街全体を覆い尽くすほどに超巨大な魔法陣が幾つも展開され大空を照らし出す。
非現実的で幻想的なその光景に、誰も彼もが息を飲む。
そんな感動の束の間、次の瞬間に広がった光景に誰もが呆然となる。
ほんの一瞬。刹那の瞬き。
この世界から全ての『光』が失われ、この世が暗黒に包まれた。
光は全て上空に吸い込まれていくように昇って行き、ある一点に凝縮されていく。
その場所がパチュリーがいる場所なのだと理解するのに、そう時間は掛からなかった。
そして……。
ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!
全世界に響き渡るほどの衝撃と轟音と共に『光』が超巨大な『雷光』の槍となって宇宙船を飲み込んだ。
「いつみてもすげーなー…パチェの本気は…」
街にいる全ての者達が声も出ない程に驚愕している中、いつも通りの呑気なサイタマの声だけが聞こえる。
それは、過去に一度だけパチュリーの最大奥義の直撃を体験したことがあるが故の感想なのか。
凄まじい閃光と衝撃と轟音が起きた直後、すぐに世界は元に戻る。
その時、誰かが震えながら空を指差した。
「お…おい…あれ…さっきの宇宙船…遠すぎて見えにくいけど…でも…間違いねぇよ…!」
心臓が大きく鼓動し、唾を飲む音すらも巨大に聞こえる。
全員の緊張が頂点に達した瞬間…。
「う…う…う…」
ボガァァァァァァァァァァァァァアァァァアァァァァァンッ!!!!!
「宇宙船が木端微塵に砕け散ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
咄嗟に全ヒーローが構えを取る。
上空から降り注ぐ幾多の瓦礫から街を守るために。
我等の仲間から託された使命を全うする為に。
「気合を入れやがれテメェら!!!」
「これがワシらの最後の大仕事じゃ!!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
アトミック侍とシルバーファングの叫びに応えるように、全てのヒーロー達が怒号を上げながら無数の瓦礫の破壊を開始する。
「これだけの大仕事…老骨に鞭打つ価値もあるってもんじゃわい!!」
「全く以てその通りだ!! 全部ぶった斬ってやる!!」
狼牙猛撃拳!!!
アトミック斬!!!
人間離れした跳躍で一気に十数メートルもジャンプし、目の前にある巨大な瓦礫が拳と剣によって粉微塵に砕け散る。
そのまま二人は、高層ビルの屋上に着地をしてからすぐに再び飛び上がり、同じように攻撃を繰り返していく。
「なんだよおい…最初から全力全開ってか?」
「怖気着いたのか?」
「あぁ? 冗談は寝てから言えや…タンクトップ野郎!!」
タンクトップマスターの言葉に触発され、金属バットも二人に続くように異常なまでのジャンプ力を発揮し、自慢のバットによるフルスイングで瓦礫を打ち砕いていく。
「オラオラオラァァッ!! こんなんじゃ俺は止めらんねぇぞ!!」
ジャンプを駆使したまさかの空中戦を始めた三人を見て、ジェノスは冷静に自分に出来る事を判断していた。
「確かに…近接戦が得意な奴等には、あの戦法が最適解なのだろうが…俺は違う!」
両手を空に翳してから狙いを定め、掌に装備されている自慢の一撃を放つ!
「焼却砲連射モード!!」
普段ならばビームのように放つ焼却砲を、まるでマシンガンのように短いスパンで連続で発射する。
これもまたクセーノ博士に追加強化して貰った装備で、質より量を重視した武器で、基本的に一対多数や素早い敵に対して使う事が予定されていたが、まさか初使用が瓦礫の処理とは思いもしなかった。
「やるな皆! 俺も負けてはいられんな!! とう!!」
ぷりぷりプリズナーがいつものように飛び上がり、その背中に天使の羽が生えた…ような幻覚を見せた。
「エンジェル…ブレイカーラッシュ!!」
ブレイカーと言っているが、やっている事はいつものラッシュである。
その威力は掠っただけでも巨大の瓦礫を粉々にしているが。
「ふむ…それならば、俺は真っ直ぐに貫く!! いくぞ!!」
全員の攻撃を見て何かを思ったのか、タンクトップマスターは両足に力を籠め、両腕を前方で交差させ、上空目掛けて全力で跳躍した!!
