それが私達『ヒーロー』だ。
A市各地で多くのヒーロー達が救助活動や戦闘を繰り広げている中、本部前にてS級ヒーロー達と戦っていたメルザルガルドは焦りを感じていた。
「こんな辺境にある星に、ここまで多くの戦闘員が存在していたとは…!」
「なんじゃ? ここまで来て今更後悔か?」
「だとしても、もう遅いがな」
「侵略者をこのまま逃がすほど、俺達は甘くは無い!」
着実に自分の動きを読まれ始め、弱点も暴かれた。
しかも、向こうにはパチュリーという司令塔が存在している。
状況的には完全に『詰み』だった。
「ちっ…! 余り気は進まんが…仕方あるまい」
大きくバックジャンプをして距離を取ったかと思ったら、メルザルガルドの頭部から一回り小さめの頭部が生えるように出現した。
「こうなったら、船に連絡をしてからの艦砲射撃で奴等とその仲間諸共、この街を今度こそ廃墟に変えてやる…!」
「いいと思うよ」
「頼んだぞ」
生えてきた頭部は千切れ、完全に分離をしてから羽を生やし飛び去ろうとした。
それを見たパチュリーは敵の策略を瞬時に見抜き、皆に指示を出す。
「あれは…! 誰でもいいから、その小さい奴を止めて!! 恐らく、船に戻って何かをする気よ!!」
魔法で迎撃しても構わないのだが、ターゲットが小さすぎるので上手く命中させられる自信のないパチュリーは、見栄も外聞を捨てて最も確実な方法を取った。
それに無言で応えたのは、意外な事に『彼』だった。
「おいごらぁ…!」
常人では考えられないほどの跳躍力を見せ、その手に持つバットの一振りで金属バットがメルザルガルドの頭部の一つを殴り飛ばした!
「逃げてんじゃねぇぞクソがぁっ!!!」
「ヴァっ!?」
大きく歪み変形した頭部はよろめきながら地面に落ちた…が、それよりも早く着地をした金属バットの追撃のフルスイングによって粉々になって飛び散った。
だが、これでは核までは破壊出来てはいない。
「ちっ…! 思わず適当に殴っちまったぜ」
「いいえ。今回はそれでもいいわ。奴の行動を阻止できたんだから。ありがと、金属バットくん」
「…礼を言われるような事じゃねぇよ」
顔を赤くしながらソッポを向く金属バット。
硬派な見た目通り、女の子に対する耐性が低いのかもしれない。
その時、メルザルガルドに念話が届いた。
(おいメルザルガルド! 何をしている!!)
(その声はゲリュガンシュプかっ!? 見て分かるだろ! 交戦中だ!!)
(今はそんな事をしている場合ではない! 船に侵入者だ!!)
(なんだとッ!? そんな馬鹿なッ!?)
戦力の大半が出払っている状況での侵入者。
現状、考えうる最悪の状況だった。
「おい…なんか急に動きが止まっちまったぞ?」
「あの感じ…誰かと話をしている…?」
「みたいね」
金属バットには全く状況が分らなかったが、魔法使いであるパチュリーと超能力者であるタツマキにはすぐにメルザルガルドが何をしているかが分かった。
だからこそ、彼女達は警戒心を一段階上げた。
その間に、金属バットが破壊をした頭部が密かに復活を遂げる。
「決めた。貴様はその四肢を引きちぎった後に我等の鑑賞用のインテリアにしてやる」
「やれるもんならやってみやがれ。弱点が分かってる以上、もうテメェなんざ脅威でもなんでもねぇンだよ」
普通ならば強がっているように聞こえるかもしれないが、金属バットの場合は本当に倒せる確信があるから言っている。
実際、彼にはそれだけの実力が備わっていた。
「誰と何を話しているのかは知らんが、それを妨害する意味も込めて攻撃をするべきじゃねぇか?」
「アトミック侍の言う通りね。奴に船との連携を取られたら厄介だわ。みんな!!」
パチュリーの叫びに全員が頷く。
普段は個々人で余り深く関わることの少ないS級たちではあったが、今この瞬間だけはパチュリーという新たなS級の存在によって確かに心を一つに合わせていた。
「私が奴に全身を破壊する程の威力を持つ攻撃を仕掛けるわ。その後は手筈通りにお願い」
「任せてくれ! パチュリー君!」
「魔法詠唱までの時間は俺達が稼ぎます!」
「頼むわよ。こあは皆に補助魔法を」
「分かりました!」
タンクトップマスターとジェノスの言葉に皆も同意し、まずはバングとプリズナーが攻撃を仕掛ける!!
