さてはて、一体どうなる?
シババワが死んだ。
それを聞いた途端、この場にいた全員に衝撃が走った。サイタマ以外は。
「あのシババワが死んだだとっ!? 何者かに殺されたのかッ!?」
全員が一番最初に疑問に思った事をゾンビマンが代弁してくれた。
だが、それに対してシッチは重苦しい表情のまま首を横に振った。
「それはまだ分からない。そもそも、シババワ様が死亡したのは今から一週間ほど前…つまり、例の海人族たちが襲撃してきた時なのだ」
「もしや、奴らがシババワ様を…?」
「普通ならば、そう考えるのが妥当だろうが…それだけは絶対に有り得ない」
「あぁ? なんでそう言い切れんだよ?」
煮え切らない言葉を繰り返すシッチに、金属バットが睨みながら疑問を提示する。
質問されたシッチは、何故かパチュリーの方を向いて静かに答えた。
「傍で護衛をしていた者達によると、シババワ様の死亡時間は…パチュリー君が深海王と一騎打ちをして奴を撃破した時とほぼ同じだからだ。観測班によると、敵のボスが倒されたことで海人族の残存勢力は逃亡を開始していたらしい。つまり…」
「奴らにシババワを殺す余裕なんてなかった…」
「そうなる。それ以前に、シババワ様の死因については不可解な部分が多いのだ」
ふぅ…と息を吐いてから、額に付いた汗をハンカチで拭ってから、シッチは話を続けた。
「当時、シババワ様は半年先の未来を占っていたらしいのだが、その時になにやらとんでもないものが見えてしまったらしく、激しく動揺していたらしい」
「とんでもないものとは?」
「それは分からん。だが、護衛の者達の話によると、あんなにも狼狽えたシババワ様を見たのは初めてだったらしい」
予言者ともなれば、これまでに様々な未来を予知してきたはず。
余程の事が無ければ動揺なんてしない筈の人物が、気が動転する程に驚く。
それはどう考えても普通の事じゃない。
「予言の直後、シババワ様は急に胸を押さえて苦しみだし床に倒れた。あの方には持病の類などは無く、今年の健康診断でも問題無しと結果は出ていた。なので、少なくとも病気の類ではないのは確実だ」
病死ではない。
それを聞いたパチュリーと童帝はほぼ同時に手を上げて質問をした。
「ねぇ…ちょっといいかしら?」
「僕からもいいかな?」
「この場にいるS級でも屈指の頭脳を誇る二人からの質問か。何かな?」
「「もう検死は終わってるの?」」
「矢張り、それを聞いてきたか……」
質問の内容を予想していたのか、二人の元にシババワの検死結果が表示された投影型ディスプレイを表示させた。
「この通りだ。本来ならば極秘事項なのだが、君達ならば特別に許可しよう」
「何かに心臓を握り潰されたかのように破裂していた…ですって?」
「けど、胸部には一切の外傷は無し…。って事は、殺されたのはまず確実。でも、その手段は明らかに普通じゃない」
「パチュリー君。良ければ君の意見を聞かせて欲しい」
いきなり話を振られて顔を上げるが、全く驚いてはいない。
この場の視線が全て彼女に集中した。
「心臓麻痺ではなくて心臓破裂…この時点で童帝くんが言ったように殺害方法が通常の手段でないのは確定ね。考えられるとすれば、超強力な指向性の念動力を使ったか、もしくは……」
「もしくは?」
「呪いの類…かしら」
普通ならば一笑に付すところだが、話しているのがパチュリーならば事情は変わる。
魔法使いである彼女は謂わば、この手の事に関するエキスパート。
この場の誰よりも詳しく、頼りになるのだ。
「心臓に関する呪いなら『呪いの藁人形』とかが最も単純で強力よ。しかも、材料も集めやすいときてる」
「それならボクも聞いたことがあるけど、あれって本当に効果があるの?」
「少なくとも、他の呪いよりかは強力なのは確かよ。簡単な手順ぐらいは皆も知ってるんじゃないかしら?」
ここで敢えて自分で説明をするんじゃなく、他の皆に答えさせようとする。
まるで学校の先生のようだ。
「確か…藁で作った人型の人形を丑三つ時に神社の木に釘で打ち付ける…じゃなかったか?」
