面接って聞くと、昔受けたバイトの面接を思い出しますね~。
色んな所を受けたんですけど、一度も受かった試しはありません。
その分、学んだことはいっぱいありました。
「ふーん…成る程ね」
面接官たちの話を聞きながら、パチュリーはゆっくりと頷く。
入室してからまだ数分しか経過していないのに、もう既に互いの立場は完全に逆転していた。
パチュリーから発せられるプレッシャーに、全員が飲み込まれているからだ。
「私の実力を測る為に、敢えてA級からのスタートにした…ね」
「そ…その通りだ」
「『魔法使い』という存在自体が、今のヒーロー協会にとって余りにも未知数過ぎたのだ」
「前例が存在しない以上、我々もどうすればいいのか分からない」
「なので、まずはこれからの基準とする為に君の試験をして見てみることにした」
いつの間にか用意させている紅茶に手を伸ばし、それを優雅に飲む。
これではどっちが面接をしているのか分からない。
「ご感想は?」
「凄いの一言だったよ。回復、補助…どちらもこれまでのヒーロー達とは全く違うスキルだ。それだけでも十分に合格させる価値はあった。だが…」
「だが? どうしたの?」
「我々は、それらはまだ君の能力のほんの一部に過ぎないと判断した。故に知る必要があった。君の能力の全貌を」
面接官の一人が額に汗を掻いてハンカチで拭う。
別の面接官は喉が渇いたのか、傍にあったペットボトルの蓋を開けて中身を飲んだ。
「黄金ボールやバネヒゲを救出、その際に彼らに対して治癒魔法で適切な処置をしてくれた」
「隕石落下阻止の件では、サイタマ君やジェノス君、こあ君やメタルナイトと協力して前代未聞の危機を圧倒的な魔法で防いでくれた」
「そして…先の海人族の侵攻に際して君は傷ついた数多くのヒーロー達を回復させ戦線に復帰させる機会を与えただけでなく…」
「連中の目的をいち早く察知し、最悪の事態となるのを未然に防いでくれた上に…」
「最後には深海王と一騎打ちをして、これを撃破。他のA級やS級が勝てなかった怪人を相手に無傷で…だ」
そこまで大したことをしたつもりはない。
自分はただ、自分に出来る精一杯をしただけに過ぎない。
声には出さないが、パチュリーはずっとそう思っていた。
「あの戦いでは、最終的に君が全てのヒーロー達の中心にいたと皆が証言している。彼らにそこまで言わせるほどのカリスマ性は希少だよ」
「カリスマ性…ね」
生まれて初めて言われた言葉。
最も縁遠いと思っていたのに、まさかこんな形で誰かから言われるとは思わなかった。
「パチュリー君は、S級に選定される基準というのを知っているかね?」
「いいえ。知らないわ。他の階級と同じのを更に高いレベルで求めているんじゃないの?」
「残念ながら違う。S級ヒーローに選ばれる最低基準。それは……」
カチャリ…とカップがソーサーに置かれた。
「災害レベル『鬼』を単独で撃破する…だ」
「その点で言えば、君は見事に基準を満たしている。あの隕石は災害レベル『竜』だったし、君が倒した深海王も後に災害レベル『鬼』であったと判断された」
「あのオカマ半魚人…『鬼』だったのね」
テトラカーンと言う物理攻撃を全て無効化する魔法を使えるパチュリーからすれば、物理攻撃主体の怪人は例外なく雑魚認定なのだ。
何故なら、貧弱な自分の身体に掠り傷一つすら与えられないから。
「でも、その基準で言ったらサイタマも同じになるけど?」
「そうだな。だが、君と彼とではスタート地点が違う」
「心配せずとも、サイタマ君にもいずれ必ずS級に絶対上がって来て貰う」
「あれ程の実力者をこのまま埋もれさせておくのは惜しすぎる」
「今はコツコツと頑張って貰うしかない」
てっきりサイタマの事を見下していると思いきや、割と正当に評価していることに驚いた。
他のヒーロー達と共闘したことが非常に大きいのだろう。
「S級ヒーロー達は正規軍の一個師団に相当する戦力だと言われている」
「我々から見れば、君一人の戦力も十分に一個師団に匹敵すると見ている」
「大袈裟よ」
「君はそう思うかもしれないが、こちらはそうじゃない。その上で君にも他の二人と似たような質問をさせて貰おう」
面接官の一人が頑張ってパチュリーと視線を合わせながら定型文となっている事を言った。
「S級に上がるか。A級のままでいるか。好きな方を選んでくれ」
「上がるか、留まるか…ね」
それを言われ、以前にアトミック侍から言われたことを思い出す。
『
期待をしている人たちがいる。待ってくれている人たちがいる。
パチュリーは自分の事にはサイタマレベルに無頓着だが、だからと言って他者からの厚意を無下にするような女でもない。
「…いいわ」
「なに?」
「S級ヒーローになるって言ってるの」
「おぉ…本当かッ!?」
「こんな所で嘘をついてどうするのよ」
呆れたように微笑を浮かべつつも、この選択に全く後悔をしていない自分に驚く。
