるんだぞ…! よーく覚えておけ!!」

「それなら、同じA級の私にも、その権限があるって事よね?」

「なに…?」

「S級のジェノス君なら、それ以上の権限だってある事になる。なんか、いい事を聞いちゃったわね。ジェノス君」

「はい。俺達の手で、サイタマ先生を正当に評価して貰いましょう!」

「え~? 別にいいって~」

「お・ま・え・ら・なぁ~…!」

 

 スネック。最後の最後までいいところなし。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 試験の帰り。

 浮かない顔のサイタマに対し、ジェノスはずっと嬉しそうにしていた。

 

「なーんか、つまんねーセミナーだったな」

「最後の最後にだけ面白い事を聞けたけどね」

「私は面白かったですけど?」

「これで、我々四人の顔が新人ヒーローとして世界中に知れ渡っていくわけですね。これからは先生もパチュリーさんも、胸を張って活動が出来ますよ」

 

 別にパチュリーはヒーロー活動はしてきてはいない。

 気紛れにサイタマの事を手伝った事なら何回かあるが。

 

「そしてこれで…俺も正式に先生の弟子になりますね」

「あ……」

「これからも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

「う…うん…よろしく…」

(やっばー…弟子にするとか簡単に口にするんじゃなかったかもしれない…特にこいつの場合は…)

 

 サイタマ。今になって自分の軽口を後悔する。

 だが、一度言った事は取り消せない。

 それは彼もよく分かっていた。

 

「ちゃーんとジェノス君に色々と教えてあげなさいよ? サイタマせんせー?」

「うっせ。茶化すんじゃねぇ」

 

 どうして、あんな事を言ってしまったのか。

 弟子なんて持っても、自分に何が出来るのか全く分からない。

 ある意味、抱えている悩み以上の難問だ。

 

「それでは、俺はクセーノ博士に今日の事を報告しに戻るので、ここで失礼します」

「お…おう。今日はお疲れ様」

「また明日ね」

「お疲れ様でしたー」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 試験終了後の会場にある執務室。

 そこでは、セミナーを終えたスネックが机に座ってコーヒーを飲みながら、協会関係者と思われる眼鏡を掛けた黒いスーツの男性と話をしていた。

 

「ったく…今日の新人4人。あれ本当に合格者なのか? 酷過ぎる態度だったぞ? いや…一人だけはまともだったが」

 

 その『まともだった一人』というのは、恐らくはこあの事を言っているのだろう。

 個性爆発の三人と一緒に並んでいれば、確かにまともに見えるかもしれない。

 

「現役A級ランク38位である、この俺のことを知らないどころか、この業界の厳しさすらも全く知らない様子…完全に素人丸出しだ。あのままだと、すぐに死んでしまうぞ?」

「本当にそうかな?」

「なに?」

 

 眼鏡の男性は、窓から赤く染まる空を見上げながらスネックに言い聞かせるように言った。

 

「まず、ジェノス君は筆記、実技共に満点で、2年振りの快挙を見事に成し遂げ、いきなりS級の認定を受けた期待の超大型新人だ」

「あの若造がS級…か」

 

 ポッと出の新人にいきなり追い抜かれ、先達としては非常に複雑な感情がある。

 確かに優秀なのかもしれないが、だからと言って簡単に納得できれば苦労はしない。

 

「サイタマ君は、筆記や作文こそ確かに酷かったが、その代わり実技試験では文句なしの50点満点。結果としてはギリギリの合格になってしまったが…体力試験の全てにおいてヒーロー協会の体力試験の新記録を非常に大きく更新している」

「そんな馬鹿な…」

「間違いなく、彼の体には『神』が宿っているよ」

 

 あの覇気の欠片も無い男のどこに、それ程までの力が宿っているのか。

 実際にその光景を見ていないスネックには、到底信じられなかった。

 

