雨を浴びて強化された深海王相手に、ジェノスはどこまで戦えるのか?
そして、無免ライダーは…?
雨降る空の下、ジェノスと深海王の戦いは終焉に近づきつつあった。
「ほらほら…そんなんじゃ何も守れないわよ?」
「黙れっ! ぐあぁっ!?」
先程までほぼ互角だった戦い。
それが今は完全に劣勢に追い込まれていた。
(攻撃力…防御力…そしてスピード…その全てが大幅に強化されている…! いや…違う…! 水分を吸収する事で本来の能力に戻っているのか…! だとすれば、今までの奴は本調子ではなかったという事になるのか…!)
最早、こちらの攻撃をガードする事すらもしない。
何故ならば、簡単に避けられるから。
「ハイボルテージ……!」
「遅い」
全速力で放った拳を簡単に回避されたばかりか、それを横から掴まれた。
もう纏っている電撃によるカウンター攻撃すらも通用しなくなっている。
「さっきまでの状態の私だったならば十分に通用したかもしれないけど……」
腕を掴まれたまま、ジェノスは側頭部を裏拳で殴られて激しく吹き飛ぶ。
何度も地面にバウンドをして、ようやく止まった。
「今の私には全く通用しないのよね」
「ぐ…うぅぅ…!」
殴り飛ばされた時の衝撃で、掴まれていた右腕が肩から引き千切れていた。
それでもまだ立ち上がろうとするが、全身に蓄積したダメージにより思うように動けない。
「それでもまぁ…アナタは他の連中よりはかなり健闘した方だとは思うわよ? まさか、体内の水分を消費して僅かながら弱体化をしていたとはいえ、この私と互角に戦えるような奴が『今の地上』にいるとは思わなかったもの。でも、それももう…おしまい」
ゆっくりと倒れているジェノスに近づいていき、彼を見下ろすようにしながら深海王は死刑宣告をした。
「死ね」
ここまでか。
誰もがそう思った時、深海王の背後から何者かが自転車をぶつけてきた。
当然だが、それは何のダメージにもなっていない。
「ジャスティス…クラァァァァァッシュッ!!」
「…誰かしら? 良いシーンで無粋な真似をするのは」
血管を浮かび上がらせながら背後を睨み付けると、そこには一人のヒーローが立っていた。
「あなたは……」
「正義の自転車乗り! 無免ライダー参上っ!!」
新たなヒーローの登場に深海王は何の興味も示さず、ジェノスはよろめきながら彼の顔を確認する。
(あ…あれは確か…C級1位の…!)
「よせ…! お前では…無理だ…!」
ジェノスの言う通り、この場にいる誰もが同じことを思っていた。
S級やA級を難なく倒せるような奴を相手に勝てる筈がない。
無免ライダーではあいつには勝てない…と。
「いくぞっ!!」
「はぁ…いい加減に飽き飽きなのよね」
「ジャスティス・パーンチッ!!」
無免ライダーが繰り出した渾身の拳も、深海王には簡単に防がれる。
彼の拳を包み込む程の手に掴まれ、そのまま振り回されて地面に叩きつけられた。
「弱い相手と……」
「ぐはぁっ!?」
更にもう一度、振り回してから反対方向に叩きつける。
「遊ぶのは」
「ぶふぉっ!?」
最後に、ゴミでもポイ捨てするかのように後ろに放り投げ、再びジェノスの事を見下ろす。
「あー…私としたことが。なんか、ごめんなさいね? トドメを刺すのが遅れちゃって」
巨大な脚を振り上げて、ジェノスの頭を踏み潰そうとした…が、それは後ろから必死に組み付いた無免ライダーの抵抗により阻止された。
「ジャ…ジャスティス…タックル…!」
「雑魚が…いい加減にしなさいよ?」
「分かって…いるんだ…!」
「はぁ?」
「碌に期待なんてされていない事は…分かっているんだ…!」
「…ウザいわよ。アナタ」
振り解くかのように右腕を軽く動かし、無免ライダーを吹き飛ばす。
彼の体は軽々と飛んで行き、雨で濡れた地面を滑っていった。
「C級ヒーローが大して役になんて立ってない…そんな事は…俺が一番よく分かっているんだよっ!」
血反吐を吐き、弱音を吐き、それでも彼は立ち上がる事を止めない。
「俺なんかじゃ…B級では…決して通用しない…! 自分が弱いって事は…誰よりも俺自身が一番よく理解しているんだっ!!」
「何をさっきからボソボソと…もしかして命乞いかしら?」
震える足を、痛む体を気力だけで起き上がらせ、彼は眼前の『敵』を見る。
「こんな俺が…お前みたいな怪物になんて絶対に勝てないなんてことは…」
拳を握り、彼は叫ぶ。
「俺が一番…よく分かっているんだよぉ…!」
彼は逃げない。彼は諦めない。彼は背を向けない。
「それでも…だとしても…やるしかないんだ…!」
何故なら彼は……。
