ヒーローは絶対に勝つ。
自身の再生能力をパチュリーによって看破されてしまったメルザルガルド。
これまでに一度も経験した事の無い焦燥感に支配されていると、いきなりヒーロー協会本部からシッチの声で放送が流れてきた。
『ヒーロー諸君!! 待たせたな!! ようやく準備が整ったぞ!!』
その声とほぼ同時に、協会本部の四方の壁が収納され、中から大量の装甲車などが一斉に出動していった。
東西南北、全ての方角へと向かい、一人でも多くの人々を安全な場所へと連れて行くために。
「な…なんだこれはっ!?」
「テメェに言う義理はねぇよ」
こっちの思惑を敵に教える必要はどこにも無い。
だが、これまでに幾多の星で戦ってきたメルザルガルドはすぐにヒーロー達が考えている事に気が付いた。
「そうか…貴様等。一般人たちを戦いに巻き込まない為に避難させようとしているな?」
「だとしたらどうだというんだ」
「別に…ただ、哀れだと思っただけだ」
「んだと?」
弱点を露呈され、一対多数の状況であるにも拘らず余裕の表情を崩さないメルザルガルド。
どうして彼がこんな態度をしているのか、それはすぐに判明することになる。
「わざわざ…自分達から一網打尽にされに来ていることがだ!!」
その叫びと共に、上空に控えている宇宙船から雨のように何かが地表に降り注いでいる。
よく見るとそれは雨ではなく、何か生き物のようにも見えた。
「あれは…!?」
「まさか、こっちの戦力が俺だけだとでも思っていたのか? ずっと出撃の準備をしていたんだよ! 俺はその時間稼ぎをしていただけにすぎん!!」
「貴様ほどの奴が時間稼ぎだと…!?」
まさかの一言を聞いてイアイアンは戦慄する。
このメルザルガルドは、間違いなく災害レベル鬼か、下手をすれば竜の可能性があるほどの強敵だ。
そんな奴が時間稼ぎなんて役目をするだなんて信じられない。
「む…? なんだか予定よりも数が少ないような気がするが…まぁいい。所詮は辺境の惑星の原住民、あれだけでも十分に殲滅できるだろう」
戦艦から降り注ぐ敵の戦力を見て、ジェノスは密かにパチュリーに近づいて耳打ちをする。
「…サイタマ先生は止められなかったのでしょうか?」
「そうじゃないわ。『数が少ない』ってあいつも言ってたでしょ? それはつまり、あっちでサイタマが暴れてくれてるから、敵の戦力を削られたってことよ」
「どうすんのよ? 私が潰す?」
二人の会話にしれっと割り込んできたタツマキの言葉に、パチュリーは首を横に振る。
それは別にタツマキの能力を過小評価している訳ではなく、それに関する準備は既に整っているからだった。
「その必要はないわ。タツマキは、戦艦の砲撃にだけ注意をしてくれてればいい」
「…本当にいいのね?」
「うん。全然大丈夫。だって…ヒーローは私達だけじゃないから」
チラッと戦艦から降りてきている連中を見ると、地上から放たれたガトリング砲のような攻撃によって迎撃されているのが分かった。
「ば…馬鹿なッ!? 降り立つ前に倒されているだと!?」
「あの攻撃は……!」
「どうやら、来たみてぇだな」
アトミック侍が不敵な笑みを浮かべる中、イアイアンは目を見開く。
あの攻撃には見覚えがあったから。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
A市西部地区
そこには既に数多くのヒーロー達が集結し、市民たちを協会の車に乗せたり、着地に成功した宇宙人達と戦ったりしている。
その中でも一人、上空に向けて攻撃を仕掛けているヒーローがいた。
「自分達から当たりに来てくれるとは、随分とお優しい怪人…いや、宇宙人共だな」
地上からのガトリング一斉射撃によって空中からやって来る宇宙人たちの雑兵たちを一掃していくのは、A級8位のデスガトリング。
左腕がガトリングとなっている射撃戦が得意なヒーローである。
「そっちはどうだ!
