また新しいS級との出会いが待っています。
巨大隕石に関する一連の出来事が何事も無く終了した次の日。
A市にあるヒーロー協会本部にて再び、緊急の幹部会が開かれていた。
いや…正確には『開かれた』というよりは『開かされた』と言うべきか。
「…急に我々を呼び出して、一体何のつもりだ? メタルナイト…いや、ボフォイ博士」
『何のつもりだと? それはこちらの台詞だ』
彼らが座る机の中央に投影型のディスプレイが表示されるが、そこには何も映し出されず『Voice only』とだけ表示され、ボフォイの声だけが会議室に聞こえていた。
『昨日の隕石騒動…お前達もここで一部始終を見ていたのだろう?』
「…一応な」
『ならば、俺が何を言いたいのかも理解している筈だ』
「いや…分からんな」
『誤魔化しが下手だな。いいだろう…ならば言ってやる』
他の幹部は咄嗟に誤魔化したが、シッチだけはボフォイの言いたい事をなんとなく理解していた。
だが、ここはまず彼の話を聞こうと思い、敢えて黙っている。
『あの時、俺も作戦には参加したが…実際に隕石を砕いたのはサイタマとか言うC級のヒーローで、その後の破片処理をやったのは例の魔法使いと、その弟子だ』
「だ…だが、君とジェノスも隕石に攻撃を加えていたではないか。あれである程度のダメージを負わせていたから隕石を砕けたんじゃ…」
『そうであればどれだけ良かったか。俺とジェノスでは、あの隕石に掠り傷一つすら与えられていない。作戦立案者である、あの小娘もそれを最初から承知していたのだろうな。あいつが俺達に求めたのはあくまで『時間稼ぎ』だ』
「え…S級二人を時間稼ぎに利用するなんて…」
「あの少女…見た目に反して、かなり豪胆な性格のようですな…」
S級ヒーローは最後の切り札にして最強の戦力。
それは協会に所属する全ての人間の共通認識だった。
だが、パチュリーにその常識は通用しない。
必要と迫られれば、例えそれがS級だろうがなんだろうが遠慮なく利用し、最善の結果を出す為に奮闘する。
『サイタマの持つS級すらも圧倒する程の力に加え、あの魔法使いの小娘の放った超威力の雷撃…どちらもC級やA級なんぞで腐らせていい存在ではない』
「…お前は何が言いたい?」
『あれ程の逸材を敢えて下級にしている…そこには我々にも話せないような、お前達の思惑があるのではないのか?』
「な…何を言っているのやら…」
『…本当に誤魔化しがなってないな。それなら、俺の予想を話してやろうではないか』
一体何を言われるのか。
シッチを含めた全ての幹部が手に汗を握りながら言葉を待った。
『お前達…あの二人を『ブラスト』の代わりにしようと考えていないか?』
「ブ…ブラストの代わりだとッ!?」
『そうだ。S級ヒーロー1位ブラスト…その正体を知っている者は、そこにいるシッチを含めたごく少数の幹部たちだけ。それ以外の人間には、ブラストがどんな人間なのか、本当に実在しているのかすらも明かされていない。だが、S級1位という看板は、存在しているだけで世の悪に対して絶大な抑止力と成り得る。しかし、奴が実際にヒーローとして活動している姿を目撃している人間は一人もいない。民衆や他のヒーロー達も、ブラストの存在を忘れかけている始末だ。事実上、協会の最高戦力として2位の『アイツ』が名指しされているのがいい証拠だ。だからこそ、あの二人をヒーロー協会の新たな看板にすることを決めた。だが、それを民衆に納得させるにはそれ相応の時間と準備が必要となる。だから、それまでの間は奴等をS級以外の所に所属させてカモフラージュをしている…と言った所か』
ボフォイの予想…それはいい意味で深読みをしてくれた。
だが、全てが勘違いとも言えない。
サイタマの一件に関しては、完全に協会幹部たちも良い意味で誤算だった。
パチュリーに関する事だけは非常に的を射ている。
流石にあの二人をブラストの代わりにしようだなんて事は思いつかなかったが。
「…ボフォイ。それは君の勘違いだ。我々はそんな事を考えてはいない。サイタマ君の実力に関しては、私達だって初めて知ったぐらいなんだ。試験で凄い結果を出したと報告は聞いていたが、まさかあれ程とは……」
『シッチはそうだろうな。だが、他の連中はどうだ?』
「「「「「…………」」」」」
邪な考えが無い…と言われれば嘘にはなる。
というか、逆にボフォイから指摘されて『そんな手もあったか』と思ったぐらいだ。
『…まぁいい。あいつらに関しては、俺が単純に気になったからに過ぎない。それと、いい機会だから言っておく。この俺がヒーロー協会に所属しているのは、この組織が俺の『目的』にとって都合がいいからに過ぎない。俺はお前達を利用し、お前達もまた俺を好きに利用すればいい。ギブアンドテイクという奴だな。この関係性を維持し続ける限りは俺からは何もしない。だが、もしそれが崩れ去った時は……』
「う…うぅぅ…」
