最強VS最強の戦いは佳境を迎える?
ボロスの超高速移動を駆使した背後からの一撃。
それは、格闘技の素人であるパチュリーから見ても明らかに直撃したと思われるものだった。
「今のは…手応えがあった」
「…………」
確かに直撃はした…が、しかし、だからと言ってここで油断をするような真似はしない。
たかが一撃程度の直撃で勝敗が決すれば、ここまでの戦いには発展していない。
ボロスはすぐにサイタマとパチュリーから距離を取った。
「あら…追撃はしないのかしら?」
「もししようとしたら、お前の魔法が飛んでくるだろう?」
「…よく分かってらっしゃることで」
読まれていた。
あそこからの追加攻撃が来れば、その瞬間にでもボロス目掛けて最大火力のメラゾーマを放つ気満々だった。
「俺の故郷である惑星は、地球とは比較にならない程に過酷な環境だった。そんな場所での生存競争に勝ち抜いてきた我々一族は、成長の過程で全宇宙でも随一の自然治癒能力を持つに至った」
話をしながらボロスの千切れた右腕の切断面が淡く光りを放つ。
パチュリーはそれに驚く様子を見せず、冷静に目を凝らしていた。
「そんな一族の中でも、特に俺は自然治癒力や身体能力、そして潜在エネルギーが桁違いに高かった。常人ならば確実に致死確実な深手であっても、僅か数秒もあれば完治する。ということは……」
まるで早送りの映像のように、ボロスの右腕が体液と共に再生、生えてきた。
生まれたばかりの右腕には血管が浮き出ていたが、それもすぐに消えた。
「例え、腕が千切れたとしても生命エネルギーを一点に集約させて自然治癒力を極限まで高めれば…この通りだ」
「けど、それは決して常時できるって訳じゃないんでしょう?」
「なに?」
自分には圧倒的アドバンテージがある事を誇示しようとしている風に見えたが、パチュリーにはそんな言葉は通用しない。
彼女には分かっていた。ボロスの強大な再生力の欠点を。
「傷を塞ぐならともかく、無くなった部位を復活させようとすれば、相当な体力を消耗する筈。それこそ、さっきまで地上で暴れていたメルザルガルドみたいじゃなければね」
「……矢張り、貴様の目だけは誤魔化せんか」
一瞬だけ瞬きをしたボロスの全身に汗が噴き出す。
パチュリーの前では強がるだけ無駄だと判断したのだろう。
「お前の言う通りだ。幾ら俺と言えども、そう何回も同じ事は出来ない。だが…俺にはあるんだよ。お前の回復魔法と同じように、失った体力を回復する手段がな」
「なんですって?」
そう言うと、ボロスは徐に自分の両脚を肩幅ぐらいに広げ、まるでリズムを刻むかのようにゆっくりと『呼吸』をし始める。
「コオォォォォォォォォォォ…!」
「ま…まさか、それは…!」
ボロスの全身に電撃のようなものが迸る。
すると、彼の全身にあった火傷や無数の傷すらも見る見るうちに消えていく。
「『波紋』…というのだそうだ。特殊な呼吸法をする事で自身の体力を回復させることが出来る」
「…どこでそれを?」
「もう随分と前になるが…宇宙空間を彷徨っていた生物と鉱物の中間のような存在と出会ってな。どうやら、偶然できた次元の裂け目からやってきたようだ」
「(それって絶対に『アイツ』じゃないのよ…!)そいつから教わったの?」
「そうだ。その直後、俺に向かってきたので返り討ちにしてから、今度はブラックホールのある方角に目掛けて放逐してやったがな」
「あっそ…」
ボロスが『波紋』を会得していたのは意外過ぎたが、不幸中の幸いなのは彼が波紋を攻撃に転用する手段を知らない事。
それでも厄介であることには違いないのだが。
「ふーん…呼吸一つで回復できるのか。スゲーな」
「ほぅ…もう回復したか」
「いや…回復って言うか、二人していきなり難しい話をし始めたから普通に黙ってただけなんだけど…」
戦いが激しくなっても、やっぱりサイタマはサイタマだった。
このブレない姿勢こそが、彼が最強足らしめている真の理由なのかもしれない。
「今の一撃…流石に
「驚く…か」
先程の攻撃はボロスからしても渾身の一撃だった。
それなのに『驚く』程度で済ませているという事は、実際には碌なダメージを与えられていないという事だ。
「…で、まさかとは思うが今ので終わりってわけじゃあねぇよな」
「フッ……」
ボロスが中腰のような体勢になり、全身から今まで以上のエネルギーを迸らせる。
周囲の空気だけでなく、空間ごと震え始め、足を着いている甲板全体がまるで地震が発生しているかのように激しく振動した。
「当然だあっ!!!!」
ボロスを中心に凄まじいエネルギーがドーム状に放出され形を成す。
エネルギーのシェルターに包まれたボロスの全身が変化し、先程とは全く違う姿へと変貌した。
METEORIC BURST
先程まで紺色だったボロスの身体が、乳白色のような色へと変化し、その全身には漆黒の雷のような模様が描かれている。
彼の顔面と頭髪が融合し、その目は漆黒に染まっている。
明らかに異常。明らかに本気。
その姿を見た途端、パチュリーは生まれて初めて全身の産毛が逆立つような感覚に陥った。
「サイタマッ!!!」
咄嗟に彼の名を呼ぶが、それとほぼ同時にボロスが突貫してくる。
そして、その拳がサイタマの顔面に直撃した。
「おあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「く…うぅぅぅっ!!」
ダメージを軽減、または無効化する事が出来ても、その際に放たれる衝撃波だけは無くせない。
サイタマの身体は激しく吹き飛び、近くにいたパチュリーもまた同じようにテトラカーンを展開したまま吹き飛ばされる。
二人をぶっ飛ばした衝撃波は凄まじく、未知の鋼鉄で覆われた甲板を破壊どころか、発生したエネルギーによって易々と溶解していった。
艦の中にいた者達はいきなりの激しい揺れに動揺し、次の瞬間には艦内にも入ってきた衝撃波に巻き込まれて大勢の者達が木端微塵となった。
「逃がさん!!!」
「くっ…待ちなさい!!」
上空へと吹き飛んだサイタマを追撃するボロス。
その速度は明らかに我々の常識を超えていた。
彼は今、体内に溢れている凄まじいまでの生命エネルギーをジェット噴射のように体外へと放出し、それを推進力とする事であらゆる生物の限界を圧倒的に超越した速度とパワーを引き出していた。
まるで、先程までの戦いが児戯のように思える程に。
「そっちがその気なら…私も無茶させて貰うわよ!!」
「来るかっ!!」
もう詠唱云々なんて言ってる場合じゃない。
魔力なんて幾らでも持っていけ。
出し惜しみをしていて勝てるような相手じゃないのは最初から承知していた筈だ。
ボロスは間違いなく、サイタマとほぼ互角の実力を持つ存在。
そんな奴相手に妥協なんてしている余裕はない!