「俺は…皆の笑顔を守る…ヒーロー…だから…!」
「勝てる勝てないじゃなくっ!! ここで俺は…お前に立ち向かわないといけないんだっ!!!!!」
「それが辞世の句かしら? なら…とっととくたばりなさい」
誰もが皆、分かっていた。
無免ライダーに勝ち目なんてない事は。
だが、しかし……。
「が…頑張れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
この場にいる人々は、彼に最後の希望を託した。
「無免ライダー! 頑張ってくれぇぇぇぇぇっ!!」
「ガンバレっ!!」
「アンタだけが頼りなんだよっ!!」
「俺達が付いてるからな!!」
「そんな奴なんか、やっつけてくれぇぇぇっ!!」
「勝ってくれぇぇぇぇぇぇっ!!」
「口から吐く液体に気を付けてくれよっ!!」
「ずっと前からアンタのファンだったんだ!!」
「絶対に死ぬんじゃねぇぞっ!!」
皆からの声援を受け、無免ライダーは咆哮する。
希望を、未来を守る為に。
ヒーローは最後の力を振り絞る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「哀れな人間達…この私が『残酷な現実』というものを教えてあげるわ」
深海王の圧倒的暴力が巨大な拳となって無免ライダーに襲い掛かる。
もう彼に攻撃を避けるほどの体力は残されていない。
一巻の終わり。そんな言葉が頭を過る。
けど、不思議と恐れは無かった。
「テトラカーン」
「「「なっ!?」」」
カキーン。
そんな甲高い音と共に、深海王の拳は無免ライダーに当たる直前で阻まれた。
まるで、目の前に透明で強固な壁があるかのように。
「い…今の魔法は『テトラカーン』…! それじゃあ、まさか…!」
ジェノスだけが状況を把握し、深海王と無免ライダーは一体何が起きたのか全く理解出来ないでいた。
「私の拳が…弾かれたですって…!?」
「こ…これは一体…!?」
その時、この場にいる全員の視線が向こうから静かに歩いてきた一人の少女に集中した。
「よく言ったわ…無免ライダー。あなたこそ真のヒーローよ」
「き…君は…!」
皆を安心させるように笑みを浮かべながら、無免ライダーの肩を優しくポンと叩いた。
「お待たせ。遅くなってごめんなさい」
「パチュリーさんっ!!」
自分の名を呼んでくれたジェノスに向けて、眉を顰めながらペロッと舌を出しながら可愛らしく謝った。
大抵の男共はこれだけで許してくれるだろう。
「にしてもジェノス君。また随分と派手にやられたわね。腕まで取れてるし…大丈夫?」
「なんとか…。それよりも気を付けてください! そいつが深海王です!」
「うん…分かってる。王冠被ってるし」
無免ライダーの前に出て、彼を庇うようにしながら遂に深海王と対峙する。
仲間達を散々と痛めつけた因縁の相手と。
「今のは…まさかお嬢ちゃんの仕業かしら?」
「だとしたら、どうするのかしら?」
「こうするのよっ!!!」
上半身を捻った全力の一撃がパチュリーに迫る!
か弱い少女があんな攻撃を喰らえば即死は確実!
何も知らない無免ライダーと市民たちは思わず彼女の名を叫ぶ。
だが、当のパチュリーは余裕の笑みを浮かべていた。
「大丈夫よ」
深海王の拳は再びテトラカーンによって阻まれ、彼女の体には触れる事すらなかった。
どれだけ強大な一撃でも、当たらなければ全く意味がない。
「…この私の一撃を難なく防ぐだなんて…どういう仕組みなのかしら?」
「それを知ってどうすると言うの? 今から死ぬ魚風情が」
「殺す…!」
たった一言で見事に深海王の堪忍袋の緒を切ってみせた。
意外と煽り耐性が無いのかもしれない。
そんな彼女を見ながら、市民たちは少しざわつき始めた。
「お…おい…あの子もヒーローなのか…?」
「アイツの攻撃を何回も防いでるよな…」
「お…俺知ってる。前にヒーロー名簿で見た事がある。確か、A級2位のヒーローの子だ…」
「え…A級2位っ!?」
「でも、S級でも倒せなかったんだぞ?」
「け…けど、あの子って前にZ市に落ちそうになった隕石を仲間達と一緒に壊したって…」
「マジかよ。それなら……」
ここはJ市。
流石にZ市程に彼女の知名度は無い。
本人は全く気にしないが。
「こあっ!」
「はい!!」
ずっと物陰で待機していたこあが空を飛んでやって来て、パチュリーの傍に降りてきた。
「無免ライダー君をお願い。私は、この半魚人野郎を消し飛ばすから」
「分かりましたっ! 無免ライダーさん、私に掴まってください!」
「き…君は…?」
「私はB級4位のこあと言います。行きますよ!」
