S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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アトミック侍とパチュリーとの初邂逅。

彼女は現代の侍相手にどんな反応をするのでしょうか。








侍と魔法使い

 商店街を歩いていると、前方に何やら見た事のある顔が。

 個人的にも心を許している人物なので、パチュリーは迷わず近づいて行った。

 

「バングのおじいちゃんじゃない。お久し振り。こんな所でどうしたの?」

「お久し振りです。バングさん」

「おぉ…パチュリーちゃんにこあちゃんか。久し振りじゃの。ワシは散歩といった所じゃ。そっちは買い物かの?」

「まぁね。ところで……」

 

 当然と言えば当然で、パチュリーはバングと話していたと思われる侍風の男と、その後ろに控える個性豊かな面々の方を振り向いた。

 

「この人達はどなたかしら? なんというか…凄く濃いキャラだけど」

「そうそう。この男は……」

「バング。自己紹介ぐらい自分でさせろ」

「そうかの?」

 

 まるで何かを測るかのようにパチュリーの事を数秒間だけ見つめてから、彼は自己紹介をした。

 

「S級4位の『アトミック侍』だ。お前さんの噂を耳にしてな。ちっとばっかし興味が湧いたんで、こうして見に来てみたって訳だ」

「ふーん…。(S級って、私が思ってるよりも暇人の集まりだったりするのかしら?)」

 

 

 パチュリーがこんな感想を抱くのも無理は無く、この短い間に多くのS級と出会っている。

 バングやメタルナイトは緊急事態時であるが故に例外だが、その他の面々には完全にプライベートの時に出会っていた。

 彼女でなくても、似たような事は思ってしまうだろう。

 

「少し前にA級2位になったパチュリーよ。よろしく」

「おぅ」

(ほほぅ…?)

 

 アトミック侍は基本的に『自分が認めた強者』しか認めない。

 その彼は初対面の相手に対して普通に返事をしている。

 噂で聞いているだけとはいえ、隕石落下を阻止したという功績はそれなりに認める材料にはなっているようだ。

 

「え…えっと…B級4位のこあと申します! はじめまして!」

「…………」

「あ…あの…? 私、何か失礼な事でも言っちゃいましたか…?」

 

 顎に手を当てながら髭を撫でるアトミック侍。

 強面の男にいきなり目の前で黙られたら、誰だってオロオロしてしまうだろう。

 

「…俺は強い奴しか認めない。だが、それともう一つ認めない奴がいる。それは『礼儀がなって無い奴』だ」

「礼儀…ですか?」

「そうだ。特に最近の若手のヒーロー共は礼儀がなってねぇ。ランクなんぞに関係なく、歳上には敬意を払うのが当たり前ってもんだ」

 

 ずっと仏頂面だったアトミック侍の顔が急にニカっと笑顔になる。

 

「その点、お嬢ちゃんはちゃんと礼儀がなってやがる。実力はまだまだのようだが、礼儀正しいだけでも十分に認めるに値する。武の基本は礼に始まり礼に終わると言うぐらいだしな。確かにこいつらはバングが言うように将来有望だ。今から楽しみだな」

「そうじゃろう。そうじゃろう」

 

 笑顔を浮かべながら何度も頷いているバングであったが、内心では物凄くホッとしていた。

 

(ふぅ…少しだけ肝が冷えたぞ。こあちゃんの真面目さが功を奏した結果じゃな。アトミック侍ではないが、本当に真面目で良い子じゃしな)

 

 真面目な美少女というのは、王道路線を好んでいる紳士諸君には見事にヒットしたらしく、本人の知らぬ所で実はファンクラブが生まれつつあるとか、ないとか。

 

「おいパチュリー。この嬢ちゃんはお前の弟子か何かなのか?」

「んー…そんな感じかしら。実際に魔法を教えたりもしてるし」

「そうか。ならウチの弟子共も紹介しないといかんな」

「あ…やっぱお弟子さんだったんだ」

 

 格好的な意味で師匠も師匠なら弟子も弟子だと思ったが、それはこの場で言ってはいけないような事だと思ったので、パチュリーは大人しくその言葉を飲み込んだという。

 

「まずは私からね。今はランクが下がっちゃってA級4位になってる『オカマイタチ』よ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしく。(その名の通りにオカマみたいだけど…礼儀正しい人ね。人は見た目じゃ分からないものね)」

