S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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今回から、今まで登場してきたヒーロー達が再登場してきます。

それは決してS級だけとは限らないわけで…。








増える被害 集う仲間

 スティンガーを治癒した後に先へと進んでいくと、またもや分かれ道が。

 ここでジェノスとも一旦、別れることになる。

 

「ジェノス君」

「はい。手筈通りに」

「お願いね」

 

 さっきまでの怒りの表情は消え、いつもの通りに戻ったかのように見えたパチュリーではあるが、それは感情をコントロールして表に出さないようにしているだけであって、その心の中にはマグマのような怒りがグツグツと煮え滾っている。

 

「パチュリーさんならば無用の心配かとは思いますが、どうかお気をつけて」

「そっちこそね」

「はい。こあ…無茶だけはするなよ」

「その台詞は、そのままジェノスさんにお返しします」

「ふっ……ではっ!」

 

 近くにあるビルの屋上にまで一気に跳躍をして、そのままビル伝いに移動を開始したジェノス。

 それを見送ってから、彼女達も再び移動を開始した。

 

「気のせいでしょうか…雨が段々と酷くなってきてるような気が…」

「気のせいじゃないわ。予報でも今日の天気は最悪だって言ってたけど…」

 

 ここでパチュリーの頭の中に、ふとある疑問が過った。

 今の状況、余りにも海人族たちに対して都合が良すぎではないかと。

 雨とは即ち水分。海に住んでいる彼らからすれば、常に空から回復薬を注がれているようなものだ。

 逆に、人間が雨に打たれれば体は冷えて体温が下がるし、体力だって大幅に消耗する。

 つまり、敵には有利に働き、味方には不利になる。

 

(まさか…奴らは今日が大雨だと知って、だから侵攻してきた…?)

 

 それならば全てに納得がいく。

 ここ数年、雨が降る事は多くあったが、ここまでの大雨は一度も無かった。

 相手は人類にとって未知の種族。

 何らかの方法で天候を把握していても不思議じゃない。

 

「パチュリーさま。なんか向こうから誰かが走って来るんですけど…」

「え?」

 

 こんな時に一体誰が?

 こちらに避難所はないし、海人族が跋扈している今の状況で一般人が外を歩き回るのは自殺行為に等しい。

 

 走ってきた人物がこっちに気が付いて立ち止まる。

 その顔と格好を見て、二人は驚愕した。

 

「貴様はあの時の女……」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!? パ…パチュリー様ぁッ!? この人…は…裸ですよぉぉぉぉぉぉっ!?」

「あら。あなたは確か…男の娘の関節のパニックくん?」

「何もかもが違うわ!! 音速のソニックだっ!!」

「知ってるわよ。ちょっとした冗談じゃない」

 

 なんでか裸のまま道路を走ってきたソニックに出逢った事でいつもの調子を取り戻した。

 心の中で密かにその事に対して感謝した。

 

「…で、どうして裸なの? もしかして、サイタマに金的されたことで露出趣味にでも目覚めた?」

「そんなわけあるかっ! …そういえば、お前もヒーローだったな?」

「そうだけど…それがどうかした?」

 

 急にシリアスな顔になったソニックに合わせ、パチュリーも真剣モードに。

 彼女だって、彼が意味も無く裸になっているとは思っていない。

 そこには必ず何らかの理由が有る筈だ。

 

「パチュリーとか言ったか…お前は確か、あのサイタマと互角の実力を持っているらしいな」

「互角…かどうかは知らないけど。それがどうかしたの?」

「…お前ならば、あの『深海王』を仕留められるかもしれんな」

「深海王…? まさか君…奴等のボスと交戦したの?」

 

 パチュリーの疑問に答えず、ソニックはそのまま立ち去ろうとする。

 すれ違いざまに、彼は一言こう言い残した。

 

「正義ごっこに興じているような並のヒーロー達では『真の強敵』には絶対に勝てない。だが、お前やサイタマならば、あるいは……」

 

