さて、今回は地上で頑張っている面々のお話。
カッコいいおじいちゃんとおじさんを書ければいいと思っています。
パチェの出番は未定です。
パチュリーとサイタマが宇宙船のボスであるボロスと最終決戦を始めた頃、船の砲撃を担当している者が地上のモニタリングしながら照準を定めていた。
「えーっと…ここをこうして…よし」
彼の目の前にある小さなドーム状のモニターには、地上で戦っているメルザルガルドとヒーロー達が映し出される。
お世辞にも優勢とは言い難いが、彼は特に気にすることなく淡々と準備を進めていく。
「ゲリュガンシュプ様の命令通り、全砲門の攻撃準備が完了…っと。下にいるメルザルガルド様が戦っている敵たちに対して集中砲火をしろって言ってたけど…」
小さくも強大な力を秘めたヒーロー達を狙い、ロックオンを始めていく。
照準が次々と定まっていき、後は発射のボタンを押すだけ。
「これ押す時っていっつも緊張するんだよなー…ドキドキ…ドキドキ…」
ゲームクリアの最後のボタンを押す時のような感覚なのだろうか。
こればかりは彼本人にしか理解出来ない。
「それじゃあ……ポチっとな」
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パチュリーが船へと強制転移された後も、残されたヒーロー達はメルザルガルドと一進一退の攻防を繰り広げていた。
「この野郎…いい加減に倒されやがれっ!!」
「それはこちらの台詞だ!!」
金属バットの一撃を右腕で受け止めつつ、返しでキックを放ちながら後退をするメルザルガルド。
そこで彼はいきなり動きを止め、徐に上空にある自分達の母艦を見つめ始めた。
「んだ…いきなりどうしやがった?」
「くくく…どうやら…そろそろみたいだな…」
「なに?」
意味深な言葉を吐いたメルザルガルドに警戒しながら、彼の視線を追うようにヒーロー達も上空の巨大な宇宙船を見つめた。
「船。砲撃。来る」
「なんじゃとっ!?」
「またあれが来るってのかッ!?」
「まずい!!」
一同が焦り始めた瞬間、船の下部がポツポツと光始めた。
どうやら、それが砲撃の合図らしい。
「終わったな」
「回避。不可。即死。確定」
ここまで来て終わりなのか。
誰もがそう思っている中、一人だけ冷静な人物がいた。
「アンタ…本気で馬鹿なんじゃないの?」
「なに?」
彼女の名は『戦慄のタツマキ』。
S級ヒーロー2位にして、実質的なヒーロー協会の最強戦力。
「もしかして…もう忘れたワケ? 最初の一撃を止めたのが誰なのかを」
「……はっ!?」
戦いに夢中になって半ば忘れかけていた。
こちらの先制攻撃を防いだ二人のヒーロー。
一人は船へと向かったパチュリー。
そして、もう一人は……。
「どうして私が敢えて戦闘に参加しなかったのか。どうして、パチュリーがこの場を私に託してアンタ等の本拠地にワザと誘われてやったのか。その意味の全てを今から教えてあげるわ。この私がね!」
「し…しまったっ!! 今すぐに砲撃を止めろ!!」
タツマキが両手を上空に掲げると同時にメルザルガルドが全力で叫ぶが、もう時既に遅し。
砲撃は開始され、巨大な砲弾が地上へと降り注ごうとしている。
「ふんっ!!」
「なっ…!?」
放たれた砲弾の全てが、まるで時間停止でもしたかのようにピタリと空中で止まった。
「砲弾が……」
「止まりやがった…」
「凄いです…タツマキさん…」
「第二撃が来ることを最初から想定して、パチュリーさんはタツマキを待機させていたのか…!」
この場にはいないが、パチュリーという最高の軍師が残してくれた作戦は今でも確かに生きていた。
まるで、全てが彼女の掌で動いているかのような戦況。
だが、彼女だけではこの盤面は生み出せない。
信頼に足る仲間達がいて初めて成立するのだ。
「このまま砲弾をまた返すのは簡単だけど…それじゃまた同じことの繰り返しよね。だったら……」
鋭い目つきで船の外観を凝視していき、何回か目を動かしたところで目的の物を発見した。
