果たして、深海王と何処までやり合えるのか?
J市中心部にある緊急避難用のシェルター。
ミサイルの直撃にも余裕で耐えると言われているこの場所が臨時の避難所となっているのだが、ここは今…絶望に支配されていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
スティンガー、イナズマックス、そしてぷりぷりプリズナーを倒した深海王は、その足で真っ直ぐに避難所まで移動していて、あろうことか素手で分厚いシェルターの壁を破壊し、不気味な笑みを浮かべながら侵入してきた。
そこに偶然にも避難所に訪れていた数人のヒーロー達が恐怖に耐えながらも深海王の前に立ちはだかり、彼に戦いを挑んだのだが……。
「く…そぉ…!」
まずはB級ヒーローの『ジェットナイスガイ』が深海王の手刀にて破壊され、遠くに投げ飛ばされる。
「ジェ…ジェットナイスガイがやられちまったっ!?」
「騒ぐなっ! アイツはサイボーグだ。死んではいないだろう」
早くも仲間が倒されたことで激しく狼狽えるC級ヒーローの『ブンブンマン』だったが、そんな彼を一喝して落ち着かせるA級のスネック。
彼も内心はかなりビビってはいたが、それでも頑張って自分を奮い立たせて構えを解かない。
「下手に先走ってしまったから、ああなったんだ。いいか二人とも…俺が合図をしたら同時に飛び込め。いくぞ」
「お…おう!」
「任せてくれ!」
ブンブンマンと同じC級のオールバックマンが冷や汗を掻きながらも頷く。
それを見てから、スネックがカウントを開始する。
「1…2…」
すり足で僅かに間合いを詰める。
「さ……え?」
3…と言おうとした瞬間、左右にいたブンブンマンとオールバックマンがぶっ飛ばされる。
突然すぎて一瞬だけ呆然となるスネック。
幸いなのは、流石の深海王も三か所同時に攻撃が出来なかった事か。
(こ…今度は俺かっ!?)
まさに怪物といった形相で極太の腕を振り下ろす!!
だが、来ることが分かっていたお蔭か、最初の一撃だけは辛うじてジャンプで回避することに成功した。
(よ…よし! 俺ならば避けられる! これで少しは時間を稼いで…)
一撃だけで攻撃を終わらせてくれるほど深海王は甘くない。
すぐに空中にいる彼に向かって追撃の一撃が迫る!
「馬鹿ね…よりにもよって空中に逃げるだなんて。当ててくださいって言ってるようなものだわ」
「くっ…!」
空中故に思うように身動きが出来ないスネックは、そのまま深海王の拳の直撃を胴体に受けてしまった!
だがしかし、そこは最下位とはいえA級。
反射的に両腕を交差させた『クロスアームブロック』にて防御をする。
深海王の暴力的なまでの攻撃力の前では紙の盾に等しかったが。
「が…あぁぁぁ……!」
ド派手に吹き飛ばされたスネックは、そのまま壁まで到達して激突、落下した。
立ち上がったヒーロー達が悉く倒された現実に、市民たちは絶望のあまり黙ってしまった。
「な~にを急に黙りこくっちゃってんの? ここは派手に悲鳴を上げるシーンでしょうが」
首をコキコキと鳴らしながら迫りくる深海の魔王を前に、もう誰も成す術が無い。
自分達の運命はここまでか。そう誰もが思った時……一つの人影が壁に開いた穴から侵入してきた。
「どうやらギリギリのところで間に合ったようだな」
それは、今の彼らにとって最大の希望。
「お前が海人族のボスの『深海王』とやらか」
「だとしたら、どうするのかしら?」
「決まっている」
彼は着地をしながら静かに、力強く断言した。
「排除する」
S級ヒーロー、ジェノス参戦。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
目の前に対峙する巨体を睨み付けながら、ジェノスは嘗てパチュリーから教えて貰った事を思い出す。
『いい、ジェノス君? 敵と戦う時に最も重要な事は弱点を狙う事よ』
『弱点…ですか?』
『そう。一言に弱点と言っても色々と存在してるんだけど、今日は一番分かり易くて最も有効な『属性』について教えてあげる』
『よろしくお願いします』
『これは敵の特徴などを観察してから、相手の属性を分析して、それと相反する属性の攻撃をぶつけるというものなの。例えば、前にここに襲撃をしてきた昆虫型の怪人とかには火属性の攻撃が有効だし、火を使う相手には逆に水属性が有効となる。この弱点属性攻撃をすることを習慣づけるようにしておくだけでも、戦闘時に相当に有利になる筈よ』
どんなに強大な強さを誇る敵であっても、弱点を突ければ十分に勝機はある。
今回こそがまさにそのケースと言えるだろう。
(海から来たという事は、間違いなく奴の属性は『水』! 水属性に最も有効な属性…それは!)
