昼間に仕事をしていて、ふと休み時間にスマホで調べて見たらエラいことに…。
やっぱり、ヒーロー協会が絡んできたからかな?
A市市内にある某スタジオ。
そこでは今、とある番組の撮影の準備が着々と進んでいた。
端の方では、一人の長身の男が電話で誰かと話をしている。
「なんだって? 今度の試験で合格した新人をS級にした? この僕の許可も無しに? ふざけているのか?」
『き…君に相談も無しに決めたことは悪いと思っている。だが、彼は今度の試験で満点合格をしているんだ。S級にしない理由が無いだろう?』
「S級に相応しいかどうかは、この僕が決める。…だが、決まってしまった物は仕方がない。その人物の資料なんかは貰えるんだろうね?」
『勿論だ。すぐにでもメールをしよう』
「頼むよ。時間を見つけてから、僕から会いに行って直に確かめる」
『そうしてくれ。きっと、君のお眼鏡に適うと思うよ。アマイマスク』
彼の名は『イケメン仮面 アマイマスク』。
勿論、本名ではない。
A級ヒーロー第一位であり、その実力はS級にも匹敵すると言われている人物で、その端正な顔立ちから非常に人気が高いヒーローだ。
ヒーローとしてだけでなく芸能人としての一面も併せ持っていて、今回のようによくテレビやドラマ、果ては曲などを出して最もメディアへの露出が多いヒーローでもある。
そんな彼がS級にならないのには、何か理由があるらしいが…。
『それとは別にもう一人、君に会って欲しい新人ヒーローがいるんだが…』
「もう一人?」
『あぁ。寧ろ、今回の電話はそっちの方がメインと言ってもいい』
「聞かせて貰おうか」
折り畳み式の椅子に腰かけ、マネージャーが持ってきたコーヒーに手を伸ばす。
『その人物も本来ならば満点合格だったのだが、訳あって少しだけ減点をしてA級という事にしてある』
「ふーん…どうして、そんな手間をかける?」
『…彼女が特別すぎるからだ。未だ嘗て全く前例のないヒーローなのだよ』
「彼女…と言う事は女か。どんな女性なんだい?」
『…魔法使いだ』
「なに?」
予想外の言葉に、思わず手に持っているコーヒーを落としかけた。
落としかけただけで実際に落としてはいないが。
「…冗談はやめてくれ」
『そう思うのも無理はない。だがこれは紛れもない事実だ。これまでにも色んな超能力や特殊能力を持つ人間達がヒーローになったが、彼女は余りにも異質過ぎる。火や氷や風や雷と言った多種多様な属性を簡単に操ってみせただけでなく、自分や他者を回復させ、自分自身の身体能力をS級クラスにまで強化し、果ては自由自在に空を飛んでみせた。万能なんだ! 彼女の駆使する魔法は!』
「そこまでなのか…」
アマイマスクにではなく、自分自身に言い聞かせるかのように受話器越しに叫ぶ。
流石のアマイマスクも、その剣幕を前に何も言えなくなる。
『だが、我々はそれすらもまだ彼女の持つ魔法の氷山の一角にすら満たないと判断している。本来ならば文句なしにS級にするところだが、その前に見極めたいのだ。彼女の持つ魔法の真価を』
「その為に、敢えてA級にしている…か」
S級と認められるほどの実力を持ちながら、事情からA級に席を置く。
まるで自分のようだな…と、アマイマスクはまだ会った事すらない相手に不思議なシンパシーを感じた。
『アマイマスク。出来れば彼女にも一度でいいから会ってみてほしい。君の目でも彼女の事を確かめてくれ。頼む』
「いいだろう。僕もその『彼女』に興味が湧いてきた。その女性のデータも貰えるんだろう?」
『当然だ。後で確かめてくれ』
「了解した。おっと、そろそろ撮影が始まる。この辺で失礼するよ」
『そうか。頑張ってくれ』
スマホの通話を切り、それを傍にいたマネージャーに手渡してからセットまで歩いて行く。
「魔法使いのヒーロー…か。面白い」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
Z市の外れにある山岳地帯。
まるで特撮番組の撮影とかに使われそうな、何も無く広いだけの場所で、周囲は岩盤で出来た天然の外壁で囲まれている。
そんな場所にサイタマとジェノス、パチュリーとこあがいた。
その目的は唯一つ。ジェノスがサイタマに手合わせを願い出たのだ。
どうやら、前にパチュリーとサイタマが『本気の模擬戦』をしたと聞いた時から、いつかはと思っていたらしい。
「ヒーロー名簿…俺はS級ランキングで、パチュリーさんはA級ランキングで、こあはB級ランキングで、サイタマ先生はC級ランキングでそれぞれ最下位になっています」
