年々、疲れが取れにくくなって大変です。
休養大事。これ絶対。
目の前の異形の怪人の異常なまでの再生力を目の当たりにし、パチュリーは不思議な違和感を覚えた。
「おかしい……」
「何がおかしいってのよ?」
彼女の隣で宇宙船からの砲撃を警戒していたタツマキが、ふと零した一言に反応する。
この二人、短い間に地味に距離を近づけつつあった。
「通常、私達人間に限らず、あらゆる生物は何か行動をする際には必ず大なり小なり『エネルギー』を消費するものなのよ。歩行や食事は言うまでも無く、呼吸をする際にだって極微小ではあるけどエネルギーを確実に使う」
「ふーん…で?」
「あいつは、S級複数と戦いながら自己再生なんて芸当までやってるのに、全く疲弊した様子が見受けられない。明らかに異質なのよ」
「あの怪人が、そんな性質をした奴ってだけの話なんじゃないの?」
「もしもそうなら、誰にも絶対に倒せないわよ。けど、この世に倒せない存在なんて無い。生きとし生ける者はいつか必ず滅ぶ。これは全ての命に確約されている運命なのよ。あいつだけが例外なんて有り得ないわ。絶対に何かカラクリが有る筈…」
昔から、分からないことがあれば徹底的に調べなくては気が済まない難儀な性格をしていたパチュリー。
それは例え、敵との戦闘中でも同じであった。
(試しにライブラでもしてみますか…?)
目の前でアトミック侍の剣撃を受けながらも再生を始めた怪人の中心部に目掛けてライブラを発動。
これで敵の謎が少しでも暴かれれば…と思っていたが、そこでパチュリーが初めて目を見開いて驚愕する。
「うそ…でしょ…?」
「ちょ…今度はどうしたってのよ?」
「ミスった…? ライブラを…?」
「は?」
攻撃魔法を回避されたとかならばまだ分かるが、調査魔法であるライブラが避けられるなんて有り得ない。
ライブラは単に敵に向ければいいというものではなく、調査対象の中心部…要は心臓などに向けて放つ魔法で、そこから相手の情報を抜き取るという魔法なのだが、どういう訳か今回はそれが出来なかった。
(なんなの…今の感覚は…。まるで、投げられたボールが目の前で失速してキャッチし損ねたような…確かに掠りはしたのに取る事が出来なかったような…そんな感覚。まさか…)
グロテスクな音を出しながら再生する怪人を見て、自分の手を見る。
(体の中を心臓が高速で動き回っている…? そんなことが……)
ここで怪人も自分の身体に起きた微細な違和感に気が付いて動きを止めた。
「今の感じ…そうか。調べたな? この俺を…俺の身体を!」
「バレた?」
「そうか…貴様は味方のサポートだけでなく、こんな事も出来るのか…身の程知らずが!!」
「しまっ…!?」
「抜けられたッ!?」
「パチュリーちゃんっ!!」
バングやプリズナーを振り切り、その巨体からは想像もつかないような速度でパチュリーへと迫る!
彼女には常時『テトラカーン』が展開しているので心配は無いが、それでも衝撃までは完全には防げない。
「お前だけは…ここで確実に殺す!!」
「…………」
自分の魔法に絶対の自信を持っているからか、強襲してくる相手にも全く怯まない。
その巨大な拳がパチュリー目掛けて振り下ろされる…事は無かった。
「始末されるのはお前の方だ」
パチュリーの後ろから伸びてきた機械の腕から放たれた焼却砲をほぼゼロ距離に近い場所から受け、怪人は胸部から上を完全に消し飛ばされた。
「なん…だと…!?」
一気にアトミック侍達がいる場所まで戻された怪人は、いきなり何が起きたのか理解するまで少しだけ時間を要した。
だが、パチュリーだけはその正体が分かっているようで、前を向いたまま笑みを浮かべ、その相手に礼を言った。
「ナイスタイミング。ありがと、ジェノス君」
「大丈夫でしたか? パチュリーさん」
掌から煙を出しているのは、皆と合流をしたジェノスだった。
彼の後ろからは、こあが飛んできて傍に着地をした。
「お待たせしました、パチュリーさま!」
「ここからは俺達も戦います」
「お願いするわ。二人とも」
更なる増援にヒーロー達は笑みを浮かべ、怪人は体の再生をしながら心の中で苦虫を噛んだような表情をする。
(攻撃される瞬間に見えたが…まさかサイボーグまでいるとはな…。だが、どれだけ頭数が揃おうとも意味は無い……ククク…!)
