遥か上空から次々と降り注ぐ瓦礫の雨。
数多くのヒーロー達によって破壊されていくが、瓦礫の元となった宇宙船が恐ろしく巨大であったため、中々に終わりが見えてこない。
そんな彼らの働きが、本来ならばこの場から去ろうと思っていた者達の心すらも動かした。
「一体どんだけあるんだよ! まるでキリがねぇぞ!」
「それだけ巨大で、パチュリーちゃんがワシらに少しでも負担を掛けんように細かくしてくれたお蔭でもあるんじゃろう! もしデカい瓦礫が雨霰のように降り注いでいたら流石に危なかったわい!」
別の瓦礫を足場にしながらの器用な空中戦闘で次々と瓦礫を壊していくシルバーファングとアトミック侍。
振ってきている瓦礫の約半数以上をこの二人だけで破壊しつくしているのだが、それ故に流石の彼らも疲労の色を隠しきれなくなってきていた。
若干の小休止があったとはいえ、実際にはメルザルガルドとの連戦に近い。
あと少しなのに…そう思った、その時。
「む?」
「あれは…」
二人の横を一筋の黒い影が凄まじい速度で通り過ぎて行った。
「絶技…」
鞘から愛刀『瞬殺丸』が引き抜かれ、刃の煌めきが全てを斬り裂く。
「閃光斬!!!」
その姿を見て、アトミック侍は驚き、シルバーファングは素直に喜んだ。
「お前…フラッシュか!」
「まさか、お前さんが加勢に来てくれるとはの…」
「勘違いをするな。本当なら、俺はとっとと自分の依頼をするつもりだったんだ。だが、このままでは瓦礫が邪魔で依頼主の元まで行き難い。だから、こうして『掃除』をしているだけに過ぎない」
口では単に自己の利益の為のように言っているが、それでも彼が協力してくれているのは事実なので、二人は敢えて何も言わなかった。
「それに、出て来たのは俺だけじゃない。下を良く見ろ」
「「あれは…!」」
言われた通りに地上を見下ろすと、そこには巨大な瓦礫を飲みこみ、それを勢いよく吐き出して別の瓦礫にぶつけるという奇抜すぎる方法で迎撃に参加している豚神の姿があった。
「なんちゅー奴じゃ…」
「相変わらず、あいつもよく分からねぇ奴だぜ」
謎が多くはあるが、現状では頼もしい味方であることには違いが無かった。
地上の方は他のヒーロー達に任せて、三人は再び瓦礫を踏み台にして空中戦を再開しようとした。
その時、不意にフラッシュが明後日の方向を見た。
「この気配…まさか…『あいつ』がいるのか…?」
・・・・・
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A市某所。
毎度お馴染みの関節のパニック…じゃなくて、音速のソニックがフル装備状態で上空を見上げていた。
「ふん…なにやら妙にA市が騒がしいから、またサイタマやパチュリーが関わっているのかと思っていたら…案の定とはな」
実は、ソニックはかなり前からA市に来ていて、あのインディグネイションの発動も目撃していた。
「あの凄まじ過ぎる雷光の一撃…あれがパチュリーの本気と言う訳か。面白い…!」
人知を遥かに超越した究極の一撃。
それを見てもソニックの戦意は全く衰えない。
寧ろ、今まで以上に昂ぶっていた。
「そう言えば、あの念話のようなもの…この街にいるヒーロー達に向けて放ったようだが、俺にも普通に聞こえて来てたぞ…」
まさか、パチュリーの中では自分もヒーロー扱いなのか。
もしそうなのだとしたら、今度会った時に一言言ってやらないと気が済まない。
ここで『暴力』という手段が選択肢が出ないのが、何気に彼が女性に気遣いが出来るという証拠なのかもしれない。
「まぁいい。今はこの街のどこかにいるサイタマを見つけ出し、今度こそ決着をつけて…ん?」
悠々と歩きだそうとした瞬間、ソニック目掛けて中々の大きさの瓦礫が落ちてきた。
このままでは直撃必至。
だが、ソニックは微塵も動じていない。
「…丁度いい。サイタマ達と再戦する前のウォーミングアップと洒落込もうじゃないか。くらえ!!」
一瞬で二人に分身したかと思うと、空高く飛び上がってから変則的な超高速の拳の連撃を瓦礫に叩き込んだ!