「ぼちぼち」
ボルトアクション式の特別製のアンチマテリアルライフルを構えているコートを着たA級22位『
超一流のスナイパーであり、右目に付けているモノクルのようなゴーグルにて狙いを定めている。
デスガトリングとは全く違う、一発一発を確実に命中させる事で確実に敵を葬っていた。
「よりにもよって空中から降りてくるように襲撃してくるだなんて、こっちに『狙って下さい』って言ってるようなもんだ。そういうとこだぞ…っと」
呟きながらも再び命中。
先程から全く外す気配が無い。
長射程の戦闘において、A級で彼に敵う者はそういないだろう。
「このやろ~…さっきからよくも仲間達を撃ちまくりやがって!」
「銃使いなんて、近づいちまえばこっちのもんだ! やっちまえ!!」
無事に地上に降りてきた連中が、未だに空中に狙いを定めているワンショッターに襲い掛かろうとする…が、それは完全な悪手だった。
「狙撃兵は近づけば楽勝……そんな事は誰が決めた常識だ?」
「なんだとっ!?」
即座にレーザーサイトを起動、ライフルの銃口を腋の間から出してから背後に発射。
後ろから襲い掛かろうとした敵宇宙人の頭が破裂し倒れる。
「んな馬鹿なっ!?」
「遅い」
頭上を通り過ぎるようにジャンプをし、そのまま逆さまになりながら再びのヘッドショット。
着地と同時に弾丸をリロード。その隙を狙って二人の敵が左右から襲い掛かってきたが、瞬時にライフルを手放して懐から二本のコンバットナイフを逆手に装備、舞うような華麗な動きで瞬く間に切り裂いていった。
「銃使いだからってナイフの一本も持っていないと思っていたのか? そういうとこだぞ」
血の付いたナイフをハンカチで拭ってから仕舞い、地面に落ちているライフルを拾い上げた。
「遠い昔、弓兵はいざという時に備えて短剣を腰に装備していたという。敵を見た目だけで判断するなんて三流のする事……あ」
カッコよく台詞を吐いている所でワンショッターの表情が急に固まる。
その顔は見る見るうちに青くなり、途端に弱気になってしまった。
「ジャ…ジャムった…!」
「「「「え?」」」」
さっきまでカッコよかった彼はどこに行ってしまったのか。
余りの豹変ぶりに他のヒーロー達も市民たちも呆然としてしまった。
「うぅ~…いっつも肝心な時に…そういうとこなんだよなぁ~…」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
目の前にいる者達以外に自分達と戦える戦力がいるとは全く想定していなかったメルザルガルドは、遠い場所で次々と倒されていく同胞達を見て、怒りで体を震わせた。
「こ…こんなことが…!? 信じられん…!」
「何が信じられないんだ? 自分達が負けている事がか? それとも、自分達と互角に戦える者達が俺達以外にもいた事がか?」
「どっちもだろうよ」
船から戦力を投下さえすれば、地球人なんて簡単に捻り潰せると思っていた。
無力な人間達を人質にして、身動き出来ないこいつらを嬲り殺せると思っていた。
だが、それは大きなミステイク。
目の前で自分を睨み付けているタンクトップマスターとアトミック侍がそれを裏付けていた。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「!?」
遠くの方から何かがこちらに向かって吹き飛んできた。
それは目の前にベチャリと落ちて、体中を緑の血に染めて震える腕をメルザルガルドに向かって助けを求めた。
「メ…メルザルガルドさま…! こ…こいつらは…ヤバすぎます…!」
「お…おい…!」
部下を吹き飛ばしたと思われる者が道の向こうから、首の骨を鳴らしながら悠々と歩いてきた。
「どこまで飛んで行ったかと思ったら、まさか本部までとはな。全く…手間を掛けさせてくれる」
「アマイマスク……テメェか」
今回もまた参戦してくれているアマイマスク。
本来ならば、彼の今日の予定は情報番組の収録だった。
「またもやS級が揃っているのか。だが、そんな事はどうでもいい」
「ん?」
アマイマスクは疲れた顔を切り替えて、すぐにいつもの余裕の笑みを浮かべてパチュリーに向かい合った。
「今回の指示…全てパチュリー君の提案だと聞いた。早速、S級としての手腕を発揮しているようで安心したよ」
「それはどうも。あなたが来てくれているなら百人力よ。そっちは任せてもいいのよね?」
「勿論だ。現場の指揮は任せてくれ。必ずや人々を無事に避難させたうえで敵を殲滅してみせよう」
「お願いね」
力強く頷いてから、アマイマスクは飛んできた宇宙人を踏みつけてからトドメを差し、そのまま元来た道へと戻って行こうとする。
その後ろ姿を見て、イアイアンは迷うような顔を見せた。
だが、弟子のそんな顔を見逃すような師匠ではなかった。
「おいイアイ」
「は…はい、師匠……」
「いい機会だから、一つだけ言っておく」
手に持っている剣を構え、全身に力を込める。
