決戦の時…来たる。
何者かによって強制転移されたパチュリーが連れてこられた場所…それは『玉座』だった。
幾多の柱が乱立し、それ以外には巨大な宝玉のような物体が目の前に設置してあるだけ。
だが、そこに一人だけ腕を組んで立っている者がいた。
「来たか」
「あんたは……」
ここに来た瞬間から感じていた圧倒的なプレッシャー。
並の連中ならば対峙しただけで絶命してしまうほどの威圧感を真正面から受けてもパチュリーはいつも通りの表情を崩さなかった。
ボロスの単眼とパチュリーの視線が交差する。
「よく来たな」
「この感じ…間違いない。あんたがあの連中の…いや、この船のボスね?」
「その通りだ。外の様子はずっと見ていた。あのメルザルガルドの弱点だけでなく、その『癖』まで見事に見抜いてみせた観察眼。そして、貴様が使っていた『魔法』…まさか、こんな辺境にまだ『魔法使い』が生き残っていたとは驚きだ」
「まだ…? っていうか、魔法と魔法使いの存在を知っている…?」
「当然だ。宇宙は広い。お前のように魔法を使う者達は大勢いた」
「…過去形なのね」
「あぁ…皆、死んだからな。無論、俺とは関係のない場所でな。宇宙はお前達が想像している以上に戦乱に満ち満ちている。その中で多くの魔法使いたちが戦い、そして死んでいった。だが、そんな奴等もお前よりも遥かに弱かった。奴らが使っていたのはまるで教科書に書いてあるような魔法ばかり。お前が使っているような『古代魔法』じゃない」
「古代魔法って……」
パチュリーが会得し使用しているのは、前世で見知ったフィクションの魔法ばかりだ。
まさか、それらがレア魔法扱いされているとは。
「ところで、もうそろそろ自己紹介とかしてくれてもいいんじゃないの? アンタでしょ? 強大な力で私を此処に連れてきたのって」
「まぁ待て。俺の自己紹介は『もう一人の客』がここに来てからだ」
「もう一人の客って…まさか…」
ここは敵の本拠地とも言うべき場所。
そして、そこに対してたった一人で飛び込んでいった馬鹿がいたではないか。
「力を感じる……そろそろ来るぞ」
「…みたいね」
パチュリーも何かを感じたのか、ボロスと一緒に背後を見る。
そこには見上げるほどに巨大な扉がそびえ立っていた。
扉がゴゴゴ…と音を上げながらゆっくりと開いていく。
そこには辺りをキョロキョロと見渡しているサイタマがいた。
「お~…何か知らんけど開いた。って、パチェ? なんでここにいるんだ?」
「そこの奴に強制連行されたのよ。というか、よく迷わずにここまで来れたわね。方向音痴のアンタにしては珍しい」
「うっせ。…で、そこに立ってる偉そうな一つ目野郎が…そうなのか?」
「うん。この船のボスで、私を此処に連れてきた張本人」
「ふーん……」
サイタマも少なからず敵からのプレッシャーを感じ取っているのか、いつもの呑気な目は消え、若干ではあるが真剣みを帯びていた。
「…これで主役が揃ったか」
「なんなんだ…お前は」
「そうだな…さっきから彼女にも自己紹介をしろと言われていたところだ。これから戦う相手に名乗りすらも上げない程、俺は常識知らずではないからな」
組んでいた腕を解き、ボロスは二人の事を見下ろしながら静かに自らの名を名乗った。