『実際、俺が協会内部で信用しているのは、シッチを含めたごく少数の人間だけだ。それが何を意味しているのか…それが理解出来ない程に馬鹿ではないだろう?』
「あぁ…」
ハッキリとは明言していないが、これはボフォイからの明確な脅しだ。
自分の邪魔をする者は誰であろうと容赦はしないと。
『最後に俺から一つ、忠告をしてやろう』
「…なんだ?」
『今回の作戦に参加したあの四人は今や、Z市の英雄となっている』
「そのようだな。彼らは本当によくやってくれた」
『そう思うのであれば、素直に今回の功績を認めてアイツ等の順位を上げておくことを勧める。特にサイタマは、市民たちもどうして奴ほどの男がC級で甘んじているのかと協会の事を疑っているぐらいだ。ここでどうにかしないと、民衆たちは協会内部の事を怪しむかもしれんな』
「…では、サイタマ君は一気に順位を上げると言う事にしよう。他のメンバーも。流石にS級のジェノス君に関しては難しいが…」
『具体的には?』
「C級一ケタぐらいにはあげようかと思っている…」
『ふざけているのか? 奴の戦闘能力は、他のS級連中すらも完全に凌駕している。なのにC級のままだと?』
「分かっている。分かっているが…一気に上げ過ぎると、他のヒーロー達から苦言を呈される可能性が高い」
『今のS級には、嘗てC級やB級で埋もれていた者達も多かったと記憶しているが?』
「あの頃はまだ『S級』という制度が生まれる前だった。昔とは違うんだ。まずは下から順に上がって貰うしかない。彼の実力ならば、すぐに自力でS級まで上がって来るだろう」
『…それもそうだな。今はそれで納得してやる。では、俺は失礼する』
言いたい事だけを言って一方的に通信を切った。
幹部たちはようやく緊張から解放され、背凭れに体を預ける。
「ふぅ…生きた心地がしなかったな…」
「ヒーロー協会の殆どの施設はメタルナイトの手で建設されている。彼の機嫌を損ねて協力を断られるのだけは絶対に避けなくては…」
「全く…S級は誰も彼もが唯我独尊だが…彼もまた例外じゃないという事か…」
冗談交じりに話をする幹部たちを余所に一人だけ、シッチは真剣な顔のまま考え込んでいた。
(ブラストの代わり…か。考えた事も無かったな。だが確かに、あの二人の実力は下手をしたらブラストすらも上回っている可能性がある…。もしも、彼がこれを聞いたら、なんて言うだろうな……)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
隕石落下未遂事件から三日後。
彼らもまたいつもの日常を取り戻していた。
『Z市は、勇気ある五人のヒーロー達によって隕石衝突の絶対的な危機から見事に救われました。本当に奇跡としか言いようがありません。私自身、未だに自分がこうして生きている事が信じられません』
ニュースではまだ隕石の事を報じていて、名前を出してはいないがパチュリー達の事も言っているようだ。
「あの時…何か一つでも欠けていたら、Z市は無事では済まなかったかもしれませんね…」
「かもな。でも、それは『もしも』の話だろ? こうして街は救われた。今はそれでいいじゃねぇか。なぁ、パチェ?」
「そうね。IFの事を考えたくなる気持ちは理解出来るけど、皆にも私達にも日常が戻ってきたんだから、それを噛み締めないと損よ?」
「本当に皆が無事で良かったですよね。パチュリー様、お茶が入りました」
テーブルで本を読んでいるパチュリーの傍に、こあが淹れたお茶を置く。
サイタマは床に寝転がりながら漫画を読み、ジェノスはそんな彼を観察する。
これこそ日常。最も大切で掛け替えのない宝物。
パチュリーの言葉でそれを知り、ジェノスは微笑を浮かべながら『そうですね』と頷いた。
「あ…隕石で思い出したけど、あんだけの事を解決したんだから俺達全員、順位とかも上がってるんじゃないのか?」
「そうですね。試しに調べてみましょう」
机の上からノートパソコンを取ってきて、ジェノスが素早くヒーロー協会のサイトにアクセスし、四人の順位を確認する。
「出ました。えっと…まず、俺はS級17位から16位に上がってますね。メタルナイトもまた7位から6位に上がってますね」
「あいつも手伝ってくれたからな。上がるのは当然か」
「で、ここからが凄いのですが…」
マウスを操作して、まずはB級の順位が表示されている場所へと移動する。
「…こあはB級最下位である101位から、4位にまで上がっています」
「よ…4位ですかッ!? 幾らなんでも上がり過ぎではッ!?」
「いや…俺としては、これでも納得できない程だ。あの時の功績から考えれば、S級とは行かなくとも、一気にA級ぐらいにまでは上がっていても不思議じゃない」
「いやいや…それは流石に上がり過ぎですよ~」
こあ本人よりもジェノスの方が怒りを募らせる。
あの一件で事実上の告白に近い事を言ってから、この二人の仲もまた一気に急接近しているようで、仲良く家事をする微笑ましい光景が当たり前になってきた。
