殆どガロウの話になるかもしれません。
A市南部の一角。
そこではC級ヒーロー達を中心にして市民たちの避難活動が行われていた。
「慌てないで! こっちの車に乗ってください!」
「重い荷物はヒーロー協会の職員やヒーロー達に預けてください! 責任を持って運びますので!」
困惑しながらも、市民たちは彼らの指示に従いながら一人一人確実に協会の車両へと乗っていく。
不安を抱えながら歩みを進める彼らの視線の先には、未だに上空にいる巨大な宇宙船の姿が。
誰だって、あんな物が突如として自分達の住んでいる街の空に現れたら驚くし不安にもなる。
しかも、見た事も無い存在…宇宙人が船から降り注ぐように降りて来れば、その恐怖心は更に増加される。
そんな彼らの心と命を守る為に奮闘している、二人のA級ヒーローがいた。
「ったく…いい加減に諦めなさいよね…っと!」
「愚痴を言っていても仕方があるまい。ふん!」
疾風の如き剣技によって切り裂かれ、螺旋の如き剣技によって貫かれる。
道路には既に多くの宇宙人たちの屍が転がっており、この二人だけでどれだけ多くの敵が倒されたのかが伺えた。
「な…なんなんだコイツらはっ!?」
「奇妙な出で立ちをしている癖に…恐ろしく強い!!」
「この二人…並の剣士じゃないぞ!!」
降りた直後は強気だった宇宙人達だったが、彼らの実力を目の当たりにして萎縮する。
それもその筈。彼らが無謀にも立ち向かおうとしているのはA級ヒーロー達の中でも屈指の実力者達なのだから。
「スゲェ…! あれがA級最上位ヒーローの実力かよ…!」
「あれでS級じゃないってんだからな…」
「オカマイタチとブシドリル……あの二人も俺達からしたら十分に天上の存在だぜ…」
アトミック侍の弟子である『三剣士』の二人。
剣を扱うヒーロー達の中でも最強クラスの実力を誇る彼らがこの場にいる時点で、この南部にやって来てしまった者達は相当に不幸であった。
「そう言えば、さっき通信があったけど、師匠と一緒にいたイアイがアマイマスクと一緒に護衛組に合流したらしいわね」
「大方、他のA級たちの姿に触発されたのであろうよ。実にあいつらしい」
「しかも、今回の作戦を考えたのはあのパチュリーちゃんらしいわね」
「今回の集会に名指しで呼ばれていたらしいからな。恐らく、彼女も遂に師匠達と同じS級になったのだろう」
「って事は、私達の順位も元通りってわけね」
「ふっ…特に気にしてはいなかったがな」
余計な話をしながらも、ちゃんと体は動いて敵を倒し続けている。
彼等ほどにもなれば、これぐらいは楽勝なのかも知れない。
「そっちの避難状況はどうなのッ!?」
「もうすぐ完了する! あと少しだけ頑張ってくれ!」
「あと少し…ね」
「まだまだ準備運動にもなっていないのだがな」
「その通りよね…まったく!!」
少し離れた敵に狙いを定め、オカマイタチが剣を上段に構える。
何事かと思い動きを止める敵であったが、時既に遅し。
彼の攻撃は既に始まっていた。
「飛空剣…これでっ!!」
全身を大きく捻らせ、右足を軸にしてその場で大きく一回転するようにして剣を振るう。
それにより前方にほんの僅かではあるが真空の空間が発生し、そこを全力で斬り裂いて巨大な『かまいたち』を発生させ、敵に向かって飛ばした!
これこそが彼のヒーローネームの由来となった技!
「ぐぎゃぁっ!?」
「いきなり斬られたッ!?」
「まさか…斬撃を飛ばしたのかッ!?」
「そんな馬鹿なッ!?」
離れてさえいれば攻撃は受けないと思っていたのに、まさか彼らに遠距離の攻撃手段があるとは思っていなかった。
これにより、敵勢力は一気に混乱状態となる。
「…………」
「どうしたカマ?」
「いえ…何でもないわ」
自分の得意技を出してから、オカマイタチは少し前に感じた違和感を思い出していた。
(そう言えば…ここに来る途中で誰かに凝視されていたような気がしたけど…あれは何だったのかしら? 私の熱烈なファン…にしては視線が痛かったわね…)
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
一方その頃。
ガロウは思った以上にグロリバースに苦戦をしていた。
「野郎…! 舐めやがって!!」
左右に俊敏に動きながら遮蔽物を利用して接近し、そのまま懐に潜り込んでからの人体の弱点である腹部への拳の一撃!!
