だって、相手は宇宙人ですから。
原作世界の人間達からすれば、フィクションが現実になったようなもんですし。
突如としてA市に出現した超巨大浮遊戦艦の最初の攻撃をなんとか防ぐことに成功したパチュリーとタツマキではあったが、気を抜かずにジッと上空を見つめていた。
「あんなにも大きな物体が地球に降下してきたのに、誰一人として気が付く事が出来なかった。ってことは、考えられることは一つだけね」
「なによ?」
「さっきの私たちと同じことをしたって事」
「瞬間移動…いや、ワープをしてきたっての? こんなデカブツがっ!?」
「そうとしか考えられない。そもそも、あんな巨大な物体が当たり前のように宙を浮いている時点で、相手はこっちなんかとは比較にならないようなレベルの超オーバーテクノロジーを持っていると見て間違いないわ。それならば、戦艦レベルのワープ航法が出来る装置があっても不思議じゃない」
「冗談じゃない…って言いたいけど……」
忌々しげに自分達を見下ろしている戦艦を睨み付け、タツマキはボソッと呟く。
「…直に見ちゃってる以上…否定したくても出来ないじゃない…」
自分の十八番を機械で容易に再現できる程の技術力。
認めたくはないが、少なくとも科学力という点だけで言えば相手は自分達を完全に圧倒している。
「「ん?」」
敵さんに動きが無いかと上をずっと見ていた二人だからこそ気が付いた。
空から何かが落ちてきて、少し離れた場所にボトボトと大量の血と共に地面にぶつかり潰れた。
「何よアレ…怪人?」
「みたいね。恐らく、奴等とは別の勢力がヒーロー協会本部を強襲しようとしたけど、あの戦艦からの攻撃で殺された…ってところでしょうね」
降ってきた怪人たちの死体は全てがバラバラになっていたが、いずれも共通して何が起きたのか分らないと言ったような顔をしていた。
まるで、自分達が誰に、どんな方法で殺されたのかもわからないと言った感じに。
「どうやら、今回の敵は『地球の生物』ならば人間だろうが怪人だろうが関係なく攻撃を仕掛けてくるみたいね」
「ふん…上等じゃない。誰が来ようと関係ないわ。全員揃って返り討ちよ」
鼻息を荒くして気合を入れているタツマキ。
どんな状況でも自分を失わないのは、それだけ精神力が強いという事でもある。
伊達に超能力者ではない…ということか。
「パチェ――――――――」
「この声は…サイタマ? きゃっ!?」
「こ…今度は何よッ!? って、アンタはッ!?」
いきなり声がしたかと思ったら、いきなり本部がある方向からサイタマが何食わぬ顔で普通に落下、着地をしてきた。
「よっと。どうなってる?」
「この通りよ。っていうか、いきなり飛び降りてこないでよ。ビックリするじゃない」
「わりぃ」
「どうせ、本部の壁をぶち壊して来たんでしょ? 弁償とか言われたらどうする気?」
「き…緊急事態って事で……」
「その言い訳が通用するのは、あの場にいたシッチさんだけよ。きっと」
毎度のように特に何も考えずにやって来てしまったサイタマ。
宇宙人の襲来よりも、壁を壊したことによって発生する弁償の方が心配という、何とも言えない庶民気質が却ってパチュリーの心に安心感を生んでいた。
「まぁ…その時は私とジェノス君がどうにかするわよ。S級二人で理由を言えば、協会側も何も言えないでしょうし」
「パ~チェ~…(泣)」
なんて頼りになる相棒なのだろうか。
今度、何かパチュリーの好きなデザートでも買ってやろうと決めたサイタマだった。
「ちょっと。私の前でイチャイチャするのは止めてくれない? 今がどんな状況か分かってるの?」
「「イチャイチャなんてしてないよ?」」
「してるでしょうが!」
タツマキから見ても、この二人はそんな風に見えているらしい。
自覚が無いのは本人達だけ…ということらしい。
