S級ヒーロー 七曜のパチュリー   作:とんこつラーメン

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2日ほど休んで気分スッキリ…出来ればよかったのですが、一難去ってまた一難。

私の人生は思っている以上に波乱万丈みたいです。

『事実は小説よりも奇なり』とはよく言ったもんです。








この戦いは誰の為に

 ヒーロー達と海人族たちとの全面対決は、ヒーロー達が一致団結して立ち上がり、S級を筆頭に着実に海人族の雑兵を撃破していき、パチュリーが深海王と一騎打ちをして『秘奥義』を放ち見事に撃破。

 

 だが、話は単純には終わらない。

 

 パチュリーは秘奥義を放つ際に、その威力によって周囲に被害を出さないようにと考慮をして異空間を形成、その中で全力の一撃を放った。

 本来ならば誰にも目撃なんてされていない筈にも拘らず、そこには無数の視線があった。

 

 そう…実は見られていたのだ。

 この場に集ったヒーロー達だけではなく、あろうことか避難をしている市民たちにも。

 

 それは通常ならば決して有り得ないこと。

 パチュリーはサイタマと同様に、自分に対する世間の評価などは余り気にしない。

 だからこそ、今回も周囲の安全を第一に考えたのだから。

 

 誰も侵入なんて出来ない筈の異空間に、想定外の多くの侵入者。

 そしてそれは、遠くから見ていた『彼』も同様だった。

 

「…4つの異なる属性の魔力球で周囲を取り囲み、そこから発せられる反発作用によって敵を消滅させる…か。顔に似合わず、恐ろしい魔法を考え付くものだ」

 

 その名は『ボフォイ』。

 またの名を『メタルナイト』。

 S級に連なるヒーローの一人であり、世界規模で見ても最上級クラスの天才科学者である。

 

「強大なエネルギー反応があったから、メタルナイトを帰還させずにUターンさせたら、とんでもないものが見れたな」

 

 言葉だけを聞けば、貴重なデータを観測出来てご満悦…に聞こえるが、彼の顔は何かに納得できていない…そんな表情をしていた。

 

「特大の一撃を放つ瞬間に形成された謎の異空間…あれは恐らく、魔法の威力が高すぎるが故に被害を押さえる為に作り出したものだろう。実際、通常空間には何の被害も出ていない…が…」

 

 傍に置いてあるコーヒーカップを口まで運びながら考える。

 

「どうして…見る事が出来た? 俺だけではなく、あの場にいた全ての人間達も…」

 

 人知を超越している頭脳を以てしても、すぐに答えが出ない現象。

 眉間に皺を寄せながら脳をフル回転させる。

 

(肉眼だけでなく、モニター越しに見ている俺にすら観測できるのは流石に不可思議すぎる…。通常ならば、あの小娘が意図して我々に見せていると考えるのが妥当だろうが、奴はそんな自己主張が激しい性格ではないし、あれだけの一撃を放つにはかなりの集中力が必要になるだろうから、そんな余裕はない筈…。となると、考えられる可能性は……)

 

 カップを元の場所に置き、そっと呟く。

 

「あれは『何者か』が意図して俺達に見せた…いや、見せられた(・・・・・)のか。だが…一体何の為に…?」

 

 パチュリーの秘奥義を他者に見せるメリットが全く分からない。

 自分にとっては嬉しい限りだが、他の連中はそうではない。

 

「あの少女が深海王を倒す瞬間を他の連中に見せて誰が得をする? いや…何が発生する?」

 

 噂。評判。評価。

 考えられるのはこれぐらい。

 それがどうしたというのだろうか…と思ったところで、ふとある事が頭に思い浮かんだ。

 

(そう言えば…パチュリーはS級昇格がほぼ確定しているからこそ、今はA級2位にまで上り詰めている…が、あと一押し足りない。一般人達の評判とアマイマスクから認めて貰う事が。そして、何の因果かアマイマスクもこの場に駆けつけていて、あの魔法を見ていた…)

 

 今回の深海王撃破は間違いなく、彼女をS級に至らせるのに最高の理由になるだろう。

 回復して復活したとはいえ、S級を一人、A級を3人、他にも数多くのヒーロー達をたった一匹で倒した怪人を無傷で倒してみせ、それを多くのヒーローと人々に目撃されたのだから。

 