「じゃあ、あの小娘たちはどうなんだ? 態度はどうあれ、女性の合格者なんて久し振りだろ。しかも、二人同時になんて」

「…そうだな。彼女達…特にパチュリー君について話しておかないといけないだろうな。A級である以上、君も無関係ではないのだから」

「それは、どういう意味だ?」

 

 眼鏡の男性は、壁に沿っておいてある職員専用の自販機にてカフェオレを購入、戻りながら口にし、説明を始めた。

 

「彼女…パチュリー君はA級の新人ヒーロー…スネック君にとっては尤も近しい後輩とも言える存在だ。彼女の順位は39位になるな」

「顔はともかく、性格の方は後輩らしい可愛さが全く無かったけどな」

 

 容姿だけならば間違いなく美少女と言っても差し支えないが、まるで自分が認めた者達以外を見下すような態度。

 そんなヒーローたちをスネックは何人か知っている。

 

「パチュリー君は、現役ヒーローにも何人か存在している『超能力系』のヒーローだ」

「だと思ったよ。だが、そうなると実技試験は散々だったんじゃないのか? よく、いきなりA級になれたもんだ。ああ見えて意外と動けるのか?」

「そうじゃない。彼女の素の身体能力は非常に低かった。本人も言っていたが、C級は疎か、一般人にすら劣ると言ってもいい」

「冗談だろ…? よく合格できたな…」

「彼女が合格できた理由。それは『ある一点』に凝縮されている」

「それは?」

 

 壁に寄りかかりながら、男性は静かに呟いた。

 

「パチュリー君は…魔法が使える」

「は? 魔法? 念動力とかじゃなくて?」

「そう…魔法だ。我々も映画やアニメ、漫画やゲームなどで良く目にしている…あの魔法だ」

「おいおい…冗談でも笑えないぞ?」

「面接の時に我々も同じような事を言った。が、直後にこう返されてしまったよ」

 

『怪人や超能力者が実在してるのに、魔法使いだけを否定するのはおかしいんじゃない?』

 

「…そう言いながら、実際に我々の前で彼女は魔法を使って見せた。右手からは炎を、左手からは氷を出し、次の瞬間には雷を出していた」

「いや…それだけじゃまだ魔法とは断言出来ないだろ…」

「私達もそう思い、彼女の実技試験を密かに見てみる事にした」

「どうだったんだ?」

「…彼女の魔法は間違いなく本物だ。自分の身体能力を一時的に強化し、自由自在に空を飛び、物体の重さすらも変化させる。それに加え、彼女自身の頭脳が恐ろしく明晰だった。魔法を使った状態での彼女の動きは、間違いなくS級レベルに達していた」

 

 実際に見てみない事には信じられない。

 信じられないが…協会関係者が言っている以上、それは『魔法』なのだろう。

 

「実は、パチュリー君のA級在籍は、あくまでも『一時的』な処置となっている」

「一時的?」

「素の身体能力が低すぎるから、という理由で少しだけ減点をしているが、実際にはジェノス君と同じ満点合格だよ」

「なんで、そんな面倒な事をする?」

「彼女の真の実力を見極める為だ。今回の試験でパチュリー君は複数の魔法を使ってみせた。中には自分だけじゃなく、他人の体力を回復させる魔法も存在していた。それだけでも非常に強力なサポート能力だが…ヒーロー協会はそれすらも彼女の持つ真の能力の氷山の一角にすら満たないと判断している。なので、それを確認できるまではA級ヒーローを続けて貰うことになる。あの試験の内容では、それが最も妥当だからな」

「…もしも、あの少女の魔法が想像を越える物だった場合は…?」

「すぐにでもS級へと昇格させる。これはヒーロー協会の総意でもある」

 

 あの華奢な少女一人に、そこまでするとは。

 それだけ『魔法』という未知なる能力が魅力的に映っているのだろう。

 

「そんな勝手な事をして、あの『A級1位』が黙ってないんじゃないか?」

「彼はこっちで説得するつもりだ。本人に会わせてもいいと思っている」

「相手は少女だからな…手荒な真似はしないと思うが…」

 

