個人的には重要な事なんじゃないかって思ってます。
突如として地球に飛来したボロス率いる宇宙人軍団との壮絶な死闘から数日。
隣の街に避難をしていたA市の人々は無事に元の生活に戻り、嘗ての活気を取り戻していた。
彼らを救い、街を守るために身を挺して戦ったヒーロー協会のヒーロー達。
未だ嘗て誰も経験したことが無い前代未聞の脅威に立ち向かい救ってくれた彼らに対し、市民たちは惜しみない感謝をし、協会への寄付金はこれまでにない額に到達したという。
無論、ヒーロー達は金銭目的でそんな事をしてはいないのだが、協会の一部の幹部たちにとっては棚から牡丹餅になった。
そんなヒーロー達は、今日も世界と人々の平和と安寧の為に活動をして…という事は無く、今日だけは特別に殆どのヒーロー達が活動を休んでいた。
命を掛けて自分達に『最後のメッセージ』を届けてくれた、偉大な大予言者を見送る為に。
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Z市の外れにある廃マンション。
サイタマとパチュリー達、こあとジェノスが暮らしているいつもの場所。
この四人も普段の生活に戻って…は、いなかった。
「まさか、またネクタイを付ける羽目になるとは思わなかったぜ…」
「別にいいじゃないの。良く似合ってるわよ? 初めて出逢った日を思い出すわ」
今日の二人は、いつもとの格好とは違い、真っ黒なスーツ…『喪服』に着替えていた。
勿論、そんな物なんて今まで持ってなかったので、これはヒーロー協会からの支給品である。
「先生。パチュリーさん。こっちも着替え終わりました」
「私も終わりましたー」
奥の部屋から、同じように喪服に着替えたジェノスとこあもやって来る。
当然だが、ちゃんと別々の部屋で着替えた。
「おー…ちゃんと袖まで通ってるな」
「はい。どうやら、ワンサイズ大きな服を貸してくれたようです」
「良かったわね」
機械の部分が完全に隠れたジェノスは、見事に普通の青年になっていた。
今ならば、彼がサイボーグであるなんて分からないだろう。
「パチェ。ボロスの奴はどうしてる?」
「彼なら大人しくしてるわ。大丈夫」
良くも悪くも武人肌なボロスは、勝者であるサイタマとパチュリーの言う事をちゃんと聞いていた。
なので、特にこれといったトラブルも発生していない。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「そうですね。場所は確か…」
「A市にあるヒーロー協会が所有してる大葬儀場…でしたよね」
「場所は聞いてるけど、行った事は無いからな。ルーラには頼れないな」
ルーラが適応されるのは、今までパチュリーが行ったことがある場所だけ。
初見の場所には歩いていくしか方法が無いのだ。
「取り敢えず、近くまでルーラで行ってから、そこから歩きましょ」
「賛成。んじゃ、頼んだぜ」
「りょーかい」
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A市 ヒーロー協会所有『特別葬儀会場』。
本日、ここで大予言者『シババワ』の葬儀がしめやかに執り行われようとしていた。
「到着…っと。ここね」
「流石は大予言者シババワの葬儀…大勢の人間が来てますね」
「ですね…その大半が協会幹部の方々やヒーローの人達ですけど…」
「でっけーなー…」
サイタマだけ見当違いの感想を述べているが、全員が目の前にある巨大な葬儀会場を見上げていた。
「君達も来たか」
「ん?」
「アンタは…」
まず最初に声を掛けて来たのはタンクトップマスター。
その後ろには彼の舎弟であるタンクトッパーも控えていた。
「あら…今日はタンクトップ姿じゃなくて喪服なんだ?」
「流石に今回はな。とはいえ、ちゃんと中にはタンクトップを着ている」
「「だと思った」」
普段から、どんな時もタンクトップ姿を貫いている彼も、ちゃんとした場ではドレスコードを守る常識はあるようだ。
