S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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深海王との決着の仕方はもう頭の中で決まっていたりして。

かなり悩みましたけどね。







海からの侵略者

「へっ…へへへ…! 思ってるよりはやるじゃないか…半魚人ども…!」

 

 J市の一角にて、一人のヒーローが複数の海人族相手に負傷しながらも必死に戦っていた。

 彼の名は『スティンガー』。

 A級11位の槍使いのヒーローである。

 

「この俺の愛槍『タケノコ』も、久々に手応えのある相手と戦えて喜んでやがるぜ…! だ~け~ど~…そろそろマジで終わりにするかな~…!」

 

 口では強がっているが、本当はもう限界が近かった。

 足は震えて、両手も痺れ始めた。

 だが、彼は知っている。

 ピンチの時こそ気を強く持たないといけないと。

 気持ちで負けた時こそが真の敗北なのだ。

 

「ふん…無様に粋がるな人間」

「先程まで貴様を応援していた者、見守っていた者達は全て逃げ去った」

「お前はここで死ぬのだ。我らの手によってな」

「だが、楽には殺さん。我らが同胞を6人も葬った貴様は、存分に苦しませながら殺してやる。逃げて行った人間どもへの見せしめの為にもな」

 

 殺気が膨れ上がる。

 だが、スティンガーは臆さずに残りの敵の数だけを数えていた。

 

「残り…4匹…! 体力的にも攻撃を放てるのは次が最後か…。やれるのか…?」

 

 なんだかんだ言っても、彼とて立派なA級ヒーロー。

 敵の数と自分の状態を冷静に分析し、今の己に出来る最善の一手を考える。

 

「いや…違うな。やれるんじゃなくて…やるんだ! それに、ギャラリーがいなくなったから寧ろ、やり易くなったってもんだぜっ!!」

 

 自慢の槍を頭上で回転させて気合を入れ直す。

 それと同時に海人族の触手が彼に迫るっ!

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 触手と槍の先端が触れる瞬間、槍が超高速で回転して貫通力が大幅にアップする!

 これこそが彼の持つ必殺の一撃っ!

 

「ギガンティック・ドリルスティンガァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 触れた触手を粉々に粉砕し、そのまま胴体ごと貫き破壊する!

 まさか一撃で倒されるとは思っていなかった他の海人族は、思わず驚き一瞬だけ動きが止まってしまう。

 その隙を見逃すような彼ではなかった!

 

「四・連・突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

 残った三匹も断末魔すら上げさせる暇も無く頭部を貫いたッ!!

 三つの巨体は大きな穴を作り、そこから大量の血を出しながら地に伏した。

 

 満身創痍になりながらも着地し、槍で自分の身体を支えて立つのがやっとの状態であるにも関わらず、敵を倒したことで歓喜の声を上げた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…! こいつを四連続で放つ羽目になるとは…! け…けど……」

 

 呼吸を整えながら自分が倒した敵の姿を見て、やっと安心したのか大声を出した。

 

「や…やった…のか…? は…ははは…はははははははっ! やったっ! 俺はやったぞパチュリーちゃん! 見ててくれたかッ!? 俺一人で十匹もの怪人の群れを倒したぞ!! よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが…現実は非情である。

『王』の前では、瀕死の槍兵なんて敵ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのね。あなた不快だから…大人しく死んでて構わないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・

 

 

 

 

 

『緊急避難警報発令っ! 緊急避難警報を発令します! 今回の海人族襲来について災害レベルが『虎』から『鬼』へと変わりました! J市にお住いの方々は速やかにシェルターなどに避難をしてくださいっ! なお、海岸地帯は怪人と遭遇する可能性が非常に高く危険ですので、絶対に近寄らないでください! 繰り返しますっ! 緊急避難警報が発令され…』

 

 雨雲が広がる空の下、パチュリー達一行はJ市へと到着した。

 既に市民は避難を完了したのか、街には人っ子一人いない。

 

「災害レベルが上がったって事は…それだけ事態は深刻になりつつあるって事ね…」

「俺達は遅すぎたのでしょうか…?」

「まだ、そうとは限らないわ。けど、このままじゃ拙いのも事実だし…」

 

