それを知った時の皆の反応は…?
本部にやって来たS級が全員席に着き、パチュリーとサイタマも同じように空いた席に着席し、こあはパチュリーの傍に寄り添うように立っている。
非常に個性豊かな面々が勢揃いし、何とも言えない空気が漂い始めた時…スーツを着た初老の男性が入ってきた。
「二つほど空席があるようだが…動けるメンバーは全員来ているようだな」
彼は集まったメンバーの顔を一通り見てから頷き、テーブルに両手を突きながら前のめりに自己紹介をした。
「私は今回の事態の説明役を任命された幹部の一人である『シッチ』という者だ」
全員の視線がシッチに向く。
幹部と聞き、パチュリーは彼の事を品定めするように視線を漂わせた。
「残念ながら、ブラストとメタルナイトは現在の居場所は不明となっていて、連絡すらもつかないような状態らしい」
(ブラストがアンタ等に連絡なんてする訳が無いじゃないの)
(あの堅物捻くれ者が、こんな会議に出席するとは思えないしな…)
タツマキと童帝はそれぞれに今回の未出席者の関係者という事もあり、心の中で愚痴を言ったり呆れたりしていた。
「これ以上待ち続けても埒が明かないので、今から緊急集会を開始する」
遂に始まるS級のみを集めた緊急集会。
一体何が話し合われるのか。
「…が、その前に一つ、君達にどうしても報告しておかなければいけない事がある」
「それは、そこにいる連中の事か?」
「正確には、そこに座っている彼女…だがな」
ゾンビマンが全員の意見を代弁するかのように発言すると、シッチがパチュリーに目を向けた。
「…パチュリーくん。いきなりの招集に応じてくれて感謝する。ありがとう」
「やめてよ。それじゃあまるで、私が礼を言われるために来たみたいじゃない」
なんて言ってはいるが、パチュリーの顔は少しだけ赤くなって照れている。
彼女だって人並みに照れることぐらいはあるのだ。
「予想がついている者もいるかもしれないが、ここで改めて発表しよう。今回…新しいS級ヒーローが一人増えることになった」
「なんだと?」
「マジかよ……」
ゾンビマンと金属バットは声を出して驚き、それとは逆にバングやアトミック侍、ぷりぷりプリズナーやタンクトップマスターは『やっぱりな』という顔をしていた。
「私と対面になるように座っている彼女…パチュリー君は、Z市隕石落下阻止や海人族襲来に際して多大な貢献をし、首領である災害レベル『鬼』の深海王を単独で撃破した功績を認められ、この度…幹部会の満場一致でS級ヒーローに昇格、任命される事になった」
「昇格って事は、彼女は少し前まではA級だったって事か?」
「そうだ。最初はA級ヒーローとして活躍し、そこから凄まじい勢いで順位を上げ、つい先日にA級1位となり、そして……」
「S級になった…ということか」
昇格という単語に疑問を感じクロビカリが質問をし、最後に駆動騎士が締めた。
彼の視線はパチュリーよりもジェノスに向いているが。
「だけど、よくあのアマイマスクさんが許可したね」
「許可ではない。逆だ」
「逆?」
「今回のパチュリー君のS級昇格には、非常に多くのヒーロー達からの推薦があったのも大きな影響を与えている。その中には、今回集まっているS級ヒーロー達も数名いたりする。そうだろう? アトミック侍。シルバーファング」
名指しされて二人は不敵な笑みを浮かべ、それを見て他のS級たちは少なからず驚いた。
「おう。確かに俺はパチュリーの事を協会に推薦した。パチュリーの戦いや人柄を見て、S級に相応しいと判断したからな」
「ワシもアトミック侍と同意見じゃ。実力、精神、いずれも彼女はここにいる者達に引けは取らん」
お人好しなシルバーファングはともかく、あの実力主義者なアトミック侍すらも諸手で賛成させるほどの実力者。
何も知らない者達は、あの小柄な少女のどこにそれ程の実力が秘められているのかと思わずにはいられない。
「S級で彼女を推薦したのは二人だけじゃない。他にも三名ほどいる」
「そいつは誰だよ?」
「それは俺と…」
「この俺だよ。金属バットちゃん」
タンクトップマスターとぷりぷりプリズナー。
彼らもまた近くでパチュリーの実力を見た者達。
協会に対して推薦するのは自然の流れとも言えた。
「最後の一人は誰だ?」
「…メタルナイトだ」
「はあぁっ!?」
