原作では呆気なく倒されていたり、出番が少ないキャラにもスポットライトを当てていきたいですね。
A市にあるヒーロー協会本部。
ここでは今、幹部たちによる各市の定期災害原因調査報告が行われていた。
簡単に言うと、各市に派遣しているヒーロー達の報告を聞きながら、今後の対策を検討するというものだ。
「…これで一通りの報告は終了か。後はZ市へと調査に向かわせた二人の報告を待つばかりだな」
「A級29位黄金ボール。同じくA級33位バネヒゲ。両者とも、S級にも引けを取らない実力者達だ。一時間後ぐらいには元気な声で調査完了の通信をしてくるだろう」
「だが、市街地付近はともかくとして、郊外に存在している無人街には謎が多いのだろう? 風の噂では、得体の知れない化け物がいるという話も…」
「だからこそ、戦闘力の高い二人に行って貰ったのだろう?」
不安に駆られそうになっている幹部を落ち着かせる為に、彼らの中でリーダー格ともいえる人物『シッチ』が静かに言い放つ。
彼は誰よりもヒーロー達の事を信じ、同時に人類と世界の未来を本気で案じている人間の一人だ。
だからこそ、こうした席にも積極的に顔を出すようにしている。
「そんなに不安ならば、もう一人ぐらい派遣してみてはいかがでしょうか?」
「一体誰を? 言っておくが、あんな危険地帯の調査をB級やC級には任せられないぞ? 最低でもA級以上でなければ…」
「だが、他のA級たちはそれぞれに忙しいだろ? 手の空いている奴なんているのか?」
「います。しかも…Z市に在住しているヒーローが」
「なんだとっ!? それは誰だっ!?」
「『彼女』ですよ。今、ヒーロー協会の中で最も話題になっている彼女です」
話題の彼女。
それだけで、シッチを始めとする幹部たちはすぐに誰の事を指しているのか理解した。
「A級39位…パチュリー。例の魔法使いか」
「そうです。もしかしたら、彼女の真の実力を測るいい機会になるかもしれません」
話し合いの内容がパチュリーの事へと移行しかけた時、いきなりZ市支部から通信が入ってきた。
「なんだっ!?」
シッチが代表して通信に出て、急いで通信の内容を尋ねた。
「一体どうしたっ!?」
『シッチさん大変です! Z市へ派遣をしたヒーロー二人から緊急の応援要請が入りました!』
「なにっ!?」
『A級29位黄金ボールが戦闘不能になり、A級33位バネヒゲが交戦していますが苦戦しているとの事です! 今は付近にいるA級以上のヒーローに連絡をして急いで向かわせようとしています!』
一番恐れていた事態が現実となった。
幹部たちは一気に騒然となった…シッチを除いて。
「…たった今、我々の方でも追加要員を向かわせようという話になっていた」
『なんというタイミング…誰を向かわせますかッ!?』
「A級39位パチュリー。彼女は確かZ市在住だったな? であれば、すぐに現場へと急行できるはずだ」
『本部でも話題の中心となっている例の魔法少女ですね…了解しました! すぐに彼女へ連絡をします!』
「頼んだぞ」
通信を切り、睨み付けるように他の幹部たちを見渡した。
「…これでいいかね?」
「あ…あぁ…」
彼の眼光に圧された者達を見て、シッチは密かに溜息を吐く。
その顔には落胆の色が濃く出ていた。
(果たして、この中に損得抜きに本気で人類と世界の未来を憂いている者は何人いるのだろうか……)
創設から三年。
シッチは今こそがヒーロー協会の力が真の意味で試される時期なのかもしれないと感じていた。
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時間は少しだけ遡る。
Z市市内にて、いつものようにパチュリーとサイタマは二人一緒に食料品などの買い物をしていた。
4人同時にプロヒーローを始めた事で家の財政事情もかなり解決し、今では貯金をする余裕すらも生まれてきた。