 それでも、どうもスネックは『彼』の事が好きにはなれない。

 実力を認めているから猶のこと。

 

「じゃあ、もう一人の『こあ』とかいう少女はどうなんだ? 彼女も魔法が使えるのか?」

「聞く限りではそうらしい。なんでも、パチュリー君から魔法を教わっているとのことだ」

「ってことは、弟子ってわけか」

「恐らくな。素の身体能力も悪くは無かったし、筆記もそこそこだった。良くも悪くも『B級』といった感じだったよ。だが…」

「だが? なんだ?」

「私の予想では、こあ君もA級に昇ってくるかもしれないな。あの子は何というか…万人に愛されるタイプのヒーローになるような気がする」

「アイツみたいにか?」

「『彼』とはまた別のベクトルだよ」

 

 持っていたカフェオレを全部飲み干し、空になったカップをゴミ箱に捨て、空いた手をポケットに入れた。

 

「一応、忠告はしておくが…ジェノス君は既に君よりもランクが上だし、パチュリー君だって将来的に上に行くことがほぼ確定している。サイタマ君だって今はC級だが、いずれはすぐに追いつかれてしまうかもしれないな」

「あいつが……!?」

 

 偉そうに講義をしてみせたが、四人中三人から追い抜かれるかもしれないと言われ、黙っていられる筈がない。

 焦りの余り、スネックは軽率な行動をしてしまう事になる。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 夕方の土手を一緒に歩くパチュリーとこあとサイタマ。

 パチュリーは地面から僅かに浮いて、実際に歩いてはいないが。

 

「C級ランキングでトップになるとB級に昇格して、S級はA級の上…。なぁ、パチェ」

「どうしたの?」

「ジェノスって…実は凄い奴だったのか?」

「いや…普通に凄い子でしょ。色んな意味で」

「そっか…」

 

 ふと立ち止まり、夕焼け空を見上げる。

 その顔はいつも以上に覇気が無かった。

 

「なんか…俺がなりたかったヒーローとは違うような気がする…」

「なに生意気言ってんのよ。ようやくスタートラインに立ったばかりじゃない」

「パチェ…」

「違うような気がするなら、プロヒーローをしながら『なりたかったヒーロー』を目指せばいいじゃない」

「そうですよサイタマさん! それに、これからは無職じゃなくなって、ちゃんとお給料が貰えるんですよ?」

「うーん…それは普通に有り難いんだよな…割と切実だったし」

 

 どれだけ大きな夢を持っていても、金という現実の前では無力だった。

 

「ほら。とっとと帰りましょ。お腹空いちゃったし」

「…そうだな。こあ、今日は何にするんだ?」

「冷蔵庫には何が入ってましたっけ…?」

 

 ヒーローとは思えないような庶民的な話をしながら帰りを急ごうとすると、いきなり土手の下の方から見た事のあるようなスーツを着た男…スネックが飛び上がって来た。

 

「突然だが…合格者セミナーの続きだ!」

「なんだ?」

「「さぁ?」」

 

 地面に降り立ってファイティングポーズを決めるが、この三人には全く効果が無い。

 

「この業界には新人潰しというものが存在していてな! ランキングを抜かれる事を気にする者も少なからずいるのだ!」

「下らないわね…」

「同感。それよりも腹減った」

「例えば…こんな風に早めに潰すのだっ!!」

 

 スネックの拳がサイタマに迫る!!

 このままでは顔面直撃…だが、そもそも避ける必要すらないので問題無い。

 

 一秒後。スネックはサイタマの一撃にてぶっ飛ばされて地面に埋まり、流石に不憫に感じたパチュリーによってせめてもの情けでケアルを掛けて貰った。

 トドメに、こあが去り際に気絶をしたスネックを拝んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで、パチュリー達が正式なヒーローに。

彼女達の活躍にこうご期待?




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