「S級は、A級やB級とは違い、単純に実力だけが求められる。だから、他の二人のように昇格の際に質疑応答や精神分析のマークシート記入などはしなくてもいい」
「それは有り難いわね。面倒なのはゴメンだから」
「だが、君のS級昇格の正式な通達はまた後日…という事になる」
「またなんで?」
「S級は他とは違って本当に特別枠だからだ。新たなS級がまた一人増える…それだけで業界内も市民たちも驚きに包まれる」
「だから、君のS級昇格の話はいずれ行われる『S級ヒーロー定例会議』の場でする手筈とする。会議が行われる時には君にも連絡が来るようにしておく」
「りょーかいよ。そっちがそれでいいのならね。これで話は終わり?」
「あぁ…わざわざここまで来てくれてご苦労だった」
「別に苦労なんてしてないわよ。ここには前にも一回来た事があったし、ルーラで一発よ。それじゃ、これで失礼するわね」
来た時と同様にゆっくりと椅子から降りて、そのまま面接室を後にした。
それでようやく、彼らはプレッシャーから解放された。
「ふぅ…なんて圧迫感を発する少女なんだ…」
「生きた心地がしなかったな…」
「だがこれで、また一人…新しいS級が誕生した」
「人類の守護が盤石になったな。喜ばしい事だ」
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・
面接室から出ると、廊下ではサイタマとこあが律儀に待ってくれていた。
「お疲れ。どうだった?」
「二人とは少し内容が違ったわね。私の場合は本当に説明って感じ」
「質疑応答とかはしなかったんですか?」
「えぇ。単純な実力だけで判断するから、そんなのは必要ないんですって」
「ってことは、お前も…?」
「うん」
頬を少しだけ赤くしつつ、猫の口になってからのVサイン。
「パチュリーちゃん。見事にA級からS級になりました」
「おぉ~…遂にか」
「やりましたね! パチュリーさま!」
「うん。でも、正式な通達は後日にするんですって。S級って色々と面倒みたいね」
肩をグルグルと回しながら首を動かす。
何かに没頭している時はずっと座っていても問題は無いのだが、今回のようにだらだらと話しているだけの時間を座って過ごすのは余り得意じゃない。
なので、こうして体を解す必要があるのだ。
「そっか。ま、今はとっとと帰ろうぜ。ジェノスが待ってる」
「それもそうね。早く今回の事を報告しなくちゃ」
「きっと、首を長くして待っててくれてますよ!」
三人がワチャワチャとしながら支部の玄関ホールまで降りていくと、そこには意外な人物の姿があった。
「やぁ、パチュリー君。こあ君。サイタマ君。お疲れ様」
「お前は…」
「アマイマスク? なんか最近、かなりの頻度で会ってる気がする…」
「言われてみれば確かに…」
身内以外のヒーローで最も出会っているのは実はアマイマスクだったりする。
世の女性達が聞けばパチュリーに嫉妬しそうな情報だ。
「実は、さっきまでの昇格面接…僕も幹部連中とは別の部屋でモニタリングをしていたんだ」
「あら、そうだったの」
アマイマスクの発言力は、パチュリー達が思っているよりも遥かに大きい。
なので、今回のようにかなりの融通が許されるのだ。
「三人共…昇格おめでとう」
「ありがと」
「おう」
「ありがとうございます」
どうやら、純粋に祝福の言葉を言う為だけにここで待っていたようだ。
本来ならば相当に忙しい身の筈なのだが、スケジュール管理も完璧なのかもしれない。
「こあ君。今日から君も僕と同じA級ヒーローだ。頑張ってくれ」
「は…はい! これからも、よろしくお願いします!」
「サイタマ君。君ならばすぐにA級に昇りつめ、僕すらも追い越してS級へと行くだろう。その日を楽しみに待っているよ」
「ま…ボチボチと頑張るさ」
「そして、パチュリー君」
彼女に向き合ったかと思ったら、急に両手を掴んで包み込んだ。
「遂にS級へと至ったね。君ならば、S級ランクでもあっという間に上位に食い込むだろう。僕はそれを期待している」
「過分な褒め言葉、ありがと。私なりに頑張ってみるわよ」
「是非ともそうしてくれ。おっと…もうこんな時間か」
腕時計で時間を確認したアマイマスクは、手を離してすぐに背中を向けて支部の玄関を後にしようとする。
「もうすぐラジオの収録があるんだった。これで失礼するよ。君達も良ければ聞いてくれ! 『アマイマスクのヒーローラジオ!』をよろしく!」
最後に爽やかな笑顔を振りまきながら、アマイマスクは仕事に向かったのだった。
「彼ってさ…テレビのコメンテーターや俳優とかもやってたわよね…?」
「その上、ラジオまでやってんのか…ジェノス以上に忙しい奴だな」
「この前も、アマイマスクさんが出演してるCMが流れてましたしね~」
因みにだが、こあはジェノス一筋なのでアマイマスクが目の前でどんなにアピールをしてきても微塵も靡かない。