「…で、サイタマはこれからどうする気?」
「んなの決まってるじゃねぇか」
親指で上空を占領している戦艦を指し、無表情で言い放つ。
「勝手に地球に来た挙句、何も言わずにいきなり攻撃なんてしてきた連中をぶっ飛ばしてくる」
「はぁっ!?」
「だと思った」
余りにも突拍子もない事を言いだしたサイタマにタツマキは驚いた声を上げたが、彼にとってはいつもの事なのでパチュリーは普通に返した。
「いきなり来て何を言ってんのよアンタは! そもそも、どうやってあそこまで行くつもりよ!!」
「え? 普通にジャンプすれば余裕じゃね?」
「んなわけないでしょうがッ!?」
まだタツマキはサイタマの桁外れの身体能力をしらない。
だから、こんな事を言いだすのは当然だった。
「行くのは良いけど…ちょっとだけ時間を頂戴」
「何をする気だ?」
「少し調べるの。ライブラ!」
対象を詳細に調べる魔法『ライブラ』を宇宙戦艦にかけて、軽く調査してみる事に。
流石に全貌までは分からなかったが、それでもあることが分かったので彼女は満足そうな顔をした。
「成る程ね…サイタマ」
「どした?」
「あの戦艦の下部…その後ろの所に物資搬入口っぽいのがあるわ。そこからなら侵入できるかもしれない」
「マジか」
「壁をぶっ壊してから強行突破するよりは楽でしょ?」
「そうだな。んじゃ、いっちょ行ってくるわ」
「ん…いってらっしゃい」
たたた…と少し駆け出したところで不意に立ち止まってからこっちを振り向いた。
「そうだ。ジェノスに伝言いいか?」
「何を言えばいいの?」
「『こっちは任せた』って」
「…分かったわ。絶対に伝える」
「頼むな。じゃあ、改めて行ってくるわ」
両足に力を入れたかと思ったら、突如として凄まじい勢いで目の前にある高層ビルの屋上まで一発で登り切り、隣のビルに飛び移り移動…というのを何度も何度も繰り返していき、最終的には空飛ぶ巨大戦艦目掛けて純粋な脚力のみで飛んで行った。
余りにも常識離れした身体能力に、タツマキは開いた口が塞がらなかった。
「なによ…あれ……」
「あんなの、アイツに掛かれば余裕よ」
あれ程の身体能力を持っているのにB級?
どのS級でも、同じような事をするのは絶対に不可能だ。
強いて言えば、飛行能力を持っているパチュリーやタツマキならば似たような事は可能かもしれないが。
「…タツマキ。ちょっち上の奴の様子を見ててくれない? 少しやらないといけない事があるから」
「何をする気よ?」
「シッチさんに頼みごとを…ね」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
先程までS級ヒーロー達がいた特別会議室。
今はシッチだけが取り残されて、送られてくる情報に目を通していた。
流石に少しは冷静になったようで、今はさっきのように取り乱してはいない。
「頼むぞ…S級ヒーロー達…!」
無力な自分には祈る事しか出来ない。
そう思っていた彼の脳裏に突如として声が聞こえてきた。
(シッチさん…聞こえる?)
「あ…頭の中に声がっ!? この声はパチュリー君かっ!?」
(そうよ。あなたの携帯の番号とか通信機とか持ってないから、こうして念話で話してるの)
「そ…そうなのか。事前に渡しておけばよかったな。すまない」
(別にいいわよ。それよりも、あなたに頼みたい事があるの)
「私に頼みたい事…?」
彼女ほどのヒーローが自分に何を頼むつもりなのだろうか。
シッチは全く見当がつかなかった。
(これはヒーロー協会幹部であるシッチさんにしか頼めない事なの)
「…私に出来る事があれば何でも言ってくれ! 少しでも君達に協力出来るのであれば、どんな事でもしてみせよう!」
(よく言ってくれたわ。それじゃあ、急いでA級、B級、C級問わず、ヒーロー協会に属する全てのヒーロー達をA市に集結させて!)