失われた部分が再生されるのを見た時、パチュリーはある『物』を見た。
そして、今度こそ見逃さないように『それ』目掛けてライブラを唱える!
「見えたっ!」
「なにっ!?」
勝利を確信した笑みを浮かべ、得た情報をすぐに頭の中で分析した。
彼女の頭脳ならば、数秒で答えは得られる。
「あぁ…成る程ね。そーゆーことか」
「何か分かったんですかっ!?」
「うん…非常に興味深い事が分かったわ。みんな聞いて」
イアイアンの言葉に頷きながら、怪人に向けて指を指し、鋭く睨み付けながら、その余裕の笑みを消し去る為の種明かしをすることに。
「皆が攻撃をしているのは単なる『外装』よ。どれだけ攻撃をしても意味が無いわ」
「んだとっ!? がいそー…って、要は鎧みたいなもんってことかよっ!?」
「正確には『仮の身体』って言った方が正しいけどね」
驚く金属バットを落ち着かせるようにしながら補足をする。
怪人はこれ以上、自分の秘密を喋られる前にパチュリーを始末しなければと思ってはいるが、ヒーロー達に囲まれて思うように動けないでいた。
「最初はスライムのような生物かとも思ったけど、それは違った。スライムにはそこまでの強力な再生能力は存在してないから。そこで私なりに幾つかの仮定を考えたけど…まさか、そのうちの一つがドンピシャだったとは思わなかったけど」
「やめろ! それ以上、口を開くなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
もう形振り構っている場合ではない。
完全に体を再生させてからパチュリーへと再び襲い掛かろうとするが、そこをアトミック侍に両足を切断される事で妨害されてしまう。
「いい所なんだからよ…邪魔すんじゃねぇよ」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ…!」
地べたに這い蹲るという屈辱的な格好になりながらも、パチュリーの事を睨みつける事だけは止めずにいた。
「こいつの体の中には小さな玉のような形をした『心臓部』が存在している。しかも、一つじゃなくて5つも」
「心臓が5つもあるというのかッ!?」
「そうよ。しかも、それらは全て独立して動いているみたいね。だから、さっきみたいに分裂をしたり、一人しかいないのに会話をしているかのような言動をしていた。そりゃ疲れない訳よね。あんたは体の中から泥人形を動かしているだけで、皆はその人形に向かって攻撃をしているだけに過ぎないんだから。しかも、心臓部は常に体の中を高速で動き回って位置を特定されないように細心の注意まで払うおまけ付き。けど、どれだけ用心深くしていても、ネタバレさえしてしまえば幾らでもやりようはある。でしょう? 『メルザルガルド』?」
「俺の名前まで…! 辺境の惑星の原住民風情が…!」
「そうやって他種族を見下しているから痛い目を見るのよ」
自分の秘密を看破されても、その能力が無くなるわけではない。
両足を素早く再生されたのちに立ち上がり、この場で最も危険と判断したパチュリーに三度強襲をする…が、そんなことを何度も許すほど、ヒーロー達は甘くは無かった。
「小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! な…なんだ…!? 体が…鈍い…だと…っ!?」
「あなたにスロウの魔法をかけました。もうこれ以上…パチュリー様には近づけさせません!!」
なんと、とっさの判断でこあがスロウでメルザルガルドの動きを遅くし、その隙にバングがパチュリーの前に立った。
「ふん…タネさえ分かればこっちのもんじゃい。こあちゃんの言う通り…これ以上、好きにはさせねぇよ」
闘気が爆発的に膨れ上がる。
それは、真の強者、達人中の達人のみ到達する事が出来る極地。
「いねや」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
水とは時に、あらゆる武器をも凌駕する存在と化す。
それを体現するかのような流水の如き鋭い攻撃。
しなやかな動きから繰り出される圧倒的な連打は、メルザルガルドの巨躯をド派手に吹き飛ばした。