恋する乙女はいつの世も最強なのだ。
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Z市支部を出てから三人は、散歩がてら少しだけ歩くことに。
サイタマとこあは特に気にはしていなかったのだが、パチュリーが珍しく『ちょっとだけ歩きたい』と言ってきたのだ。
彼女の気紛れは今に始まった事ではないので誰も気にしないが。
「あら? なんだかとってもいい匂い?」
「あそこにおでんの屋台がある。あれから匂ってきたんだろ」
「小腹も空きましたし…入ってみます?」
「「入る」」
小腹が空いていたのは二人も同じだったようで、すぐに賛成して屋台に入っていくことに。
中には既に先客がいて、皿に盛られたおでんの具を食べていた。
「ヘイラッシャイ! 何にする?」
「そうだな~…」
「こうして近くで匂いを嗅ぐと、増々お腹が空いてくるわね」
「色々とあって目移りしちゃいますね~」
三人がグツグツと煮えている具を楽しそうに眺めていると、先客がいきなり話しかけてきた。
「迷っているなら、オススメを教えてあげようか?」
「え?」
「お前は、あの時の……」
「無免ライダー君…?」
先に来ていた客はまさかの無免ライダー。
まだ体に包帯を巻いてはいるが、あの決戦時にこあが放ったメシアライザーのお蔭で、もう動いても大丈夫なぐらいにはなっているようだ。
「まさか、アナタとこんな場所で出会うなんてね…もう大丈夫なの?」
「あぁ。こあちゃんの魔法のお蔭さ。医者からも『来週辺りからヒーロー活動を再開してもいい』と言われているよ」
「良かったじゃねぇか」
「そうですね!」
あの時、最も勇敢に戦っていたのが無免ライダーだった。
同時に最も重傷を負っていたのも彼なのだが、メシアライザーによってダメージ自体は回復した…が、流石に骨折などは治癒できない。
だからこそ、あの戦いの直後にすぐに病院へと運ばれた無免ライダーの事は気になっていたのだ。
「君達三人にどうしてもお礼を言いたくて、今日はずっと探していたんだ。歩いてきた方向から察するに、君達は協会支部に行っていたのか?」
「まぁね」
「もしかして…昇格?」
「よく分かったな」
「協会の支部に呼ばれるような用事なんて滅多に無いからね。そっか…昇格か。本当におめでとう!」
まるで自分の事のように喜んでくれる無免ライダー。
彼は根っこの部分からヒーローなのだと改めて理解出来る。
「こあちゃんの魔法が無かったら、今頃どうなっていたか分からない。ありがとう」
「ど…どういたしまして。えへへ…」
「パチュリーさん…あの時、君が来てくれなければ、俺は本当に死んでいたかもしれない。君は命の恩人だ。本当にありがとう」
「同じヒーローの仲間を助けるのに理由なんて必要ないでしょ? でもまぁ…そのお礼は受け取っておくわ」
出されたお冷を飲みながら、恥ずかしそうにするパチュリー。
面と向かって礼を言われる事に慣れていないので、顔を真っ赤にしている。
「サイタマ君……君に『憧れていたヒーロー』と言われた時…不謹慎だと分っていても…嬉しかったんだ。こんな弱い自分にも憧れてくれている人がいたんだって……」
「そりゃそうだろ」
「え?」
いつもと同じ無表情で、でも真っ直ぐに無免ライダーを見つめながらサイタマは自分が思った事を言った。
「お前みたいな『カッコいいヒーロー』に憧れない奴なんていねぇよ。だからこそ、色んな人達に本気で応援されてたんだ」
「サイタマ君……」
「少なくとも俺は、お前の事を本気で凄い奴だと思ってるぜ」
「私もよ。あの時も言ったけど、アナタこそが『真のヒーロー』と呼ばれるに相応しい存在よ」
「そうですよ! もっと自信を持ってください!」
「パチュリーさん…こあちゃん…ありがとう!」
今度こそ本当に元気を取り戻したようで、無免ライダーの顔に笑顔が戻った。
「それじゃあ、昇格祝いに何か奢らせてくれ! なんでも好きな物を注文してくれていいよ!」
「マジか。んじゃ、俺はもずくを頼むわ」
「私は大根をお願い。勿論、一番だし汁が染みてるやつね」
「餅巾着をください! 大好物なんです!」
「ご主人! この人達に良いもずくと大根と餅巾着を!」
「あいよ!」
戦いに疲れたヒーロー達を街の人々が癒していく。
こうして今日も、一日が終わりを告げていくのであった。
本当は間に何か挟もうかと思いましたけど、なんかもう『早くボロス編に突入したい病』が発症しましたので、このまま行きたいと思います。
それはそれとして、おでん…いいですよね~。
私は、たまごとこんにゃくと白滝とがんもどき、後は王道の大根が大好きです。
最近のおでんには色んな具が入っていて驚きますよね。
コンビニのおでんに卵焼きが入っていると知った時は本気でビックリしました。
皆さんはどのおでんの具が好きですか?