 分かっているのは敵の種族名だけ。

 敵の総数。目的。余りにも情報が不足し過ぎている。

 

「問答無用で向こうから攻めてきている以上、あっちの事情なんて考えるだけ無駄ね。ジェノス君」

「はい。なんでしょうか?」

「J市の地図はデータの中にある?」

「勿論です」

 

 指先から簡易式投影型ディスプレイを展開し、J市の地図を映し出した。

 

「おぉ~…便利だな、こりゃ」

「現在地がここですね。この先の道は途中で二股に分かれ、そこから更に複数に分かれています」

「ここはなんですか?」

「恐らくは避難所だろう。J市の大半の市民がここに逃げ込んでいると思われる」

 

 ジェノスの便利な機能にサイタマが感心したが、それに反応している暇は無いので、やむなく無視をして説明をする。

 こあの質問を聞いたことで、パチュリーの顔が険しくなった。

 

「…この避難所が最後の砦ね。ここだけは絶対に死守しないと…」

「パチェ…どうする?」

 

 地図を見て数秒間だけ脳をフル回転させる。

 敵は広範囲に展開し、こっちは少数精鋭。

 ならば、やる事は最初から決まっている。

 

「ここは三つに分かれて行くわよ。その方が効率が良いから」

「三つ…ですか」

「えぇ。まず、サイタマはこの先の道でこっちに行って遊撃をして頂戴。粗方片付いたら避難所まで来て」

「分かった」

「私とこあ、ジェノス君は途中まで一緒に行動して、この分かれ道からジェノス君は一直線に避難所まで向かって専守防衛をしてくれる?」

「パチュリーさん達はどうするんですか?」

「私とこあも避難所に向かうつもりだけど、道すがらに怪我をしているヒーロー達を治療していくわ。回復手段があるのは私達だけだし」

 

 ここからの行動の指針を説明してから、改めて三人の顔を見渡す。

 ジェノスやこあは勿論の事、珍しくサイタマも真剣な顔つきになっている。

 

「ここからはスピード勝負よ。私達二人は少し遅れるかもしれないから、それまでは他のヒーロー達と協力して市民を守りつつ海人族を倒すのよ。いいわね?」

「おう!」

「「はい!」」

 

 力強く頷く三人を見て、パチュリーも強く頷いた。

 雲行きは増々怪しくなり、雷が鳴り始める。

 

「もうすぐ雨が降るわね。嫌な予感が強くなっていく……」

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 四人は分かれ道まで急いで向かい、そこからまずはサイタマが一時離脱をした。

 

「サイタマっ! 頼んだわよ!」

「そっちもな! 避難所でまた会おうぜ!」

 

 圧倒的な脚力を利用して、凄まじい速度で走り去っていった。

 一秒も掛からず小さくなった。

 

「私達も急ぎましょ」

「そうですね。ん…生体反応…? かなり弱っているが……」

「なんですって?」

 

 一体どこに誰が?

 急いで周囲を見渡して捜索すると、こあが遠くを指差して叫んだ。

 

「パ…パチュリーさま! あそこに誰かが倒れています!」

「あれは…まさかっ!?」

 

 倒れている人物の元まで急いで駆け付けると、そこには出血をしながら気絶をしている瀕死のスティンガーがいた。

 付近には海人族の死骸が散乱していることから、彼が一人で倒したものと思われる。

 

「やっぱりスティンガーくん…」

「まさか…奴等と相打ちに?」

「まだ分からないわね…あら?」

 

 パチュリーの頬に雨粒が当たる。

 どうやら本格的に雨が降り出したようだ。

 

「雨の中じゃ彼の体が冷えてしまうわ。まずは近くの屋根のある場所に運びましょ」

「了解しました。俺が運びましょう」

「お願い」

 

 刺激しないように細心の注意を払いながらスティンガーの体を持ち上げ、一番近くにあったビルの玄関先に移動して、静かにその体を降ろした。

 

「ケアルガッ!」

 

 緑に光る癒しの魔法を受け、大きく腫れている顔が徐々に治っていく。

 それに伴い意識も回復したようで、僅かに声を出しながらそっと瞼を開けた。

 