 咄嗟に後ろを振り向くと、もうそこにはソニックの姿は無かった。

 

「あの人…お知り合いですか?」

「簡単に言うと、サイタマの熱烈なストーカーよ」

「えぇぇぇぇっ!?」

「それよりも、敵さんのボスと交戦をしたソニック君が向こうから来たって事は……」

 

 その『深海王』とやらは、避難所のある方へと真っ直ぐに向かった事になる。

 単なる気紛れか。それとも最初からそれが狙いか。

 

「ちょっと急がないといけないかもね…」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 道路を進んでいくと、四車線の広いビル街へと出た。

 ここにも海人族が起こしたと思われる破壊の跡が見受けられ、幾つかの建物が崩れている。

 そこに、なにやら見覚えのあるような人影が幾つもあった。

 

「あの姿は…まさか?」

 

 急いで駆け寄ってみると、予想通りの人物達がそこにいた。

 

「おい! 大丈夫かッ!? しっかりしろっ!」

「完全に気を失ってる…!」

「A級ヒーローを此処まで叩きのめすなんて…どんな化け物が来てるんだよ…!」

 

 地面に痛々しく倒れているヒーローに寄り添って意識確認をしている三人のタンクトッパー。

 パチュリーは彼らの事を良く知っていた。

 

「もしかして、タンクトップタイガーにタンクトップブラックホール…それから、タンクトップベジタリアン?」

「パ…パチュリーさんっ!? A級最上位ヒーローのパチュリーさんがここに来てるって事はまさか…」

「他のヒーロー達と同じように呼ばれたんだな…」

「こいつは心強いぜ!」

 

 今ではもう完全にタンクトッパー達と知り合いになっているパチュリー。

 彼女自身も、まさかこんなに知り合いが出来るとは思ってもみなかった。

 

「あ…そうだ! パチュリーさん! 急いで魔法の力でこいつを治癒してやってくれ!」

「こいつ…? あ…」

 

 そこに倒れていたのはA級20位の『イナズマックス』だった。

 彼もまた知らない間柄ではなく、スティンガーと同じように何回か一緒に仕事をしたことがある。

 

「イナズマックス君…。ここに倒れているって事は、恐らく『深海王』に倒されたのね…」

「深海王…? なんスかそれ…」

「海人族のボスらしいわ。他の連中とは一線を画す実力を持っているとスティンガー君が言ってたの」

「スティンガーって…あのA級11位のスティンガーッ!? あいつまでやられたのかっ!?」

「みたい。ここに来る途中で治療してきたわ」

 

 他の海人族はそこまでの脅威ではないが、問題は深海王。

 完全な無双状態になっている奴を止められるヒーローとなると、かなり限定されてくるだろう。

 

「ところで、タンクトップマスターは? 君達がいるんなら一緒にいるんでしょ?」

「マスターなら、あそこにいます」

 

 タイガーが指さした場所には、これまた地面に倒れている誰かを抱きかかえて呼びかけているタンクトップマスターの姿が。

 

「…私は向こうを見てくるわ。こあはイナズマックス君を診ててくれる?」

「分かりました!」

 

 急いで立ち上がってマスターの所まで急ぐ。

 因みに、代わりに傍に座り込んだこあを見て、彼女と同じB級のタンクトップブラックホールが顔を赤くしていた。

 

「ビ…B級ヒーローのアイドル的存在のこあちゃんが、こんなにも近くに…! 勇気を振り絞って現場に出てきて本当に良かった…!」

 

 どうやら、彼はこあのファンのようだ。

 タンクトッパーも別の意味で一枚岩ではないようだ。

 

「タンクトップマスター!」

「パチュリー君ッ!? 矢張り、君も来ていたのか!」

 

 彼女の姿を見て表情を明るくするマスター。

 そんな彼の傍には、何故か全裸でマッチョな男が白目を剥いて倒れていた。

 

