パチェや小悪魔と絡めたいヒーローたちが沢山いますから。
とある広い部屋から、一人の男と頭に巨大な角を持つ怪人が一緒に出ようとしていた。
男の方は顔中に冷や汗を掻いていて、どれだけ緊張しているのかが分かる。
「…私と一緒に来てくれるという事は、こちらの要望を聞いてくれると受け取ってもいいんだな…阿修羅カブト」
「おう。お前のクローンを殺していても腹の足しにもなりやしねぇからな。その『捕まえたいサンプル』ってのは強いんだろう?」
「あぁ…凄まじくな。お前の事を十分に満足させてくれるだろうさ」
「はははははっ! そいつは楽しみだな!」
背後に破壊の化身を連れて歩きながら、男はもう一つの事に頭を巡らせていた。
(あのハゲの男の強さは言うまでもないが…獣王を倒した少女の使っていた能力は一体なんだ…? 獣王の攻撃を全て跳ね返したと思ったら、巨大な竜巻を発生させてから無数の真空の刃にて粉々に切り裂いた…。あれはまるで…)
そこで男は頭を振って考えを払拭する。
科学者として、それだけは絶対に肯定してはいけないから。
「ん?」
「どうした?」
「これは…いるな。もうこの施設に入ってきてやがる」
「分かるのかッ!?」
「当たり前だ。俺様を誰だと思っていやがる」
「そ…そうだな…」
侵入者の気配を察した阿修羅カブトは急激に興奮状態となり、徐に男の頭を掴んで走り出した。
「な…何を…!?」
「もう我慢できねぇ! とっとと行くぞ!!」
「ま…待て! 阿修羅カブト! うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
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地上の建物を跡形も無く消し飛ばし、その跡地から発見した入口から地下へと入ったサイタマ&パチュリー御一行様。
地下施設はどこまでも続く機械的な廊下が延々と続いていた。
「この地下ってめっちゃ広いじゃん。なんか、一昔前のRPGみたいでテンション上がるな」
「なんかもう見た目からして『ザ・研究施設』って感じよね。そこのドアからゾンビとか出てきそう」
「や…やめてくださいよぉ~…パチュリーさまぁ~…」
「仮にも悪魔なのにゾンビが怖いのか……む?」
急にジェノスが立ち止り、奥の方を注視しながら何かを発見する。
どうしたのかと思って他の皆も立ち止まるが、周囲には何も見当たらない。
「この奥の方から複数の生体反応を検知…これはなんだ? 全く同じ反応が幾つもある…?」
「同じ反応って事は、もしかしてそれがゴリラ君の言ってたクローンかも知れないわね」
「パチュリーさま…『クローン』ってなんですか?」
人間界の事はまだまだ勉強中のこあにはクローンの事なんて分かる筈も無く、思わずパチュリーに質問をすることに。
「簡単に言うと『複製された命』よ」
「ふ…複製ですか?」
「そ。詳しい原理までは知らないけどね。専門外だから」
そうやって説明をしていると、ジェノスの表情が険しくなる。
それを見て、サイタマはいつも通りにしていたが、こあは体を強張らせ、パチュリーはいつでも魔法が唱えられるように精神を集中させた。
「…先生。パチュリーさん。こちらに何かが高速で接近してきます。数は2」
「さてはて…鬼が出るか蛇が出るか…ね」
サイタマ以外が全員身構えていると、廊下の向こうからドスドスと何か巨大な物が走って来るのが確認できた。
数は2なのに足音は一つ。どうしてかと少しだけ訝しむと、どうやら誰かが巨大な方の手に掴まれているようだった。
「おう! いたいた! あそこだ! おう、四匹いるが一体どいつだっ!?」
「あ…あの黄色い服を着ている奴だ…」
「そうか! それじゃあ、他の奴は片付けちまっても構わないってわけだな!」
遠くからも余裕で聞こえてくる大きな声。
それを聞いて、彼らの目的はあくまでサイタマだけであって、他は排除する気満々なのが一発で分かった。
「まずは…あの金髪野郎からだ!!」
(あ…ヤバ。ジェノス君がまた壊される)
流石にあのグロ光景をこあには見せたくないし、パチュリー自身もジェノスが破壊されるのは見たくない。
なので、ここは魔法を使って彼を守る事に。