勿論、そんなマスターを見習って、他のタンクトッパー達もちゃんと喪服を着用している。
「やっぱり、テメェらも来てたんだな」
「おはようございます。パチュリーさん」
「おはよ」
「ご機嫌麗しゅう…こあ殿」
次にやってきたのは、アトミック侍と、その弟子である三剣士の面々。
彼らもちゃんと喪服を着ているが、何故かオカマイタチだけは女性用の喪服だった。
「あの戦いからこっち、まだ事後処理の真っ最中だってのに…忙しいこった」
「仕方ないわよ。そこらの汚職をしている協会幹部の葬儀とかなら迷わず無視するけど、今回は…ね」
「まぁ…そうだな。流石の俺も、シババワの婆さんの葬儀となれば出席しない訳にはいかねぇよ」
この口振りから察するに、アトミック侍とシババワとの間には過去に何かがあった模様。
普段ならば好奇心の赴くままに尋ねるのだが、故人がいる前でそれを聞くのは躊躇われた。
「おや? アトミック侍? まさか、アナタまで来ていたとは…」
「ぷりぷりプリズナー…オメェまで来てたのかよ…」
なんと、普段は囚人として刑務所に収監されている筈のぷりぷりプリズナーまで葬儀に参加していた。
これには事情を知っている者達、全員が驚きを隠せない。
「いつもは怪人が出現した時しか出られないんだが、今回は特例として所長が許可してくれたんだ。ヒーローとしてちゃんと見送って来い…とね」
「へぇー…粋な事を考える刑務所所長もいるもんだな」
刑務所の事なんてサッパリ分からないサイタマは、なんとなく厳しいイメージをしていたが、意外と温情とかはあるのかもしれない。
「しかも、ちゃんと喪服も着てるんですねー…」
「俺のサイズに合うように協会側で特注してくれたんだ」
「だろうな」
所属しているヒーロー達の中には、規格外の体の大きさを誇る者も決して少なくは無い。
例えば豚神とか。
そのような時は、ちゃんとヒーロー協会の方で採寸をして、一から服をオーダーメイドで製作する。
「なんじゃ。S級で一番最後に来たのは、このワシか」
「おじいちゃん」
「バングのじーさん」
「よっ。君達も相変わらず元気そうじゃな」
普段通りのテンションでやって来たのは、シルバーファングことバング。
年の功なせいか、この中で最も喪服が似合っていた。
「お前が最後って事は、もう他の連中は来てんのか」
「あぁ。さっき、そこでクロビカリや童帝くんとも出会ったわい。クロビカリの奴は筋肉のせいで喪服がパッツパツになっておったがの」
「目に浮かぶようだわ…」
あの肉体に合うような服はそうそう見つからないだろう。
それこそフリーサイズ系でもない限りは。
「ってことは、タツマキも来てるのかしら…」
「気になるのかの?」
「ちょっとね。ほら、あの子の性格的にお葬式なんて来なさそうだし…」
「アンタ…ちょっと失礼じゃない?」
「「「「え?」」」」
いきなり聞こえてきた知ってる声。
振り向いて見ると、そこにはちゃんと喪服(Sサイズ)を着こなしているタツマキが腕組みをしながら立っていた。
「タツマキ…本当に来てたのね。意外だわ」
「本人を目の前にしてそれ言う? マジでアンタって…」
ヒーロー協会の中において、最強戦力の一角であるタツマキを怒らせないようにするのは一種の暗黙の了解のようになっていた。
下手に機嫌を損ねると、次の瞬間には彼女の強力無比な超能力が炸裂するから。
だが、パチュリーはそんな相手に臆することなく話しかけ、まるで年頃の少女のような会話を繰り広げていた。
これは、タツマキが先の闘いでパチュリーの実力を認めたと言う証拠でもある。
『魔法』と『超能力』。
ジャンルこそ違えど、彼女達が凄まじい実力の持ち主なのは誰の目にも明らかだから。
「ほぉ~…?」
「何よ、アトミック侍」
「いやな。お前でも、そんな顔をするんだなって思ってよ」
「そんな顔って、どんな顔よ」
「いつもみたいな仏頂面じゃなくて、歳相応の顔って事だ」
「なっ…!?」
予想外の事を言われて赤面するタツマキ。