無論、それに気が付かないメルザルガルドではなく、すぐに剛腕を振るって反撃に出る!
「残念じゃが…『暴力』ではワシは倒せんぞ!」
「勿論、俺もな!!」
「俺の攻撃が…受け流されるだとっ!?」
どれだけ全力で攻撃をしても、バングの流水岩砕拳の前では悲しい程に無力。
全てが文字通り『流水』のように無効化されてしまう。
その隙を付き、プリズナーのラッシュが炸裂する!!
(メルザルガルド! どうにかして一度船に戻れ!! そっちの事はグロリバースに任せろ!!)
(そうしたいのは山々だが、こいつらがそう簡単に戻らせてくれないんでな!)
(なんだとッ!? まさか、お前ほどの戦士を苦戦させるほどだというのか、そいつらはッ!?)
(苦戦などしていない!! それよりも船の状況を教えろ!!)
メルザルガルドは生まれて初めて強がりを言った。
本当はかなりやばい状況に追い込まれている。
だが、それで自分の不利を認めてしまう事は彼のプライドが許さなかった。
(まだ船は落ちはしないが…それでも残った戦闘員の半分以上を倒された…)
(はぁっ!?)
念の為という事で船にはまだ多くの戦士たちが警備の為に残されたが、だからと言って決して弱い連中ではない。
少なくとも、軍隊相手にも十分に戦えるほどの猛者ばかりだ。
それがもう既に半分以上も倒されている?
とてもじゃないが信じられなかった。
(ならば、船からの直接砲撃で奴等を一網打尽に出来ないか? 他の場所にいる奴らの仲間も一気に倒せる筈だ!)
(むぅ…それが良さそうだな。本当は俺が砲撃の準備をしてもいいのだが、生憎とこっちも侵入者の対策と指揮で忙しくてな。砲撃手にはなんとかして伝えておこう。分かっているとは思うが…砲撃に巻き込まれて死ぬような間抜けだけはしないでくれよ)
(当たり前だ。頼んだぞ)
…と、ここでメルザルガルドはある考えを思い付く。
(そうだ! お前が地上に来て俺を手伝え! そっちの方が手っ取り早そうだ! …おい? ゲリュガンシュプ? 聞いているのか?)
いつの間にか念話は切れていた。
どうやら、向こうから一方的に切ったようだ。
(…あのゲリュガンシュプが焦っている…? まさか、侵入者とはそれ程の相手なのか…?)
思考を切り替え、再生する体を利用して防御を捨てた捨て身戦法で殴り掛かるも、矢張りバングの流水岩砕拳で防がれる。
その時だった。彼らの背後で強大な力が収束しているのを感じた。
「僅か数秒とはいえ、時間稼ぎご苦労様」
「あの小娘…何をする気だっ!?」
「お前の頭をぶっ潰すのよ!」
右手をメルザルガルドに向け、詠唱を始める。
それは、魔法使いのみに許された禁忌の力。
「旋律の戒めよ」
周囲が虹色に煌めく空間になり、無数の光の帯がメルザルガルドの動きを完全に封じ込める!!