 

 パチュリー。オカマイタチへの第一印象は『変だけど真面目な人』になった。

 こあを認めてくれた人物の弟子という時点で信用に値するとは思っているが。

 

「で、こっちが……イアイ?」

「……………」

 

 自己紹介を振られたイアイアンであったが、さっきからずっとパチュリーの事を見つめながら呆然と立ち尽くしている。

 何事かと思っていたら、彼の口から意外な一言が飛び出した。

 

「可憐だ……」

「「は?」」

「へ?」

「ほほぅ…?」

 

 自分の弟子の思わぬ一面を見て、アトミック侍が思わず別の意味で目を見開いた。

 

「イアイあんた…パチュリーちゃんみたいな子が好みだったの?」

「え? ち…違うぞっ!? 俺はただ素直な感想を言っただけであって、色恋などには惑わされないと言うかだな……」

「別に恥ずかしがることじゃねぇだろ。剣士だって人間なんだ。それぐらいの事はあるだろうよ」

「師匠までっ!?」

「それに…人間ってのは守るべきもんが生まれた時、いつも以上の力を発揮するもんだ。一概に色恋を否定するもんじゃない」

「あら意外。師匠から、そんな言葉が飛び出すなんて」

「ふっ…俺だって若い頃は色々とあったもんさ」

 

 アトミック侍の過去…気になるような気がしないでも無い。

 これもまた言葉にはしないが。

 

「それよりも自己紹介」

「あ…えっと…イアイアンです。よろしくお願いします」

「ん。こちらこそよろしく」

 

 互いに手を出して握手を交わす。

 たったそれだけの事でイアイアンの心臓が高鳴った。

 

(何故だろう…この子になら順位を抜かされても不思議と悔しくないな…)

 

 今までずっと剣を極める事だけに人生を注いできた彼にとって、こんな感情を持つのは初めての事。

 これが吉と出るか凶と出るか。それはこれからの彼次第。

 

「最後はこいつ…って、ちょっとドリル?」

「う…う…」

「う? 何よ?」

「美しい……」

「あんたもなの? パチュリーちゃんはモテモテ…いや、違うわね。この視線の先はもしかして……」

「私…ですか?」

 

 ブシドリルが見ていたのは、まさかのこあだった。

 目をパチクリとさせて、自分を指差したまま驚いていた。

 

「まぁ…こあちゃんも美少女だしねぇ…。っていうか、とっとと挨拶しなさいよ」

「う…うむ。A級5位のブシドリルと申します。以後、お見知りおきを…」

「よ…よろしくお願いします?」

 

 完全にガッチガチになっているブシドリル。

 硬派な剣士も美少女の前では形無しだった。

 

「イアイだけじゃなくてドリルもか。別の目的で来たつもりが、面白いもんが見れちまったな」

「『別の目的』って、私を見に来たっていう…?」

「それは単なる名目だ。本当は違う」

「…教えて貰えるのかしら?」

「隠す必要も無いしな。少し前まで、A級2位はこのイアイだった。だが、いつの間にかお前さんが2位になってやがった。それで…」

「自分の弟子を越えた人間がどんな者なのかを見極めに来た…ってこと?」

「そういうこった」

 

 このアトミック侍と言う男。

 確かに堅物で融通が利かなそうではあるが、それ故に信用が出来るかもしれない。

 この手の相手程、自分にだけは絶対に嘘はつかないものだから。

 

「私はS級4位さまのお眼鏡に適ったのかしら?」

「今はまだなんとも言えねぇな。本当はお前の実力とかを見てみたいところなんだが、流石に同じヒーロー相手に安易に剣を抜く訳にもいかねぇしな…」

 

 アトミック侍が本当に残念がっていると、いきなり商店街に悲鳴が響いてきた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 怪人が出やがったぁぁぁぁぁっ!?」

「なにっ!?」

「なんじゃと…?」

「なんですって…?」

 

 怪人と言う単語を聞いた途端、S級二人とパチュリーの目が鋭くなる。

 さっきまでコントをしていた三剣士も腰に下げている件の柄に手を伸ばし臨戦態勢になった。

 

 どこから来る…?