最も有り得ない事。
秘密主義で自己中心的な性格をし、その上で捻くれている彼が誰かを推薦する。
童帝でなくても信じられない。
「だが事実だ。隕石落下を共に阻止した事でパチュリー君に対して注目するようになったらしく、かなり早い時期から我々に対して直に通信を送って彼女をS級に上げるようにと言ってきたほどだ」
「し…信じられない……」
口にしているキャンディーを噛み砕きそうになる程に驚いたが、甘いものを口にしたことで落ち着きを取り戻したのか、童帝はいつもの表情に戻った。
「少し前から協会内にて『魔法使いのA級ヒーロー』の噂が流れていたが、まさかパチュリーがそうなのか?」
「流石はゾンビマン。君も耳にしていたか」
「噂だけだがな。実際に見たわけじゃない」
S級の中でも諜報活動を最も得意としているゾンビマンにとって、局所的な噂の収集など楽勝だった。
だが、彼が知っているのはあくまで噂だけ。
パチュリーの顔を見たのも今回が初めてだった。
「魔法使いぃ~? まさかとは思うけど、そんな非現実的な物を信じてS級にしたんじゃないだろうね? だとしたら幹部の人達の感性を疑わざるをえないんだけど?」
「信じられないのも無理は無い。だが、パチュリー君は間違いなく魔法使いだ。魔法は実在し、目撃者も数多く存在している」
「あのね…今の世の中、その気になれば魔法染みた現象なんて幾らでも科学で解明できて……」
「ブレイク」
流石に自分の魔法が疑われるのが我慢出来なかったのか、いきなりパチュリーは石化の魔法『ブレイク』を発動。
だが、その対象は童帝ではなかった。
「あがっ!? な…なにっ!? ボクのキャンディーがいきなり石になってるっ!? そんな馬鹿なッ!?」
「これでもまだ魔法を否定する?」
「くっ…!」
「その気になれば色々と出来るわよ? 小人にしたり、豚にしたり、カエルにしたり。どれがいい?」
「う…ぐぐぐ…!」
幾ら天才少年とはいえ、突如として自分の持っていたキャンディーが石化した理由を科学的に証明は出来ないようで、歯痒い顔をしていた。
「以前、試験の時に私が言った言葉をもう一度だけ言ってあげるわ。『怪人や超能力者が普通に存在しているのに、魔法の存在だけを否定するのはおかしいんじゃないの?』」
正論。誰も何も言えないような正論。
実際、パチュリーと知り合っている者達以外は真っ向から論破されて何も言えないでいた。
「そこまでだ」
このままでは荒っぽい事になりそうだったのでシッチが急いで食い止める。
最初からパチュリーは荒事になどするつもりは無かったのだが。
「少々、荒療治ではあったが、これで彼女の魔法が本物であることは理解出来たと思う」
「フッ…俺達が見た一撃は、あんなもんじゃなかったけどな」
「あの深海王を一撃で完全消滅させていたからな」
「しかも、相手の攻撃を全て跳ね返すおまけ付きでな」
海人族との戦いの最終局面。
パチュリーが放ったエンシェント・カタストロフィーはどんな堅物も一発で黙らせるほどの説得力があった。
あれを見た人間は皆が揃って同じことを口にするだろう。
『魔法は実在する』…と。
「…魔法だろうがなんだろうがどうでもいい。実力さえあるならば文句は言わん」
「僕も、彼女がS級になるのは賛成かな」
「そうだな。新しい仲間が増えるんだ。これ以上に嬉しい事は無いじゃないか」
フラッシュと豚神、クロビカリも賛同し始めた。
これでS級の半数近くがパチュリーを認めた事になる。
「まぁ…別にいいんじゃない? フラッシュじゃないけど、私の足さえ引っ張らなければ、後はどうでもいいわ」
「タツマキちゃんまでっ!?」
「大丈夫よ。ご期待には応えてみせるわ」
「ふん……」
あの協調性が最もないタツマキすらもが賛同した。
これではもう反対する方がバカを見るだけだ。
こうなったら流石の童帝も認めるしかなかった。
「他の皆も異論はないな? では、今この瞬間からパチュリー君を18人目のS級ヒーローとする!」
「改めて、これからよろしくね。先輩方」
こうして、パチュリーは正式にS級ヒーローとなったのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
パチュリーの紹介と承認が済み、ようやく緊急集会を始められた。