因みに、今回もジェノスとこあの二人は留守番で、ジェノスは家の掃除、こあは洗濯物を干したりしている。
「今日も今日で大収穫ね。まさか、あんな超割引価格で牛肉が買えるとは思わなかったわ」
「だよな。しかも、無くなりかけてた塩や胡椒、醤油とかもお得価格で買い足せたし。いい買い物をしたぜ」
日常的なことで幸せを噛み締めるヒーロー二人。
ある意味、最も大事なことかもしれない。
「もう他に寄る所とかは無いか?」
「今日は特にないわね。予約している本とかもないし、気になるお店も…あら?」
「どした?」
「いつの間にか、あんな場所に百円ショップがオープンしてる」
「ホントだ! 遂にZ市にもやって来たんだな…」
「今まではB市やE市とかにしか無かったものね」
「だな。これで皿とかが割れた時に買い直しやすくなる」
「本当は割れないのが一番なんだけどね」
完全に熟年夫婦の会話。
二人のことを生温かい視線で見守る人々も多かった。
そんな彼らに話しかける大きい人影があった。
「あー…すまない。少しいいだろうか?」
「「ん?」」
いきなりなんだと思いつつ振り向くと、そこにはタンクトップを着た大柄な男性が立っていた。
同じタンクトップを着ていた『タンクトップタイガー』とは全ての面で違っていた。
「君がA級のパチュリー君で、そっちがC級のサイタマ君だな?」
「そうだけど…あんたは?」
「俺は『タンクトップマスター』。S級ヒーローの一人だ」
豚神に続いて、二人目のS級ヒーロー。
本来ならば会う事すら難しい筈の存在なのに、この二人には奇妙な縁があった。
「つい先日、俺の舎弟が失礼な事をしてしまい迷惑を掛けたばかりか、そのすぐ後に怪我まで治して貰ったと聞いてな。詫びと礼を言おうと思い、Z市までやって来た次第なんだ」
「それって…もしかしてタンクトップタイガーって奴の事を言ってる?」
「その通りだ。あいつから君に伝言も預かっている。『あの時は本当にありがとうございました』とな」
「あいつもそうだけど…貴方も律儀なのね。もし見つからなかったらどうする気だったのよ?」
「その時は、見つけるまで探すだけさ」
真面目そうに見えて、意外と曲者なのかもしれない。
だが、変に自己主張が激しいヒーロー達よりは遥かに好感が持てた。
「あの時のは俺の方も悪かったから、本当にもう気にしてないんだけどな」
「私も同じよ。別にお礼を言われたいと思って助けたわけじゃないし」
「…矢張り、タイガーの言っていた通りの人物なんだな」
一体何を彼に言ったのか。
変な事でないのを祈るばかりだ。
「『相手がヒーローだろうが、一般人だろうが関係ない。困っていたら誰だって助ける』…タイガーから君の言った言葉を聞かされた時、俺は非常に感動した。俺の舎弟たちに最も足りていないのは、まさにその精神だったからな」
「まぁ…そうでしょうね…」
お世辞にも、パチュリーからのタンクトップタイガーの第一印象は余りよくない。
力にものを言わせてなんとかするようなタイプに見えたから。
「君達のようなヒーローが現れてくれた事はとても喜ばしいと思っている。自らの過ちを認め、誰にでも分け隔てなく手を伸ばす。簡単なようで、最も難しいことだからな…」
これまで、そんなに多くのヒーロー達を見た事が無いから断言は出来ないが、少なくともこのタンクトップマスターという人物はヒーロー協会内でも物凄くまともな部類に入る存在なのではないのか。
少なくともパチュリーはそう思った。
あのサイタマですら『真面目だなー』と心の中で感心してしまったほどなのだから。
「あら? 私のスマホに着信が来てる…珍しい。こあから…じゃないみたいね」
着信相手を見た途端に渋い顔をし、仕方なく電話に出る事にした。
「…もしもし?」
『あ…繋がった! こちらヒーロー協会Z市支部です! 緊急事態に付き、A級ヒーローであるパチュリーさんにご協力してほしいのです!』
「緊急事態? 穏やかじゃないわね。詳しく教えてくれる?」