何事かと思い必死にもがくが、彼の全力でもビクともしない。
「『
「う…動けん…! だが、どんな攻撃でも俺を倒すことは不可能…!」
魔なる力を秘めた光が爆発し、全てを真っ白に染め上げる!
これこそが『魔法使い』の真の力!!
「ミスティック・ケージ!!!」
その威力はまさに一撃必殺!
強烈な炸裂音と共に、メルザルガルドの身体が一瞬で破壊された!!
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
全身を一撃で破壊する程の攻撃を喰らえば、流石に腕などが再生するまで攻撃や防御は出来なくなる。
戦闘に於いてそれは非常に大きな隙となるが、パチュリーの真の狙いはそこではなかった。
「この…程度…すぐに回復して…!」
「見つけた……
再生をし続けているメルザルガルドの体の中に『核』を見つけた金属バットは瞬時に移動し、それに向かってのフルスイング!!
「おらぁっ!!」
「おふぅ……」
核が粉々に砕け散ると、メルザルガルドの体の一部が溶けるようにして地面に落ち、煙を出しながら泥のようになった。
「さっきも思ったけどよ…マジで気持ちワリィな…」
「だが、これでパチュリーちゃんの予想が証明されたという事じゃな」
「最初から疑ってたわけじゃねぇがな」
「完全に勝機が見えた…!」
「この勢いで一気に行くぞ!!」
「男子達…見ててくれ!!」
この短い間に『二人』も倒されてしまった。
残りは『三人』だけ。
いよいよ追い詰められてきたが、それでもまだメルザルガルドは自身の勝ちを疑っていなかった。
(奴らめ…どうして核の場所が分かったッ!? いや…もうそんな事はどうでもいい。あと少しで船からの砲撃が開始される。そうすれば全てが終わる!)
だが、ここでメルザルガルドは致命的なミスを犯していた。
戦闘に集中する余りに忘れてしまっていたのだ。
一体誰が最初の砲撃を防いだのかを。
その防いだ本人がどうして戦闘に参加していないのかを。
この判断が、今回の戦いの行方を決定づけた。
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・・・・
・・・
・・
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A市南部。
そこにある高層ビルの屋上に、一人の青年が遠くを見つめながら楽しそうに笑っていた。
それは嘗て、海人族の最後の残党を倒した青年だった。
「ほぉ~…? こいつはまた凄そうなもんが来たな。この前の半魚人よりは面白そうだ」
屋上から乗り出して下を見ると、そこには多くのヒーロー達が人々を誘導して車に乗せたり、襲ってくる怪人たちから守ったりしていた。
「いいね…いいねぇ! こうでなくっちゃよ! さて…俺もお邪魔して……」
あろうことか、屋上からそのまま落下してショートカットしようとした…が、そこに何者かが上空から出現、屋上に着地してきた。
「……なんだ?」
「まさか、こんな所にも地球人が隠れていたとはな。まぁいい…」
それは、目が存在しない怪人だった。
全身が非常に刺々しく、口からは鋭い牙が無数に乱立し、その両手もまた顔と同じような形状で鋭い牙が生えた口があった。
「名も知らぬ地球人よ…選ぶがいい。このグロリバースに大人しく殺されるか。それとも無駄に足掻いて苦しみながら死ぬかを」
「テメェ…!」
最初から自分が勝つことを前提にしかしていないような言動。
彼は基本的にヒーローという存在を嫌っているが、それと同じぐらいに自分を見下す者を嫌っている。
グロリバースはまさに、そんな彼の逆鱗に触れるような相手だった。
「上等だ…! その生意気な口を二度と叩けねぇようにしてやるぜ!! この怪人『ガロウ』がなっ!!!」
誰の記憶にも残らない。
自らを『怪人』と名乗る青年の孤独な戦いが始まろうとしていた。
原作にはなかったグロリバースとの戦い…その対戦相手は『ガロウ』でした!
これはかなり初期の頃からずっと決めてました。