「そんな訳だから…大人しく死んどけや!!」
「来るか!!」
(テトラカーン)
巨大な怪人『阿修羅カブト』から繰り出される拳が直撃する直前、ジェノスの目の前に見えない障壁が出現し、その強大な一撃を完全に無効化して跳ね返し、その拳はそのまま真横にあった壁に激突、破壊した。
「「「なっ!?」」」
ジェノス、阿修羅カブト、掴まれている男の三人がほぼ同時に驚く。
まさか、あの攻撃が無力化されるとは思いもしなかったから。
「今のは…まさかっ!?」
「ぶい」
咄嗟に後ろを振り向いたジェノスが見たのは、ドヤ顔でVサインをしているパチュリー。
それとは別に、男と阿修羅カブトは驚きを隠せない。
「おい…何だ今のは? 俺様の一撃が完璧に跳ね返されちまったぞ?」
「し…知らん! こっちが聞きたいぐらいだ!」
その時、阿修羅カブトは思い出す。
攻撃の瞬間にパチュリーがジェノスに向かって密かに手を翳して何かをしていた事を。
「…そこの紫の髪の女」
「私の事?」
「そうだ! 今のはお前がやったんだろ!! 違うかッ!?」
「だったらなんだっていうのかしら?」
「面白れぇ…! 今日は最高にいい日だ! 極上の獲物が二匹もいやがる!」
「「…あっそ」」
目を付けられているサイタマとパチュリーは完全にどこ吹く風。
人の事を勝手に獲物呼ばわりするなよとでも言いたげだ。
「俺様の名は『阿修羅カブト』ってんだ! 実はこの先に特別製の戦闘実験ルームってのがあるからよ…そこで思う存分にやろうぜ! 勿論、お前もな!」
「「えぇ~…」」
乗り込んできたこっちもこっちだが、だからと言っていきなり喧嘩を吹っ掛けるのもどうかと。
だがもう、断れるような雰囲気じゃない…というか、相手が戦う気満々状態になっている。
このまま断っても碌な事にならないのは確定しそうな気がビンビンしているので、仕方なく行くことに。
「それじゃ、先に行ってるぜ!! ひゃははははははははっ!!」
阿修羅カブトは大笑いをしながら、再び男を担ぎ上げてから奥に行ってしまった。
「はぁ…行くしかないか」
「みたいね」
「こ…怖いです~…」
全く動じていない二人の後ろに隠れるようにしてからついていくこあ。
この場で彼女だけが正常な判断力を有しているのかもしれない。
「あの…パチュリーさん。阿修羅カブトの攻撃を防いだのは貴女の魔法…ですね?」
「そうだけど…もしかして余計なお世話だったかしら?」
「いえ…この分厚い壁を易々と破壊する程の威力のパンチ…まともにくらっていたらタダじゃ済まなかったでしょう。ありがとうございます」
「いいのいいの、これぐらい。サイタマの弟子なら、私にとっては弟みたいなもんだし」
「弟…ですか」
嬉しいような、悲しいような。
とっても複雑な気分のジェノス君であった。
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奥の部屋まで行くと、そこはどこまでも広い場所だった。
敷地も天井も、どこまでも只管に広い。
「どうだ~? すっげー広いだろー。この進化の家で生み出された連中は、ここで実際に戦わせてから実戦でも役に立つのかどうかを実験してんだよ」
自慢げに語る阿修羅カブトを余所に、サイタマはキョロキョロと辺りを見渡してから興味深そうに部屋を観察していく。
「まずはこの野郎からだ! その後にお前も殺してやるから、大人しく待ってろよ!」
「『その後』があればね」
中央付近で相対している両者とは別に、パチュリーやこあ、ジェノス達は巻き添えにならないように端の方で待機をしていた。
勿論、さっきの男も一緒だ。
「さぁて…それじゃあ、楽しい楽しい殺し合いを始めますか」
急激に阿修羅カブトの殺気が膨れ上がる。
彼が戦闘モードに入った証拠だ。
そんな二人を見ながら、一緒にいる男が徐に話しかけてきた。
掛けている眼鏡はボロボロになっていて、明らかに重傷っぽい感じがするが、意外と平気そうな顔をしている。
「おい…お前達」
「なんだ?」
「なによ?」
「な…なんですか?」
「あの男は一体何なんだ? 阿修羅カブトの殺気を真正面から受けても、全くビビっている様子が無い…」
「同居人兼親友」
「俺の先生だ」
「お世話になっている人…ですかね?」