「う…うぅ…俺は一体どうして……」

「気が付いたみたいね」

「パ…パチュリーちゃん…? どうしてここに…」

「私達もヒーロー協会から呼ばれて来たのよ」

「そうだったのか……」

 

 怪我と体力が回復したとはいえ、気力までは回復しない。

 呆然としながら視線の先にある屋根を見つめていた。

 

「あんた…S級のジェノスか。それに、そっちの女の子は確かB級4位の…」

「こあ、と言います。初めまして、スティンガーさん」

「へへ…よろしくな。いつつ…!」

「無理しないの。怪我は治ってるけど、今は安静にしておいた方が良いわ」

「そうみたいだな…。もしかして、パチュリーちゃんが治してくれたのか?」

「えぇ。だって、放っておけないでしょ?」

「パチュリーちゃんには借りを作りっぱなしだな…」

「気にしないの。仲間じゃないの」

 

 笑みを浮かべながら『仲間』と言ってくれたパチュリーを見ながら、スティンガーは『こりゃ、俺じゃなくても普通に惚れるわ』と思った。

 本人は全く知らない事ではあるが、実はヒーロー達の間でパチュリーはかなりの人気を誇っている。

 一部の者達は彼女の事をアイドルのように見ていたりもする始末。

 因みにスティンガーは、純粋に彼女に惚れているタイプである。

 

「ところで何があったの? 貴方ほどの槍使いが倒されるだなんて…そんなにも手強かったの?」

「そ…そうだ…! 君達だけじゃない…他のヒーロー達にも『奴』の事を教えないと…!」

「奴…?」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 スティンガーから、彼を倒した存在について聞かされ、三人は先程以上に顔が険しくなった。

 特にパチュリーは服の袖の中で拳を握りしめて震わせていた。

 

「俺は海人族10体を相手に戦って、なんとか全員倒すことに成功した。そこで不覚にも気が緩んじまったみたいだな。すぐ近くまで来ていたアイツの気配に全く気が付かなかった…」

「それが、お前を倒したという王冠を被った海人族か」

「あぁ。本当に一瞬の事だったんで体全体は見ていないんだが、薄れゆく意識の中で頭に王冠のような物を被っているのだけは確認できた。幾ら激戦の後で大きく消耗していたとはいえ、俺を一撃で倒した。間違いない…アイツこそが海人族のボスだ…!」

 

 悔しそうに唇を噛み締めるスティンガー。

 ここでまだ『悔しい』という感情があるという事は、彼の心は折れていないという証拠になる。

 普段はお調子者ではあるが、やっぱり彼も立派なヒーローだ。

 

「…スティンガーくんはここで休んでて。私達は行かなくちゃ」

「そうだな。だが、気を付けてくれ! 体の大きさこそ他の海人族よりも一回りぐらい小さかったみたいだが、その実力は比べ物にならない!」

「大丈夫よ。私達は絶対に負けないわ。それに……」

 

 前髪で目元を隠した状態で立ち上がり、雨が降る空を見上げながら呟いた。

 

「久し振りにちょ~っと…怒ってるから」

「パチュリーさん…」

「パチュリーさま…」

 

 雨脚が増していく中、パチュリーは迷わず足を踏み出して歩いて行く。

 やる事が増えてしまった。避難している人達を守り、街に侵入してきた海人族を一掃する。

 そして…連中のボスと思われる個体を撃破する。

 それだけだ。それだけの単純な事だ。

 

 パチュリーの背中を追いかけるようにして、ジェノスとこあも一緒に入っていく。

 それを見つめながら、スティンガーは拳を地面に叩きつけて己の弱さを呪った。

 

「惚れてる女の子が戦いに行くって時に…何やってんだよ俺は…! それでも男か…くそっ!」

 

 自身の愛槍『タケノコ』の柄を握り、持ち上げながら自分自身に宣言する。

 それは彼なりの決意。

 

「こんな無様な姿を晒すのは今日で最後だ…! 俺はもう負けねぇ…絶対に!」

 

 皆を守るヒーローとして。一人の男として。

 A級ヒーロー、スティンガーは敗北を糧に更に強くなることを決意したのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回にパチュリーが助けるのは、あのS級ヒーローになります。

それとは別に、今までに交流をした他のS級も登場予定です。




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