「俺は宇宙を股にかけて活動をしている『暗黒盗賊団ダークマター』の頭目『ボロス』。部下たちの中には俺の事を『全宇宙の覇者』なんて呼ぶ者もいるが…そんな事はどうでもいい。ようこそ、我らが船に」
「俺は趣味…じゃなくて、プロでヒーローをやっているサイタマだ」
「同じく。プロでヒーローをやってるパチュリーよ」
ヒーロー。
それを聞き、ボロスの顔が僅かに反応した。
「そうか。矢張りお前達も『ヒーロー』なのだな。只者ではないとは思っていたが…」
「なんだ。ヒーローの事を知ってんのか」
「知っているというよりは調べた。この地球という星は非常に興味深かったのでな。ヒーロー協会という組織が存在し、基本的にヒーロー達はそこに所属している…だったな?」
「えぇ…そうよ」
「ならば、お前達もそのヒーロー協会に所属しているということになるのか」
「一応ね」
「面白い…!」
ずっと無表情だったボロスの顔が初めて崩れ笑顔になる。
それは歓喜の笑顔ではなく、興奮の笑顔だった。
「外で戦っているお前達の仲間のヒーロー達も相当だったが、お前達二人は間違いなく規格外だ」
「そりゃどうも」
「つまり、これはダークマターとヒーロー協会との戦いという事になり、お前達二人は協会と地球の代表という事にもなる…が、そんな事はどうでもいい。重要なのは、こうして俺とお前達が出会い、対峙しているという事実のみだ」
ゆっくりと…一段一段とボロスが階段を下りてくる。
本当に唯それだけの事なのに、不思議な緊張感があった。
だが、そんな両者の間に割って入る存在がいきなり出現した。
「お待ちくださいボロス様」
「…ゲリュガンシュプか」
現れたのは、蛸のような姿をした怪人『ゲリュガンシュプ』。
ダークマターに存在している3人の最上位戦闘員最後の一人だ。
「メルザルガルドは交戦中で戻ってはこれず、グロリバースは戦死…。残された最上位戦闘員は私のみ! ボロス様の手を煩わせる程でもありません! こやつらはこのゲリュガンシュプが片付けてみせましょう!」
「…好きにしろ。お前に勝てるとは思えんがな」
「くくく…ボロス様がどれだけこやつらの事を高く評価しているかは存じませんが、所詮は辺境の惑星の原住民…この『宇宙一の念動力使い』である私が倒してくれよう!!」
ゲリュガンシュプが戦闘態勢に入り、無数の触手を動かして念動力を発動。
彼の周囲に無数の石が宙に浮き二人の方を向く。
「なんだアレ? 超能力か?」
「みたいね。その割にはちゃっちいけど」
「黙れ!! 我等の船でよくも好き放題してくれたな! その代価は貴様等自身の身体で支払って貰おう!! 死ねっ!!」
凄まじい速度で無数の石がサイタマとパチュリーに襲い掛かってくる。
どうやら念動力で物質に起こる摩擦係数を限りなくゼロに近づけているようで、その速度は間違いなく異次元の域にまで到達していた。
「ははははははははっ!! このまま二人仲良く挽肉となるがいい!! さぁ…これでトドメだ!!」
着弾時の煙で何も見えなくなってはいるが、それでも確かな手応えは感じているようでゲリュガンシュプは攻撃を止めようとしない。
それどころか、更なる追い打ちを掛ける為に無数の石を自身の念動力で竜巻のように大きく回転させ、それにより発生する遠心力で攻撃力を増した必殺技を放つっ!!