「タンクトップエアタックル!!!」
それは、空中に向かって放たれた全力のタックル。
まるで一筋の流星のように眼前にある多数の瓦礫を次々と貫き破壊していく。
「全く…何やってんのかしらね。すっごい非効率。こういうのはもっとスマートにやるべきでしょうが」
盛大な溜息を吐きながら腰に手を当てるタツマキ。
呆れながら両手を翳し、目の前に迫る瓦礫を狙って『力』を込め、手をギュッと握りしめた。
すると、触れてもいないのに瓦礫が原子レベルに砕かれた。
「こんな風に…ねっ!」
リズムを刻むように手や指先から放たれる念動力だけで瓦礫が破壊されていく。
こんな時でもタツマキの実力は健在のようだ。
「はわわわわ…えーと…こんな時は…これだ! バギ!」
こあの手から放たれた真空の刃が瓦礫を切り刻んだ。
それを見て、こあはなんとかなったとホッとした。
「くくく…ははははははははは!」
「いきなり笑い出してどーした?」
そして、サイタマにずっと抱えられていたボロスがいきなりの大爆笑。
「そうか…これがパチュリーの『本気』か! 恐れ入ったぞ! 予想もしなかった! まさか、あいつがあの『禁断にして伝説の魔法』すらも習得していたとは!!」
「え? お前、インディグネイションのことを知ってんのか?」
「あぁ…見たのはこれが初めてだがな。伝承だけは伝わっていたが…実在するとは思わなかった。しかも、それをこんな辺境の惑星に住む魔法使いが使えるだなんて誰が想像する?」
予言に従って大正解だった。
まさか、己を心から満足させる人間が二人もいただなんて。
サイタマとの激戦の時とはまた違う充足感をボロスは心の底から感じていた。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「戦術変形…『飛車』」
駆動騎士の持つボックスが分離変形し、彼の全身に装着されていき、あっという間に漆黒のボディを持つ戦闘機へと姿を変える。
「先に行く」
あっという間に上空へと飛んで行き、彼が通り過ぎた場所の瓦礫が粉々になっていく。
「凄い技術だ…あの人は一体…」
『感心シテイル場合カ? 俺モ行カセテ貰ウゾ』
「あっ!? 博士っ!?」
童帝が駆動騎士の装備に驚いている間に、メタルナイトもブースターを吹かせて飛んで行ってしまう。
『フッ…予想外ノコトデハアッタガ、新兵器ノ実験ニハ丁度イイ。ソウイウ意味デハぱちゅりーニ感謝セネバナ』
自分のラボからメタルナイトを操作しながらボフォイは考える。
(パチュリーの本気…まさか、あれ程の威力だとはな…! まるで核兵器が花火に見えてしまった。サイタマといい、明らかに一個人が持つ力を凌駕し過ぎている。俺の頭脳で果たして、どこまで奴の魔法に近づけるか…)
よく『発達した科学は魔法と大差が無くなる』と言われているが、実際の魔法を直に見たボフォイは確信する。
まだ科学は魔法の領域には程遠い…と。
アレを科学で再現するには、あと何世紀掛かるか分からない。
「あーもう! こんな事なら、ちゃんとした装備を持ってきておくんだった!」
自分の状況予測の未熟さを嘆きながらも、童帝はいつも背中に背負っているランドセルから取り出した筆箱状の銃から放たれる『ペンシルミサイル』やリコーダー型の柄から伸びたビームソードを使ってなんとか瓦礫の破壊を行っている。
「こんな時、俺のようなタイプはあんまり役に立たなそうだが…むっ!」
超合金クロビカリがどうしようかと考えている最中、かなり巨大な瓦礫が童帝に向かって落ちてこようとしていた。
それを見たクロビカリは即座に彼の前に立ち、その剛腕の一振りで瓦礫を破壊した。
「大丈夫かい? 童帝くん」
「あ…ありがとう…クロビカリさん…助かったよ…」
相変わらずの規格外すぎるパワーに度肝を抜かれながらも、気を取り直して自分なりの方法で瓦礫の処理を続けていく。
そんな中、屋上に一人のヒーローが上がってきた。
「全く…俺の仕事は主に諜報や調査方面だってのに…」
ブツブツと言いながら来たのはS級8位のゾンビマン。
その手には明らかに軍用の物と思われるバズーカ砲を抱えていた。
「新人や若い奴等、同じS級の連中が頑張ってるって時に、俺だけ呑気に見学とか出来ねぇじゃねぇか」
「ゾンビマンさん!」
バズーカを両手で構え、狙いを定めてから引き金を引く。
砲弾が瓦礫に命中して爆発を起こした。
「ほれ。こっちはこっちで適当にやるから、お前達は前だけを向いてろ」
「分かりました!」
「やっぱり心強いな君は」
「言ってろ。ほら、来たぞ」
数々の銃器を使って瓦礫を壊していくゾンビマン。
一見すると地味だが、それでも確実に貢献はしていた。
だが、それでも…。
「……………」
キングは全く動く様子が無かった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ほんと…無茶を言ってくれるわね! あのお姫様は!」
「それだけ俺達が信頼されているという証拠だ!」
「文句を言っている暇は無いぞ! まだまだ瓦礫が落ちてくる!」
師匠であるアトミック侍と同じように、ジャンプからの剣撃で瓦礫を破壊していくイアイアイ、オカマイタチ、ブシドリルの三剣士。
そんな彼らに続くように、他のA級ヒーロー達も必死に瓦礫の排除に全力を尽くしていた。
「これだけ的があれば狙いを付ける必要すらないな! 撃って撃って撃ちまくる!」
自慢のガトリングを一斉掃射して周囲に薬莢をばら撒いているデスガトリング。
ガトリング砲を武器としている彼にとって、このような状況は最も自分の力を活かせる場でもあった。
「逆にこっちは狙いを定めないといけないんだぞ…っと」
強力なスナイパーライフルで一つ一つ確実に破壊していく
派手さこそないものの、現状では貴重な遠距離武装持ちとして活躍していた。
「むっ!? あれは!」
「デカいわね…」
「俺達だけで壊せるか…!?」
それは、大型トラックほどの大きさを持つ瓦礫の塊。
上空と言う足腰の力に頼れない状態でどれだけやれるか。
少しだけ冷や汗を掻いていると、三人の近くに二つの影が飛んできた。
「三人で駄目なら!」
「五人でやればいいだろうが!」
「お前達は!」
「スティンガーっ!?」
「イナズマックス!」
最高のタイミングで来てくれた救援に笑みを浮かべ、五人のヒーローは力を合わせて目の前の巨大な瓦礫目掛けて最大の力で攻撃を放つ!!
「「「「「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」」」」」
三つの斬撃、渾身の連続突き、会心の飛び蹴りを受け、瓦礫は木端微塵に砕け散る。
「「よし!」」
「やったわね!」
「「よっしゃぁぁっ!!」」
ヒーロー達が結束して街を守る。
その光景は、力無き人々に希望を与えるには十分過ぎる効果を与えていた。
だが…まだまだ瓦礫は雨のように降り注ぎ続けていた。