因みに、ここにいる面々はタツマキの実年齢を知らず、本気で年齢的にも少女であると思っているので、こんなセリフが飛び出してくる。
「パチュリーちゃんの影響かもしれんの」
「私の?」
「そうだな。似たような戦い方をする同性の実力者同士故…か」
「いいことじゃないか。パチュリーちゃんがS級になってくれたお蔭で、良い感じに纏まってきて」
「あ・ん・た・ら・ねぇ~…!」
一瞬、本気で怒りそうになったが、そこは自称社会人のタツマキ。
すぐに冷静さを取り戻して自制した。
「あ…師匠」
「どうした? イアイ」
「『あの人』もいらしてますよ」
イアイアンの視線の先にいたのは、喪服をビシッと着こなして受付を済ませているキングの姿だった。
「常在戦場を心掛けているアイツも、流石にここじゃ自慢の『キングエンジン』を抑え込んでるか」
「そのようじゃな。然るべき時にはちゃんと己の内にある殺気や闘気を抑え込める…。伊達や酔狂で『人類最強』と呼ばれている訳ではない…ということじゃろう」
キングの後姿を見つめながら、パチュリーは不意に考え込む。
(そう言えば…キングはボロス達が襲来した時も全く動いてないって童帝くんが言ってたわね…。それは私が宇宙船を破壊して瓦礫が降り注いできた時も同様…。こうして後姿だけを見てると、どこにでもいる普通の男性にしか見えないんだけど…それはウチのサイタマも同じか。『能ある鷹は爪を隠す』って言葉もあるぐらいだし、真の実力者ともなれば、その能力を隠蔽することすらも一流って可能性も十分に考えられるわ。もしかしたら、キングと言う存在はヒーロー協会にとってS級1位であるブラストと同格の存在として扱われているのかも…)
キングに関しては本当に謎が多い。
この場で考えるべき事ではないのだが、それでも一回でも疑問を感じると無意識の内に脳内で考察を開始してしまう。
パチュリーの良い癖でもあり、同時に悪い癖でもあった。
「パチュリーさま? どうかしましたか?」
「あ…こあ。ううん…なんでもないわ」
こあに肩を軽くポンポンと叩かれて正気に戻る。
気が付いた時にはもう、キングは既に会場入りしたようで姿が消えていた。
「君達、よく来てくれた」
「「シッチさん」」
キングの姿を探している所で、奥の方から皆と同じように喪服に身を包んだシッチがやって来た。
どうやら、彼らの姿を見つけて来てくれたようだ。
「諸君。いきなりの葬儀に良く出席してくれた。シババワ様に変わって礼を言う。本当にありがとう」
「どういたしまして。一番大変だったのは、他でもないシッチさんだったでしょうに…。聞いたわよ? 今回のシババワの葬儀…殆どアナタが一人で準備をしたそうじゃない」
「別に大したことじゃない。命がけで戦ってくれた君達に比べたら微々たるものだ」
間違いなく相当に大変だった筈なのに呆気なく言ってのける。
パチュリーは完全に確信した。
ヒーロー協会幹部の中で、この人は間違いなく信用できると。
「ねぇ…今日の葬儀って、どれぐらいのヒーローが出席してるのかしら?」
「階級問わず、殆どのヒーローが出席をしている。流石に街の警備などもあるから、少しだけ欠席はしているが」
「例えば?」
「S級12位の番犬マン。彼も最初は出席の意を示してくれてはいたのだが、彼のテリトリーとも言えるQ市は彼が一人で守護をしている。会議の時は偶然にも怪人の襲来が無かったから良かったが、そのような偶然が何回も続くとは限らない。だから、今回は仕方なく自粛して貰った。とはいえ、ちゃんと香典などは送られてきているがな」
着ぐるみを着ているような姿をしておきながら、ちゃんとやるべき事はやる。
逆にどんな人物像なのか分からなくなってきた。
「さて…では、我々もそろそろ行くとしようか」
そうして、シッチの後に続くようにして、ヒーロー達も葬儀会場に入って行くのだった。
流石に一回じゃ終わらなかったか…。
原作でも、なんか重要人物っぽいのに全く葬儀とかが行われてなかったのが不思議に感じたので今回やってみることに。
ちょっとだけキング編への繋ぎも披露しましたが。