瞬時に敵の弱点属性を分析し、己の中にある武装で最も有効な物を選び出す。
それが搭載されていた事は本当に幸運だった。
いつも感謝しているが、今回はいつも以上にクセーノ博士に感謝しなくては。
「はぁぁぁぁぁぁ…! 雷光核…発動ッ!!」
「ん~?」
胸部にあるエネルギーコアから凄まじいまでの光を放ち、全身に電撃を纏う。
爪先から頭頂部までバチバチと音を立てて紫電が迸る。
「どういう理屈からか知らないけど…私達『海人族』にとっての数少ない弱点である『雷』を身に纏うだなんて…面白いじゃない。あの筋肉ダルマも相当な上物だったけど、アナタはそれ以上だわ。どんな悲鳴を上げながら死ぬのか今から楽しみね」
「言いたい事はそれだけか」
「なんですっ……」
そこから先の言葉は紡げなかった。
何故なら、ジェノスの電撃を纏った拳の一撃を顔面にまともに喰らったから。
「ハイボルテージ・フィスト!!!」
「ぶおっ!?」
顔を歪ませながら吹き飛び、壁だけでなく、その先にある無数のビルすらも貫通していった。
「しまった…」
吹き飛ばし過ぎた。
ここでジェノスは、避難所に到着する前にパチュリーから電話で聞いた情報を思い出す。
『よく聞いてジェノス君。奴らは、この雨で身体機能が活性化して地上にいながら海にいる時とほぼ同等のスペックを発揮していると考えた方が良いわ。だから、もしも深海王と戦う時は絶対に雨が遮られる屋内にするのよ! 雨の中では常時回復&強化状態にあると思っておいて!』
雨で奴らがパワーアップする可能性はジェノスも薄々考えていた事だった。
だが、自分よりも遥かに聡明なパチュリーからも同じ可能性を示唆されたことで、自分の予想が確信に変わった。
(A級二人にS級一人を倒した相手がこの程度で終わるとは考えにくい。一発殴っただけでも分かる。奴の防御力は相当だ。屋内でもあのレベルだったのに、雨の中で戦うようになれば勝ち目が薄くなる! ならば…!)
吹き飛んだ深海王はまだ戻ってこない。
今のうちにやるべき事をしなくては。
「お前達っ! 奴が戻って来る前に一刻も早くこの場から逃げろ!!」
「で…でも、今のであいつは倒したんじゃ…」
「いや…奴はまだ生きている! あの程度では掠り傷ぐらいにしかなっていない!」
市民たちはジェノスの圧倒的パワーを目にして安心しきっていたが、その安心はすぐに打ち破られる。
「よく分かってるじゃないの…おりこうさんね」
「あ…あぁぁぁぁぁっ!?」
「う…嘘だろ…!?」
顔面に深い傷を負ってはいるが、まるで何事も無かったかのような様子で開いた穴から戻ってきた深海王。
弱点属性で攻撃されたせいか、流石に傷の修復は若干ではあるが遅延しているようだ。
「俺が奴の相手をしている内に早く逃げろ!! 行けっ!!」
「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「に…逃げ……」
ジェノスが言った事が現実となった事で、ようやく状況を本当に飲み込めた市民たちは一斉に逃げ始める。
もう形振り構っている暇はない。生き延びる為に走らなくては。
無論、それを黙って見過ごすような深海王ではない。
「逃がすわけが…ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
憤怒の形相で市民たちに襲い掛かろうとした深海王ではあったが、それを真っ向から阻むようにジェノスが全速力で飛び掛かるっ!!
