ところで、ジジイのツンデレって需要あると思います?
『緊急避難警報発令! 緊急避難警報発令! 災害レベルは『竜』! 巨大隕石落下まで残り約21分!! 専門家の話によると、このままではZ市は確実に消滅するとの事!! もはや一刻の猶予もありません!! 可能な限り、少しでも遠くに避難をしてください!!』
放送を通じてヒーロー協会から避難警報が発令されるも、時既に遅し。
街中は逃げ惑う人々と車両で覆い尽くされ、渋滞状態で逃げたくても逃げられない。
「で…でけぇ…滅茶苦茶にでけぇ……」
「もうおしまいだ……」
「死ぬ前に彼女欲しかった……」
人々は絶望し、完全に立ち尽くす。
だが、そんな中でも諦めていない者達もいる。
「そこ! 何をボサっとしているんだ!」
「え…?」
「あれって…S級のタンクトップマスター…?」
「なんでZ市にいるんだ…?」
足取りが遅くなりつつある人々に活を入れつつ避難誘導をしているのはタンクトップマスター。
彼の腕の中には、足が不自由なおばあちゃんが抱かれていた。
「マ…マスター! みんな止まっちまって、全く進みません!」
「あっちも人だかりでエラいことになってます!」
「このままじゃマジでヤバいっすよ!」
舎弟であるタンクトッパーである『タンクトップタイガー』と『タンクトップベジタリアン』『タンクトップブラックホール』の三人が焦燥した顔で報告に来る。
この絶望的な状況だというにも拘らず、ヒーロー達が頑張っている様子を見て人々は涙を止めた。
「隕石落下なんて前代未聞の大災害が目前に迫ってきてるんだ…混乱するのも無理はない。だが! このタンクトップに懸けても俺達は絶対に諦めん!! 最後まで希望を捨てるな!!」
「は…はい! でも…実際問題どうしたら……」
「…ついさっき、Z市支部にいるシルバーファングから連絡が来た。パチュリー君とサイタマ君の二人が、仲間達と一緒に隕石の迎撃に向かったそうだ」
「パ…パチュリーさんが来てるんスかっ!?」
タンクトップタイガーにとっての大恩人であり、今やマスターと同じぐらいに尊敬している人物。
彼女がこの街に来て、人々と街を守る為に立ち上がった。
そんな事を聞かされ、タイガーは強く拳を握りしめた。
「…あの人が諦めてないってんなら…俺も絶対に諦めないっス! 最後の最後まで足掻いてやるぜ!!」
「よく言ったタンクトップタイガー! それでこそタンクトッパーだっ!!」
タイガーの言葉に気合を貰ったのか、他のタンクトッパー達も拳を振り上げながら叫びだす。
そんな彼らに、人々は当然のような疑問を投げかける。
「ど…どうしてだよ……どうして諦めないんだよっ!! アンタ等だって分かってんだろッ!? あんなの、人間の力じゃどうしようも無いって!! もう終わりなんだってっ!! それなのになんでっ!!」
「うるせぇっ!! 俺達だって本当は怖いに決まってんだろうがっ!!」
マスターが何かを言おうとしたのを遮って、タイガーが大声で叫ぶ。
自分で自分を鼓舞したとはいえ、彼の拳はまだ恐怖で震えている。
それでも、彼は決して怯えた表情を見せない。
「今すぐにでも逃げ出してぇよ…小便ちびっちまいそうなぐらいにビビっちまってるよ……でもな!! 今ここで俺たちが逃げちまったら…いざって時、誰がテメェらを守るんだっ!!」
「タンクトップタイガー……」
これまでの彼からは想像も出来ないような感情の吐露。
だが、だからこそその言葉は人々の心に響いた。
「その通りだ、タンクトップタイガー。それに…希望はまだ残されている」
タイガーの肩をポンと叩いてから空を見上げると、そこにはビルとビルの間を飛びながら移動をするパチュリーとサイタマ、ジェノスとこあの姿が。
「パチュリーさん……!」
「恐らく、彼女達は今から隕石の落下予測地点に向かっているのでしょう」
「ったく…スゲェ根性だよ。あいつら」
空を行く四人の姿を見たタイガーが改めて気合を入れ直していると、そこにまた二人のヒーローたちがやって来た。