 人の口には戸は立てられない。

 今回の海人族との戦いにおける最大の功労者であるパチュリーの噂は、瞬く間に広まっていくだろう。

 そうなれば、パチュリーがS級になっても誰も文句を言わなくなる。

 

「パチュリーをS級に上げる為に、何者かが何らかの方法で異空間に干渉をし、あの攻撃を見せた…。いや、待てよ?」

 

 天才の頭脳は、ここで安易に答えを出すのを拒否した。

 もっと深く、考えを飛躍させなければ。

 

「海人族は水を吸収する事で強化…いや、本来の力を取り戻す。そして、今日はおあつらえ向きに大雨。奴らにとっては地上侵攻をするにはまたとないチャンスとなる日。これを偶然の一言で片付けるほど、俺は物分かりはよくない。まるで、最初からそうなるように仕組まれていたような……」

 

 海人族たちとの戦いが誰かによって仕組まれていたとして、果たして仕組まれていたのはそれだけだろうか?

 もしかして。その言葉がボフォイの頭を過った瞬間、彼は冷や汗を掻いた。

 

「ま…まさか…!」

 

 我ながら、とんでもない考えに至ってしまった。

 震える手で自分の顔を押さえながら、焦点の合っていない目で虚空を見つめる。

 

「仕組まれていたのは今回の戦いだけじゃない…最初(・・)からなのかっ!?」

 

 白衣の袖で汗を拭い冷静さを取り戻しながら、ボフォイは脳内に過った可能性を分析する。

 

(今にして思えば、S級ヒーロー…あれだけの逸材たちが都合もよく一堂に会する事なんて有り得るのか? それだけじゃない…他のヒーロー達もアイツ等ほどではないとはいえ、一癖も二癖もあるような連中ばかり…。その中でパチュリーやサイタマといった『異次元のイレギュラー』が出現した。あいつ等はその実力からしてS級入りはほぼ確実と言ってもいい。まさか…『何者か』の目的とは…)

 

 彼には珍しく息が荒くなる。

 これが事実ならば、とんでもない事だ。

 

「20人のS級ヒーローを揃え…他のヒーロー達を強くするため…? 俺達は偶然的に集まったのではなく…必然的に…集まるべくして集まったというのか…」

 

 どうしてヒーロー達を意図的に集めたのか。

 その理由は明確だ。

 ヒーローは戦う存在であり、その相手は一つだけ。

 

「全てのヒーローは…強大な『何か』と戦う為に集結した…? その『何か』とは……」

 

 椅子の背もたれに体を預け、疲れたように呟いた。

 

「今、この瞬間もお前が戦っている『敵』…なのか……『ブラスト』…」

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 秘奥義『エンシェント・カタストロフィ』にて深海王を葬ったパチュリー。

 通常空間に戻ってきた時、残されていたのは深海王の足首から下だけだった。

 

「あ…雨止んでる」

 

 雨雲は消え去り、空にはヒーロー達の勝利を祝福するような太陽の輝きがあった。

 目を細めながら空を眺めていると、シェルターの方から大きなざわつきが聞こえてきた。

 

「お…終わった…のか…?」

「みたいだな…。シェルターにいた怪人たちもヒーロー達が倒してくれたし…」

「さっき見た、あの子のスゲー攻撃で親玉も木端微塵になってたし…」

「じゃ…じゃあ…本当に…?」

 

 恐る恐る外へと踏み出し、晴れ渡る空を見上げながら人々は歓喜の声を上げた。

 

「俺達…助かったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「まだ生きてる…私、生きてるのよねッ!?」

「うぅぅ…ぐすっ…! よかった…本当に良かったよぉ…」

「それもこれも全部、ヒーロー達のお蔭だ!」

「本当にありがとう!!