『了解しました!』
話の内容はこうだった。
Z市郊外にあるゴーストタウンに二人のA級ヒーローを調査に向かわせたが、そこで怪人に遭遇し、一人が戦闘不能に陥り、もう一人も苦戦をしている。
なので、急いで二人の救援に向かって欲しい。
「よりにもよって、あそこに行ったの…? 無謀ね…」
『パチュリーさんも、あの場所の危険性は認知していたのですね…』
「そりゃね」
だって、そのゴーストタウンに三年間も暮らしてるんだから。
嫌でも危険性は思い知らされる。
「分かったわ。聞いてしまった以上は無視できないし、今から向かう事にする」
『ありがとうございます! 助かります!』
「実は今、私の他に二人のヒーローも一緒にいるんだけど…彼らにも同行して貰ってもいいかしら?」
『他にもヒーローがっ!? そりゃもう是非とも! 因みに誰ですか?』
「一人はC級。でも、その実力はS級クラスと言っても過言じゃないわ」
『そ…そうなんですか。もう一人は?』
「S級ヒーローのタンクトップマスターよ」
『え…ええええええええええええS級ッ!? どうして彼と貴女が一緒にッ!?』
「単なる偶然よ。で、大丈夫かしら?」
『勿論ですとも! 今の状況でS級の救援なんて最高すぎます!』
「それはなにより。じゃ、そろそろ切るわね。急がないと」
『はい! どうかご武運を!』
ピ…っと通話を切り、自分を見ている二人に確かめる。
「そう言う訳なんだけど…一緒に来て貰える?」
「言うまでもない。怪人が暴れているのなら、俺達ヒーローの出番だ!」
「どうせ、パチェの魔法でひとっ飛びだしな。行こうぜ」
「決まりね。それじゃ、二人とも私の傍に寄ってくれる?」
「こうか?」
言われるがままにパチュリーに近寄ると、いきなり三人の体が光り始める。
サイタマはいつもの事なので慣れているが、タンクトップマスターは初めての事なので当然のように戸惑った。
「こ…これは一体っ!? もしや、これが噂に聞いた魔法とやらなのかッ!?」
「その通り。いくわよ……ルーラ!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
三人は一筋の光となって、Z市郊外にある無人街入口へと向かって飛んで行ったのだった。
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無事に着地に成功した三人は、急いで無人街と市街地とを隔てるフェンスを越えて中へと入っていった。
サイタマとパチュリーにとっては勝手知ったる場所なので、怪人と戦っているという二人のヒーローの居場所についても大凡の見当がついていた。
「多分、こっちよ」
「分かるのか?」
「幾ら無人街と言っても、どこにでも怪人が出現するって訳じゃないの。怪人が出現する場所にはある一定の法則が存在しているのよ」
「一定の法則だと?」
「基本的に奴らは広い場所でしか暴れない。理性よりも本能で動いているんでしょうね。きっと、破壊衝動を上手に抑えきれないのよ」
「成る程…」
流石は魔法使い。
こんな状況に於いては非常に頼りになる。
「ん…? パチェ。こっちの方から声みたいのが聞こえてきたぞ」
「ホント? じゃあ、急いで行ってみましょ」
僅かに細い路地をショートカットするように抜けると、そこにはボロボロになって倒れている二人の男と、彼らを倒したと思われる全身昆布だらけの真っ黒な怪人『昆布インフィニティ』が立っていた。
「なんだ、お前達…? 一般人…じゃなさそうだな。雰囲気が違う。誰だ?」
「そこに倒れている彼らを助けに来た仲間…って言えば分かるかしら?」
「ってことは、お前達もヒーローか。丁度いい。こいつ等じゃ弱すぎてつまらなかったところだ。お前達は少しは俺の事を楽しませてくれるのかな?」
次回、タンクトップマスター大活躍?
これからも原作よりも先にS級を出す機会があるかもしれません。