S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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今回は彼の登場。

一刻も早くS級の皆を出したいので、飛ばすべき所は飛ばしていきます。







機械仕掛けの青年

 今日も今日とていつものZ市。

 人の気配が皆無な無人街に響き渡るテレビの音。

 

「なぁ…パチェ」

「なに? 今はこの前『裏マーケット』で買ってきた『古文書』を読むのに忙しいんだけど?」

 

 パチュリーが座椅子に腰かけながら読んでいるボロボロで古めかしい本の表紙には、見た事のない文字でタイトルらしき言葉が書かれていた。

 どこでそんな代物を手に入れてきたのやら。

 彼女に話しかけているサイタマは、ベランダにてサボテンにじょうろで水をやっていた。

 

「最近の俺ってさ…昔以上に感情が薄れてきてるような気がするんだよな…」

「またそれ? 自分が強すぎるが故に、どんな相手とも拮抗した戦いが出来ないからー…的な。もうそれ言うの何度目よ?」

「忘れた」

 

 間違いなく地上最強の実力を誇るサイタマの数少ない悩みの一つ。

 それを聞く度、パチュリーはよく『亢龍悔い有り』という諺を思い出す。

 『亢龍』とは、あらゆる事を究極まで極めた最強の龍の事を指しているのだが、最強に到達してしまったが故に、それ以上の強さには至れないようになってしまい、あとは時間と共に老いて朽ちていくだけになってしまう。

 要は『何事も程々が一番』と言っているのだ。

 だが、サイタマは至ってしまった。

 誰もが一生掛かっても至れない場所に、二十代で。

 

「パチェ……俺とさ…」

「イヤ」

「まだ何も言ってねぇじゃねぇか」

「何を言おうとしてるのか想像ついてるし。『俺と本気で戦ってくれ』…でしょ?」

「おう。だってよー…本気出したパチェの魔法って滅茶苦茶スゲーじゃねぇか」

「まぁね。魔法に関しては私だってそれなりの自信はあるわ。けど、それとこれは別。そもそも、分野が違うでしょうが」

「分野って?」

「アンタは肉体労働担当。私は頭脳労働担当。大体ね、私が万年喘息気味で運動能力がそこらの小学生以下なのを知ってて言ってる?」

 

 魔法使いを自称するだけあって、パチュリーの魔法使いとしての技量は完全にズバ抜けている。

 彼女がその気になれば、山を砕き、地を裂き、海を割るぐらいは簡単にやってのける。

 無尽蔵とも言うべき魔力を持つ彼女にとって、魔法でサイタマの真似事をするぐらいは楽勝なのだ。

 本人は余り使いたがらないが。

 

「この話はもう終わり。それよりも、サボテンに水をあげるんなら、その隣にある私のマンドラゴラにも水をお願いできる?」

「別にいいぞ。ところで、マンドラゴラってなんだ?」

「サイタマにも分かり易く説明すれば、引き抜く時に叫び声を上げる人型の野菜」

「これが声を出すのか。スゲーな」

「因みに、その叫びを聞いた人間は発狂するらしいわ。ま、アンタなら平気だろうけど」

「ふーん……」

 

 これと言って特に興味を示すことなく、サイタマはサボテンの隣にある鉢植えにも水をかける。

 土から葉を出している姿だけを見れば普通の野菜にしか見えない。

 

「ところでよ…なんか最近になって蚊が多くなってねぇか? まだ夏って感じじゃねぇよな?」

「どうやら、今年は全国的に蚊が大量発生しているみたいよ。テレビでも言ってる」

「マジで?」

 

 水やりを終えたサイタマが部屋の中に戻り、テレビの報道特集に目をやる。

 彼の頭にも既に何ヵ所か蚊に刺された跡があり、赤く腫れていた。

 

『今年の蚊の大量発生は、世間全体に大混乱を招いています』

『私はまだインドア派なので被害が少ないですが、遊び盛りの子供達は可哀想ですね』

『この蚊の大量発生の原因は一体何なのか。蚊の専門家でもあり、数多くの本を出版されている『カーフェチ』氏にお越し頂きました。よろしくお願いします』

『よろしくお願いします。えー…早速、結論から言わせて頂きますと、今回大量発生した蚊は完全な新種と思われるので、私にもサッパリ分かりません』

『お前はもう帰れ!』

 