「彼は?」

「S級17位の『ぷりぷりプリズナー』だ」

「彼もS級なのね……」

 

 本当に自分はS級と縁がある。

 こっちは別に積極的に知り合いになろうとはしていないのに。

 

「まさかコイツが倒されるとはな…。正直、信じられんよ。最下位になっているとはいえ、プリズナーも立派なS級だ。それがこうも簡単に…」

「…どうやら『深海王』ってのは、こっちの想像以上の実力を持ってるみたいね…」

 

 別に自信が無くなってきた訳じゃない。

 倒そうと思えば確実に倒せる。

 問題は、自分が奴と遭遇するまでの間にどれだけの被害が出てしまうかだ。

 

「随分と酷くやられてるわね…。まるで、至近距離で強力な連打でも受けたみたいに……」

「治せるか?」

「それは違うわ、タンクトップマスター。絶対に治すのよ。こあ!」

「はい! なんですかっ!?」

「彼らに頼んで、イナズマックス君をこっちに運んできて! 二人一緒に治療した方が手っ取り早いわ!」

「分かりましたー! ってことで、お願いできますか?」

「「「合点承知!!」」」

 

 美少女二人からの頼みとあれば喜んで。

 それがタンクトッパー。

 

 あまり刺激をしないように注意をしながら、三人のタンクトッパーによってイナズマックスが運ばれて来て、そのままぷりぷりプリズナーと並ぶように置かれた。

 

「わわわ…なんかまた凄い格好の人がいますねぇ……」

「彼もS級なんだそうよ」

「…一言にS級って言っても、色んな人がいるんですねぇ…」

(一概に否定は出来んな……)

 

 現在のS級ヒーローのメンツを知っている彼だから言える事。

 確かに彼らは誰も彼もが個性の塊だ。

 

 因みに、二人目ともなると少しは耐性が付いたようで、さっきみたいに大袈裟に騒いだりはしない。

 そんな事が気にならなくなるぐらいの迫力があったから。 

 

「二人ともかなりの重傷よ。だから、二人で『アレ』を唱えて一気に回復させるわよ。いいわね?」

「アレですね。了解です!」

 

 横たわる二人の間に入り、パチュリーとこあが手を繋いで精神を集中させ、詠唱を開始する。

 

「「響け。壮麗たる天使の歌声」」

 

 少女達を中心にして青く優しい光の円が展開され、そこから癒しの魔力が噴出する。

 それは、全てを包み込む慈悲深き歌声。

 

「「リザレクション!」」

 

 光の中にいた事で、二人のヒーローの体の傷は見る見るうちに塞がっていき、顔色もよくなってくる。

 僅か数秒で彼らの体は全快に近い状態へとなった。

 

「す…スゲェ…! これが魔法かよ…!」

「やっぱ、パチュリーさんは最高だぜ…!」

「直に見ても信じられない光景だな…」

 

 タイガー以外はまだ魔法を見慣れていないので、純粋に驚きを隠しきれない。

 そんな彼らを余所に、倒れていた二人が僅かな呻き声と共に目を覚ました。

 

「「う…うぅ…」」

「目が覚めたか……よかった」

 

 仲間の意識が回復したことに心からの安堵をするタンクトップマスター。

 これで『もしも』の事なんてあったら目覚めが悪すぎる。

 

「タンクトップマスターに…そこの女の子たちは……」

「A級2位のパチュリーと、こっちはB級4位のこあ。初めまして」

「は…初めまして」

「彼女達がお前らを治してくれたんだ」

「その名前…そうか。あなたが噂に聞く魔法使いの女の子か。ありがとう。お蔭で助かったよ」

 

 見た目は完全に変態なのに、言動が物凄く真面すぎる。

 これが俗に言う『変態紳士』と呼ばれる存在なのだろうか。

 