「新人だし、そこら辺は仕方がないのかもな」
「これから頑張って順位を上げていきましょうってことなのかしらね」
「大変そうだなぁ~…」
自分達の上位にはどんな者達が並んでいるのか。
ジェノスやサイタマ、パチュリーは全く気にしていないが、こあだけは人並みの不安に襲われていた。
「今はまだ本名が使われていますが、暫くヒーローとして活動をしていくと『ヒーローネーム』が付くみたいですね」
「「「ヒーローネーム?」」」
「恐らくはニックネーム的な物ではないかと。例えば俺ならば『金髪サイボーグ』とか」
「それだと、パチュリー様は『魔法少女』になったりして」
「じゃあ、こあはまんま『小悪魔』ね」
「ちょい待て。それだと俺は『ハゲマント』になっちまうじゃねぇか」
「まぁ、そんな話は今はどうでもいいとして」
「いや、よくねぇよッ!? 名前は大事だよッ!?」
サイタマのツッコミは普通にスルー。
段々とジェノスも彼の扱い方を理解し始めたのかもしれない。
「今日は俺の無理なお願いを聞いて貰って、本当にありがとうございます」
「いやまぁ…口約束とはいえ『弟子にする』って言っちまった以上は、何もしない訳にもいかないしな。それに、そうでもしないとパチェがうるせぇし…」
「何か言った?」
「言ってねぇよ!」
ジェノスとサイタマはそれぞれに離れた場所まで歩いて行き、パチュリーとこあの二人は、彼らの邪魔にならないように端っこの方で見学をすることに。
「パチュリーさんも、今日は見届け人をしてくれて感謝しています」
「これぐらいなら、お安い御用よ。サイタマ~! 手を抜いたりするんじゃないわよ~! 分かった~っ!?」
「わ~ってるよ! ふざけたりしねぇって!」
「ジェノスさ~ん! 頑張ってくださ~い!」
こあの応援に、ジェノスはサムズアップをする事で応えた。
彼女にはそれだけでも十分だったようだ。
「全力全開で戦い、少しでも先生の本気を引き出せるようにぶつかっていきます」
「おう。どーんと来い!」
「では…行きます」
右腕を腰だめにし、左腕を前に突き出す。
両足を肩幅にまで開き、いつでも動き出せる体勢を取る。
それに対し、サイタマはいつも通りの無防備ポーズ。
「お?」
ジェノスの左腕が展開し、そこから複数の砲身が出現する。
エネルギーが一瞬で充填され、一気に放出…『焼却砲』が発射された!
超高熱の光線が真っ直ぐにサイタマへと向かい、このままでは直撃する…かと思われたが、ここで彼は思わぬ行動に打って出た。
「ふん!」
なんと、超高エネルギーの塊を殴り飛ばし、遥か空の彼方へと弾き飛ばしたのだ!
回避をするかと思ったら、まさかの迎撃。
驚きを隠せないジェノスではあったが、すぐに頭を切り替えて追撃戦に移行する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
高速移動を駆使して一瞬でサイタマの元まで行き、その体に組み付きながら何度も強烈な連続攻撃で反撃する暇を与えない!
実際、サイタマは防戦一方になっている状態だった。
「わ…わわわわわ~っ!?」
「普通に凄いわね…そういや、ジェノス君が本格的に戦っているのを見るのって、これが初めてかも」
「言われてみれば確かに…って! パ…パチュリーさま! このままだと二人とも!」
「言わなくても分かってるって。あいつ等なら大丈夫よ」
最初からど迫力の攻防戦を見せられて目がグルグルになっているこあとは違い、パチュリーは全く以て冷静な反応。
彼女の本気の魔法…『秘奥義』の方がずっと迫力があるので、この程度は驚くに値しないのだ。
こあの心配通り、二人はもつれ合いながら近くにあった岩にぶつかって粉々にした後に、そのまま岩壁に激突した。
だが、そんな事でジェノスの攻撃が止む事は無く、岩壁の中を掘り進みながら怒涛の連続攻撃を繰り出した!
「マシンガン・ブロー!!!」
凄まじい速度から放たれる鋼鉄の拳の連打は、頑強な岩を易々と破壊しながら確実にダメージを与えていく!
常人ならば、この攻撃から逃れるのはまず不可能!
だがその時、ジェノスはある事に気が付いた。
(妙だ…途中から急に手応えが無くなった…まさかッ!?)
急いで攻撃の手を止めると、そこにはサイタマの姿が無く、忽然と消えていた。
(いつの間にッ!? 俺はさっきからずっと残像相手に攻撃をしていたのかッ!?)