「おらぁっ!!」
「ぐほぉ…! だが!!」
彼は、どれだけ相手が異形の姿をしていようとも、人間に近い形をしている以上は弱点も同じなのではないかと思い攻撃を仕掛けている。
実際、手応えはあるし着実にダメージは蓄積されている…筈なのだが、それでもガロウの方が疲弊していた。
その理由は、グロリバースの得意技にあった。
「ちいっ!」
「くらえ!!」
突如としてグロリバースの口から緑色の液体が吐き出される。
咄嗟にバックステップで回避をするが、その液体はそのまま床に落ちて、コンクリートを易々と溶かした。
「この俺の『アシッドブレス』を、ここまで避けたのはお前が初めてだ。だが、顔の口からだけとは限らぬぞ!!」
「だと思ったぜ!!」
人間で言えば両手に当たる部分にも存在している二つ目、三つ目の口からも同様に溶解液『アシッドブレス』が吐き出される。
しかも、顔面からより放たれる量は少ない代わりに射程距離が長く、少なくとも今いる屋上全域はラクラクカバーしていた。
今までにも避けた代償に、ドロドロに溶けた貯水槽に穴が開いて水が噴き出していたり、その骨組みである総鉄製の棒なども同じように溶けている。
ガロウは必死に体を動かして辛うじて全てを回避して後ろに下がるが、彼の背後にはもう何も無い。
これがガロウが苦戦を強いられている理由。
どれだけ体術で上回っていても、近づけば敵の技の餌食となってしまう。
しかも相手の耐久力はこちらの想定を完全に超えている。
それはグロリバース自身もよく理解していて、だからこそ敢えて『肉を切らせて骨を断つ』戦法を使っているのだ。
(クソが…! あの溶解液を警戒しながらの攻撃じゃ、思うようにダメージを与えられねぇ! そんじょそこらの攻撃なら、いつも通り軽く受け流してやんのによ…こいつばかりはそうもいかねぇ…! そもそも、触れること自体が出来ねぇンだからな…! 流水岩砕拳も、これじゃあ全く意味がねぇ…!)
どうすれば相手に渾身の一撃を与えられる?
ガロウは必死に頭を巡らせる。
敵のスペックと自分のスペック。
敵に出来る事は何か。自分に出来る事は何かを冷静に考えながら。
(ちくしょうが…! まさか、遠距離攻撃の有無がここまで大きな隔たりとなるとは思わなかったぜ…! しかも、敵の攻撃はこっちの防御を無視するっていうおまけ付き…! 下手にガードなんてしたが最後、防いだ部分ごと跡形も無く溶かされちまう! 骨も残らないだろうな……)
ガロウが勝つ手段を考えている最中、自分の勝利を確信したグロリバースはゆっくりと近づきながら語り出す。
「ガロウ…と言ったか。お前は強い。少なくとも、このグロリバースが今まで戦ってきた、どの戦士よりも強い。身体能力や攻撃力だけで言えば、俺よりも上かもしれん。だが悲しいかな。お前は俺に対して相性が悪すぎた。己の肉体のみで戦うお前には、俺のアシッドブレスを防ぐ手段が無い。つまり、お前は防戦一方にならざるを得ないということだ。アシッドブレスを警戒しながらの攻撃では思うように力を出せまい。体力だけを失っていき、やがてお前は負ける。地球ではこんな状況を『チェックメイト』と言うのだろう?」
グロリバースは歩く足を止め、そこでガロウに向けて右腕を出し牙を剥かせる。
彼にトドメを指す気なのだろう。
「お前はよく戦った。だが、もう終わりだ」
「うるせぇ…!」
まだ諦めていないガロウは強気に言葉を吐く。
だが、実際に追い詰められているのは確かだった。
(俺に何か遠距離攻撃の手段さえあれば、こんな宇宙人野郎なんて一撃で倒せるのによ…! 適当に物を投げたって、アイツの溶解液にすぐに溶かされちまうし…)
その時、ふとガロウの頭の中についさっき見た『ある光景』が思い出された。
こんな状況なのに、不思議と頭はクリアで鮮明に思い出せる。
(…そういや、ここに来る途中でスカートを着たオカマっぽい剣士のヒーローが面白い技を出してやがったな…。前方の何も無い空間を切り裂いて、そこから巨大な真空の刃を作り出して飛ばす…。あいつは確か…A級ヒーローのオカマイタチ…だったか? A級でも、トップクラスになると一気に実力が変わってくるもんなんだな。一緒にいたドリル野郎もかなりの実力者だったし……)
オカマイタチの技を思い出しながら、ガロウは自分の身体を見つめる。
(もしも…あの技を俺の肉体で再現できたのなら…あいつをぶち倒せる…! だが、見たのはあの一度だけ…俺に出来るのか…?)
