今回は、あの個性豊かなお弟子さんを持つ彼の登場です。
Z市は今日も平和そのもの。
怪人も怪獣も出現せず、事故も事件も起きていない。
天気も良く晴れ渡り、実にいい散歩日和となっていた。
「お? パチュリーちゃんにこあちゃん。今日も街の見廻りかい?」
「そんな所よ。実際には買い物ついで…だけどね」
「今日の御夕飯の材料を買いに来てるんです」
今日は珍しく、女性陣と男性陣で別れて買い出しに出かけていて、パチュリーとこあは途中で贔屓にしている本屋の主人と出会って話していた。
彼とは彼女達が有名になる前からお知り合いで、パチュリーの為によく怪しい本なんかを裏ルートで取り寄せたりしている。
「成る程ねぇ~。そうだ。実は今朝、うちに面白い本が届いたんだけど…」
「どんな本?」
「『召喚魔法100選』ってタイトルの古書なんだけど…いるかい? 街の英雄であるパチュリーちゃん達になら格安で売ってあげるよ」
「そうね…面白そうだし、貰うわ」
「まいどあり~! いや~…パチュリーちゃんは色んな本を買ってくれるから本当に助かるよ~」
「読書は私の人生の一部だしね。値段は?」
「ちょっと待ってくれ。えっと……」
店の奥から本を持って来て、店主の言い値で本を購入。
A級ヒーロー上位の仲間入りをしている今のパチュリーには潤沢な資金があるので、多少値段が高くても全く問題は無い。
「それじゃ、また来るわね」
「今後とも御贔屓に~」
新しい本を手にしたパチュリーの顔は子供のようにそわそわしていて、一刻も早く帰ってから、ゆっくりと読書に勤しみたい事が丸分りだった。
「これでまた私の貴重なコレクションが増えたわね」
「今じゃ住んでる部屋以外の空き部屋一室が完全に書庫みたいになってますからね~」
「部屋の中には納まりきらなくなってきたんだから仕方ないじゃない」
彼女達が住んでいるのは無人街のアパートなので、当然のように空き部屋は幾らでもある。
パチュリーはその一つを自分専用の書庫として使用しており、中には店を開けるのではないかと思われる程の量の本が所狭しと並べられている。
「さてと。それじゃ見廻り兼買い物を続けましょうか」
「買い物の方が本命ですけどねー」
二人が並んで商店街の中を歩いて行こうとした…その時だった。
「そこのお二人さん。少しいいかな?」
「「ん?」」
どこかで聞いたことがあるような声で後ろから急に話しかけられた。
普通ならば『自分達じゃないだろ』と思うかもしれないが、声はすぐ真後ろから聞こえてきたので、流石に勘違いとは思わなかった。
「やぁ、久し振りだね」
「アナタは……」
「ア…この人って…」
そこに立っていたのは、完全プライベート仕様になっているアマイマスクだった。
変装のつもりなのか、帽子を被り、サングラスを掛けている…が、分かる人間には分かるようで、女子高生たちがヒソヒソと何かを話していた。
「いきなりどうしたのよ?」
「君達とちょっと話をしたくてね。時間は大丈夫かい?」
「問題はないけど…歩きながらでもいいかしら?」
「構わないよ」
と言う訳で、何故かアマイマスクが同行することに。
美少女二人に美青年の組み合わせは、傍から見ていてもインパクト絶大だった。
「そう言えば、今日はジェノス君達は一緒じゃないのかい?」
「あの二人は別の所に行ってるわ」
「いつも一緒にいるイメージが強かったが…意外とそうでもないんだね」
「そうでもないわよ? 今日が珍しいってだけ。ね?」
「言われてみればそうかもですね。買い出しの時はいつも四人で行きますし」
今回、彼女達が分かれて行動している理由は割と単純で、今からパチュリー達が行くスーパーが何故か急にレディースデー制度を始め、特定の曜日のみ女性限定での割引をしている。
収入が安定してきているとはいえ、昔からの節約癖は取れないようだ。
「…そういえば、ニュースを見たよ。大変だったみたいだね」
「そんなレベルじゃないわよ。下手したらZ市丸ごと無くなっていた可能性だってあるんだから」
「だが、君達はそれを守った。隕石落下と言う前代未聞の危機を前にしても決して諦めずに立ち向かい、街と多くの人々を救ってみせた。本当に素晴らしい事だ。全く…他のヒーロー達も、君達の十分の一…いや、百分の一でも頑張ってくれればいいのに…」
ギリギリ…と拳を握りしめて歯を食い縛る。
どうやら、認める人間と認めない人間に対する態度が両極端のようだ。
だからと言って特に何かを言う事は無いが。
「今回の事件解決を切っ掛けに、君達四人は一気に順位を上げた。そこのこあ君もB級の4位にまで駆け上がり、パチュリー君に至っては僕のすぐ下であるA級2位にまで至った。この短期間でここまで上がって来るとは驚異的だ。いや…君達ならば当然なのかな」
「私達は夢中でやってただけなんだけどね」
「だからいいんだよ。寧ろ、ヒーローはそうでなくてはいけない」
今日は妙に熱弁をするアマイマスク。
彼の意外な一面を見て、二人は少しだけ驚いていた。
「…今度、僕は協会幹部にある事を進言しようと思っている」
「ある事?」
「パチュリー君…君をS級に上げるように…とね」
「私をS級に…?」