「…見つけた。この砲弾はそのまま……」
グリンと全ての砲弾が回転し上を向く。
そのままプルプルと振動して猛烈に嫌な予感を促進させた。
「撃ってきた場所に戻してあげるわ!!」
「な…なんだとっ!?」
まるで何かに弾かれるかのように空中で停止していた砲弾は空に浮かぶ船へと向かって飛んで行き、そのまま全ての砲門に戻って行くように命中、爆破した。
ほぼ同時に命中したので、爆破は連鎖的に発生し、結果として宇宙船にかなりのダメージを与えることに成功したようだ。
因みに、その時の砲撃手の彼の心境がこれだ。
(もうおうちに帰りたい…ママの手作り料理が食べたい…)
もう完全に戦意喪失状態である。無理も無い。
「これで私の役目は果たしたわよ…パチュリー」
普段の彼女ならば絶対に言わなさそうなセリフ。
この短期間の間にタツマキの中でパチュリーへに対する信頼度がかなり上がったようだ。
「…託した…か」
「そうだよな…ちゃんと、その意味を考えなくちゃいけなかったんだよな…俺達は」
タツマキの発言を聞き、バングとアトミック侍の二人の顔が急激に濃くなる。
何かに猛烈に怒っているような、己の不甲斐無さに本気で呆れているような。
そんな感情を思わせるような表情がそこにはあった。
「全く…パチュリーちゃんやサイタマ君達の負担を少しでも軽くしようと思って戦っておったが…まだまだワシも未熟者だったという事か…」
「自分よりも年下の嬢ちゃんが地上の事を俺達に任せてくれたんだ。だったらよ…タツマキみたいに俺達もマジで気合を入れなきゃダメだよな…!」
瞬間、第3位と第4位の気が爆発的に膨れ上がり、同時に究極まで研ぎ澄まされる。
「アトミック侍」
「あぁ…いくぞっ!!」
ばっ!!
二人がいきなり上着を脱ぎ、上半身が裸になる。
恐ろしく鍛え上げられた筋肉が露わとなり、特にバングの背中を見た者達が目を見開いて戦慄した。
「あれは…刺青なのか…?」
「お恥ずかしながらのぅ…若かった頃のお茶目という奴じゃよ」
彼の背中にあったのは白い毛並みの鋭い牙を持つ巨大な狼の刺青。
その迫力の前では誰もが黙り込んでしまう。
「なんだお前ら…知らなかったのか? この刺青こそがバングが『シルバーファング』と呼ばれている所以なんだぜ?」
「マジかよッ!?」
やった事は単純に上着を脱いだだけだ。
それ以外には本当に何もしていない。
だが、ジェノスには分かっていた。分かってしまった。
どうして、この二人がS級ヒーロー第3位と第4位という地位にいるのかを。
超一流の格闘家だから? 超一流の剣士だから?
どっちも違う。全く違う。
(サイタマ先生とパチュリーさんの実力を何度も近くで見て来たから分かる…! あの人達には流石に及ばないが…及ばないが…!)
歯を食い縛り、拳を握りしめる。
(シルバーファング…アトミック侍…間違いない…この二人は…!)
他のヒーロー達なんてどうでもいいと思っていた。
歯牙に掛ける価値すらないと思っていた。
その考えは間違っていた。
ジェノスは初めて、サイタマとパチュリー以外の存在に対して『勝てない』と思うと同時に、彼らもまた自分が超えるべき壁であると認識した。
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急激に雰囲気が変わったバングとアトミック侍。
彼らの姿を見て、メルザルガルドは彼らの背後にある人物の幻影を見てしまった。
(な…何故だ…! どうして…こんな連中に…俺は…)
「あ…有り得ん…そんなこと…絶対に…!」
頭を振って想像してしまった事を払拭する。
宇宙の辺境に住んでいる原住民に自分が気圧されている。
たった三人しかいない最上位戦闘員としてのプライドが、その事実を許さなかった。
「有り得るものかぁぁぁぁぁぁぁぁアァァァァぁぁぁっ!!!!」
自身の両腕をまるで触手のように複数伸ばして様々な方向からの同時攻撃を仕掛けた!
上下左右から繰り出される攻撃を回避することはまず不可能!
相手は確実に防御をせざるを得なくなる!