「音速重連拳!!」
巨大な瓦礫はソニックから放たれた無数の拳によって粉々に砕け散り、彼の周囲にパラパラと落ちていった。
「この程度では俺を止める事など……ん?」
ふと空を見上げると、遠くの方に何やら妙に見覚えがある姿があった。
「あれは…まさかフラッシュの奴…か? 『里』から消えた後にヒーローになったと聞いていたが…」
こんな場所で嘗ての同胞を見つけ複雑な心境になるが、すぐに頭を振って払拭し、自分の方に降ってくる瓦礫を破壊しながらサイタマがいるであろう場所を目指して歩き出す。
今向いている方向とは全くの逆方向だとも知らずに。
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「あ…ははは…ははははは! なんださっきのは! なんだ、この光景は! まるでガチの世紀末じゃねぇか!」
先程まで激戦を繰り広げていたビルの屋上にて体を休めていたが、巨大な宇宙船を貫き破壊した雷光を見て起き上がり、直後に降り注ぎ始めた瓦礫を見て大笑いするガロウ。
明らかに絶体絶命な状況であるにも拘らず、ガロウは絶望するどころか逆に興奮しまくっていた。
「お? あの姿は…ジジイか?」
目を凝らして観察すると、そこには見事な空中戦を披露している師であるバングの姿が。
その圧倒的な実力で、まるでスナック菓子でも握り潰すかのような感覚で鋼鉄の塊である瓦礫を破壊していく。
「…ま。あのジジイなら、あれぐらいは楽勝だわな」
バングの実力は、嘗て弟子であった彼自身が誰よりもよく知っている。
この程度の事ではビクともしない。
それどころか、あんな瓦礫ぐらいならば纏めて掃除できる。
「げ。なんかこっちにも来てねぇか?」
このままヒーロー達の活躍を見学し、少しでも『今後』に備えておこうと思っていたら、ガロウがいるビルの方にも瓦礫が落ちて来ていた。
「しゃーねぇ…俺もこんな所で終わる訳にはいかねぇんでな! どんな固い奴でも容赦なくぶっ飛ばせるように練習させて貰うぜ!! おらぁぁぁぁっ!!」
ここがビルの屋上だと言う事も構わず、意気揚々と降ってくる瓦礫に飛びかかっていく。
無謀極まりない行為だが、ガロウの顔に危機感は無い。
どこまでも真っ直ぐに前だけを見つめ、その拳を突き出していった。
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「お?」
目の前で繰り広げられるヒーロー達の瓦礫撤去作業という名の大仕事。
その光景を手足が無くなったボロスの身体を抱えたまま眺めていたサイタマだが、急にその目が大きく見開かれた。
「あれって…まさか?」
その超絶的な視力で何かを見つけたサイタマは、その手に抱えたボロスをどうするべきかと周囲をキョロキョロとする。
「そうだ…ジェノス!」
「先生? 一体どうされたんですか?」
「パチェを見つけた。ちょっと迎えに行ってくる」
「なんですって!? パチュリーさんを見つけたッ!?」
「あぁ。だから、ちょっとボロスの事を頼む」
「分かりました! どうぞ遠慮なく行って来てください! きっとパチュリーさんも先生の事を待っている筈です!」
先程の一撃からずっと行方が分からなくなっていたパチュリー。
それをようやく見つけたのだから、サイタマは地味にテンションを上げていた。
「サイタマさん…パチュリー様の事を…お願いします…!」
「任せとけって、こあ。んじゃ、ちょっち行ってくる」
ボロスの身体をジェノスに渡してから、サイタマは両足に全力を込める。
よーく目を凝らしてからパチュリーの位置を再確認。
「…あそこか。せー…のっ!!」
ズドンッ!!!