ガロウもまたある種の天才であり、特に学習能力が凄まじかった。
彼はあらゆることを、まるで水を吸い込んでいくスポンジのように吸収していくのだ。
しかし、だからこそ理解もしてしまう。
オカマイタチの放っていた技…あれを再現するのは容易なことではないと。
彼から見ても、あの技『飛空剣』は絶技であると。
(いや…悩んでいる暇はねぇ! 出来る、出来ないんじゃなく…やるんだ! やらなきゃ全てが終わっちまう! まだ何も始まっていないってのに!!)
追い詰められることでガロウの脳内に大量のアドレナリンが放出。
一気に視界がクリーンになる。
(右腕全体を使って全力で…いや違う! それじゃ上手く出せない可能性がある! やるなら足だ! 右足全体に残った力を全て込める…! イメージするのはしなやかな鞭…違うな。歪曲した剣…刀だ。俺の右足を刀にして、真空の刃を作り出す!!)
呼吸を整える為に大きく息を吸い、そして吐く。
丹田に全ての気を集約させ、精神を集中させる。
「…どうやら観念したようだな」
「……………」
「お前の勇気と闘志に免じて、一撃で苦しませずに殺してやろう」
グロリバースの右腕にある口から溶解液が吐き出される直前に聞こえる音が出てくる。
それに合わせ、腰を低くしながら全身を右側に捻り、同時に足を後ろに下げる。
「何をする気かは知らんが…無駄に足掻くのは止めろ。これ以上、苦しみを長引かせるな」
「無駄な足掻きかどうかは……」
全神経を右足に集中させ、更に体を捻った。
あらゆる雑念を捨て去り、ガロウは超集中状態へと入る。
「これを見てから言いやがれ!!!」
左足を軸にしながら、その場で激しく一回転!!
その勢いを利用して、目の前の空間をその足で『切り裂いた』!!
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
なんと! ガロウの渾身の一撃は見事に真空の刃を生み出すことに成功し、それはそのままグロリバースに向かっていく!
まさかの反撃方法に棒立ちとなり何も出来ないまま、見えない刃がグロリバースの胴体を貫通した!
「ば…馬鹿な…! 空気の刃…だと…!?」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」
完全に賭けだった。放てるかどうかは五分五分だった。
なんとなく感覚は掴んだので、もっと練習を積み重ねていけば確実に出せるようにはなるだろうが、今はまだ難しい。
ガロウの予想外の反撃を受けたグロリバースの胴体は、腰から上を真っ二つにされ、上半身と下半身が永遠の別れをする事となった。
重力に従って上半身が落ち、それと同時に下半身もコンクリートの上に倒れた。
「流石のテメェも…今のは溶かせねぇだろ…!」
「見事だ…! この『最上級戦闘員』の一角であるグロリバースを倒すとはな…」
「一角…ってことは、他にもテメェみたいのがいるって事かよ?」
「そうだ…だが、他の奴等は俺のようにはいかんぞ……ククク……」
それだけを言い残し、グロリバースは死亡した。
敵の撃破を確認したガロウは、糸の切れた人形のように力を抜き、その場に座り込んだ。
「はは…ははは…! 予定外ではあったが…こっちも新しい技を覚えられた…。グロリバース…テメェには感謝するぜ…お蔭で、俺はまた一つ強くなった…!」
自分の足を見つめながら、ガロウはボソッと呟いた。
「『飛空剣』ならぬ『飛空脚』ってところか。街が落ち着いたら俺もおさらばして、確実に出せるように特訓しねぇとな…」
遠くに滞空している宇宙船を見つめながら、ガロウは無意識のうちに独り言を言っていた。
それは、彼の心の奥底に秘めている、誰にも言わない本心でもあった。
「ジジイ……絶対に死ぬんじゃねぇぞ……」
本格登場前にガロウが強化されました。
ついでにツンデレも。
次回はパチュリーが活躍…するかも?