「そうだ。本来ならば僕もすぐにでもS級になってもいいんだが、それだと半端な実力者もすぐにS級になってしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない。だからこそ、僕が不変のA級1位となってストッパーのような役目をしているんだ。僕が認めたヒーロー以外がS級にならないように」
アマイマスクの戦闘を見た事は無いが、それでも相当な実力者ではあるんだろうとは思っていた。
ここまで言うということは、自分に対して絶対の自信があるのだろう。
「実際にアマイマスクさんが認めてS級になった人って誰がいるんですか?」
「そうだな…具体例を挙げるとするなら…彼だな。S級3位…シルバーファング。武術の達人であり、真の実力者でもある彼は本当に強い。悔しいが、僕でも彼に勝てる自信は余り無い」
「やっぱ、あのおじいちゃん…滅茶苦茶凄かったのね…」
最初見た時から只者じゃないとは思っていたが、どうやら想像以上の大物だったようだ。
「パチュリー君。君のような人間こそS級になるに相応しい。僕は協会に対しても大きな発言力を持っているからね。流石にすぐには無理だろうが、近い内には必ずS級になれると断言しよう」
「お眼鏡に適ったようで何よりだわ」
「協会連中が勝手にS級に認定した連中とは違う。人々を守る為に戦い、悪に対して容赦のない君こそが…っと。ちょっと失礼」
ここで急にアマイマスクのスマホが鳴り出す。
少し離れた場所で通話に出て何かを話している。
「…そうか。分かった。すぐに行くよ」
ピッ…っと切ってから戻ってきた。
彼は申し訳なさそうにしながら謝ってきた。
「申し訳ないが、急な仕事が入ってしまった。もっと話していたいが、今日はここで失礼するよ」
「私達の事は気にしなくていいから、早く行ってあげなさいな」
「ありがとう。この埋め合わせは必ずすると約束しよう」
「はいはい。それじゃあね」
「あぁ。ではまたいつか」
軽い挨拶と共に、アマイマスクはダッシュで走り去った。
流石はA級1位。サイタマやジェノスほどではないが凄い速力だった。
「なんだったんでしょうか…?」
「さぁ?」
世の女性達が羨むような出来事だったにも関わらず、彼女達にはその自覚が全く無いばかりか、どうして自分達に会いに来たのかさえもよく分かっていない様子だった。
「ま…別にいいか。買い物行きましょ」
「はーい」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
同時刻。
Z市にある一団が入ってきた。
「あの…師匠。本当に会いに行くんですか?」
「当たり前だ。俺の弟子がいきなり顔も知らない奴に抜かれたんだぞ? どんな奴なのか俺の目で見極めなくては気が済まん」
(また師匠の悪い癖が出てるわね…)
(自分の目で見たことしか信じない…か。分からなくはないのだがな…)
まるで現代に生きる侍と言った風の装いをしている、腰に刀を差している男と、その後ろを歩いている三人の個性豊かな剣士たち。
S級4位の『アトミック侍』と、その弟子である三剣士。
西洋風の鎧を着ている、少し前まではA級2位だったがパチュリーに抜かれて今はA級3位となっている『イアイアン』。
男性であるにも拘らず長いスカートを履いている現A級4位の『オカマイタチ』。
そして、顎に髭を蓄え険しい顔をしていて和服を着ている現A級5位の『ブシドリル』。
彼らがアトミック侍の弟子であり、A級の最強クラスの一角でもある。
「今度2位になったって子…確か、最近になって噂になってる『魔法使い』の子よね?」
「うむ。これまでにも多くの怪人を倒し、同時に様々なヒーローのサポートなどをして活躍していると聞いている」
「お前ら…パチュリーという奴の事を知っているのか?」
「一応は…。実際に見た事はありませんけど」
まさかの知らないのは自分だけと言う状況。
風の噂などには一切耳を傾けないので仕方がないのだが。
「A級の枠には収まらない程の実力者で、あのタンクトップマスターさんやシルバーファングさんも認めているらしく、この間なんてメタルナイトさんすらも動かしてみせたほどだと聞いてます」
「タンクトップ野郎とシルバーファングだけならず、あの機械野郎すらも認めてるってのか……」
既に自分以外のS級と出会っていて、しかもその全員が彼女の事を認めている。
特にシルバーファングはアトミック侍がその実力を認めている数少ない人物の一人で、その彼と知り合っているという時点で興味が湧いた。
「アトミック師匠は知っておられますか? このZ市に隕石が落ちそうになったって事件を…」
「あぁ…シッチから聞かされた。それがどうかしたのか?」
「その隕石をどうにかしたのが、例の彼女とその仲間達らしいのです。その場にはメタルナイトとシルバーファングも一緒にいて作戦に参加したのだとか」
「でも、シルバーファングはその場で見ているだけだったって言ってたわよね?」
「まぁ…流石に格闘技じゃ隕石は壊せないしな…」
超一流の武道家でも、出来る事と出来ない事がある。
こればかりはどうしようもない。
「実質的にたった五人で隕石を砕き、その破片も全て処理に成功した結果…」
「今のZ市があるって訳か…」
もしも自分がそこにいたならば何が出来ただろうか。
この剣で落ちてくる隕石が斬れるか?