そんな炸裂音を出しながら、単純な脚力だけで限りなく音速に近い速度を叩き出し、一瞬で上空にいたフラッシュやシルバーファング、アトミック侍を追い抜いて行った。
「な…なんじゃ今のはッ!?」
「一瞬だけ姿が見えたが…サイタマかっ!?」
「なん…だと…!?」
自分以上の速度を叩きだす男が出現した事で動揺を隠せないでいるフラッシュであったが、すぐに気を取り直して瓦礫破壊を再開する。
その時、地上にいるジェノスから大声で状況を知らされた。
「サイタマ先生がパチュリーさんを発見したらしい!! たった今、迎えに行ったとの事だ!!」
「なんじゃとッ!? パチュリーちゃんを見つけたッ!?」
「なら、アイツの事はサイタマに任せて、俺達は瓦礫に専念した方が良いな!」
「フン…勝手にしろ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
目にも止まらぬ速度でパチュリーに向かって一直線に飛んでいくサイタマ。
そんな彼の目の前に、今までで最も巨大な瓦礫が降ってきた。
「なんだこりゃ…邪魔だな」
よく見たら、その瓦礫はボロスが座っていた玉座の一部なのだが、そんな事なんてすっかり忘れていた。
「どけよな…パチェの所に行けねー…だろうが!!」
連続普通のパンチ!!
恐るべき速度と威力を誇る拳によって一瞬で原子レベルで粉々となった嘗ての玉座。
その向こうに落下しているパチュリーを発見した。
「あれ? パチェって普通に空飛べるよな? なのに落ちてるって…まさか気絶してる?」
よく見たら、パチュリーは目を瞑って微動だにしていない。
このままならば地面に直撃してしまう。
「世話が焼けるよ…なっ!」
それは、サイタマの異次元の身体能力がもたらした奇跡なのか。
足場が全く無い空中で、あろうことか再跳躍してみせた。
現実では決してありえない二段ジャンプし、落ちてゆくパチュリーに手を伸ばした。
「パチェ!! いい加減に目ぇ覚ましやがれ!! 寝坊だぞ!!」
「五月蠅いわね…ちゃんと聞こえてるわよ」
パチュリーの目がゆっくりと開かれ、サイタマをしっかりと見つめ、その手をギュッと握りしめた。
それを確認したサイタマは、一気に自分の方へと引き寄せ、そのまま抱きしめる。
「…ただいま。サイタマ」
「おかえり。パチェ」
至近距離でお互いの顔を見つめ合いながら、二人は笑みを浮かべる。
長い間ずっと一緒にいたからの安心感。
空中で絶賛落下中だと言うにも拘らず、パチュリーは心から安心していた。
「にしても、少し仮眠を取ってる間にまさか落ちてるとは思わなかったわ」
「マジで寝てたのかよ…」
「仕方ないじゃない。アンタだって知ってるでしょ? インディグネイションは大量の魔力を一気に消費するんだって」
「そういや、そうだったな」
「だから、精神的にも肉体的にも疲労が半端じゃないのよ。はー…本当に疲れた」
肩をグルグルと回しながら首をコキコキと鳴らす。
そして周囲を見つめ、まだまだ沢山ある瓦礫を確認した。
「どうやら、皆ちゃんと頑張ってるみたいね」
「まぁな。やっぱヒーローってすげーわ」
「何言ってんの。私もアンタも同じヒーローでしょうが」
「そうだった」
冗談を言い合いながらも、パチュリーは両手に魔力を集中させていく。
それはやがて、巨大な核融合を引き起こしていく。
「それじゃあ…皆に言った手前、私もちゃんと手伝わないとね。仮眠で魔力も回復したし」
「いやいや…もう十分にやっただろ…」
「別にいいじゃない。もう準備は出来てるし。寝起きの運動って事で。てなわけで…いくわよー!」
パチュリーを中心にして広範囲に凄まじい爆発と爆音が広がり、その威力と余波で殆どの瓦礫を粉微塵にしてしまった。
どう考えても寝起きでやるような魔法ではない。
「はい。一丁あがり」
「相変わらず、えげつねー…」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
なんて話している間にも落下は続いていて、もうすぐそこに地上が迫ってきている。
「着地するぞー。ちゃんと捕まっとけよー」
「はいはい」
流石に着地をする時はパチュリーの事を考えて彼なりに衝撃を和らげようとしたのか、地面に足が着く瞬間に膝を曲げて衝撃を吸収しようと試みた。
タイミングが良かったのか、見事に地面を破壊することなく見事に着地することに成功した。
「ふぅ…なんとかなった。ちょっとだけヒヤヒヤしたぜ」
「意外とやるじゃない。見直したわ」
「まぁな」
こうして、パチュリーは皆の元へと無事に帰還してきたのだった。
次回、ボロス編エピローグ。