「くらうがいい!! これがこのゲリュガンシュプ最大の奥義『念動流石波』っ!!」
絶対に回避不可能な投石攻撃を受け、ゲリュガンシュプ以外の姿が煙で覆い隠されて見えなくなる。
自分の最大攻撃を放ち勝利を確信するゲリュガンシュプではあったが、彼は気が付くべきだった。
自分の攻撃を受けてサイタマとパチュリーが一切声を出していない事を。
血の一滴も床に落ちていない事を。
「や…やったっ!!」
そして、最後に見事なまでの敗北フラグを立ててしまった。
「小石を飛ばすだけって…それって確実に超能力の無駄遣いだろ。そんなの子供でも出来るぞ」
「そもそも、どれだけ凄い念動力を持っていても、最終的に物理攻撃にしちゃ意味無いわよ。はぁ…タツマキと同じ超能力者だって聞いて、少しは期待したんだけどなぁ…」
煙が晴れると、そこにいたのは服が汚れただけで完全無傷なサイタマと、服すらも汚れていないパチュリーの姿。
サイタマは当然のように攻撃全てを受けても無意味だったし、パチュリーは投石全てをテトラカーンで跳ね返していた。
「どうやら、超能力者としての応用力はタツマキの方が圧倒的に上みたいね。これで宇宙一って……」
「言ってやるなよ。自称なんだろ?」
「ば…馬鹿な…!? このゲリュガンシュプの念動流石波をまともに受けて無傷だとは…!」
これまでに念動流石波によって倒してきた敵は数多い。
その自慢の技が、ここまで完璧に通用しないなんて思わなかったゲリュガンシュプは、思わず後ずさりをしてしまう。
「そろそろこっちのターンに入ってもいいわよね?」
「いいんじゃね? 向こうも『やり切った』って顔をしてるし。よく分かんないけど」
「なら私にやらせてくれない? ずっと援護とかしてたから、かなりフラストレーションが溜まってるのよね」
「何をする気だ?」
「いえね…あのタコ野郎に『本当の投石』ってのを教えてあげようと思って」
そう言うと、パチュリーは一歩だけ前に出てから両手を天に掲げて交差させる。
「さぁ…少し本気で行くわよ。自慢の念動力で耐えてみせなさい」
「こ…この小娘の力が…爆発的に増大していく…! まるで宇宙全体を覆い尽くすような…!」
パチュリーの周囲が暗闇に覆われ、何事かと全員が見渡すが、よく見たら遠くの方に沢山の星々の煌めきが確認でき、ここが宇宙空間であることが判明する。
「そんな…有り得ん!! 自分の力のみで次元を超えて、この空間と宇宙空間とを繋げたというのかッ!?」
こんな芸当を目の前の小柄な地球人の少女が行っている。
ゲリュガンシュプは激しく狼狽え、ボロスは口を開けて満面の笑みとなる。
「来たれ! 我儘なる虚空の彷徨い星!!」
煌めく星々が動き始め、徐々に近づいてくる。
その速度はあっという間に音速に到達し、ゲリュガンシュプ目掛けて降り注ぐ!!
「メテオスォーム!!」
悲鳴を上げる暇も無く全身を貫かれ、一瞬でズタボロになっていく。
回避も防御も出来ず、流星の雨によって原形を無くしていった。
「ば…かなぁ…! 次元を超えて…流星群を召喚…する…などとは……!」
まるで一人でダンスを踊っているかのように体を揺さぶられ、遂には声も出せなくなる。
もういいか。そう判断したパチュリーが指を鳴らすと広がっていた空間は消え、元の大広間へと戻っていた。
目の前には完全に絶命しているゲリュガンシュプが無残な姿で床に倒れている。
「一丁あがり。少しだけスッキリした」
「相変わらずエグいな~。なんか、あのタコ野郎にちょっとだけ同情しちまうぜ」
なんか引いているサイタマではあるが、彼は知っている。
本気の本気になった時のパチュリーはこんなもんじゃないと。
サイタマと同じように、パチュリーもまだ数多くの手札を残しているのだ。
「あはははは…! 素晴らしい!! あのゲリュガンシュプを雑魚のように一蹴するとは…矢張り、俺の考えは間違っていなかった!! 地球に来て大正解だったようだ!!」
「部下が倒されても大笑いって…どんな神経してんのよ」
「つーか、そもそもテメェらは一体何が目的で地球までやって来たんだよ」
「目的…俺の目的…か。そうだな。まずはそれを話さなければいけなかったな。俺としたことが嬉しさの余り、説明を忘れていたようだ。ふっ…俺もまだまだという事か」
なんだか一人で勝手に呟いているが、そんな事はどうでもよかった。
そもそも、話を聞く前にゲリュガンシュプが勝手に襲い掛かってきたので、話をする以前の問題だったのだ。
「…『予言』があったのだ」
その言葉に、二人の手が僅かに反応した。
次回、サイタマ&パチュリーVSボロスの決戦の始まり?