 画面の向こうで行われている茶番を冷めた目で見つめる二人。

 特にパチュリーは我関せずと言った感じだった。

 

「嘘だろおい…一匹でもウザいってのに大量発生とか…勘弁してくれよ」

「全くね」

「…そういやパチェ。なんか、お前だけ全然刺されてなくね? なんで?」

「こんな事もあろうかと、予め蚊だけを遮断する特殊な結界を自分の周囲に張っておいたのよ」

「はぁ~っ!? パチェだけズリーぞー!」

「魔法使いの特権よ。アンタのそのアホみたいな身体能力と同じようにね」

「同じじゃねぇだろッ!?」

 

 口喧嘩では全く勝てないので、いつもこんな風に暖簾に腕押し状態の事が起きている。

 そんな時、いきなり緊急ニュースが流れてきた。

 

『まだ番組の途中ではありますが、臨時ニュースをお伝えします』

「「ん?」」

『つい先程、Z市に大量の蚊の群れが向かっているのが確認されました! 住人の皆さんは決して外には出ないようにしてください! この度の災害レベルは『鬼』と判定されました!』

「鬼…ね」

 

 災害レベルを聞いて、パチュリーだけ目を細める。

 サイタマの方は、蚊がこっちに向かっているという事を聞いて顔を青くした。

 

『もう既に襲われた家畜などはミイラ化していたとの事です! 万が一でも群れに遭遇、接触した場合はほぼ確実に死亡すると考えてください! これがその時に撮影された映像です! まるで真っ黒な砂嵐のようです!』

 

 切り替わった画面には、常識では考えられないような数の蚊が群れを成して何処かに移動している姿が映し出されていた。

 

「パ…パチェ……Z市って…ここだよな?」

「ここね」

「…めっちゃヤバいじゃん。急いで窓を閉めなきゃ」

「そうね」

 

 立ち上がってから窓を閉めようとした瞬間、一匹の蚊が室内に侵入してきた。

 勿論、その蚊は一番近くにいたサイタマへと向かっていく。

 

「げ! 入ってきやがった!」

「ほらほら。急いで叩かないと、また刺されるわよ」

「自分は大丈夫だからって他人事みたいに言いやがって…!」

「だって他人事だもん」

「あ~…もう! クソがッ!! 大人しく叩かれろよな!!」

 

 残像が見えるレベルの超スピードで小さな侵入者を退治しようと奮闘しているが、見事なまでに全て避けられる。

 流石に可哀想になってきたのか、パチュリーがちょっとしたアドバイスを出す事に。

 

「サイタマ。蚊ってのは手で叩こうとすると、その風圧を利用して逃げるらしいわよ。アンタみたいな超パワーでなんとかしようとしても相手の思う壺。寧ろ、他の人間以上に逃げやすいかもね」

「冗談だろッ!? それじゃあ、どうすりゃいいんだよッ!?」

「それぐらいは自分で考えなさいな。いい頭の運動になるわよ」

「こんな事で勉強なんてしたくねぇ!!」

 

 勉強ではなくて頭の運動なのだが、サイタマにとってはどっちも同じような物なのかもしれない。

 

「あっ!? どっか消えたッ!?」

「ホントね。隙間とかから外に出たのかもしれないわ。この部屋、何気に隙間が多いから」

「にゃろー…なんかもう、アイツをぶっ叩かねぇと俺の気がすまねぇ!!」

「どうする気?」

「とことんまで追い駆けてから、この手で叩き潰す!!」

「あっそ。頑張ってねー」

 

 ついさっき緊急速報で外出自粛を言われたばかりなのに、その事を完全に忘れて外へと飛び出していくサイタマ。

 普通ならば絶対に止めるべき場面なのだが、パチュリーは止めるどころか適当に手を振って見送る始末。

 彼女は知っているのだ。

 もし仮に、今回の蚊の大量発生が何らかの怪人の仕業であったとしても、あのサイタマの前では等しく意味を為さないと。

 だからこそ、パチュリーは安心して彼を送り出す事が出来る。

 