「成る程のぉ…これがパチュリーちゃんの言っておった、奴の『心臓部』とやらか」
「や…やめろ!! それから手を離せ!!」
しかも、打撃の際にしっかりと体の中に手を潜り込ませ、気の流れから瞬時に心臓部の場所を特定、取り出すことに成功していた。
こんな芸当はバングにしか出来ない事だ。
まさか、ここまで簡単に看破されただけでなく、攻撃と同時に弱点を取り出されるとは思いもしなかったメルザルガルドはすぐに立ち上がって反射的に叫ぶが、そんな言葉を馬鹿正直に聞くような人間はここには一人もいない。
「やーじゃ。ほれ」
パキン。
ガラスが割れるような音と共に玉が砕け、バングの掌の中に破片が散った。
「おふぅ……」
そんな声と共に、メルザルガルドの体の一部が溶けてなくなり、頭の数が一つ減った。
「おのれ…! 百余年連れ添った『頭』の一部がこんな場所で死ぬとは…!」
自分さえいれば、例えどんな奴が来ても問題無いと思っていた。
だが、現実はそうはいかなかった。
メルザルガルドの想像以上に強く、賢い存在が地球には存在していた。
その油断が、彼自身の破滅を呼びこんでいた。
「弱点さえ分かっちまえばこっちのもんだ! 行くぜ!!」
金属バットの声に呼応するかのように全員の士気が一気に向上する。
流れは完全にヒーロー達の方に向いている。
けれど、ここで油断をして『窮鼠猫を噛む』みたいな目に遭うのは絶対にゴメンなパチュリーは、全員に念話を使ってある事を伝えようとした。
(みんな…返事はしなくていいから聞いて頂戴。確かに弱点は看破したけど、奴はその弱点を常に移動させて、どこにあるのか分からないようにしている。だけど、それすらもどうにかする方法を思い付いたわ。ふっ…どんなに強い再生力を持っていても、やっぱり人型特有の『癖』ってのは完全には抜けないみたいね。これは『パターン』よ。いい? まずは……)
パチュリーからメルザルガルド完全攻略の方法を聞かされ、この場にいる全てのヒーロー達は驚いたかのように大きく目を見開く。
「おいおい…マジかよ」
「ほほぅ…? 面白そうじゃねぇか…」
「本当にパチュリーちゃんが味方で良かったわい…」
弱点を見抜いただけで飽き足らず、その攻略法まで思いつく容赦のなさ。
これで少し前までA級だったのだから恐ろしい。
金属バットは少しだけドン引きし、アトミック侍は楽しそうにニヒルな笑みを浮かべ、バングは苦笑いを浮かべる。
そして、タツマキはパチュリーに聞こえないぐらいの小さな声で密かに呟いた。
「……凄いじゃないの…パチュリー…」
「ん? なんか言った?」
「な…何でもないわよ!」
怒られた。
どうして怒られたのか分からないパチュリーは頭の上に疑問符を浮かべる。
「そうだ…ジェノス君。実はサイタマから伝言を頼まれてるの」
「先生から伝言ッ!? そういえば、さっきから先生のお姿が見えないような…まさかっ!?」
「うん…君の想像通りよ」
「そう…ですか……」
誰よりも先に敵陣へと突入し孤軍奮闘…否、獅子奮迅の活躍と言った方が良いか。
ともかく、サイタマはたった一人で今も戦っている。
「『こっちは任せた』…ですって」
「先生が…俺に……」
今まで一度でも、戦闘時に『任せた』なんて言われたことがあっただろうか。
いや、記憶が正しければ一度も無い。
その彼が自分に『任せた』と言ってくれた。
それは即ち、自分にならば任せられるという事だ。
「…了解しました」
腰を低くしてから構え、ジェノスは初めて戦闘時に微笑を浮かべた。
「サイタマ先生の弟子として…その命令、全力で遂行します!!」
「その意気よ。こあはこっちに来て。私と一緒に皆をサポートするわよ」
「分かりました!」
これで体勢は整った。
あとはメルザルガルドを倒すだけ。
その時だった。
ヒーロー協会本部からオープンチャンネルで全員に聞こえるような音量でシッチから連絡が来た。
『ヒーロー諸君!! 待たせたな!! ようやく準備が整ったぞ!!』
今回も原作にない、A級たちなどの戦いも描くつもりです。
フライングする予定の彼もまた…?