まだ体の所々に包帯が巻かれているが、その目は誰よりも気合に満ちていた。
「バネヒゲに黄金ボール…お前達も来てくれたか!」
「えぇ。こんな危機を前にして何もしないなど、まさに愚の骨頂ですから」
「あいつ等にはデカい借りもあるからな。少しは返しておかねぇと。それに…」
遠くに消えていく四人を見つめつつ、黄金ボールが笑みを浮かべる。
それは諦めから来る笑いではなく、希望に満ちた笑いだった。
「あいつ等ならどうにかしてくれる…不思議とそんな気がするんだよな……」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
サイタマとジェノスは自慢の脚力でビルとビルの間をジャンプし、パチュリーとこあは普通に空を飛んで隕石の落下地点へと急いでいた。
「ジェノス君! 隕石の落下地点まで、後どれぐらいかかるっ!?」
「もう少しです! それにしても……」
チラッと街の様子を見ると、どこもかしこも混乱に包まれ、一部の者達はもう完全に動きを止めて立ち尽くしている。
「流石に今回は生存を諦めている市民も多いですね…」
「無理も無いですよ…隕石が落ちてくるんですから…」
「そうだな…」
本来ならば、バングの言った通りに逃げた方が無難なのだろう。
だが、何故かそれは間違いだと思った。
それは彼がヒーローだからなのか。
もしくは、命を懸けてでも守りたいと思う相手が出来たからなのか。
「ところでパチェ。作戦はどうするんだ?」
「本当なら、もっと情報を収集して念入りに作戦を考えたかったんだけどね…今は本当にそんな余裕もない。だから、今回はシンプルに行くわ」
目的地が近づいてきた。
空にはもう隕石が肉眼で確認出来るほどに地表に接近している。
もうあまり時間は残されていない。
「アタッカーはサイタマ…アンタよ。必殺『マジシリーズ』を使いなさい」
「お? いいのか?」
「うん。普通の怪人相手とかなら完全にオーバーキルだけど、今回は怪人じゃなくて隕石だから遠慮はいらないわ。全力でぶちかまして!!」
「分かった!!」
必殺マジシリーズ。
聞いたことのない言葉にジェノスが質問をするのは当然の流れだった。
「パチュリーさん。必殺マジシリーズとは一体…」
「簡単に言えば、サイタマの必殺技よ」
「先生の必殺技…!」
全ての攻撃が一撃必殺のサイタマが放つ『必殺技』。
どんな威力なのか想像も出来ない。
「だけど、それを放つにはほんの少しだけ時間が掛かるの。力を溜める時間が必要なのよ。サイタマ、どのぐらい時間いる?」
「10…いや、5秒くれ。それで充分だ」
「了解よ。次にジェノス君」
「はい!」
「サイタマが攻撃の準備をするまでの5秒間…なんとかして隕石の落下を食い止めて。止めるだけでいいわ。無理に壊そうとしなくていい。出来るわよね?」
「任せてください。こんな事もあろうかと、クセーノ博士から焼却砲の威力をアップさせる強化パーツを貰っています」
「最高よ。それを使って5秒間…何としても耐えて。プレッシャーを掛けるようで申し訳ないけど、その5秒間がZ市の命運を分ける時間だと思って」
「サイタマ先生が必殺技の準備をするまでの5秒…絶対になんとかしてみせます!」
ジェノスの決意に満ちた顔を見てパチュリーも安心した様子で頷く。
「そして、最後は私とこあの二人の出番よ」
「私もですか?」
「そうよ。無事にサイタマが隕石を破壊したとしても、今度は砕けた隕石が街中に降り注ぐことになってしまう。街の消滅は防げても、甚大な被害になる事には違いないわ。それでは全く意味が無い。だから、私達の魔法で砕けた隕石を処理する」
「で…でも、私が使える魔法なんてそんなに無いですけど…」
「…こあ。私が少し前に教えた『あれ』は使えるわよね?」
「あ…あれですかっ!? 確かに使えますけど…パチュリー様が放つのに比べて威力は無いですし、私の魔力量じゃ一発撃っただけでヘロヘロになっちゃいますよ…?」
「そこは大丈夫でしょ。ね、ジェノス君?」
「へ?」
なんでそこでジェノスの名前が出てくる?