「全てのヒーロー達をA市に…?」
(そうよ。この街は間違いなく大規模な戦場と化す。このままだと市民たちが戦いに巻き込まれるわ! だから、急いで他の市に避難をさせるの! 勿論、協会側から各種車両を出す事も忘れちゃダメよ!)
パチュリーの指示を聞き、シッチはそこで初めて己の愚かさを知った。
自分は何をやっているのだと。
本当ならば、彼女に言われるまでも無く自分から率先してするべき事ではないかと。
(その際、B級とC級は避難民の誘導を優先させてね)
「A級はどうするんだ?」
(彼らには殿と護衛をお願いしたいの。あれだけの巨大さを誇る戦艦なんだから、中には相当な戦力を隠している筈。こっちが市民を避難させようとすれば、それを邪魔してくる可能性が非常に高いわ)
「確かにな」
(A級ヒーロー達なら、そこらの雑兵程度ならば無双してくれる筈。これはもう私達だけの問題じゃない。文字通り、全てのヒーロー達と協会が一致団結しなくちゃいけない時なのよ! そうしなくては、敵を倒す事は出来ても、本当の意味で戦いに勝つ事は出来ない! 建物などは直す事は出来ても、人の命はどうにもならないんだから……)
憂いを帯びたパチュリーの言葉を聞き、シッチは目に光が戻り、同時に強く拳を握りしめた。
そうだ。何を考えていたんだ自分は。
己だけ安全圏にいて戦いを眺めながら祈るだと?
ふざけるな。自分はそんな事をする為にヒーロー協会の幹部になったんじゃない。
「…了解した。全ての責任は私が背負う。私の持つ全ての権限を使い、君達をサポートしよう!」
(頼んだわよ。どうやら、向こうからお客さんも来たみたいだしね)
「客…? まさか敵かっ!?」
(うん。それじゃあ…頼むわよ)
念話が終わり、シッチは自分の両頬を叩いて気合いを入れた。
すぐに内線を使って全ての部下たちに命令を出す。
「こちらシッチだ! 大至急、全てのヒーロー達をA市に集結させろ! 大至急だ!! 市民たちを避難させてS級たちが後顧の憂いなく戦えるようにするんだ! 避難警報? そんな事をしたら敵に悟られてしまうだろうが!! 可能な限り避難は奴らにバレないように行うんだ! 急げ!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…これでよし…っと」
自分の額に人差し指を当てて何かをブツブツと呟いていたパチュリーを見て、タツマキはジト目で彼女を見つめる。
タツマキも超能力者だから、何をしていたかは分かっていた。
「後は時間との戦いね。んで…あいつはこっちに来てる感じ?」
「来てるわよ。ついでに言えば、思いっ切りこっちを見てる」
「あらら。私達に惚れちゃったのかしら?」
「冗談でも笑えないわね」
パチュリーの言った軽口に、思わず笑みを浮かべるタツマキ。
別に緊張していた訳ではないが、それでも不思議と気が楽になった。
それは、人型というには余りにも異形だった。
全身に血管や神経のようなものがびっしりと浮かびあがっていて、その背には翼竜のような翼を広げ、あろうことか頭部が五つもあるおまけ付き。
トドメに左腕が巨大な槌のような形に変形していた。
「船の攻撃が防がれたぞ」
「しかも、全部返された」
「あそこにいる奴らがやったのか。殺すか」
「いいと思うよ」
「船、守る、役目」
一人で会話をしているように見えるが、実際には五つの頭部が会話をしているようだ。
それだけでも十分に奴らが常識の範囲外にいる存在だと認識できる。
地球の存亡を賭けた戦いが今…始まろうとしていた。
次回から本格バトルがスタート。
パチュリー達はどんな戦いを繰り広げるのか?