「少し遅くはなったが、改めて本題に入らせて貰おうと思う」
シッチの只ならぬ雰囲気を感じ取ってか、全員が彼に注目する。
「ヒーロー界の頂点に君臨する君達に集結して貰ったのは他でもない。今回、君達には…地球を守って貰いたい!」
いきなりにして、まるで漫画やアニメのような言葉。
だが、協会幹部が伊達や酔狂でこんな事を言わないのは彼らだって知っていた。
「今回ばかりは桁違いの超人揃いのS級ヒーロー達でも命を落とす危険性がある。逃げるのもまた勇気だ。今ならば辞退をしても文句は言わないし、S級から降格なんて事もしない。だがしかし、これから話す事を聞いてしまった者は逃がすわけにはいかなくなる。その場合は最低でも事が収束するまでは、こちらの方で拘束をさせて貰う事になる。申し訳ないとは思っているが、我々とて可能な限りの混乱は避けたいのだ」
人が良さそうなシッチがここまで言う。
明らかに只事ではないのは確かだった。
「全員…話を聞く覚悟は出来たか?」
彼からの最終確認。
それを聞いても、この場から去ろうとする者は誰一人としていなかった。
サイタマやこあですらも。
「その前に一つだけ尋ねたい」
「どうした? 駆動騎士」
ここで声を出したのは、まさかの駆動騎士。
意外過ぎる人物の発言に全員が密かに驚く。
「ここにはS級以外にも他の者達もいるが…問題は無いのか?」
「その事か。それならば心配は無用だ。そこにいるサイタマ君は我々も注目している有望株で、将来的には彼もまたS級になるだろうと踏んでいる。故に、彼は決して部外者という訳ではない」
「では、パチュリーの傍にいる彼女は?」
「こあ君はパチュリー君の弟子であり、また優れた魔法使いでもある。他のヒーロー達からの信頼も厚いので、ここで話を聞いても問題にはならない。というか…」
一度、全員の顔を見てから呼吸を整え、発言を再開する。
「今回話すことはいずれ、A級やB級、C級のヒーロー達にも公表する予定となっている。君達S級は彼らよりも一足早いというだけに過ぎない」
「そうか…ならばいい。話の腰を折って悪かったな」
駆動騎士が引っ込み、これで話が進む…と思いきや、今度は金属バットが思い切りガンを付けてきた。
「今から話す事ってよぉ…マジで俺達全員を集めてまで話すような事なんだろうな? えぇ? こちとら妹の大事なピアノの演奏会をドタキャンして来てやってんだ。下らねぇ話だったら、この本部をマジでぶっ壊すぞゴラァ…!」
金属バットの本気の怒りを受けながらも、シッチは涼しい顔をしていた。
協会幹部ともなれば、この程度ではビビってはいられないのだろう。
因みに、それを聞いていたパチュリーの中で金属バットの第一印象は『短気で喧嘩っ早いけど、妹想いの優しいお兄ちゃん』になった。
「…君達は大予言者『シババワ』様を知っているな?」
「当たり前だ。彼女ほどの有名人を知らないものなんて殆どいないだろう」
ゾンビマンが当然のように言うが、約一名だけ『なんのこっちゃ』という顔をしていた。
「ね…ねぇ…そこの…えっと…ぷりぷりプリズナー…だったっけ? ちょっといい?」
「ん? どうかしたのか、サイタマちゃん?」
「ちゃんって…まぁいいや。あの人が言ってる『シババワ様』って誰?」
「え? まさかサイタマちゃん…あのシババワを知らないのか?」
「うん。知らない」
意外な事にあのプリズナーが静かに驚く。
流石の彼も大事な会議を邪魔するような真似はしない。
「世界的にも有名な大予言者だよ。大災害や怪人が襲来するタイミングを見事に当てる凄い人。テレビとかにもよく出演してたぞ?」
「え…マジ? パチェ達は知ってた?」
「「「勿論」」」
「えぇ~…」
まさかの自分だけ知らなかった事件。
特にパチュリーとは長い付き合いなのに、自分だけ知らなかった事に地味にショックを受けた。
「私、シババワの書いた本を持ってるわよ?」
「シババワ様の朝の占いコーナー、よく見てたんですよ~」
「俺も噂ぐらいなら。かなり高名な預言者らしいですが…」
「うそーん……」
急にやって来る疎外感。
今度からはちゃんと色んな番組を見るようにしようと思った。
「そのシババワがどうかしたのか?」
「……死んだ」
「なに?」
「大予言者シババワ様が……死亡した」
まだまだ会議は続くんじゃよ。