「ハイボルテージ・マシンガンブロー!!!」
「うばしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
逃げ惑う市民を余所に、両者の激しい攻撃が繰り広げられる!!
防御なんて考えないっ! ただ只管に殴るのみ!!
「あははははははははははっ! この私を相手にここまで粘った相手はアナタが初めてよっ! 褒めてあげるわっ!!」
「ならば、大人しくやられろっ!!」
全身に電撃を纏っている今の状況は、謂わば『攻防一体』。
自分の拳や蹴りで大ダメージを与えつつ、敵がこちらに直接攻撃を仕掛ければ、体に触れた途端に電撃を浴びてダメージを受ける。
これは対海人族に対して非常に有効な戦術であった。
だが、深海王は決して怯まない。
まるで、多少のダメージなど構わないと言っているかのように。
「ハイボルテージ・ロケットスタンプッ!!!」
「甘いのよぉぉぉぉぉぉっ!!」
高く跳び上がってからのジェット噴射を用いた電撃を纏った踏み潰し攻撃を繰り出すが、それに合わせるかのようにクロスカウンターを放つ!!
ジェノスの蹴りが深海王の顔面に直撃し、深海王の拳がジェノスの顔面に直撃する!!
「「ぐっ…!」」
これは流石に両者揃ってダメージが入ったようで、深海王が初めて苦痛で顔を歪ませた。
このまま行けば、なんとかなるかもしれない。
そう思った時、そんなジェノスの戦いを見ていた一人の女の子が父親に手を引かれながら必死に叫んだ!
「ヒーローのお兄ちゃん! 頑張れ―――っ!!」
「うっさいのよっ! クソガキがっ!!」
少女の必死の叫びが癇に障ったのか、深海王は急に頬を膨らませてから、口から何かを発射しようとした。
それを見た瞬間、ジェノスの体は勝手に動いた。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
今までとは比べ物にならない程の速度で深海王の懐に飛び込み、その顎に向かって強烈な一撃をお見舞いするっ!!
「ハイボルテージ・ドライブアローッ!!!」
脚部にある推進器によって増幅された電撃の蹴りを喰らい、本来ならば少女に向かう筈の溶解液が真上に飛び出し、重力のままに真下に落ちてきた。
「あ…やば」
溶解液は深海王の顔面にかかり、彼の顔を溶かす…事は無かった。
「やるじゃない…今の蹴りは効いたわ」
「溶けないのか…!」
「当たり前じゃない。この私が、自分で吐き出した溶解液で溶けるような間抜けに見えるのかしら? そして……」
ガシっとジェノスの足を掴み、妖しい笑みを浮かべる。
「やっと…捕まえた」
「しまっ…!」
「ふんっ!!!」
ジャイアントスイングのようにジェノスの体を何度もぶん回し、壁に向かって放り投げるッ!!
それで潰れるような事は無いが、壁を砕いてジェノスは雨降る外へと放り出されてしまった!
「これで…本気になれるわね」
「外に…出してしまったか…!」
雨を全身に浴びた事で、深海王の姿が更に異形に変化する。
最早それは『王』ではない。ただの化け物だった。
「さぁ…続きを始めましょ?」
今回は回想のセリフだけになってしまったパチュリー。
でも、次回はちゃんと登場します…多分。
個人的にはジェノスの戦闘を思い切り書けて満足です。
勿論、無免ライダーも登場します。あの名台詞と共に。