「サイタマ先生もまた、C級342位から5位にまで上がっていますね」
「5位っ!? ごいっ!? ゴイッ!? それってアレだよな…上から五番目って事だよなっ!? こあもだけど、俺も一気に上がり過ぎじゃねぇかッ!? いや…隕石ぶっ壊したんだから、一足飛びに上がっても不思議じゃねぇけど…それでも上がり過ぎだろッ!? 一度に300位以上上がってるじゃねぇかッ!」
いつもはマイペースなサイタマも、この上がり方には驚きが隠せない様子。
誰だって342位から5位にまで上がったら似たような反応をするかもだが。
「いえ…本当ならば最低でもA級、普通に考えればS級にまで昇級しても不思議じゃありません。今回は災害レベル『竜』だったんですから」
「俺としては、例えC級でも5位になっただけでも十分なんだけどな。高校の時もテストじゃ下から数えた方が早いぐらいだったし…」
サイタマの悲しい過去の一部が発覚。
大人になっても勉強は大事であることを思い知らされる。
「最後にパチュリーさんなんですが…」
「今までのパターンからして、私も一気に順位が上がってるのかしら?」
「そうなります。パチュリーさんは……A級20位から、一気に2位にまで上がっています」
「…これまた上がり過ぎじゃない? 数字的には0が一個取れただけなのに…」
「今回こそ、パチュリーさんはS級になったと思ったのですが。作戦立案者はパチュリーさんだったし、現場で実際に指揮をしたのもパチュリーさんでした。最後に隕石の破片をこあと一緒に破壊し街の被害をほぼ0に抑えた功績は、歴史に名を刻んでも不思議じゃないレベルです。それなのにA級2位止まりだなんて…今度こそ協会に抗議を…」
「いや…しなくていいから。気持ちだけで十分だから」
前に試験の時にサイタマの結果に納得できずにジェノスが抗議をしに行こうとして止めた時の彼の気持ちがようやく理解出来た。
真面目過ぎるのも時には考えものだ。
「けど、隕石の落下も災害レベルで呼ばれるんだな。てっきり怪人の出現とかだけに限定していると思ってたぜ」
「通常はそうですね。ですが、今回は数少ない例外なんでしょう。今後の為にもヒーロー協会としても災害レベルを設定しない訳にはいかないし、それ以前に誰もがいきなり自分達の街に隕石が落ちてくるなんて想像もしませんから」
「そりゃそうだ。ま、何が来ても関係ないけどな。だろ、パチェ?」
「そうなのですか、パチュリーさん?」
「どうして私に話を振るのよ…」
ジト目になりながら本を閉じ、傍にあるお茶を一口。
ふぅ…と息を吐きながら、サイタマが言いたかったことを代弁した。
「今の私達はヒーローだものね。ヒーローが逃げたりしたら、一体誰が戦うのよ」
「ヒーローが逃げたら誰が……!」
どこからかノートとペンを取り出したジェノスが、物凄い勢いで何かを書き始めた。
「ど…どうしたんですか?」
「さっきのパチュリーさんの言葉をメモしておこうと思ってな!」
「「うわぁ…」」
こあが驚き、サイタマとパチュリーがドン引きする。
これもまた日常なのかもしれない。
「なんかジェノスは忙しそうだし…俺はちょっと買い出しついでに見廻りに行ってくるよ」
「私も一緒に行くわ。丁度、買いたい本もあったし」
「んな事だろうと思ったよ。本以外の理由でパチェが自主的に外に出る事なんて殆ど無いもんな」
「失敬ね。これからはそんな事は無い…と思うわよ。多分」
「そこはちゃんと『そんな事は無い』って言おうぜ…」
「うっさいわよ。それじゃ、こあ。ジェノス君と一緒に御留守番をよろしくね」
「分かりました。いってらっしゃいませ」
「「いってきます」」
余談だが、街に繰り出した二人は街中から注目を浴び、買い物をする際には申し訳なくなる程に値切って貰ったり、サインを強請られたり、一緒に写真を撮って欲しいと言われたりするなど、まるで芸能人のような扱いを受けてしまい本気で困惑していた。
しかも、八百屋の親父さんには普通に夫婦扱いされてしまった。
二人は即座に全否定をしたが。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
A市市内にある、とある喫茶店。
店内にて一人の『侍』が自分のスマホを見ながら険しい顔をしていた。
「こりゃ…どういうことだ? どうして俺の弟子の順位が下がって、聞いたことも無い奴がA級2位になってやがんだ…?」
眉間に皺をよせ、全身から剣気が溢れそうになるが、急いでそれを押さえ込んだ。
「パチュリー…ね。本当に俺の弟子よりも上なのか、実際に確かめてみねぇとな……」
そんな訳で、あの『お侍さん』との遭遇フラグが立ちました。
しかも、元を辿ればそのフラグを立てたのはメタルナイトという皮肉。
ついでに、弟子の三人共出会うフラグも立ちました。
特にボロス編が初登場予定である彼もまた、タイガーと同じように…?