「どうすればいいのか分からなくて迷った時はな…自分の心に従え」
「自分の…心に……」
「そうだ。今、お前は何がしたい? 何をするべきだと思っている?」
「俺が…成すべき事…それは……!」
俯き、体を震わせ……剣を鞘に収めた。
「…他のA級たちと一緒に人々を守る事です!」
「……そうか。なら、行ってこい!」
「はい!」
自分のしたい事、しなくてはいけない事を決めたイアイアンは、この場から去ろうとするアマイマスクを追って駆け出す。
迷いを振り切ったその背中を見届けながら、タツマキとジェノス以外のS級たちは満足そうな笑みを浮かべた。
「師匠! パチュリーさん! こあさん! 皆さん! ご武運を!!」
「おう!」
「そっちもしっかりね!」
「頑張ってくださーい!」
去りゆく弟子の姿を見て、また一つ大きく成長したことを実感したのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
宇宙戦艦内部ではサイタマが所構わずの大暴れをし、それをモニター越しに見ている者達が大慌ての状況になっていた。
「こ…こんなことがっ!? 次々とこちらの戦力が削られていく…! 奴は一体何者なのだっ!? というか、それ以前にどうやって侵入したんだっ!?」
タコのような姿をした幹部と思わしき者が幾つもあるモニターを必死に見ながら状況を整理しながら部下に指示を出していく。
だが、それよりも早くサイタマの破壊活動の方が進んでいく。
「くそ…! よりにもよってメルザルガルドとグロリバースの二人が出撃している時に! こうなったら、どっちか片方を呼び戻すべきか…?」
色々と思案をしていると、彼の背後から誰かが近づいてきて話しかけた。
「ゲリュガンシュプ。何を慌てている?」
「ボ…ボロス様…!」
青い肌に一つ目の男。
他の者達と比べると大人し目な印象を受けるが、その体から発せられるプレッシャーは桁違いだった。
「も…申し訳ございません。あろうことか、地球の原住民の侵入を許してしまいました…」
「なに?」
この船に侵入者がいる。
それを聞いて、彼の目が僅かに反応した。
「侵入から僅か数分にて船の損傷率が23%を突破。侵入者自体はたった一人ではありますが、撃退に向かった者達は全て倒されています」
もしかして。
そう思いたい気持ちを抑え込み、ボロスは冷静に部下たちに指示を出す。
「動力球が破壊されない限りは、この船が落ちる事は決してない。それよりも今、破壊されているのは居住区の辺りだな?」
「は…はい」
「雑魚共では相手にすらならないだろう。かといって、グロリバースとメルザルガルドは出撃している…。ならば……」
ここでふと、ボロスは正面モニターに映っているサイタマの横顔を目撃する。
それを見て彼は、一つの確信を得た。
(間違いない…先程からずっと船の中から感じていた『強大な力』の正体はコイツだ。恐らく、この男こそが『予言の者』…。ならば、外からハッキリと感じる別種の強大な力の持ち主こそが、もう一人の『予言の者』…)
ボロスは自分の中にある衝動に従い、通信係に命令を出した。
「正面モニターに外の映像を出せ」
「外…と申しますと、メルザルガルド様がいる付近でしょうか?」
「そうだ。早く出せ」
「しょ…承知しました」
通信係が機器を操作して外部モニターの映像を出した。
そこには、複数のヒーロー達と交戦しているメルザルガルドの姿が映っている。
「ほぅ…? あのメルザルガルドと互角以上に戦えるような猛者がこの星にいたとはな…」
どうやら、この地球という惑星は自分の想像以上に強い者達に溢れているようだ。
その中でも時に気になった者たちがいた。
(あの格闘家と剣士、それから緑の髪の超能力者は完全に別格だな。全宇宙規模で見ても、あれ程の使い手は何人いるか…)
だが、それよりももっと気になったのは、後方にて指示を出しつつも時折サポートをしている紫の髪を持つ少女だった。
(この異質な感じは…そうか。間違いない。あの少女こそがもう一人の『予言の者』…。ならば、俺がするべき事は一つしかあるまい)
マントを翻し、ボロスは徐にブリッジから出て行こうとする。
いきなりの事に思わずゲリュガンシュプは彼を止めようとした。
「ボ…ボロス様? 一体どちらに…?」
「部屋に戻る」
「は?」
「もしも奴がブリッジまで来たら、俺の所まで連れてこい。その男は…俺の獲物だ」
「で…では、もしや…こやつが例の予言の…!?」
ゲリュガンシュプに返事をせず、ボロスはそのまま去って行った。
去り際に、ボロスは心の中である確信染みた事を思っていた。
(…地上に降りたグロリバースとメルザルガルドは敗北するな。もしかしたら、今日こそが、この組織の最後の日になるやもしれん)
あぁ~! 深海王編の時と同じように、書きたい事が多すぎて上手く話が進まないよ~!
お蔭で、進行具合が非常にスローになってるし…。
なんとかして頑張ろう…えいえいむん!