「一般的にはそうなってるわね。でも、実際にはもう一段階手順が必要なの」
「それはなんじゃ?」
「呪う対象と藁人形との間に因果関係を作り出す事。例えば、その相手が大事にしている私物とか。一番なのは相手の体の一部を藁人形に組み込む事ね。爪の欠片とか、髪の毛とか」
アトミック侍が世間一般に知れ渡っている情報を言ってくれたが、そこは魔法使い。
すぐに訂正を加えてくれた。
「藁人形と対象との間に因果の糸が出来れば後は簡単。釘を使って胸の部分を突き刺せばいい。藁人形は対象の分身に等しい存在と化しているから、藁人形が受けるダメージは対象のダメージにもなる。けど…これは無いでしょうね。自分で説明をしておきながら申し訳ないけど」
「シババワが死亡したのは昼間。藁人形の呪いを使いたくても、時間帯的な意味で不可能…か」
「ゾンビマン正解。けど、彼女の死亡原因についての調査の方向性はそっちで良いと思う。常識的な考えは捨てた方が良いわ」
「うむ……」
結局、もっと謎が増えてしまったが、それでも無駄な話し合いではなかった。
少なくとも、超常現象的な方法で殺害されたことに間違いは無いのだから。
「なにやら話が妙な方向に逸れてしまったが…つまり、これからはシババワの未来予知無しで災害や怪人被害の対策をしていかなくてはいけない…それが今回の話の主旨という事だな?」
最後にクロビカリが綺麗に纏めてくれたが、それに対してまたもやシッチは首を横に振った。
「残念だが、それは違う。シババワ様は常にごく一部の災害しか予言出来なかった。これまでにも未来予知できなかった災害の方が圧倒的に多かったのも事実なのだ」
「だが、それでもヒーロー協会は彼女の身辺を厳重警護をしてVIP扱いをしてきたはずだ。それは何故だ?」
「…実際にシババワ様の予言が無くても乗り越えられた窮地はこれまでに沢山存在している。隕石落下や海人族などがそれに該当する。だが、それでも我々が彼女の存在を特別扱いしているのには決定的な理由があるのだ」
いつもは無口な駆動騎士の珍しい何度目かの質問に、シッチは厳しい顔をしながら答える事に。
「シババワ様の予言は…100%的中するからだ」
絶対予知。
これ程までに強力な能力もそう無い。
だからこそ、その存在を危惧されたのかもしれないが。
「そして…今回の話の本当の核となるのは、そのシババワ様が死ぬ間際に必死に遺した一つの予言文にある!」
呼吸を荒くし、拭いた汗を再び出しながらシッチは懐から一枚の折り畳まれたメモ紙を取り出し、それを目の前の機器にスキャンさせた。
「死の苦しみに耐えながらもシババワ様が最後に書き残した遺書とも言うべき一文。ここに近い未来に確実に訪れる未来が示してある。皆もよく見て欲しい…」
スキャンされたメモが投影され、ここにいる全員に見えるようになる。
それを見た途端、皆が驚きと同時に叫びを発した。
「ち…地球が……」
「ヤバイ…!?」
全員が余りにストレートな予言に目を丸くする中、パチュリーだけがそのメモを射抜くように見ていた。
「あのさぁ…幾ら予言と言って、適当過ぎじゃない? これじゃあ正しい意味が伝わらないよ」
「…童帝くんの言う通りだ。このメモには『いつ』『どうして』『何が』といった部分が抜けている。正直、私も最初にこれを見た時は目を丸くした。だが、さっき私が言った事を覚えているかな?」
「シババワの予言は100%当たる…だっけ?」
「そうだ!」
いきなり机をバンッ! っと叩きつけて今までに溜まっていた不安をぶちまけるかのように叫びだす。
「これまでにシババワ様は数多くの予言をしてきて、それを見事に当ててきた! 大洪水に危険生物の大量発生、そして大地震! その中には多くの尊い命を失う結果となった予言も少なくない! だがしかし、それ程多くの予言をしてきても、これまでに一度も『ヤバイ』という表現を使った事はない!! これが意味している事は只一つ!!」
ギロリと全員の顔を見渡して、全員に向かって納得させるかのように大声を出した!