ふとそんな事を考えたが、すぐに今の目的を思い出して考えるのを止めた。
「あら。噂をすれば何とやら」
「ん? アイツは……」
オカマイタチが何かに気が付き視線を前方に向けると、そこにはいつものような好々爺な雰囲気を出しながら歩いているシルバーファングことバングがいた。
何かの買い物か。それとも単なる散歩か。
どちらにしても好都合ではあった。
「よぉ…シルバーファング。久し振りだな」
「アトミック侍か。こうして会うのはいつ以来になるかの?」
「前のS級集会の時だな」
「そうじゃったか。後ろにいる弟子たちも久し振りじゃの」
「「「お久し振りです。シルバーファングさん」」」
自分達の師匠が認めている相手である為、彼らもまた同じようにバングに対して敬意を払うようにしている。
実際、バングの実力は現ヒーローの中でも間違いなく最強レベル。
無双という言葉は彼の為にあるのではないかと思わせるほどだ。
「しかし、お主が弟子たちを引き連れてZ市に来るなんて珍しいの。一体どうした?」
「なぁに…ウチの弟子を抜いてA級2位になった魔法使いの顔を拝んでやろうと思ってな」
「パチュリー君か。確かに、あの子は凄かった。一分一秒を争う極限的状況であるにも拘らず、自分を信じ、仲間を信じ、最後の一瞬まで決して諦める事をしなかった。挙句はあのメタルナイトの心すらも動かしてみせた。久し振りじゃよ…あれ程までに期待を抱いた若者たちは」
「…お前にそこまで言わせるのか」
「あぁ。ワシの見立てじゃ、近いうちに間違いなくS級になるじゃろうて。あの子はそれ程の子じゃ。もう一人、隕石を直接砕いた張本人もいるんじゃが…彼もまた確実にS級へと至るじゃろうな」
最強の武人を以てして絶賛する程の存在。
アトミック侍もまた超一流の剣士。
弟子云々関係なく、純粋な興味が出てきてしまった。
「奴にはどこに行けば会える?」
「さぁの。どこに住んでいるのかなどはワシも知らん。じゃが、彼女達はよく、この商店街で買い物をしていると聞いている。時間帯的にもここらを歩いていてもおかしくはあるまい。運が良ければ会えるかもしれんの」
「運が良ければ…か」
人一人を捜して街中を歩き回るのは効率が悪すぎる。
もしも会えなければ大人しく帰る事も視野に入れなくては。
そう思っていると、バングの目が大きく開かれた。
「…噂をすれば何とやら…か。アトミック侍よ。どうやら向こうから来てくれたようじゃぞ?」
「なに?」
バングが指さした方に振り向くと、そこにはパチュリーとこあが並んで歩いている姿があった。
まだこちらには気が付いてはいないようだが。
「あいつらが……」
「そうじゃ。お主の事じゃから手荒い真似はしないだろうが、それでも余り変な事はしないでくれよ? 彼女達こそがこれからのヒーロー社会を担う若手のホープなんじゃからの」
「それはあいつ等次第だな」
「やれやれ……」
ようやく件の相手に出会えてご満悦のアトミック侍。
そんな事なんて全く知らない二人の少女は、呑気に街中で出会った知り合いに話しかけるのだった。
前半でアマイマスクが再登場しましたが、今後の為にも彼には絶対に出て貰わないといけませんでした。
彼もまた、これから出番が増えていくキャラの一人になる可能性を秘めています。