そう思って彼の方を振り向くと、彼が微笑を浮かべながらサムズアップしていた。
「心配はいらん。俺が全力でお前を受け止めてやる。だから、お前も全力で魔法を撃つんだ」
「ジェノスさん……はい! 分かりました! 出来るだけ頑張ってみます!」
「決まりね。最後におさらいしておくわよ! 落下予測地点に到着と同時にサイタマは力を溜め始めて、ジェノス君は最大火力で隕石の落下を少しでも遅らせる。チャージ完了と同時にサイタマは隕石に突撃してこれを破壊。最後にその無数の破片を私とこあの魔法で全て始末して街への被害を最小限にする。これで行くわよ!」
「おう!」
「「はいっ!」」
「いいお返事ね。ん…ジェノス君。あそこが落下地点?」
「そうですね。では…先に行きます!!」
さっきからずっと手に持っていたアタッシュケースを放り投げると、空中で変形してから二つの腕部強化パーツとなり、加速したジェノスが自分の両腕にそれを装着してからビルの屋上へと着地。
それに続く形でサイタマ、パチュリー、こあの順に着地をした。
「隕石は…もうあんな所にまで来てる!?」
「くっ…こちらの計算よりも早いッ!? パチュリーさん!」
「えぇっ! 遠慮なく、やっちゃってっ!」
「了解で……なにっ!?」
ジェノスが攻撃態勢に入った直後、ここでまさかの乱入者が空からやって来た。
大出力のブースターを吹かし、白銀に輝く鋼鉄の巨体に5つの砲身をもつ機械の騎士。
誰の目にもソレが普通の存在ではない事は理解出来た。
「なんだアイツ? いきなり飛んできたけど…」
「S級7位のヒーロー…ボフォイ。またの名を『メタルナイト』…凄まじい破壊力を持つ数々の兵器で敵を粉砕するヒーローです…」
サイタマの疑問に答える形でジェノスが静かに呟くが、完全に出鼻を挫かれて攻撃のタイミングを逃してしまった。
『…オ前ハ…新人ノジェノスカ。ソレニ、ソコノ小娘ハ…協会本部デモ話題ニナッテイル『魔法使イ』ノ娘カ。他ニモ見ナイ顔ガアルガ…ココニイルトイウコトハ…貴様ラモ、アノ隕石ヲ止メニ来タノカ?』
「それはこっちの台詞よ。ここに来たって事は、あなたも協会の要請に従って隕石をどうにかしに来たって事でいいのかしら?」
『…勘違イヲスルナ。俺ハタダ、開発シタ新兵器ノ実験ヲシニ来タダケニ過ギン。隕石トハ実ニ良イターゲットダ』
「実験だと…? 貴様正気かっ!? そんな事をしている場合ではないという事が分からないのかッ!? あれが落ちて来ればお前も死ぬんだぞっ!?」
『残念ダガ俺ハ死ナンヨ』
「え? どゆこと?」
『今、オ前達ガ話シカケテイルノハ、俺ガ遠隔操作シテイルロボットニ過ギン。俺ハ別ニ命ヲ賭ケテイル訳ジャナインデナ。隕石ナンゾデ死ヌナンゾ御免コウムル』
ここまで言ってメタルナイトことボフォイは考える。
どうして彼女達はここにいるのだろうか。
碌な装備も持たずに、たった四人で本気であの隕石をどうにかする気なのか?
だが、あの少女の顔はそんな楽観的な表情はしていない。
確固たる自信…それがある顔だった。
(ここでこいつらを無視して隕石を攻撃するのは簡単だ。だが、協会幹部の連中が最重要視する程の『魔法』とやらを直に観測できる機会なんてそう滅多にあるもんじゃない。新兵器の実験ならば、適当な怪人相手にまたいつでも出来るが、俺の立場的にもこの小娘と接触できる機会は非常に限られる。ならばここは……)
新兵器の稼働データと魔法の観測データ。
その二つを天秤に掛けた結果、ボフォイは選んだ。
『…オイ、魔法使イノ娘』
「何よ。こっちは今、一刻を争う状況なんですけど?」
『オ前達ニハ何カ作戦ガアルノダナ? アノ隕石ヲ確実ニ破壊ヲスル方法ガ。ソレヲ教エロ。俺モ手伝ッテヤル』
「なんだとっ!? 本当かっ!?」
『別ニオ前達ニ同調シタワケデハナイ。俺モ魔法トヤラニ興味ガアルダケダ』
「…この際、理由はどうでもいいわ。利用できるものは何でも使うわよ!」
『ソノ考エハ嫌イジャナイ』
ボフォイもまた一人の科学者。
どこか同じ部分があったのかもしれない。
「作戦は簡単よ。さっきまではジェノス君一人だけだったけど、今度はそこにメタルナイトも加えて、二人の最大火力で隕石の落下を数秒間だけでいいから食い止めて!」
『ソノ後ハ?』
「ここにいるサイタマが溜めたパワーを全解放した最強の一撃で隕石を木端微塵にする。最後に、割れた破片は私とこあの二人の魔法で街に影響が無いぐらいに小さく砕く。アンタの見たがっている魔法…存分に見せてあげるわよ!」
『…イイダロウ。了解シタ。ソロソロ本気デ時間ガ無クナッテキタヨウダナ。じぇのす、俺ニ合ワセロ!』
「そっちこそな!! いくぞっ!!」
予想外の増援による戦力強化。
隕石破壊作戦…開始っ!!
次回、隕石壊します。