「そうだ。俺だけじゃなくて、他の子達も…」

「大丈夫。そこに倒れていたイナズマックス君も一緒に治療したし、ここに来る前にスティンガー君も治してきたわ」

「凄いな…なんて手際が良いんだ」

「それほどでも」

 

 まだイナズマックスは横になっているが、ぷりぷりプリズナーは気力もかなり回復したようで、ゆっくりとではあるが半身を起こした。

 

「プリズナー…お前ほどのヒーローが一体誰にやられた?」

「深海王と名乗る海人族たちの王だ。凄まじいパワーとタフネスを誇っていた…。一撃一撃が重く、この俺の攻撃が殆ど通用しない程に…」

「どんな化け物よ……」

 

 これ程の筋肉を持つ相手の攻撃をものともしないとは。

 いや…余裕で耐えそうな人物をよーく知っているが。

 

「そういえば、君達が来ているという事は、サイタマ君も来ているのか?」

「えぇ。あいつは町を回って遊撃をしながら避難所に向かうように言ってあるわ」

「そうか。彼ならば安心だが……」

 

 タンクトップマスターはサイタマの実力を正しく評価しているヒーローの一人。

 サイタマの強さには全幅の信頼を置いていた。

 

「ぷりぷりプリズナー。一つ聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」

「その深海王ってのは、頭に王冠を被ってた?」

「そうだな…被っていたと思う。それがどうかしたのか?」

「やっぱり…そいつがスティンガー君をやった張本人ね」

 

 これで敵の首領が明らかとなった。

 頭さえ潰せば、後はどうにでもなるが、その頭の実力が桁違いなのが厄介極まりない。

 

「それじゃ、私達も避難所に急がなくちゃ。多分だけど、深海王は避難所の方に向かってるわ。丁度、この先にあるから」

「なんだとっ!?」

 

 S級すらも倒すような怪人が避難所に足を進める。

 間違いなく絶体絶命的状況だ。

 それだけは何としても防がなければいけない。

 

「あなた達はどうする?」

「悔しいが、今すぐには動けそうにない。だが、少し休んで動けるようになったらすぐにでも俺も避難所へと向かおう! この瞬間も怯えている男子達を絶対に守らなくてはっ!」

「流石に、怪我人をこのまま置いていく訳にはいかないからな。プリズナーが回復するまで一緒にいる。後で俺も必ず向かう。それまで頼んだぞ!」

 

 マスターの言葉に自信を持って頷く。

 すると、後ろから弱々しくも決意に満ちた声が聞こえてきた。

 

「お…俺も後で行くぜ…パチュリーちゃん…!」

「イナズマックス君…目が覚めたの?」

「君のお蔭でな…。派手にやられちまったよ……」

「相手が相手ですもの。無理もないわ」

 

 慰めにはならないとは思うが、それでも言わずにはいられなかった。

 同じヒーローとして。仲間として。

 

「タンクトッパーの君達はこれからどうするの?」

「俺達は怪我をしているヒーロー達を見つけてから、安全な場所まで運ぼうと思ってます!」

「悔しいけど、俺達じゃ戦力になりそうにないしな…」

「ならせめて、自分に出来る事をしようって皆で話し合ったんだ。今頃、他のタンクトッパー達も頑張ってる筈だ」

「そんなに自分を卑下しなくてもいいわよ。自分の弱さを認めて行動できるってのは普通に凄い事だと思うわよ? 皆の事…頼むわよ?」

「「「はい!」」」

 

 もう完全にパチュリーの舎弟みたいになっているが誰もツッコまない。

 

「パチュリーちゃん……負けるなよ…!」

「当然。…待ってるからね」

「「「おう!」」」

 

 自分達はまだ負けたわけじゃない。

 倒れても立ち向かう意思を持ち続けているヒーローは沢山いる。

 勝負はここからだと気を引き締めてから、パチュリーとこあは避難所へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回はちょっとパチュリーの出番が少ないかも。

半ばオリジナルな話になるかもですから。


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