「大地震や災害レベル『鬼』や『竜』レベル以上の怪人が襲来すること以上の『ヤバい』ことが起きようとしている事なのだ!! しかも、この半年以内の間に確実に!!!」
シッチの必死の叫びに対し、キングは静かに鼓動を鳴らし、番犬マンは極めて冷静に努める。
「言いたい事は理解したけど、半年以内じゃいつその『ヤバい』ことが来るのかさっぱり分からない。対策の立てようがないじゃない」
「番犬マンさんの言う通りですよね…。しかも、いつ来るかってだけじゃなくて、規模も分からないんじゃ……」
この中で最も不安を感じていたこあが、両手を胸辺りで押さえながら視線を下に向ける。
そんな彼女にジェノスが密かに手を添えて、少しでも不安を取り除こうとしていた。
「…番犬マンとこあ君の言う事も尤もだ。だがしかし、今日から半年以内に戦う準備を覚悟だけはしておいてくれ! 非力な凡人を代表して言わせて貰うが、今だけは君達ヒーローだけが頼りなんだ!」
「なぁ…ちょっと思ったんだけどさ」
「何かな? サイタマ君」
話し合いが終わりそうな雰囲気になった時、サイタマが呑気に手を上げて質問をしてきた。
彼にしては割と珍しい事だ。
「半年以内って事は、もしかしたら明日や明後日かもしれないし、最悪の場合は今日の可能性だってあるんだよな?」
「…確かに、その可能性も否定できない…」
「サイタマちゃん…中々に不穏なフラグを立てるな…」
プリズナーも空気を読まなさすぎるサイタマに少しだけ引いた。
それとは別に、パチュリーは未だにメモをジッと見ている。
「さっきから静かだが…どうかしたのか? パチュリー君」
「タンクトップマスター…ううん。このメモを見て少しだけ気になった事があって……」
「な…なんだっ!? この際、どんな些細なことでもいいから教えてくれ!」
危機が来るというだけで、他には何も分からないこの状況。
藁にも縋るような思いでパチュリーの意見を聞くことに。
「『地球がヤバい』ってさ、普通に読めば『地球に危機が迫っている』って読み取れるけど、私にはそれとは別の意味に見えたのよね……」
「べ…別の意味とは…?」
「『惑星とは一種の生命体である』。昔、こんな事を言ってた天文学者がいたわ」
「…? それがどうかしたのかね?」
パチュリーが何を言いたいのか理解が出来ず首を傾げるシッチ。
それは他の皆も同様で、全員が目を丸くしていた…童帝以外は。
「…成る程ね。パチュリーお姉さんが何を言いたいのか分かったよ」
「な…何ッ!?」
「君ならば、そう言ってくれると思ったわ」
さっきまでの険悪なムードはどこへやら。
いつの間にか意気投合していた頭脳労働おねショタコンビ。
「生命体である以上、そこには大なり小なり『意志』が必ず存在している。そして『地球がヤバい』という予言。この二つから導かれる答えは一つだけ」
「そ…それは一体…!?」
「…地球という惑星そのものが私たち人類に…いや、この世に存在している生きとし生ける者全てに牙を剥こうとしている」
「なっ…!?」
シッチが言っていた漠然とした忠告よりも遥かに明確な答え。
それを聞き、ようやく皆は事態を重く受け止め始めた。
「つまり…君はこう言いたいのか? 我々は全ての命を育んできた母なる地球と戦わなくてはいけないと…?」
「そうよ。私達が守るのは世界ではなくて人類という種そのもの」
「パチュリーお姉さんの考えが正しかった場合、今までずっと謎のままだった事も一気に解明に近づくかもしれない。例えば、『どうして怪人という存在がこの世に生まれたのか』とか……」
「シババワ様が予言した『地球がヤバい』とは…地球に危機が迫っているという意味ではなく…地球そのものがヤバいという意味だったのか…!?」
事態の深刻さは自分達の想像の遥か上を行くのかもしれない。
そう思った途端、シッチはストレスで激しい胃痛を感じた。
その時だった。
突如としてパチュリーとタツマキが椅子から立ち上がって天井を同時に見上げた。
「今のは…まさか…!?」
「アンタも感じたのね?」
「えぇ……ってことはアナタも?」
「まぁね」
予言の対策をするよりも前にやらなくてはいけない事が出来てしまった。
不敵な笑みを浮かべながら、パチュリーは隣にいるサイタマにいつも通りの言葉を放つ。
「サイタマ…先に行ってるわよ」
「おう。俺もすぐに行くわ」
「うん。ジェノス君、こあの事をお願い」
「パチュリーさん…?」
タツマキとパチュリーは互いに頷き合ってから、瞬間移動とテレポで外に出て行った。
突然すぎる出来事に他のヒーロー達は呆然としていたが…本部に起きた激しい衝撃によって、すぐに我に返った。
新たなる戦いの幕が開こうとしていた。
次回、まずはパチュリーとタツマキのコンビの活躍からお送りしようと思います。
やっと、あの二人がコンビを組むシーンを書けるよ~…!