 神経を集中させてから周囲を見渡していると、それは堂々と道を歩いてやって来た。

 

「人間どもよ、よーく聞けっ!! 俺様は犬を愛し、犬に愛され、その愛が限界突破したことで犬のような姿に突然変異をした怪人『ワンウルフ』さまだ!!」

 

 現れたのは、見るからに『ザ・狼男』と言った感じの怪人。

 身の丈自体は巨大で見上げるほどではあるのだが、お腹に書かれた『1』の数字があるせいで微妙に迫力に欠けた。

 

「もしかして、狼男を意味する『ワーウルフ』と1を表す『ワン』を掛けてる…?」

「それと犬の鳴き声とも掛けてるのかもしれねぇな」

「なんちゅーか…緊張感に欠ける怪人じゃのう…」

 

 登場して早々に舐められるワンウルフ。

 この三人相手では仕方がないかもしれないが。

 

「むむ? そこにいるのは…S級のシルバーファングとアトミック侍ッ!?」

「こっちに気が付きやがった」

「別に問題は無いでしょ?」

「当たり前だ」

 

 ワンウルフは大きくジャンプをしてからパチュリー達の目の前に着地。

 その際に軽い地響きが起きたが、ここにいる誰もがこの程度の事ではビビらない。

 

「これはいい! S級ヒーローをこの手で葬ったとなれば、我らの名前も他の怪人たちに知れるというもの!」

「我ら…だと?」

「そうだ! 俺は一人ではない! 来い、弟よ!!」

 

 ワンウルフがそう叫ぶと、隣りの道から店の上を飛び越してもう一匹の狼男型の怪人がやって来た。

 

「俺は『ツーウルフ』! ワンウルフ兄ちゃんと同じく、犬を愛するが故に至高の姿へと変貌した者!」

 

 似たようなのが二匹。

 違いがあるとすれば、お腹に書かれた数字が『1』か『2』だけの違い。

 

「んー…あの毛皮、モフモフしてて気持ちよさそうね…。あれを使ってコートとか作ったら寒い冬とかも安心できそうね」

「そこの小娘っ! よりにもよって我等を毛皮としてしか見ていないとは…万死に値する!!」

「あんまし強い言葉を言わない方が良いわよ。増々、弱く見えるから」

「なんだとッ!?」

「パチュリーの言う通りだ。ただでさえ雑魚の癖に、これ以上の恥の上塗りは止めときな。生き恥を晒すだけだぜ」

「人間風情が……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 激高したワンウルフの鋭い爪がアトミック侍に迫る!

 だが、弟子たちは何も言わず、当のアトミック侍に至っては剣を手に取ろうともしていない。

 

「そんな簡単に『死ね』なんて言うんじゃねぇよ。程度が知れるぜ」

「な…なに…!?」

 

 あろうことか、ワンウルフの爪はアトミック侍がずっと口に咥えていた爪楊枝の先端で防いでいた。

 

「ビ…ビクともしない…だと…!? そんな馬鹿な…!」

「まさかとは思うが、お前のような雑魚相手に俺が本気を出すとでも思ってんのか? 舐めんな。お前なんぞは……」

 

 爪楊枝を軽く横一文字に一閃し、再び口に咥えてから腕を組む。

 

「これで十分だ」

「こ…この俺…が……爪楊枝如きで…倒されるなどと…!」

 

 素人には一閃に見えた一撃であったが、実際には無数の攻撃を一瞬で繰り出していて、ワンウルフの体は粉微塵になってからコンクリートの地面に崩れ落ちた。

 

「こんなんじゃ肩慣らしにもなりやしねぇ。おい、そっちは……」

 

 さっきから何も聞こえないので気になって振り向いた途端、本気でアトミック侍を驚愕させ、三剣士たちも後ずさりをするほどに驚いた。

 

「あら。そっちは終わったの? 流石はS級ね」

「なんじゃこりゃ……」

 

 そこにあったのは、巨大な氷の塊に閉じ込められたツーウルフの姿。

 見たところ、登場した時と体勢が殆ど変わっていない。

 ということは、ほぼ一瞬のうちに氷漬けにされたという事になる。

 

「おい…これはどういうこった? 一体何をした?」

「別に大したことじゃないわよ。氷系の上級魔法の一つである『ブフダイン』を使って凍らせただけ」

「いやはや…ワシの出る幕は無かったの。見事な一撃じゃった。余りにも一瞬過ぎて、こやつ自分の身に何が起きたかさえも把握しておらんじゃろうて」

「カチンコチンになっちゃってますねー。これ、どうするんですか?」

「後でヒーロー協会本部に連絡をして取りに来て貰う。こんなのをいつまでも商店街に置いておけないでしょ?」

 