「俺…ここにいる全てのヒーローのファンになる!!」

「俺もだ!!」

「私はヒーロー協会に多額の寄付をするわ! この人達みたいな最高のヒーロー達がこれからもっと増えるように!」

「それいいな! 俺もするぜ!!」

「俺も俺も!」

 

 涙を流し、家族と抱き合い、共に喜びを分かち合う。

 そんな人々を眺めながら、ヒーロー達もまた互いの健闘を労い合っていた。

 

「ふっ…S級以外の連中も捨てたもんじゃねぇな」

「当然じゃ。皆…ヒーローなのじゃからな」

「その通り。心にタンクトップがある限り、俺達は負けない!」

「応援してくれた男子達! 君達の愛のお蔭だ!」

 

 S級の面々は特に疲弊をした様子は無いが、それでも今回ばかりは何も言わずに純粋に喜んでいる。

 そんな中、パチュリーが市民たちに囲まれてアワアワしていた。

 

「あんたマジで最高だ! こんな凄いヒーローがいたなんて知らなかった!」

「Z市で隕石壊したってのも本当だったんだな!」

「あれ何なんだ!? なんかこう…バーって!」

「魔法少女バンザーイ!!」

「ちょ…ちょっとっ!? え? もしかして、さっきの見てたのっ!? 嘘でしょっ!?」

 

 流石のパチュリーも、異空間にて観測できない筈の一撃を全て見られていたことには驚きを隠せず、同時に頭が混乱している。

 本当は冷静に考えたいのだけれど、周囲の人々がそれをさせてくれない。

 

「…サイタマ君…と言ったね」

「おう。どうした?」

 

 市民に囲まれているパチュリーを見つめながら、いつの間にか隣にいたサイタマに話しかけるアマイマスク。

 いつもは余裕の表情を崩さない彼の顔が、珍しく呆けた表情になっている。

 

「あれが…パチュリー君の真の実力なのか?」

「うーん…その一端…って感じだな」

「一端…? あれだけの一撃でも?」

「あぁ。別にパチェの秘奥義はあれ一つだけじゃないからな」

「なんだってっ!?」

 

 あれだけの威力を誇る魔法が、まだ他にも存在している。

 それが事実ならば、彼女の実力はS級すらも軽く凌駕していることになる。

 

「パチェがその気になれば、山一つぐらい軽く消し飛ばせるぞ?」

「矢張り…この僕の目に狂いは無かった…か」

 

 パチュリーこそが最高にして理想のヒーロー。

 ようやく見つけた。この時をどれだけ待った事か。

 

(そういえば…このサイタマ君の戦闘力も凄まじかったな…)

 

 攻撃方法自体は至ってシンプルで、本人からも凡庸な雰囲気が出ているが、それは今だけの話。

 どんな攻撃を放っても一撃必殺であり、戦闘時には信じられない程の闘気を放っている。

 こんな逸材がC級なんて場所で埋もれていていい筈がない。

 

(倒されても決して諦めないジェノス君に、仲間のサポートをする事でそのポテンシャルを最大限に発揮させるこあ君。そして…物理攻撃最強のサイタマ君と最強の魔法使いのパチュリー君…。ヒーロー協会に報告することが多すぎて大変だな…)

 

 大変と言いつつも、その顔は笑っていた。

 何かを企む顔ではなく、純粋な笑顔。

 ある意味、アマイマスクの『仮面』が剥がれた貴重な瞬間であった。

 

「なぁ…バング」

「なんじゃ、アトミック侍」

 

 近接最強の二人が並んで何かを話す。

 それだけの事なのに、不思議な近寄りがたさがあった。

 

「さっきの超絶的な一撃を見てふと思ったんだがよ…パチュリーって俺達よりも強いのか?」

「…強いじゃろうな。なんせ、あの子には物理攻撃が通用せん。ワシらでは掠り傷すら与えられんじゃろうて」

「だよなぁ……」

「どうした? もしや悔しいのか?」

「馬鹿言え。他者の強さに嫉妬するようなガキじゃねぇんだよ。ただ…久し振りに思っちまったんだよ。純粋に『凄い』ってな…」

 

 二人の視線の先では、パチュリーがさっき以上に囲まれて物理的な意味で身動きが取れなくなっていた。

 普段から飄々としている彼女が慌てている姿なんて本当に貴重なので、サイタマは面白がってそれをずっと眺めている。

 

「ジェノスさん……私達…勝ったんですよね」

「あぁ…勝った。サイタマ先生やS級を初めとする多くのヒーロー達…そして、こあやパチュリーさんのお蔭でな」

「はい!」

 

 破損したボディをこあに抱きかかえられながら、ジェノスはどこまでも澄み切った青空を眺めていた。

 

 余談だが、この後にJ市から多額の寄付金がヒーロー協会に与えられ、それと同時にパチュリーのファンクラブが本格的に結成。

 僅か数時間で会員数が10万を超えたとか。

 その中にはしれっとタンクトップタイガーも混ざってたりして。

 