「出でよ創世の輝き!! ビッグバン!!!」
「これ…しきでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
指向性の魔力が一点に凝縮し、超新星爆発に匹敵する一撃を放つ!!
ボロスの先程の一撃と同様に、並の相手ならば魂すらも消し飛ぶ威力を誇るが、今のボロスはそれにすら真正面から耐えてみせたっ!!
一筋の閃光となって本能の赴くままに縦横無尽に暴れ回り、文字通り四方八方からサイタマに襲い掛かる!!
もはや、余りの速度に彼の姿を認識する事すら出来ない!
肝心のサイタマはというと、その暴力の嵐をなすがままに受け続けていた!
それに追従するかのように、パチュリーの姿もまた凄まじい速度によって姿が閃光のようになる!
「それなら…もう一段階アップするわよっ!!」
燃えるような魔力が急激に下がり、全てを凍てつかせる空間と化す!!
それはまるで、ボロスの故郷を彷彿とさせる光景!!
「氷霧に彷徨えっ!! 凍牙に果てよっ!! 冷気に抱かれて刹那に沈め!! インブレイス・エンドッ!!!」
「まだ…まだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
両手が、両足が限りなく絶対零度の近い凍気に包まれ、その体は無数の氷の槍に貫かれているにも拘らず、ボロスの動きは微塵も衰えることが無く突き進む!!
もしかしたら、今の彼にはもう痛覚は存在していないのかもしれない!
「これでも…くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
ガラ空きとなったサイタマの腹部目掛けて最大級の蹴りを放つ!!
そのまま振り切るように右足を真上に向けてサイタマを遠く空の彼方にまで吹き飛ばしたっ!!
雲を貫き、風を切り、一瞬にしてその姿が見えなくなる!!
「サ…サイタマ…!?」
「ハァ…ハァ…ハァ…! 今の一撃は…会心だった…!」
「ボロス…あなた…」
「間違いなく…大気圏すらも越えて宇宙空間へと吹き飛ばした…」
終始優勢だったように思えるボロスであったが、いきなり甲板へと降り立って呼吸を整えていた。
それもその筈。
メテオリック・バースト。
この形態はまるで無呼吸運動のように自身の体にかかる負担が絶大であり、そういった特性であるが故に波紋での回復も出来ない。
本来は決着を早めたい時にのみ使用するボロスにとっての『
「やっぱり…その状態…圧倒的パワーと引き換えに体への負担が大きいのね?」
「リスクを気にしていては…勝てる勝負も勝てないからな…」
「その勝利への飽くなき執念だけは称賛に値するわ」
「お前程の魔法使いにそう言われただけでも…地球に来た甲斐があった…。だが…いいのか?」
「何がよ?」
「どれだけ強くとも、サイタマは人間。空気の存在しない宇宙空間では生きていることは不可能だ」
「本当にそう思う?」
「…………」
自分で言っていても、不思議とサイタマが死んだとは思えない。
あの男の事だ。
宇宙空間に吹き飛ばされた程度ではビクともしないだろう。
何の根拠もないが、何故かそう思えて仕方がないのだ。
「短時間であるとはいえ、サイタマを拳を交えたアンタなら分かっている筈よ」
「そう…だな……」
会話が途切れた瞬間、空から何かが降ってきた。
それは真っ直ぐに甲板へと落下…否、
「お? いけた?」
さっきまでと全く変わらぬ表情で、さも当たり前のように宇宙から戻ってきた。
常識なんて言葉は、サイタマという男の前では意味をなさない。
「おかえり、サイタマ」
「ただいま、パチェ」
パチュリーも彼が戻ってくることを最初から知っていたかのように振る舞う。
サイタマをずっと一緒に過ごしていたせいで、もうどんな事を彼がしても驚かないようになってしまっていた。
「続き…やろうぜ」
「あぁ……そうだなっ!!」
次回…決着?