 自分すらも気付かぬうちに、これ程の氷塊を生み出す。

 それだけでも十分に驚嘆に値するが、アトミック侍が驚いたのは別の部分だった。

 

「おいイアイ…」

「ど…どうしました師匠…?」

「あいつがどうして氷の魔法を使ったのか…分かるか?」

「え? それは……」

「シッチから聞いた話によると、パチュリーは多種多様な属性を自由自在に操る事が出来るらしい。火に風、水や土に雷。毒なんかも使えるらしい。そこでアイツは敢えて氷魔法を使用した。その理由は唯一つ…周囲への被害を最小限に留める為だ」

「そ…そうか…! 他の魔法だったら威力の余波で周囲に被害が出ていたかもしれないが、氷ならばその心配は少なくて済む…!」

「自分の中にある数多くある選択肢の中で、相手に最も有効で、尚且つ周囲に被害を出さずに最大の効果を発揮出来る魔法を一瞬で選んで使う…。とんでもない瞬間判断能力だ。イアイ、カマ、ドリル…お前達に同じような芸当が出来るか?」

 

 不意に尋ねられて、戸惑いながらも三剣士は答えた。

 彼らの前では、怪人が退治されたことで安心した市民たちがパチュリーが生み出した氷塊を見て驚いている。

 

「いえ…難しいと思います。一瞬で倒せる自信ならばありますが、周囲に一切の被害を出さずにと言うのは……」

「そうね…。どんなに気を付けていても、多少は被害が出てしまうものだし…」

「なんと恐ろしい娘か…。例の隕石の破壊に多大な尽力をしたという話も真実味を帯びてくる…!」

 

 最初は心のどこかで疑っていた。

 こんな華奢な少女のどこにA級2位に至るような実力があるのかと。

 だが、その認識は間違いだった。

 A級なんて目じゃない。この少女は間違いなく……。

 

「ふっ…バングの奴が認めるのも頷けるってもんだ。こりゃ確かにA級で収まるような器じゃねぇ…。しかも俺の見立てじゃ、まだ実力を隠してやがるな。この氷の魔法も本来の力の欠片でしかない…そんな気がする」

「師匠……」

 

 あのアトミック侍を一発の魔法で納得させた。

 弟子たちからすれば、それだけでも彼女が凄いと言わざるをえない。

 

「本当なら、何か適当な物を斬らせてから奴の生き様を見てみようと思っていたんだが…その必要はねぇみたいだな。あの魔法を見ただけで一発で理解出来る。あいつは今に至るまでの間に…地獄のような修練と勉学をしてきている。時には文字通り、血反吐を吐くようなことだってあった筈だ。それでも奴は止まる事をしなかった。大した奴だ…」

 

 自分なりの結論を出したアトミック侍は、スマホを取り出して協会本部に電話を掛けようとしたパチュリーに向かって声を掛け、それを止めさせた。

 

「おい、パチュリー」

「ん? どしたの?」

「協会には俺の方から連絡をしておいてやる」

「そう? ありがと。助かるわ」

 

 懐から自分のスマホを出してから協会に電話をかけ、今回起きた事を説明してから輸送用の部隊を出動させるようにした。

 

「…と言う訳だ。頼んだぜ」

『了解しました。お任せください。ご苦労様でした』

「これでよし…と。パチュリー」

「今度は何?」

 

 不思議そうな顔で見上げる彼女に向かい、ハッキリとした口調で一言告げた。

 

S級(ここ)まで上がって来い。お前には、その資格と実力がある」

「最近よく、似たような事を言われてるんだけど…そうね。行ける所まで行ってみるのも…悪くは無いかもね」

「待ってるぜ。その時が来るのをな。協会の方には俺からも言っておいてやる。新しいS級候補が見つかったってな。じゃあ…またな」

 

 来た時とは違い、心から満足したような顔をしてからアトミック侍は弟子たちと一緒に去って行った。

 

 また一人、S級ヒーローと知り合いになったパチュリーであった。

 

 

 

 

 

 




たった一発で納得させたパチュリーが凄いのか。

たった一発で実力を見抜いたアトミック侍が凄いのか。

次回は深海続編に突入します。

これまでに出た色んなキャラを登場させる予定でいます。


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