だが…それは彼ら以外が相手だった場合だ。
「「邪魔だ」」
触手が二人に触れようとした瞬間…片方は刹那の煌めきの間に原子レベルで粉微塵と化し、もう片方は細胞の一つに至るまで粉々に破壊された。
アトミック侍は右腕を、バングは左腕を軽く動かしただけだ。
「は…速い…!」
「全然…見えませんでした…」
「俺もだぜ…」
目視すら出来ない程の攻撃速度。
これを防ぐことが出来るのは本当にサイタマぐらいしかいないかもしれない。
そう思わせるほどの実力がそこにはあった。
「お…俺の腕が一瞬で…だと…!」
「もう終わりか?」
「じゃあ…今度はこっちのターンかの?」
思わず後ずさりをしたメルザルガルドに対し、アトミック侍が剣を構える。
恐ろしく強大な剣気が全身を覆いつくし、彼に近づくだけでも切り刻まれそうな錯覚すら覚える。
「くらいな」
ア ト ミ ッ ク 斬
「た…太刀筋が……見えない…だと…!?」
気が付いた時にはもう剣は振り下ろされた後で、斬った瞬間が全く見えなかった。
『一瞬』なんてレベルじゃない。その速度は確実にマッハに至っていた。
光の斬撃によって木端微塵にされたメルザルガルドだが、すぐにまた再生を開始し始める。
どれだけ敵が強大になろうとも、矢張り最後に勝つのは自分だ。
それが自分の奢りであり、敗因になるとも知らずに。
「甘ぇよ」
再生が始まったメルザルガルドの懐にまで接近し、既に治っている部分…頭部を手刀で貫き、その指と指の間に彼の核を二つ掴んでいた。
「ば…馬鹿なッ!? どうして位置が分かったッ!?」
「どうせ最期じゃ。種明かしをしてやるかの」
チラっと後ろにいる他の皆に目配せをすると、全員が笑みを浮かべながら頷いた。
「通常時、貴様はその肉体のどこに弱点である核があるかを特定させないように、その核を高速で常に移動させている。だが…」
「テメェが全身を壊されるぐらいのデケェ攻撃を受けた時、無意識のうちに頭から再生をやってんだよ」
「つまり、その時には確実にその場所にお前の核が存在している…という事だ」
タンクトップマスター、金属バット、ぷりぷりプリスナーの三人からの説明を聞き、メルザルガルドは嘗てボロスとした会話を思い出していた。
『メルザルガルド…確かにお前は強い。それは認めよう。だが、お前には致命的とも言える弱点がある』
『御冗談を。この俺に弱点など有りません! 仮にあったとしても、それを付かれる前に倒せばいいだけの事!』
『宇宙は本当に広い。必ずどこかに、お前の弱点を見つけ、それを的確についてくるような強者が現れるだろう。その時、己自身の弱点と向き合わなければ…死ぬのは貴様だぞ。メルザルガルドよ』
ボロスの言っていた事は本当だった。
実際に存在していたのだ。自分の弱点を見抜き、それを突いてくるような強者が。
「だが、その弱点を見つけたのは俺達ではない」
「見つけたのはパチュリー様なんです」
「あいつは、自分が連れて行かれる前に念話で俺達全員にテメェの弱点を教えてくれてたんだよ」
「分かる? 私達を敵に回してしまった時点で…アンタの負けは確定してたってこと…よっ!」
ついでと言わんばかりにタツマキは念動力で戦闘の余波で出来た瓦礫を浮かび上がらせ、それを砲弾のように飛ばして宇宙船に激突させた。
ジェノスとこあの話を聞き、メルザルガルドの脳裏に過る。
自分は積極的に戦闘には参加せず、まるで指揮官のような立ち回りをしていた少女の事を。
(そうか…あの連れて行かれた小娘が…ボロス様の言っていた『強者』なのか…!)
メルザルガルドとて愚かではない。
戦闘の全てが力で成り立つわけではないことぐらいは知っている。
優れた指揮官の存在は、有象無象の集団でさえも一騎当千の強者へと変貌させる。
では、指揮する対象が最初から一騎当千の強者たちだった場合は?
…答えはこれだ。
「パターンさえ分かってしまえばこっちのもんなんだよ」
「お主は確かに強かった。じゃが、パチュリーちゃんという最強の指揮官の存在が命運を分けたんじゃ」
「「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」
心の底からの悔しさを込めた断末魔を上げ、そして……。
パキンパキン
残された最後の二個の核を握り潰した。
「これで全部の頭部を破壊した。一先ず、この戦いは俺達の勝利だ!」
「ここからの戦闘音を聞く限りじゃ、他の地区のヒーロー達も確実に勝ってるみたいだな」
「となると、後の問題は……」
全員が上空を見上げ、そこにまだ堂々と存在している宇宙船を睨み付ける。
「タツマキ。確かサイタマ君が先にあの宇宙船へと侵入して暴れ回っているんじゃな?」
「そうよ。バカみたいなジャンプ力で一気に飛んで行ったわ。なんなのよアイツは…」
それを聞き、アトミック侍とバングは険しい顔をする。
「あの子の事じゃ…もう既に中にいるサイタマ君と合流していることじゃろう」
「サイタマとパチュリーの二人だけで敵の大将と最後の決戦を繰り広げてんだな…」
「パチュリー様…」
「サイタマ先生…」
祈るように両手を合わせるこあの肩を抱き寄せ、ジェノスは二人の無事の帰還を信じるのだった。
次回、パチュリー&サイタマVSボロス第二回戦