一体どこに行ったのか。
センサーを使ってサイタマの事を捜すと、彼はすぐに発見できた。
大きく跳躍をして攻撃を逃れ、今まさに着地しようとしている瞬間だった。
(見つけたっ!)
サイタマが地面に降り立つよりも先に着地し、脚が付く前に両手の装甲を瞬間展開、先程以上の威力を誇る焼却砲をほぼゼロ距離でお見舞いした。
「焼却っ!!!」
超極太な高熱レーザーが放たれ、岩壁にぶち当たるまで直進、破壊した。
誰もが、これで勝負がついたと思うだろうが、ジェノスは全く油断をせずに構えを解かない。
(今のは間違いなく直撃…! これで少しは先生の本気を引き出せただろうか…)
だが、待っていたのは無常な現実だった。
「悪いな…ジェノス」
「先生っ!?」
聞こえてきたのは後ろから。
まさか、あの超至近距離から放たれた一撃を回避してみせたのかッ!?
「この程度じゃ…俺は本気になれねぇよ」
「そうですか……ならば!!」
振り向きざまに振り下ろすような全力パンチ!
サイタマはそれを瞬間移動と見間違うような神速の動きで回避、更にそこから一瞬で懐まで潜り込んできた!
(近いっ! それなら!)
サイタマが本格的に攻撃態勢に入った。
彼の攻撃には一撃必殺の破壊力が備わっている。
即ち、一発でも直撃を受ければ即敗北!
攻撃されるよりも先に自分が攻撃をするしかない!
ジェノスはブーストを込めた蹴りを放つが、それすらも避けられた!
(なっ!? この距離で避けるッ!?)
背後に回られた! 完全に万事休す!
(しまっ…!)
咄嗟に後ろを向こうとすると、そこにはサイタマの拳が迫りくる。
その時、ジェノスの脳裏の浮かんだのは『死』の一文字だけ。
これで終わりか。そう思った時…拳はジェノスの目の前で寸止めされた。
凄まじいまでの衝撃波が彼の周りを通り過ぎる。
「これで俺の勝ち…って事でいいか?」
「…………はい」
「それじゃ、今からうどんでも食いに行こうぜ! 腹減っちまったよ!」
「…ご一緒します」
「決まりだな。おーい! パチェー! こあー! うどん食いに行くぞー!」
呆気なく勝負が決し、ジェノスは現実味のないまま徐に後ろを振り向く。
(俺は…過去を乗り越える強さを得る為ならば、どんなに困難な道でさえも進んでいく覚悟をしている…だが…しかし……)
後ろには、つい数秒前まであった筈の岩壁がどこにも無く、さっきのサイタマの拳から発せられた衝撃波によって跡形も無く消滅していた。
(俺がサイタマ先生の強さに追いつけるイメージが…微塵も湧いてこない…次元が違い過ぎる…)
圧倒的。
それしか言う事が無かった。
「そうだ。お前に面白い事を教えてやるよ」
「なんですか?」
「実はここな…前に何回か俺とパチェが例の『模擬戦』をやった場所なんだ」
「そうなんですかッ!?」
「ホントホント。で、俺達が今立ってる場所な…パチェが全力で放った魔法で抉り取られた跡なんだよ」
「なっ…!?」
この場所自体が、パチュリーの魔法の威力によって生み出されていたとは。
そんな事を一体誰が想像するだろうか。
「前はここにも木々が生い茂って自然で溢れてたんだけどな。まさかの一発で更地になっちまった。スゲーだろ?」
「は…はい…」
(サイタマ先生も十分に別次元の存在だが……パチュリーさんもまた異次元の存在だ…!)
何回かパチュリーの魔法は見てきたが、それらはまだ全く本気ではなかった。
本気を出さずとも、大半の敵は一撃で倒せるから。
その点だけを言えば、パチュリーとサイタマは全く同じ存在と言える。
(結局…サイタマ先生の本気を見る事は叶わなかった。それどころか、逆にその偉大さと強大さを思い知る結果となってしまった。だが、俺は決して諦めません。いつの日か必ず…!)
この日の戦闘を糧に新たな決意を固めるジェノスを余所に、サイタマはいつもの場違いな一言を放った。
「ん? どした? うどん嫌いなのか?」
「何やってんのよサイタマ。早く行くわよ~」
「色んな意味で驚いて、お腹空きました~…」
「…今、行きます」
今はまだ遠いけど、それは諦める理由にはならない。
進み続ければ、必ずその背中に追いつけると信じて、ジェノスは三人の元まで走っていく。
この日、青年はまた一つ成長した。
今回は話の構成上、パチュリーの台詞が殆ど無かったですね。
その代わり、次回はちゃんと主人公らしく沢山、話をさせますけど。