無免ライダーに肩を貸すようにしてから、まずは無免ライダーをシェルターまで移動させてから、ゆっくりと座らせる。
その後で彼女は真っ直ぐにジェノスの元まで向かってから、彼にも肩を貸してシェルターに向かう。
「こあ…済まない」
「謝るぐらいなら無茶な事はしないでください……お願いだから。ジェノスさんに何かあったら私…私…!」
「こあ……」
絶対に守ると決めた少女を悲しませてしまった。
つくづく、自分の弱さが嫌になってくる。
「これでもう一安心ね」
「…つくづく癇に障るお嬢ちゃんね…!」
「それはどうも」
深海王の殺気にも全く動じない。
とっくに怒りゲージが天元突破しているパチュリーには全く意味が無い。
「物凄く腹が立ったから…面白い趣向を用意しておいたわ」
「なんですって?」
深海王が指を鳴らした途端、いきなりシェルター内が騒がしくなった。
何事かと見てみると、避難民の一部の体がボコボコと膨れ上がり、肌の色などが変容し、徐々に巨大化していく。
「海人族の中には他種族への擬態を得意としている者も存在しているの。そいつらを人間達の中に紛れ込ませていたのよ」
「…………」
「ビビったかしら? お嬢ちゃんは私の傍から離れられず、満身創痍な二人と、あの奇妙な羽を持ってる小娘だけじゃ倒すのは難しいでしょうねぇ~」
どれだけ強力な味方が現れても、自分達が優勢なのには違いない。
そう言うかのように深海王は薄気味悪い笑みを浮かべる。
…だが、その笑みはパチュリーの溜息によってすぐに掻き消えた。
「はぁ……」
「あら。諦めの溜息かしら?」
「ううん…違うわ。呆れてるの。その低脳っぷりに」
雨で濡れて頬にひっついた髪を指で剥がしていると、正体を現した海人族の一匹に誰かが捕まっていた。
「ぎゃははははははっ! 矢張り、人間は矮小なる存在だな!」
「うわぁぁぁぁぁっ!? 誰でもいいから助けろよぉぉッ!?」
「つ…捕まったっ!?」
「あいつ…さっきまでずっとヒーロー達に向かってアンチ発言してた奴だ!」
アンチ君が泣き叫びながら助けを請うているのを見ながら、パチュリーは深海王に驚きを、人々に希望を与える言葉を言い放った。
「いつ。誰が。私が一人でここに来たって言ったのかしら?」
「まさか…他にも仲間がッ!?」
「そーゆーこと。それじゃ、そっちはお願いね……」
「
次の瞬間、アンチ君を捕まえていた海人族が粉々になって消し飛んだ。
「人質なんて取ってんじゃねぇよ。半魚人野郎」
「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
一撃必殺。
こんな拳を持っているのは、この世にたった一人しかいない。
「ったく…途中で地味に迷ったから来るのが遅れちまった」
「サ…サイタマ先生っ!!」
「よっ、ジェノス」
いつも通りの呑気な笑顔を浮かべながら、ジェノスの傍まで行ってからしゃがみ込み、彼の健闘を称えるかのように肩を叩いた。
「その壊れっぷり…随分と頑張ったみたいだな」
「全く敵いませんでしたが…」
「それでもスゲェよ。そっちの奴もヒーローなんだろ?」
「えぇ…C級1位の無免ライダー…あいつが来てくれなかったら、パチュリーさんは間に合わず、本当に危なかったかもしれません…」
「…そっか。二人とも、ナイスファイト」
「先生……」
弟子になって初めて褒めて貰えた。
その事にジェノスは言葉に出来ない喜びを感じていた。
「さて…と。あのボスキャラっぽいのはパチュリーに任せとけ。あいつなら楽勝だ。んで、
「俺達…?」
「あれ、言ってなかったっけ? ここに駆け付けたのは俺やパチュリー達だけじゃないぞ? なぁ…お前ら?」
瞬間、サイタマの横に多くの人影が並び立つ。
それを見て、人々は歓喜の涙を流した。
「よくも、か弱い男子達を怯えさせたな…絶対にあなた達は許さん!!」
「このタンクトップにかけても…この戦い、負けられん!!」
「さっきの借りは全力で返させて貰うぜ…海人族さんよぉっ!」
「リベンジ…やらせて貰うぜ!!」
「パチュリーさん! こちらは俺達に任せてください!!」
「貴様ら全員…我が剣の錆びにしてくれる!!」
ぷりぷりプリズナー!
タンクトップマスター!
スティンガー!
イナズマックス!
イアイアン!
ブシドリル!
全員参戦!!
治療組は宣言通りに全員復活!
ついでにタンクトップマスターやイアイアン、ブシドリルも追加で!
なんか決戦っぽくなってきましたね。
勿論ですが、参戦するヒーローはこれで終わりじゃありません。
まだまだやって来ますよー!