 それから暫くして、空の向こうに存在している漆黒の塊がある付近にて、ここまで届くような爆音が聞こえてきた。

 

「はい。またサイタマ軍曹の撃墜スコア追加ー」

 

 遠くの方で大爆発が起きても、いつも通りなパチュリーであった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「……で、その子は誰?」

 

 ありのままに起きた事だけを話そう。

 友人が蚊を追い駆けて外に出かけたら、なんでか彼が全裸で帰ってきた。

 しかも、その手に下半身と腕がもげたサイボーグっぽい青年を抱えて。

 何を言っているのか分らないとは思うが、パチュリー自身も何がどうしてこうなっているのか全く分からなかった。

 

「行った先で蚊の怪人っぽい奴が暴れててウザかったから、ビンタ一発かましてやった」

「やっぱり怪人の仕業だったのね。…で、裸になってるのは何故?」

「こいつの攻撃の巻き添えを喰らって、こうなっちまった」

「また出費が……洋服代だってタダじゃないのに…」

 

 いつもは何も感じて無さそうにしてはいるが、それでもちゃんと家計のことぐらいは考えている。

 少し前まではバイトもしていたぐらいだ。今は辞めてるけど。

 

「先生! この少女は一体……」

「先生? サイタマってばいつの間に教員免許を取ったのよ?」

「ちげーよ。こいつが勝手に言ってるだけだ」

 

 まだ意識があるサイボーグの青年がサイタマの事を『先生』と呼んだ事にツッコむ。

 彼がスーツを着て教師をしている姿なんて全く想像が出来なかったからだろう。

 

「んー…なんとなく状況が理解出来たかも」

「お? マジか」

「うん。サイタマが蚊を追い駆けて外を走ってると、出先でそこの彼が蚊の怪人と戦ってたんだけど倒されかけていた。で、そこに割り込むような形でサイタマが怪人をいつものようにぶっ飛ばした…って感じ?」

「大正解! もうあれだな。パチェは探偵事務所とか開いた方がいいな」

「残念ながら探偵志望じゃないから断るわ。それよりも、まずは服を着て。幾ら見慣れているとはいえ、ずっとそのまんまなのは普通に嫌」

「それもそうだな。んじゃ、こいつの事を頼んでもいいか?」

「了解よ」

 

 部屋の壁にサイボーグ青年を立て掛けるようにしてから、サイタマは奥の部屋に行った。

 残されたのは彼とパチュリーの二人だけ。

 

「まずはお互いに自己紹介しましょうか。私はパチュリー。図らずもあなたの事を助けてくれた男…サイタマの同居人よ。あなたは?」

「俺は…ジェノスと言います。ご覧の通り、サイボーグです」

「ジェノス君…ね。よし覚えた。で、どうしてサイタマの事を『先生』って呼んでるの?」

「俺がもう自爆するしかない程に追い詰められた怪人を一撃で倒したサイタマ先生の圧倒的な強さに感銘を受けたんです! それで弟子入りを希望しました!」

「あぁ~…『先生』って、そーゆー意味なのね」

 

 教師と言う意味じゃなくて、師匠と言う意味での『先生』。

 あの強さを見て驚くのは理解出来るが、そこから弟子入りしようと思うまでが早過ぎではないか?

 そう思ってしまったが、言ってしまったら彼が傷つきそうなので大人しく飲み込んだ。

 

「それで、ジェノス君はこれからどうする気? そのままだとヤバいでしょ?」

「大丈夫です。確かにこのままでは移動できませんが、連絡ぐらいならなんとか……」

「連絡って、通信機能的なのが内蔵されてるの?」

「はい。サイボーグですから」

 

 その一言で全てを片付けるのはどうかと。

 だが、パチュリーも『魔法使いだから』の一言で片付けているから人の事は言えなかった。

 