 更に、今回の海人族との戦いに参加したS級以外の全てのヒーロー達にランクアップが約束されたという。

 

 こうして、海人族との戦いは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 J市郊外。

 そこでは海人族の僅かな生き残り達が無人の道路を敗走していた。

 

「ま…まさか深海王さまが人間如きに倒されるとは…信じられん!」

「だが事実だ! 深海王さまが敵わない相手に我等が勝てる道理が無い!」

「他の仲間達もヒーローとやら達の手で倒されてしまった…生き残ったのは我らのみ…!」

「なんとしても海まで逃げ延びなくては!」

 

 残った体力を振り絞って必死に走っていると、彼らの前方に一人の青年が立っていた。

 髪を逆立てて、引き締まった筋肉を持つ男。

 何も武器は持っていないが、それでも不気味な気配を漂わせていた。

 

「おいおい…J市で面白いショーがやってるって聞いたから急いで来てみれば、この俺が参加する前に終わっちまったのかよ」

「そこをどけ人間! 邪魔をすると容赦せんぞ!」

「あ?」

 

 上から目線な物言いが彼の琴線に触れたのか、その額に血管が浮き出る。

 

「偉そうな口を聞いてんじゃねぇよ。負け犬野郎が」

「な…なんだとっ!?」

「だってそうだろうが。怪人の癖にヒーローに背中を向けて逃げる? ふざけてんのか? テメェらのような奴らに『怪人』を名乗る資格はねぇ。負け犬で十分だ」

 

 青年の挑発に易々と反応し、海人族の一匹が激高して拳を握りしめて攻撃態勢に入った。

 

「おい止めろ! 今は一刻も早く海へ逃げる方が先決だ! いつ奴等の追手が来るか分からんのだぞ!」

「止めるな! こいつは我ら海人族を侮辱したのだぞ! なぁに…こんな人間一人、一瞬で片付けて……あれ?」

 

 話している間に青年の姿は無くなっており、いつの間にか自分の胸から何者かの腕が生えていた。

 

「はい雑魚ー。隙だらけで欠伸が出んだよ。バァーカ!」

「ば…馬鹿な…!」

 

 胸を貫かれた海人族は信じられないと言った様子で、その場にドサリと倒れた。

 目の前で生き残った仲間が倒され、逃げる事を優先していた方も流石に激高し、叫びながら青年に襲い掛かった。

 

「き…貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! よくも我が同胞をぉぉぉっ!!」

「トロくせぇ上に動きが直線的過ぎんだよ! そんなんでこの俺を殺せるかよっ!!」

 

 巨大な拳はまるで『流水』のような動きで受け流され、その威力を返されて胴体部に巨大な穴が開いた。

 

「イラついて、思わず使っちまった。ま…いっか」

「お前は…一体…なに…者…!」

「いずれ、災害レベル『神』となって世界中を恐怖で覆い尽くす予定の『怪人』だ。よーく覚えとけ、負け犬」

「人間…風情…が…神を名乗る…とは…愚かな…!」

 

 それだけを言い残し、海人族最後の生き残りは息を引き取った。

 これで本当の意味で海人族は全滅したことになる。

 

「ちっ…なんか白けちまったぜ。腹減ったし…どこかで適当に飯でも食って帰るか」

 

 ブツブツと文句を言いながら、青年はポケットに手を入れてから、その場を後にした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 因みに、途中でどこかに行ったソニックはと言うと…。

 

「…はぁ…はぁ…急いでアジトへと戻って装備を整えて来たんだが…」

 

 J市に戻ってきたソニックではあったが、そこには深海王は疎か海人族も一匹もおらず、まだ避難所から人々も戻ってきていないので街中もガランとしていて彼一人だけとなっている。

 文字通り、完全ボッチ状態である。

 

「深海王め…この俺に恐れをなして逃げたか。もしくは、サイタマかパチュリー辺りに倒されたかのどっちかだな」

 

 結局、何もすることが無くなったソニックは、そのままトボトボと寂しそうにアジトへと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回は深海王編のエピローグですね。

それからまたオリジナルの話を挟んでから、S級が一堂に揃うボロス編に突入します。

やっとタツマキが出せる…。
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