欲しい答えが全く返ってこない。
そんな事なんて全く聞いてないのに。
「それじゃあ、さっきのは何なんだ?」
「さっきのって?」
「阿修羅カブトの攻撃を弾いた時の事だ。モニターで見ていたが、獣王の時も同じことをしていたな? しかも、その直後に巨大な風の刃で粉々にした。あの男も不可解だが、それと同じぐらいにお前の存在もまた不可解過ぎる」
「そう言われても…」
確かに、科学者からしたら魔法の存在なんて理解出来ない存在かもしれない。
だが、魔法は実在するし、魔法使いだって実在している。
パチュリーにはそうとしか答えようがない。
「パチュリーさんは魔法使いだ。あの程度の事なんぞ造作も無い」
「魔法…使いだと?」
「そうだ」
「ふざけているのか…! 魔法なんて実際にある訳が…!」
「だったら、実際に使ってみせましょうか?」
「なに?」
信じないのならば、実際に目の前で使えばいい。
簡単かつ最も確実な方法だ。
「ていうか、なんかさっきから普通に話してるけど…アンタは誰?」
「…私の名は『ジーナス』。この進化の家を作った者だ」
「あぁー…アンタがあのゴリラ君が言ってた奴ね」
殆ど流して聞いてはいたが、なんとなく名前だけは覚えていた。
本当に、なんとなく。
「そんじゃ、マックス。今から魔法を使ってあげるから、その悪そうな目をかっぽじってよーく見ておきなさい」
「誰がマックスだ! 文字数以外は何一つとして合ってないじゃないかッ!」
パチュリーが人差し指を掲げると、彼女を中心に紫の巨大な魔法陣が展開され、紫電が迸り始める。
「サイタマー! 今から、このカチコチ頭の科学者に魔法を見せつけるからー…当たらないようにするのよー!」
「おー!」
「なんだなんだ? 何をする気だ?」
サイタマはこれまたいつもと同じように、阿修羅カブトはワクワクした顔でパチュリーに注目した。
「雷雲よ。我が刃となりて敵を貫け!」
人差し指の先に、超巨大な雷の塊とも言うべき剣が形成される。
見ただけで、それがとんでもない威力を持つことが分かった。
「サンダーブレード!!」
腕ごと前方に振ると、雷の刃は対峙している二人の横を通り過ぎ、そのまま戦闘実験ルームの壁に激突。
巨大な穴を作ってから消滅し、その穴の周囲は電熱の高さによって融解していた。
「これでどう?」
「ば…馬鹿なッ!? この部屋の壁は厚さ20ミリの特殊合金で出来ているんだぞっ!? それをこうも簡単に破壊するなど…阿修羅カブトでも不可能なのに…!」
「私の魔法の方が、あのカブトムシのパワーよりも上って事なんじゃないの?」
もう訳が分からない。
生身で自分の最高傑作たちを倒す男がいたと思ったら、今度は科学では証明できない現象を引き起こしてみせる謎の少女がいた。
「これで理解したかしら? マクシミリアン。魔法はちゃんとあるんだって」
「ジーナスだ! もう文字数すら合ってないじゃないか!」
「五月蠅いぞマクシミリアン。パチュリーさんが話しているだろうが」
「あはは…すみません。マクシミリアンさん」
「せめてお前達はちゃんと呼べよ!?」
もう完全にマクシミリアンで定着しつつあるジーナス。
どうしてなのかは賢明な読者諸君ならば分かる筈だ。
「がはははははははははっ! いいねぇ! いいねぇ! いいねぇ! 随分と俺様を期待させる演出をしてくれるじゃねぇか! えぇっ!? お嬢ちゃんよ!」
「そりゃどうも」
「くくく…こりゃ、本気で楽しみになってきたぜ。あんな華奢な嬢ちゃんであんだけの威力を出せるんだ。テメェはどれだけ強いのかな?」
「さぁな。でも、こっちも期待してるんだぜ。お前は今までの奴等とは明らかに違うからな」
「そうかそうか。それじゃ、とっとと掛かってきな。勿論、全力でな」
遂に始まるサイタマと阿修羅カブトとの戦闘。
さっきから信じられない事の連続だったジーナスは、少しだけ冷静さを取り戻してから戦いを見守る事にした。
(我が『進化の家』が生み出した最強最悪の悪魔…阿修羅カブト。人工進化の最終形態とも言うべき怪物を相手に、現代人であるお前がどれだけ戦う事が出来るのか…とくと見させて貰うぞ…!)
もしかしたら次回か、その次ぐらいで確実に進化の家編は終わると思います。
あ~…早くS級ヒーローたちを出したい…。