「サイボーグって事は、君の体を整備とかしてくれる人がいるのよね?」

「はい。クセーノ博士と仰って、俺にとって大恩人とも言える方です」

「そう…その人の研究所的な施設がある場所って分かる?」

「それは勿論。まさか、俺の事を送ってくれようとしてるのですか…?」

「そうしたいのは山々だけどね。私は見ての通りの貧弱人間で君の事を抱えるなんて不可能なのよ」

「では、どうやって…?」

「これを使います」

 

 テーブルの上に置いてある小箱の中から何かを取り出す。

 それは少し大きめの羽飾りのような形をしていた。

 

「キメラの翼。私が作ったマジックアイテムよ」

「マ…マジックアイテムッ!? それは一体……」

「文字通り、魔法の道具よ。なんたって私は…」

「魔法使いだからな」

 

 いいタイミングで奥から着替え終わったサイタマが戻ってきた。

 だが、それよりも彼が発した一言にジェノスは驚きを隠せない。

 

「先生…今なんと…? パチュリーさんが…魔法使い…?」

「そうだぞ。めっちゃ凄い魔法使いだ」

「魔法使いとは…その…絵本や物語などに出てくる、あの…?」

「大まかな認識はそれで合ってるわ。実際に私が使う魔法は、絵本みたいに夢と希望に溢れてる物じゃないけどね」

 

 魔法使いを自称してはいるパチュリーではあるが、だからと言って自分を凄いとは微塵も思っていない。

 身近にサイタマと言う規格外がいるのだから、そんな風に思ってしまっても無理は無いのだが。

 

「君のように現代の科学の結晶みたいな存在からしたら非現実的だと思われるでしょうけど、魔法は実在するのよ。そもそも、超能力者や怪人が普通にいるのに、魔法使いだけ存在してないってのはおかしいでしょ?」

「確かにそうですが……」

 

 そう簡単には信じられない。

 至極真面な反応だ。

 だからこそ、今からそれを証明しようとしている。

 他ならぬジェノス自身の身で。

 

「その残った片腕はまだ動く?」

「辛うじてですが…」

「それで十分よ。サイタマ、彼を外まで運んで頂戴。キメラの翼は室内じゃ使えないから」

「よしきた」

 

 よっこらしょっと言いながら、サイタマはジェノスの体を軽々と持ち上げてからアパートの外まで運び出した。

 後ろからパチュリーも続いて、アパートの周囲にある花壇の傍にジェノスの体を置いた。

 

「まずは、このキメラの翼を手に持って」

「はい」

 

 彼の近くにしゃがみ込んでから、ジェノスの手にキメラの翼を持たせてあげるパチュリー。

 その際にジェノスの手がピクリと反応したが、そこは気にしない事に。

 

「次に、頭の中で行きたい場所…今回の場合は君の恩人がいる研究所を思い浮かべて」

「……思い浮かべました。次はどうすれば?」

「キメラの翼を空に向かって思い切り放り投げて。それで道具に込められた魔法が発動するはずよ」

「了解しました!」

 

 残った力を振り絞って、ジェノスがキメラの翼を空に向かって投げる。

 すると、翼が急に光り出して彼の体を包み込む。

 

「こ…これは…!? ワープしようとしているっ!?」

「正確には自動高速移動ね。無事に使えたみたいで良かったわ」

「サイタマ先生! パチュリーさん! このお礼は必ず! では!」

 

 光に包まれたまま、ジェノスは空の向こうへと消えていった。

 サイタマはずっと直立不動のままだったが、パチュリーは手を振った。

 

「可愛い弟子が出来て良かったじゃない」

「冗談じゃねーッつーの。俺は弟子なんて取る気はねぇよ。向こうが勝手に言ってるだけだ」

「はいはい。そーゆーことにしておきましょうね」

「いや、人の話聞けよ! 違うっつってんだろ!」

 

 こうしてまた二人だけになったサイタマとパチュリーはいつものやり取りをする。

 だが、二人はまだ知らなかった。

 ジェノスとの縁はこれで終わりではなく、寧ろここから始まっていくのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 




ジェノス登場。

次回から本格的に関わってきます。
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